「────結局は紙一重。しかも最後は能力同士のぶつかり合いじゃなくてフィジカルの勝負だった」
「へー、それで魔理沙に勝てたの。ま、勝てたなら上出来じゃないの?」
「……お母さん、本当にそう思ってんの?」
「そりゃ思ってるわよー、私も魔理沙に負ける事は何度もあったんだから。あんた、魔理沙とは初対戦みたいなモンだったんでしょ?それなら上出来よ」
その日の夜、霊麗は母に魔理沙と戦った時の事を良くも悪くも嘘偽りなく、寧ろ自分を貶すように、霊夢に語って聞かせた。
話し終わってからの霊夢の反応は、それはもう、実に淡白で。霊麗が眉間に皺を寄せるのも仕方ないようなものだった。
霊夢は「勝ったなら上出来」とは言うが、霊麗はこの結果に微塵も満足などしていない。それは単に霊麗の理想が高いのもあるかもしれない。しかし、もっと厳しいアドバイスが欲しいという気持ちこそ嘘偽りない本心であった。
「……お母さん」
「んー?」
「私はっ……あんな結果に満足してないからっ!」
「あんな結果にって……勝ったんでしょ?魔理沙に。それならいいんじゃないの?何が不満なの?」
「だってっ……!」
「『自分の思い通りに戦えなかったから』────それ以外の理由なら、聞いたげるわ」
「っ!」
「……図星のようね」
クスリと笑われ、霊麗は顔を赤くして黙り込む。
魔理沙は、幻想郷でも指折りの実力者だ。そんな相手に勝ったというのに、あまつさえ「自分の理想通りにいかなかったから」と不機嫌に……。あまりに傲慢、そしてあまりに強欲。霊夢はそれらについて見抜いたからこそ、遠回しに指摘したのだった。
「上を目指すのは良い事だけど、今のあんたがそのレベルを目指すのは分不相応ってヤツねぇ。せめてもう少し力をつけてからよね、高望みするのは」
「…………………………」
「霊麗。理想を高く持つのは必ずしも悪い事だとは言わないわ。だけどね、あまりに逸脱した望みは、分不相応。傲慢というもの。魔理沙を相手にそれを狙うなら、少なくとも、24人の子供達の中で、一番強くならなくちゃね?」
「……巫月お姉ちゃんなら、魔理沙相手に、理想的な戦い方……できるのかな?」
「さぁ……。昔からあの子が子供達のトップだけど、魔理沙程の誰かを相手取って理想的な戦いをした、なんて話は聞かないけど……できなくはないかもね、あの子なら。なんたってあの子は、子供達の中では生まれてこの方ずっと最強なんだもの」
「……」
「いい、霊麗。常に『自分の理想の戦い方』なんて出来るワケないの。必勝パターンを作るのも良いと思うけど、そうしたいのなら『どう必勝パターンに持ち込むのか』を考えなくちゃならないのよ」
「……必勝パターン……」
「『自分のパターンに相手を引きずり込む』戦いを覚えなさい。あらゆる状況に対応できるように訓練していれば、自然とできるようになるから」
「引きずり込む……」
「このパターンはエスカルゴが得意かしらね。特に1対多数の戦いにおいては、もう幻想郷でアイツの右に出るヤツなんて居ないんじゃないかしら?」
「!」
「セックスばっかしてないで手合わせしてくれば?あんなんでも、今は幻想郷の中でも指折りでしょ」
「う、うん……」
(……いや否定しないの?試しにカマかけてみたのはいいけど、まさか霊麗もセックスにハマってる……?あー、頭痛いわね……。どうしてこんな子供が母親の前で『女』の顔になってんのよ……)
◆
翌日。父・エスカルゴを呼び出し、霊麗は彼に、勝負するようにと頼む。戦いが好きな彼は快諾し、ニヤリと笑う。
「珍しいじゃあねェか。お前から俺に挑むとはな」
「お母さんのオススメだったから」
「霊夢が、霊麗の修行の為に俺と戦うのをオススメした……マジに言ってンのか?それ?霊夢が?霊夢が言ったのか?霊愛や霊魔じゃなくて霊夢が?」
「……」
「うん。何度聞くのさ」
「そうか霊夢が……くひっ……んふっ…………ふふ……くふふっ……♡」
そう聞くと、彼の気持ち悪い程のニヤケ顔は更に気持ち悪い顔へ……抑えられぬ「喜び」が溢れ出し、もはや性的に興奮しているのではないかと思われるような顔になっていた。
「……キッモ」
「ふふ……効かんなぁ!そんな罵倒など!」
「はいはい」
「……最愛の妻、霊夢よ。見てるか!?お前の助言を素直に聞き入れた娘を!それを聞いて喜ぶ夫を!」
「うっさいわよさっきから!さっさと霊麗の相手、してやんなさい!」
「ぬふふふっ……言われなくとも!!」
そう、霊夢はその様子を縁側から見守っている。いや、霊夢だけではない。姉の霊愛、弟の霊魔と、妹の霊子も、親子で並んで座り、境内に立つ2人を注意深く観察していた。
「弾幕格闘ルールの方でイイよなァ!?俺も霊麗もその方がヤリ合えるだろうっ?」
「うん」
「ヨシッ!霊夢、スタートの合図、頼んだ!」
「はいはい、よーいスタート」
適当すぎる合図の元、遂に父娘の対決が始まる。子供達とエスカルゴによる弾幕ごっこには、とある制約、「推奨事項」がある。「禁止事項」ではなく
「推奨」だ。それは殺害、そして不可能弾幕。彼は死んでもその場で蘇るので、全く問題ナシだとさえ思っている節がある。
尤もエスカルゴを殺せるなんてのはチルドレンの中でも上位4、5名くらいのものなのだが。
「────霊符『夢想封印』っ!!」
「ホーミング弾の、致命的な弱点。それは『対象と術者の間に遮蔽物があると弾幕はそれを避けられず無駄に弾を消費する』事……霊符『二重結界』!」
「そんな事を知らない私じゃない!!」
「お」
エスカルゴの二重結界を拳で叩き割るとそのまま真っ直ぐに突っ込んでいく。霊愛より武闘派な妹は頭に血が上ると霊愛より冷静さを失うきらいがあるものの、今回はそうではなかった。
「『刹那亜空穴』ッ!!」
「おっおっおっ?」
青の御札を何枚も投げて星型を形作って、空中に静止させる。星型の完成後、彼を狙って動き出す。これはホーミングではなく単なる自機狙いなので、その場で回避できれば何の問題も無い。
「そぉ〜らグレイズグレイズゥ!どんな技も、敵に当たんなきゃ意味無いんだぜ!」
「っ……ちょこまかと!これなら、どうッ!?」
「……!挟み撃ちか、いいね。だが甘い!」
前後左右で、同時に刹那亜空穴を発動。凄まじい御札の量だが、彼が言った通り、「当たらなければ無意味」。エスカルゴは御札を十分に引き付けて、御札の包囲網を抜けようと、真上に飛び出した。
「あいだっ!?」
そこには霊麗の結界が待ち構えていた。御札にて誘導し、結界という壁、袋小路へ彼を追い詰めた。御札を回避できるだけの余裕も無い。追い詰めた。
「勝った……!」
「────時符『キング・クリムゾン』ッ!!」
しかし悲しいかな。今の彼は、優れた時間魔法の使い手である。停止ではなくスキップの方で、特に優れていると自他共に認めている。
このスペカは、名前の通りジョジョの奇妙な冒険第5部のボス「ディアボロ」のスタンド「キング・クリムゾン」を元ネタとするもの。
効果などはそのままだ。時をスキップすることで
「御札は当たらなかった」という結果のみを残す。
彼が不可能弾幕や殺害もOKと公言しているのは単に彼が不老不死で、単に彼が打たれ強いからとかそんな理由だけではない。死ぬことなく余裕で対処できるだけの「手段」があるからに他ならない。
「……ふぅ。とりあえず何秒スキップしようか……。この御札の量だと通過まで4秒ってとこか」
ならばと、彼は余裕をもって5秒スキップした。そうすることで、新たな事実が彼の目に飛び込む。結界に父を追い込みながらも、霊麗はダメ押しだとばかりに御札と一緒に飛び込んできており、そこで拳や蹴りを繰り出している。
今のエスカルゴは、「世界の観測者」にあたり、誰からも干渉されない代わりに自身も干渉できない状態にある。霊麗の蹴りはエスカルゴの顔を蹴るがそれは透過してしまい、霊麗の着地と同時に、彼の
「時間のスキップ」は終わりを告げた。
すると霊麗は着地後、ある違和感に襲われる。
「……いつの間に蹴ったの、私……手応えなんて全く無いのに、
「これが……『キング・クリムゾン』だ」
「『キング・クリムゾン』!?」
その言葉に真っ先に反応したのは、博麗家長男の霊魔であった。彼は姉達と違いエロ漫画はあんまり
読まず、BLEACHを始めとする、少年漫画を好む。オタクのエスカルゴの勧めによりエヴァンゲリオンなんかも
「何よ霊魔……知ってんの?」
「ジョジョ5部のボス、ディアボロのスタンドッ!凄く表情豊かで
「ジョジョラーと言いたまえ」
「……で、お父さんはその『キング・クリムゾン』を魔法で真似したと。……時間魔法もお父さんの領分と知ってはいたけど、実際に喰らうとこんなにも……」
霊愛は過去に喰らった経験があるので、苦い顔をしている。霊麗は、まともに父の時間魔法を目の当たりにするのはこれが初めてだった。
「フフフフフ……俺の先祖が開発した魔法だ、子孫の俺にはよく馴染むというもの。使える因子はお前ら全員が俺を通して受け継いでいる────が、その適性が無ければ話にならんがね」
太陽をバックに、わざとらしいくらいバサバサと羽ばたいて見せるエスカルゴ。これはおふざけだとこの場に居る全員が理解している。しかしそれでも威圧感だけは本物だった。
ふざけていても。笑っていても。子供のように、またはいやらしい妄想をしている助平親父のようにニヤケていたとしても。
彼の「威圧感」は、紛れもなく、混じりっけなし純度100%の本物だった。
「ッ……」
「そぉら霊麗、
「ッ!瞬間移動かッ!!」
「違うぜ?」
「!?」
「身に覚えのない感覚、あるだろう?頭では微塵も覚えてなくても────身体が覚えているはずさ」
「……ッ!!」
投げようと思っていた御札が無い。霊麗は焦り、震える。初めて父に対して、恐怖心と呼べる種類の感情を抱いていた。
先程も経験したばかりのこの感覚。しかし今回は先程とは違い、その初動すらも封じられたに等しいこの結果。霊麗が恐怖するのも、無理は無かった。
「なん、で……」
「完封されたのが不思議?────霊麗は空中から接近する俺を見て咄嗟に御札を投げようとしたね。目が合った所までは、覚えているはずさ。そして、俺はその瞬間に時を飛ばしたんだ」
「────……」
勝てない。勝てっこないと霊麗はその場に膝から崩れ落ちてしまう。
強気の霊麗に似合わないその行動。エスカルゴは娘をよく見ている。ただただ、性的に見てきたワケではない。何か裏があるな、と遠巻きに見ていた。
「……トドメ刺さないワケ?」
「負けを認めた者にトドメを刺す理由は無いね」
「っ!」
「認めてないのなら、さっさと掛かってきな。もうこの戦いではキンクリを使わねえと約束しよう」
「……」
「疑ってる?まぁいいさ。初披露だが、驚くなよ?
────重符『
霊麗は身構えた。「重符」から始まるスペカは、揃いも揃って《重力を操る程度の能力》由来のものであり、身体を重くさせられるからだ。しかしこの新作スペルは、そんな事も無いらしい。霊麗は全く普段と変わらず、身軽な様子だった。
よく分からないが不発だったのかも────そう踏んだ霊麗は空中でニヤついている彼に飛び蹴りをしようと踏ん張り、ロケットの如く飛び立った。
「っ!?」
しかしその瞬間だった。霊麗が飛び出した瞬間、ほんの一瞬だが身体が動かなくなった。その一瞬でエスカルゴは距離を詰め────。
「少しは英語の勉強もした方が良さそうだな♡」
「きゃっ────」
軽くデコピンしてやると霊麗を地面に墜落させてしまった。「lagger」────直訳で「遅れる人」という意味の単語。通信対戦なんかで起こるタイムラグを「ラグい」などと言うだろうが、今回は彼が使用したこの補助系のスペカは、その「ラグ」を、ランダムなタイミングで引き起こすというものだ。
「……きゅぅ…………」
「あ……目ェ回して気絶しちった。やり過ぎたか」
「アンタねぇ、加減しなさいよ」
「死ななきゃ加減してるのと同じさ。────まだ甘さが残るね、この子は。ま、悪いこっちゃねぇ。甘さも良さの1つさ」
「ん……そうかもね」
特に直接攻撃らしい直接攻撃もせず霊麗を手玉に取る父を見て、子供達は改めて、霊子は初めて彼に畏怖の感情を抱いた。
ああ、どんなにハネッ返ったとしてもこんなにも軽くあしらわれるのか────と。
BAD END
勝てない相手なら生意気も程々にしておこう!普段怒らない人は怒ると怖いぞ!怒られない程度に少し態度や発言を抑えていこう!
次回から霊魔編!第3部!