【完結】「助けてノノえもん!」~ブルアカの世界でノノミとエッチしまくるダメ先生~ 作:春画屋@二次創作R18
15000字(前編)
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約6000字(後編)
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ホシノ等まとめ → 56回 → 今回(前編・中編・後編)です。
☆ホシノ等まとめ
→https://syosetu.org/novel/350152
☆第56回:「東京にて」
→https://syosetu.org/novel/308525/71.html
気付いたら、シャーレの休憩室にいた。先生が連れてきてくれたらしい。この部屋に来るまで、どこをどう歩いたのか分からない。それぐらいショックを受けていたんだろう、私はユメ先輩のことになると、おかしくなる。——当たり前だ。だって、
テーブルを挟んで向こう側に先生が座り、心配そうに私を見つめる。そして私に問いかける。
「「まがいものの
身体の震えは少し落ち着いていた。声も何とか出せる。
「それとも、何か気付いたことでもあるのか? 『プレナパテス』やクロコ、『色彩』とか、そういう話で」
私はそれには答えず、逆に先生に質問した。
「……先生は、『ユメ先輩』を知ってる?」
「ユメ先輩? 『ユメ先輩』……ああ、アビドスで確か、おじさんが一年生の時の……何だっけ。そうだ、確か
『メインストーリー』、あるいは他のストーリーの中で、彼女はどんな存在だと
「ユメ先輩の姿は覚えてる? 見た目は?」
「えっと……、見た目か……。そう、確か写真立てに入った写真……。写真があったはずだ。おじさんとのツーショットで、今のおじさんと似たような服装、背が高くて、胸が大きくて……少しノノミに似てた。もしかしたら、姓は「
「別に構わないよ」
想定の範囲内だ。十六夜姓……考えたこともなかったけど、そうだったのかも知れない。少なくとも、そういう考察が成立して、間違いだと指摘されない程度しか、彼女の情報は開示されていなかったんだろう。
「顔は? どんな顔をしてる?」
「顔? そう……だな。あの写真では光で隠れてて、顔は分からなかったような……。あの写真立て以外に、どこかで出てきたっけか? 『最終編』で何か……。……悪い、顔まではちょっと思い出せないかも」
「私にも分からないんだ」
「え?」
「分からない……思い出せないんだ。ユメ先輩の顔、フルネーム、思い出……。あの日、ユメ先輩の死体を前にして、泣くことも出来ず、ただ絶望しかなかったことは、今も忘れられずにいるのに。それほど大事だったはずの人の顔が、思い出せない……いや、私の中にはそれが最初から「ない」んだ……」
「「思い出せない」んじゃなく、「ない」って、どういう……」
「……おそらく……「実装」されてなかったんだ。
「…………!」
最後の方は、うまく言葉にならなかった。先生が言葉を失っている。私の考えていることが分かったんだろう。「実装」、「設定」、もともと「プレイヤー」である『彼』の方が私より理解しやすい概念のはずだ。私の体は再び震え始めていた。
「な……バカな! プレイアブルのキャラとして実装されてないにしたって、誰だってみんなキヴォトスに存在しているはずだ! 今は存在しないにしたって、おじさんが会ったことがある相手なら、過去にはいたはずだろ? ゲームに出てきてないからって、最初からいなかったなんてはずは……。それに、『最終編』が終わるまでに出てこなかったようなものは、
「分かってる。SRTのFOX小隊、連邦生徒会のメンバー、ワイルドハント学園、みんな
「それだけじゃない。ノノミの私服姿、最近おじさんがするようになったフル装備の姿、他にも……、みんな現実にこのキヴォトスに存在して、生活してるんだ。存在していてもゲームに全部出せるわけじゃないだろう? ましてや、断片的にせよ誰かの記憶の中にいる人間が……!」
「私にももう分からない。さっき、体が「世界」とつながったように感じた。きっと『メインストーリー』や『ブルーアーカイブ』のことを知りすぎたからだと思う。その時、プレイヤーがどうやって『ブルーアーカイブ世界』を「読ん」でいるかも理解できた。数パターンに簡略化された立ち絵、背景。セリフという形で表現されるテキスト、それに合わせた効果音や演出。きっと、あれが『ブルーアーカイブ』の本質だ。でも、それが分かったからって世界の全てが理解できるわけじゃない。神さまみたいな視点が持てたって、神さまになれるわけじゃないんだ。あなたたちプレイヤーにだって、分からない仕組みはたくさんあるでしょう?」
「そう……そうだ。特にブルアカは、解析でもしなきゃ分からないようなことが多いはずだ。だから……」
「でも、そんなこと問題じゃないんだ。私にとっては、どうでも、いい、こと……」
少し言葉につまる。
「……私にとって、一番重要なことは、私の中に「ない」のを実感してしまったことだよ。他のことは分からない。でも、あれが『ブルーアーカイブ』の形だとしたら……私の記憶に、不自然な欠落があることとつじつまが合う。先生の言った通りのユメ先輩の姿ははっきり思い浮かぶのに、顔だけが分からない。そこだけ、ぽっかり穴が空いたみたいに」
「そ、んなこと……」
記憶を探っても思い出せないのとは違う。ユメ先輩の顔のように、今まで当然あると思っていた——あると
「私には……私には、彼女のフルネームすら分からない。「ユメ先輩」は「ユメ先輩」でしかない。『あなた』を『先生』としか呼べないように」
「俺の名前? それは俺が忘れているだけ……いや、違う……のか? 例外、まぎれはあり得る……? いや……」
頭を押さえて少し考えこんだ後、ハッとしてから、先生がガリガリと頭をかきむしった。彼のこんなにいら立つ姿は見たことはあっただろうか。こんなつらそうな顔を見たことがあっただろうか。「何やってんだ、俺は……」、そう小さくつぶやいて、こちらを向いた。
「『プレナパテス』を呼び出すな、って言ってた理由はそれだな? 『プレナパテス』の生前の「先生」としての姿なんて、最終編以降だろうが、設定が存在するはずはない。そもそも、生き返らせるのだって不可能だ。呼び出すのが可能だとしても、それは『色彩の
落ち着いた声。冷静な言動。頼れる「大人」の姿。だったら、全て任せてしまおう。私にはもう何も出来ない。何とか言えることを全部言ってしまって……。
「……もし目の前にユメ先輩の死体があったとしても、それだけなら耐えられるかも知れない。でもそれが、抜け殻ですらなく、最初から何も入っていなかった、ただの「器」だと確信してしまったら、私はおかしくなってしまう。クロコちゃんにまで、そんな思いはさせられない……」
「…………」
私は、本当にクロコちゃんの心配なんてしているんだろうか。親身になってあげるつもりで、どこか他人事としか感じていなかったことが、突然自分の身に降りかかってきて、それを
「クロコから聞かなきゃ判断できないことは山ほどあるし、ヒマリとも相談しなくちゃいけない。何より、クロコの意思もある。その件については後に回して、いずれ俺が最終的な判断を下す。それでいいか?」
私は無言でうなずいた。
「あんまり結論は変わらなさそうだけどな……。それに、これ以上おじさんを傷つけるような結論にはしない。そこは心配しなくていい」
もう一度うなずく。先生が申し訳なさそうな顔で、はぁっと大きくため息をついた。
「——すまん。俺の方が取り乱してどうするんだか……。で、「まがいものの小鳥遊ホシノ」って、どういうことなんだ? 『ブルーアーカイブ』に出てくる登場人物である「本当の小鳥遊ホシノ」が……とか、そういう話か? おじさんはむしろ、そういうのは意識してないと思っていたんだが。ゲームのストーリーなんて関係ないとか、現実は一つしかないとか言ってたし……」
「最初は本当にそう思ってた。でも、先生の記憶が戻った頃から自分に自信が持てなくなって、「本当の小鳥遊ホシノ」や『メインストーリー』を意識するようになって……気にしない、関係ない、周りにそう言ったり自分に言い聞かせたり、その
そこで、その先を言おうか迷った。この人にはあまり言いたくない。きっと……それでも言うことにした。どこかに吐き出さなければいられない。
「……私は『メインストーリー』を体験した「本当の小鳥遊ホシノ」に劣等感を抱いていた。私がしなかった経験をして、私が持てなかった「先生」との
「……そうか」
悲痛な顔を見て後悔した。今になって、責めるようなことなんて言いたくなかった。こんなコンプレックスはとっくに克服したはずで、もう言わずに済むと思っていた。
「でも、私は『メインストーリー』の内容を相棒に教えてもらって、それを素直に好きだと思えて、その上で私たちの
「…………」
険しい顔で先生は黙ってしまった。私も、もう言うことはなかった。しばらくの間、無言がその場を支配して……そして先生が口を開いた。
「……意味は、ある。俺にとっての「小鳥遊ホシノ」はおじさんしかいないし、他のことなんて関係ない。月並みだけど、俺が本気でそう思っているのは分かるよな? ヒナ、ノノミ、アビドスやSRTの連中、誰にとってもそうだ。自分を否定するのは、そういう人たちに対して失礼だ。それも分かるな?」
それは分かっている。私が自分を「まがいもの」だなんて言ったら、みんな怒る。私が自分を否定することは、私の生き方を肯定してくれた人の人生すら茶番にしてしまう。でも——
「……そういうことは全部分かってる——けど、そんな綺麗事を言おうが、知ったことかって
「ごめん、先生」
「謝らなくていいって。実際、ここで何を言おうが「事実」は何も変わらないんだ。変に気をつかわないで、お互いぶっちゃけた話をした方がいい。それでいくらかでも楽になれば
「……そうだね。ここには私たち二人しかいないし」
——私は、ユメ先輩の死から解放されたかった。
私は、可愛い後輩たちと、アビドスでの楽しい日々を大切にしたかった。今を大切にしたかった。そのために、ユメ先輩を死なせてしまったことへの自責の念から解放されたかった。その話を知れば、アビドスのみんなだってそれを望むはずだと分かっていた。それでも、ユメ先輩の「死」という「事実」は変えられない。そんな風に、冷めた目でしか認識できなかった私には、何も出来なかった。
相棒と出会って、やっとそれが変えられた。つらい記憶をいい思い出に変えて、前に歩き出すことが出来た。相棒と出会っていなければ……あるいは、出会った相手が『ゲマトリアの黒服』のままだったら、不可能だっただろう。ユメ先輩の死という最大のトラウマを克服して、私は前に進むことが出来るようになった。
——でも、そんな苦しみも成長も、結局今でもしている執着も、それこそただの「夢」の中にしかいない人を相手にしていただけだった。私には、あの人のフルネームが分からない。先生が言っていたプレイヤーの間での考察のように、「十六夜」姓なのかどうかも分からない。楽しかった思い出も、具体的に何が楽しかったのか分からない。「楽しかった」という記憶自体、「本当の小鳥遊ホシノ」や「本当のユメ先輩」の「設定」と合っているのかも分からない。どこからが自分で勝手に補完したものなのかも。ただ、そんなことを知っても何の意味もないということだけは分かっている。
「……今の話とは少し違うのかな。ノノミちゃんが言っていたことを思い出したよ。『ブルーアーカイブ世界』が無限に存在するとしたら、『十六夜ノノミ』も無限に存在するはずだって。『あなた』はその中からノノミちゃんを見つけられるんだろうかって」
「ああ……あれ。正直、そういうのが気になるってのが分からないんだけどね……。存在するはずだって言ったって、そんなの理屈上は『現実世界』だって一緒だし、気にするようなことじゃない。俺ともノノミとも一生会うはずがないような相手だったら、いないも同然だろ? そんな相手に
私にも、ノノミちゃんが何でそんなことを気にするのか分からない。他人に分かることじゃないんだろう。それがなかったと知っただけで自分を失ってしまうほどに、私が「過去」や「彼女」に執着するのか、誰にも分からないように。誰も私を救えない。自分でも無理なら、もう救われない。
「ノノミちゃんに、何か答えた?」
「見つかる。見つける。そう言ったら納得してた」
納得して、それから嬉しかったんだろう、私はため息をついた。
「バカ正直に何でも言う分、あなたの言葉って説得力あるんだよね。まあ、あの子は見つかるか。あははっ、分かりやすいもんね〜」
「だろ? これだけ好かれてて、自己主張も激しいんだから。……しばらく一緒にいた方がいいよな? あっちはノノミとシロコに任せておけば大丈夫だろうし」
「ううん、いいよ。出来れば、少し一人にして欲しい」
——それに、同情や
動かない心で、表面だけ取りつくろって軽口ぐらいは叩けても、そこまで酷いことは流石に言えなかった。もしかしたら、空気で伝わってしまったかも知れない。でも、どっちだっていい。
部屋を出てすぐのところにいるから、何かあったらすぐ呼べよ、先生はそう言って出て行った。少しして、壁を叩くような音と、悔しそうな声が聞こえた気がした——けど、もうどうでも良かった。全部吐き出して、スッキリして——もう何もなくなった。
一人になって、部屋の天井を見上げた。天井の何もないところを見つめる。
涙は出そうになかった。夜の砂漠で、ユメ先輩を見つけた「あの時」と一緒だ。目の前には「事実」しかない。私が何を思っても、何を考えても、何も変わらない。死んだ人は生き返らないし、過去も変えられない。だから、ユメ先輩の死体を見つけても、「ああ、そうか」としか思わなかった。今も同じだ。「ゲームの中」の『ブルーアーカイブ世界』がどんな形をしているのか、私が知っても知らなくても、世界は何も変わらない。大きさや長さぐらいは変えられたとしても、形は変わらない。世界はそのような形で、変わらずそこに存在するだけだ。
そんなことをぼんやり考えてみて、笑いそうに——なるかと思ったけど、笑うことも出来なかった。ずっと忘れられなかった「あの時」だって、本当はなかった。『ブルーアーカイブ世界』には、「はじまり」より以前には何もない。私も同じだ。私の中には、もう何も残っていない。期待してくれた人たち、クロコちゃん、ノノミちゃん、アビドスのみんな、それに相棒にも。私にはもう何も出来ない。する気もない。話を聞いてくれた『彼』にすら、何か返そうとも思わない。そこに残っているのは、ただ一つ、後悔だけだ。
「私は、バカだ」
ポツリとつぶやく。
「調子に乗って、生意気なことを言って、大人の仲間入りをしようとして。「知ることが怖くなくなった」なんて言って、知る必要のないことを相棒から聞き出した。する必要のないことをしてきた」
——相棒と一緒に『ゲマトリア』や『預言者』の監視をするようになって、予想していたよりずっと危険が少ないのが分かった。シャーレから依頼としてもらった仕事の方がよほど厳しかった。私が出しゃばらなくったって、本来の仕事だけなら相棒一人で務まったんだ。
「あの程度の危険だと知っていたなら、出来れば『あの人』にも背中を押して欲しかった。「黒服と二人で頑張れ」って言葉が欲しかった、後になってそう思った。『あの人』だって、出来ればそうしたかったはず。でも、『あの人』はきっと知っていた。私が深入りすればするほど、こうやって知ってはいけないことを知ってしまう可能性が高いって。それを知るのが「小鳥遊ホシノ」であれば、間違いなく致命傷につながるって。だから、止めたかったはず。きっと、その板挟みになった結果が、どっちつかずの「どうしよう」っていうメッセージだ。きっと、生意気なことを言って傷つけただけじゃない。困らせちゃった。『あの人』はいつだって私のことを考えて、見守ってくれていたはずなのに」
それから、答えがないと知っていても、きっと伝わると信じて小さく言った。
「今も「読んで」る? 今、読まなくても、後からでもいいよ。ごめんね」
上を見ながらそう言って、少しこみ上げた。それでも、これもただの自己満足かも知れないと思ったら、涙は出な——
「?」
テーブルの上に乗っていたスマホにモモトークが届いたみたいだ。手にとってみると、画面にメッセージが表示されている。
『シャーレの先生には過去がない』
「? 何、これ。……先生? ノノミちゃん? 相棒から?」
アイコンは初期設定のままだった。名前は……見たことのない文字だった。それでも何故か、よく見れば文字の意味は取れた。どこの言葉なのかも。
「ナツ……これ、漢字? ニホンゴ……? 日本語⁉︎」
そこで思い当たった。
——これ、きっと『現実世界』での先生の名前だ。何で? この名前で、今、私にモモトークを送れるって……そんなことが出来るのは……
『君は一人じゃない』
メッセージの続きが表示されていた。誰からのメッセージなのか、予想はできても信じられないまま、夢中で読む。
『『シャーレの先生』に過去はない。『シャーレの先生』は、連邦生徒会長が失踪して全てが始まる時、つまり『ブルーアーカイブ世界』が生成される時に、世界の一部として同時に生まれる』
『「プレイヤー」のそれまでの記憶と人格が、『シャーレの先生』という「器」に流し込まれて宿る。そうして生まれたのが『私』だ。私に過去はなく、ただ記憶だけがある。『私』のものではなく、「プレイヤー」の『彼』の記憶だ』
「プレイヤーの……? なら、先生と同じ人格ってこと? じゃあ、見分けがつかないのは、認識
『両親は既に他界してしまった。死んだ人は生き返らない。だから二度と会えない。それに、その二人は『私』の両親ではなく『彼』の両親だ』
『それでも私に両親はいる。私を育ててくれた両親は、私の記憶の中にちゃんといる。二人がいなければ、今の私はいない』
「そんなの、どうでもいいよ! これ、どうなってるの⁉︎ メールとか手紙とか、ずっと前からあった
私の言葉はちゃんと「読め」ていないんだろうか。その答えは返ってこなくて、関係のないメッセージが続く。
ピシ。
私の不安が的中したかのように、一瞬のノイズの後、嫌な音がしてスマホの画面がひび割れた。——いや、画面より手前……
「そんな話、どうだっていいよ! 私は大丈夫だから! すぐに立ち直るから、もうやめて! もう十分だから!」
『君が知ってはいけないことを知ってしまった時、何が出来るかずっと考えていた』
『私の考え方を押し付けるつもりはない。意味があるとも思わない。それでも、自分という存在が何なのかを知っていて、自分なりに受け止めた人間がここにもいる。君は一人じゃない。それだけは伝えたかった』
「もういいよ……。もし、あなたがいなくなったら、私はもう生きていけない……」
口ではそんなことを言っておいて、心の中では直接会話が出来たことが嬉しくてしょうがなかった。一番会いたい時に、一番会いたかった相手が、直接じゃなくても、きっとギリギリの手段を使って会いに来てくれた。もし目の前にいたら、絶対に抱きついてた。
嬉しくて泣きそうだったけど、必死に涙をこらえた。うっすら浮かんでいたかも知れない、でも、『あの人』を心配させたくなくて、ぐっとこらえた。今すぐ、本当にここに来てほしい。そのまま、ずっと一緒にいて欲しい。そう思ったけど、これ以上の負担はかけさせたくなかった。
「ありがとう。本当にこれで十分。もう我がままは言わない。いつか帰ってきてくれるよね? だったら、もう一度、一目会うだけだって……。……まだ、何か……?」
『もう一つ、伝えたいことがある』
『私とずっと一緒にいて欲しい』
「……え?」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「ど、どういうこと? いてくれる、とかじゃなくて、一緒にいたい? あなたが、ってこと?」
『これは愛の告白じゃない。『シャーレの先生』は、『彼』がノノミを選ぶような意味では、誰かを選べない。「先生」と特定の誰かが結ばれることは、『ブルーアーカイブ』の定義を完全に破壊してしまう。そして、可能か不可能かに関わらず、私は誰も「選ば」ない』
『それでも、私は君とずっと一緒にいたいと思う』
『君が見つけた概念——『シャーレの先生』ではない「先生」という概念を、一度は目指していたのを知っている。君が今もそれを目指しているなら、きっと「先生」になれる。そして「先生」なら——』
『——『シャーレの先生』にしか負うことのできない宿命がある。『シャーレの先生』にしか行けない場所がある。『ホシノ先生』とならきっと一緒に行ける。もし、それを君も望んでくれるなら……それが不可能だとしても、私が絶対に可能にしてみせる。そして——』
言葉を発することも出来ず、私はただメッセージを読んでいた。
『俺がお前を絶対に幸せにしてみせる』
もう、それ以上は無理だった。涙があふれて止まらなかった。
「あははっ……。そんな……いくら先生と人格が一緒だからって、絶対無理してるでしょ? あなたが「俺」なんて言うわけないもん。それぐらい知ってるよ。——私でいいの? 愛の告白じゃないとか言って、それ、ほとんどプロポーズじゃん。そう受け取るよ? いいんだよね?」
『……私には君を苦しめることしか出来ないのかも知れない。だから、言葉の意味をよく考えて……それでも良ければ、ノノミに聞いて欲しい。ノノミだけが全てを知っている』
『そして、出来れば彼女を支えて欲しい』
私は目を閉じた。
「……苦しんだりしないと思う。『シャーレの先生』しか行けない場所、『キヴォトスの外』、『現実世界』との
パキッ。
音を立てて、「空間」が割れた。そして、それはすぐ消えて、何も表示されていなかったかのような画面だけが残った。
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「あ、おじさん」
ドアを開けると、先生はちゃんとそこにいてくれた。……ものすごく深刻そうな顔してたから、やっぱり申し訳ないなぁ。まあ、でも……
「うへへへへへ」
「えっ、あっ、だ、大丈夫か……?」
気持ち悪い笑い方をしたので、ショックのあまり壊れたか何かしたんだと思われたらしい。ま、私でもそう思うだろうし。何しろ、多分顔もゆるみきっていて、笑い方も相当気持ち悪い。でも、気にしない。
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。おじさん、今、最高に幸せなんだよねぇ〜」
「いや、その……無理しなくていいんだぞ? 別に俺は……」
「あのさ、『XX-XXX』って、先生の名前?」
「あっ、それだ。俺の本名」
「軽っ」
そんな、「そーいや、そうだった」みたいなノリで……。先生の『現実世界』の名前は、単に覚えていないだけじゃなく、覚えていないこと
「名前なんてどうでもいいや、とか言ってたけど、本当にどうでもいいんだねぇ……」
「いや、こないだも思い出しかけたんだけど、まったくもって何も思わなかったし。それより、夢の中で俺の名前を呼んでたのがよりにもよって元カノで、それがバレたもんだから、ノノミが怖くて……」
「うへ、実際に付き合ってた相手か。そりゃまた」
ノノミちゃんの心の中を、シミュレーションしてみた。自分がしているみたいに、この人とイチャイチャして、自分と同じように、甘々の二人っきりの時間を過ごしていた、多分「大人」の女性……あっ、無理だ。私でも分かる。そんなの想像するの、無理。もだえて死ぬ。いや、あの子なら嫉妬の方向にいくんだろうけど。こわっ。
もはやキヴォトスでは敵なしの感があるけど、そう考えるとあの子も大変なんだなぁ……。
「でも、やっぱりそれで合ってたんだ。何か古めかしい名前だなーと思ったけど」
「知らないよ。そういうのは付けた親に言ってくれ。でも、何で知ってんの? 誰かに聞いた?」
「それなんだけどさ、私のモモトークに今のタイミングで——……」
……と、事情を説明したところ、すぐに「あっ」と声を上げた。
「あー、『あいつ』——『前の先生』ね。どうやってるのか知らないが……ああ、それで上機嫌なわけ?」
「そりゃあさー、だって、ねえ? 実はさ? 連絡くれただけじゃなくてさぁ? うへ〜」
「何か気持ち悪いな。もったいぶらないでさ」
「ずっと一緒にいたい、なんて言われちゃってさあ。どう思う? どう思うも何もないんだけどさー。うへへへへ」
「お、おう? 一緒に?」
……先生は察しが悪いみたいだ。こういう話になると、途端に
「いや、細かいことは言えないんだけどさあ。ずっと一緒って、『シャーレの先生』にとっては……まあ、プ、プロポーズみたいなもんだと思うんだよね? 勘違いだったら恥ずかしいんだけどさあ!」
「プロポーズ? ああ、ずっと一緒って、そういう意味に取って……ああああ⁉︎」
「ちょっ……何⁉︎」
突然叫び出したので、ビックリした。何?
「あ、あ、あ、あのバカ、こんな時にそんなこと言ったの⁉︎ バカなの⁉︎ そんな告白みたいなことして、迷惑だったらどうすんの⁉︎ 何で、さらに困らせたり追い詰めるかも知れないような——ぉあっ⁉︎」
「黙れ」
蹴りを入れてやった。何で私が幸せの絶頂にある時に、それを台無しにするんだ、この人は。全くもう。
「何? 文句あんの? それとも何? あなたは今まで毎回毎回、常に適切なタイミングで女の子に告白してきたとでもいうの?」
「いえ、そんなことないです。青春時代にはいろいろやらかしました」
先生は大人しくなった。確かに言われてみたら、好きだって告白したわけじゃないにしても、結構危なっかしいタイミングで大胆なことを言われた気がするけど。「お前を幸せにする」とか……うへへへへ、やっぱり思い出したらこんなに嬉しいし、何でもいいや。あとでノノミちゃんに聞いてもらおう。
「ていうか、もともとの人格は『あなた』と、一緒なんでしょ? 妙にかばうようになったと思ったら」
「あのバカ、それもバラしたの⁉︎ せっかく俺が気をつかっ……ちょっ、やめて、やめ……」
「あなたね、あっちもそうだけど、そんなに自信ないの? 『あの人』が『自分』と同じ……じゃないけど、そんな感じだったらガッカリされるとか、ノノミちゃんに失礼だとか思わない?」
「だって、実際ガッカリしただろ⁉︎ したはずだ! きっと、したはずだ!」
「そりゃ、中身が同一人物だからって、やったぁ! とか、嬉しい! とは全くもって思わなかったけど。嬉しいと思う理由も特にないし」
「別に嬉しくなかったって、ガッカリしたっていうのと大差なくない?」
「面倒くさいなぁ、もう。そういうのはノノミちゃんに
「俺、そんなか⁉︎」
なんて、遠慮のないやりとりをしてから、くっくっくっ、と私が笑うと、先生も楽しそうに「いつもの俺たちのノリだな」と言った。「だね」、と私も返した。
と、私は声のトーンを落とした。
「あのさ、私、先生のことが大事だよ。絶対に失いたくないし、危険なことはさせられない」
「? 急にどうした……危険って、「器」の話か? 何か新しいことでも分かったのか?」
「それは「言え」ない。「言わ」ない。……この意味、分かるよね?」
「俺は「知ら」ないままの方がいいってことだな?」
「正解。これから言うことも、出来るだけ意識しないで欲しい」
「つまり、何も考えず、能天気に構えてろってことね。ふぅ……またいつも通りか」
「それが結構大変なの、分かるよ。悪いね」
私や相棒が
『ブルーアーカイブ』の「エンディング」のさらに先であり、「プロローグ」よりもさらに前、概念でしか存在しない場所——それがおそらく『キヴォトスの外』だ。『現実世界』ではなく『ブルーアーカイブ世界』の内部でありながら、『メインストーリー』を全て読める場所。だからこそ、全てを「知る」必要がある『シャーレの先生』のみが行くことが出来る。
なら「生徒」はどこへ行く? それは、全てを知っているというノノミちゃんに聞かなければ分からないだろう。でも、『現実世界』の人間では「生徒」について行くことが出来ないのは確かなはず。私たちは、同じ生きた「人間」ではあっても、違う「存在」だ。それが「事実」だ。それを知っているなら、ノノミちゃんはもう『彼』を送り返すって決めているに違いない。
「もう一つ、もしかしたらの話だけど。私は先生を「止め」るつもりはない。でも、先生の望みを「邪魔」するかも知れない。許してくれるかな?」
「……「知らない」方がいいことがある、「邪魔」はするけど「止め」ない。なら、何か考えがあるってことだな?」
「正解」
「なら、全面的に信用するさ。それに、いつも俺はおじさんに何もしてやれなかったからな。文句を言える立場じゃないし、さっきの話だって、俺があの時——」
私は先生を制して首を振った。
「あの時、先生に背中を押してもらって嬉しかったよ。自分の意思で歩き始めようとした私を、認めてくれた。だから、ありがとう。あの時のこと、一生——ううん、
「……礼を言うならこっちだよ。俺がこの世界に呼ばれたことにも、今までずっといたことにも、ちゃんと意味があったって思うと嬉しくなる」
「さっき、何もかも投げ出して台無しにしようとしたばかりだから、説得力なくて申し訳ないけどね。「大人」が誰でも当たり前に背負ってる「覚悟」って、こんなに重いんだね。でも、今まであったことを、何一つ間違いにはさせない。誰にも後悔はさせない。これからも投げ出さず、生きていくよ」
先生はやれやれといった顔で、
「おじさんはさ、もうちょっと肩の力を抜い……ふご、何ふん……」
「はい、笑って笑って〜。先生はいつもみたいにアホ面してくれないとさぁ〜」
「ふご……っ、アホ面とは何だ、アホ面とは! 言い方!」
「ごめんごめん。いやさぁ、先生のそういう顔を見てると、本当はどんな存在だったとしても、ユメ先輩にこだわってきた自分が間違いじゃないって気がしてくるんだよね」
「そうなの?」
自分でもよく分からない。ただ、『私』——唯一無二の、
もしかしたら、『ブルーアーカイブ』の設定とは全然違うかも知れない。でも私にとってのユメ先輩は——「ホシノちゃん、ホシノちゃん! 先生も一緒にアビドスの砂祭りやろうって!」、「おじさん、心配症なんだからさ。やろうと思ったら、何とかなるって」、「そうそう! やろうよ、ホシノちゃん!」。そんな風に、先生と二人そろっておめでたい……でも、楽しそうな話をしてくれる人だ。きっと、忘れたくないと思っていたのは、そういう人だと思っていたからだ。
そう信じることに、意味はきっとある。また折れてしまうかも知れない、そんな恐怖を知ってしまった心で信じるのは、今までよりずっと難しいだろうけど。
「別に分からなくていいよ。うまく表現できるか分からないし」
「……ユメ先輩のこと、もう大丈夫なのか?」
「正直、まだ完全に立ち直ったわけじゃないよ。そんなに簡単に割り切れる相手じゃないんだ。それでも、どんな存在だったとしても、これからもこだわっていこうと思う」
「……そうか」
「さあ、みんなのところに行こっか! 私たちが二人だけでずっといなかったから、もしかしたら怪しまれてるかもよ? うへ〜、ノノミちゃんに怒られちゃう」
「どう怪しまれるってんだよ! 俺はおじさんはいつも管轄外だと……ちょっ、骨!」
「誰の胸が小さいって?」
「そんなこと言ってない!」
結局、残念だけど、私には「恋愛」というものは縁がなさそうだ。キヴォトスのほとんどの子がそうであるように。でも、だからこそ
「白」と「黒」、二人の「先生」、そして(後編)へ続く——。
第54回と合わせると、もう分かる人には主人公の名前はフルネームで分かると思います。ベタな上に、そのまんまの名前なので。