その子、霊魔
その日、少年は好みの漫画を探す為に、姉と共に魔法の森にある、1件の古道具屋────香霖堂に来ていた。古道具屋の看板通りに、そこにあるのは主に古道具なのだが、近年は古い雑誌なんかも置くようにしている。
店主・森近霖之助は雑用係として名無しの本読み妖怪の少女に、朱鷺子と名付けて雇っている。その朱鷺子の勧めであり、20年来の友人、エスカルゴの勧めでもあった。
古本は、流れ着く古い本もあるし、エスカルゴが秘密裏に仕入れた中古本も多数存在しており、彼の子供達が購入していくのは、どんな因果か、大半が彼の仕入れた中古本なのである。
「あっ!いらっしゃいませーっ!」
「やっほー、やってるぅ?霖之助さん」
「やぁ霊愛。相変わらず、母親と違って丁寧に扉を扱ってくれて助かるね。……ん。後ろに居るのは噂の弟くんかい?隠れていて、まるで見えないが」
「そ、
家族相手なら何でもないが、実は霊魔は、極度の恥ずかしがり屋である。人見知りが激しすぎて外出なんて以ての外。人の居ないところにしか1人では外出できない。実は、紅魔館でギリギリなのだ。
だから、とうに彼も妖怪退治などの仕事ができる力量があるというのに、里への仕事は霊愛、霊麗の2人で行っているのだ。
「ああ、確か前に来た時は僕が店を空けていたときだったね。朱鷺子くんが対応してくれたんだった」
「まぁその時も、あんな感じに霊愛ちゃんの後ろに隠れちゃってましたけどね」
「そうなのかい?」
「ええ、どうも恥ずかしがり屋さんらしくって……。ふふ、でもそんな所も可愛いですね♡」
「そういうものか……。で、今日はどうしたんだい?巫女服の補修か何かかい?朱鷺子くんお手製、花のアップリケもあるよ」
「んーん、いつも通りエロ本探しに来た」
「……あのなぁ。いつも言っていると思うが……」
「子供は子供らしく健全に、なんて言うんでしょ。もう聞き飽きたよね。外の世界じゃあ、
「流石に無理があると思うが……まぁいいさ。霊夢に怒られるのは僕ではないしね。霊魔くんもそういう本を買うのかい?」
「………………」
「おーい……?」
「ダメだよ霖之助さん、恥ずかしがり屋だからさ。戦いになると、やる気も出て、周囲の目とかも全く気にしなくなるんだけどね」
「ふぅん……。せめて、顔だけでも見せてくれると、僕としても嬉しいんだがね。何せ初対面だからね」
「……ほら霊魔。せめて挨拶くらいはしなよ。もう、赤ちゃんじゃないんだよ?全く、何歳なのさ」
グイッと前に押し出され、指を絡ませモジモジと霖之助の前に立つ。目は合わせられない。じぃっと床を見て、しどろもどろな様子だ。
「…………………………初め、まして。博麗霊魔……です……」
「初めまして。僕は森近霖之助だよ。種族は半妖。昔、魔理沙の親父さんの所で店の経営のノウハウを教わってね。今はこうして自分の店を開いている。趣味でやってる店だから、品揃えに関してはあまり期待しないでくれ。よろしくね」
「よ……よろろ、よろしく…………」
「……シガレット居ないとこれだから…………。恋人が居るとカッコつけようと頑張るのにね」
「えっ。この前生まれたばかりだと聞いていたが、もう恋人なんているのかい?しかもその名どこかで聞いた事があるぞ」
「私の妹だよ。紅魔館の、ほら、小悪魔の娘だよ。お父さんから聞いたんじゃない?」
成程ね!と朱鷺子はポンと手を打って、霖之助はほんの少しだけ宙を見つめ考える素振りを見せる。やがて思い出したように霊愛達に視線を戻す。
「あぁそうだった、確か魔力の繋がりしかない双子だったね。血の繋がりが無いのなら、義理の姉と弟みたいなもの。霊愛、君より余程、霊魔くんの方が健全みたいだな?」
「は?霖之助さん、霊魔の性癖聞いたらそんな言葉一瞬で引っ込むよ?」
「もう性癖まで自覚してるのか……どうも最近の子は進んでいるねぇ……」
「霊魔くん、まだ子供なのに凄いねぇ!全くうちの霖之助さんとは大違い!見習わせたいわ〜、全く」
「誰が君の霖之助だ」
「霊魔ってばさ、膨らむ胸が好きなんだってさ〜。大きい胸とか小さい胸なら分かるけど、膨らむのが好きとか、どんな性癖よ?ってね!」
「お、お姉ちゃっ……」
「ほう、膨乳……中々にニッチな性癖をしているね。だとしたら申し訳ない、うちの店にはエスカルゴの好みの本ばかりが置いてあるんだ。なにせエロ本の殆どは彼が集めたものだからね。……あぁ残りは僕が拾ってきた物だ。見れば分かるくらいそれらの差は歴然だろ?売り物にする以上、綺麗にはしているんだけどね。紙だとゴシゴシ綺麗にもできないから、ここいらが限界なのさ」
「お、おねショタも……好きっ……!お姉ちゃんが……ショタ責めるヤツ……」
「ふむ、だが申し訳ないね。恐らくはおねショタもあまり置いてないはずだ。彼からおねショタ好きと聞いた試しが無いから……」
「や〜ん、霊魔くんって責められ願望ありなの!?可愛い〜♡」
「責められ願望って言うか、実際、シガレットから責められてるんでしょ。だよね霊魔?」
「ん……///」
「「……え?」」
「霊魔、とうに童貞卒業してるよ。精通はつい最近らしいんだけど。エスカルゴチルドレン男子5人の中での、唯一の非童貞が次男……この霊魔だよ」
「ええええええええっっ!?嘘でしょう!?!?」
「……目眩がしてくる。霊夢もエスカルゴも、自分の子供にどんな子育てをしているんだ……」
朱鷺子も霖之助も、声を上げるか頭を押さえるか違いはあるが、2人共、揃いも揃って目を剥いて、驚きを露わにする。漫画なら霖之助の眼鏡は割れて砕け散っていそうだ。
「え、て、てことはさ、霊魔くんってその、1人でシュッシュッて……スるの!?」
「ん、んーん……シてない…………です……///」
「え?そうなの?」
「……精通したのも最近だし……もしエッチがしたくなったら……すぐ会いに行ってるから……♡」
「…………!?」
「……自慰を知らぬ非童貞……そんな存在が果たして有り得るのだろうか……?いや、おねショタモノなら有り得るのか……」
「寧ろオナッてんのは私と霊麗だよね」
「待ちなさい霊愛、今は僕がこの場にいるんだぞ。せめて、朱鷺子と2人になってから話しなさい」
「えー?まさか霖之助さんもロリコン?私みたいな子供のエロトークでもムラムラしちゃう感じ?もし襲ったら殺すよ?それか私がお父さんにお願いしてお命頂戴してもらう?」
「誰がするか。赤子に興奮する者は居ないだろう。僕から見て君は、話せる、歩けるだけの赤子だよ。恥というものを知れと言っているんだ」
「あっそ、なら良かった。てか話は変わるけどさ、霖之助さんってそんなにエロトークできてたっけ?前なんて私が何を言ってもちんぷんかんぷんだったはずだけど?」
「……まぁね」
「もしかしてムッツリだっただけ?」
眉間をピクピクさせながら大きな溜め息をつく。そんな霖之助を見てクスクス笑い、朱鷺子は一つ、補足をする。
「それがね、エスカルゴさんが仕入れに来た時に、霖之助さんに『商品の事、商品に関する事は、少しでもいいからある程度知っといた方がイイぜ』ってアドバイスしてくれたの!だから今の霖之助さんは前より少しだけそういう話もできるんだから!」
「どうして君が誇らしげなんだ」
「へー、それでかぁ。それはいいねぇ。んじゃあ、これからも頑張ってエロに関する勉強してさっさと朱鷺子との子供見せなね〜♡」
「やだもう、霊愛ちゃんってば〜!」
「僕は断固拒否するがね」
その後、グダグダと話しながらも姉弟は店の中を散策。来る頻度はそこまで高くないからか、霊愛はここに来る度に店の変化を感じ取っていた。
一方の霊魔はと言うと、相変わらず霊愛の後ろや横に隠れながら、BLEACHの単行本を探していた。
「あんた何探してんの?」
「BLEACH……」
「それは知ってるよ、何巻?」
「49巻……」
「表紙は?」
「確か一護……一護単体の表紙だったはず」
「苺?誰それ可愛い名前してんね。男?……女か」
「苺じゃない一護。イントネーション違う。男で、主人公だよ。お父さんみたいに色んな種族の要素を持ってて、すんごい強いの。オレンジ頭だよ」
「そりゃあ、漫画の主人公って強いもんじゃない?てか何で持ってない本の表紙知ってんの?」
「お父さんから聞いてる」
「あー」
「49巻からは死神代行消失編が始まるってお父さん言ってて、でも病むかもしれないからってあんまりオススメはされてないんだ。ウルキオラも354話で、いや実際は353話みたいなものなんだけど、とにかくずっと前に死んじゃっててあんまり読み進める気になれなかったんだけど、読み進めれば、僕ももっと強くなれるんじゃないかって思って────」
「あーはいはい、出てるよ、オタク特有の早口」
「んぐっ……ち、違うもん……僕……」
「49……49……ねぇ霖之助さん?漫画の巻数、どれも飛び飛びじゃん!BLEACHだけじゃなくて全部!」
「中古屋でも中々見つからないそうだよ。古いからではなく、シンプルに今でも人気だから、あんまり本を手放す人が多くないようだね。エスカルゴは、嬉しいんだか悲しいんだかよく分からない、複雑な顔をしていたよ」
「ふーん……49……49ね…………あっ、これ?」
「あっ……うんっ!」
「へぇー、これが主人公の苺……」
「一護ね」
表紙をまじまじと見て、中身をパラパラと確認。そして最後に改めて表紙を見てから霊愛はニヤリと笑う。それを見て霊魔は、歴戦の兵のように背筋をゾクリとさせ、嫌な予感がしていた。
「コレがお父さんみたい、ね。ふぅん、霖之助さんこれお会計お願い!」
「え?」
「えっ!ちょっとお姉ちゃん!僕お金あるっ……」
「私が払うから先に読ませてくれてもいいでしょ?その後でゆっくり読めばいいじゃない。あげるし。私の方がお金もあるし、ここは私が払うからさ?」
「いい!僕払うから!僕の!」
「見付けたのは私ですぅ〜」
「んぎぎっ……で、でもっ!49巻から読んだって全く分かんないし、面白くないし!最初から読まないと分かんないよ!」
「じゃあ帰ったら48巻まで貸してよ、
「48巻までなんて、僕、何日待てばいいの……!?」
「3日もあれば読み終わるでしょ」
「幾ら家にあるのが中盤までだからってBLEACHの設定をちゃんと理解して楽しむのに3日とか無理!理解するには、楽しむには短すぎる!だからダメ!僕が払うから、それは僕の!ちょーだい!」
「もー、いいでしょ1冊くらい〜!」
「僕のモノは僕が買うの!僕だけのモノなのっ!」
「〜〜〜〜〜っ、っとにもぉ、そういうとこばっかお父さんに似てるんだもんなぁ〜〜〜…………!!」
ギャアギャアと店内で騒ぎ始める姉弟。朱鷺子は苦笑いし、霖之助は凄まじい雑音に耳を塞ぐのだがある事を思い立ち、したり顔で2人に告げた。
「ならば弾幕ごっこで決着をつければいいだろう。弾幕ごっこは少女の遊び────八雲紫はかつて、そう言っていた。だがエスカルゴと霊夢の事だし、霊魔くんにも当然のように指導しているんだろ?」
「え、で、でも……僕じゃお姉ちゃんになんて……」
「へぇ、いいじゃん!お姉ちゃんの強さ見せ付けてやっちゃおっかな〜♪」
「………………僕が勝ったらBLEACHは僕が買う」
「私が勝ったらソレは私が買うしその上で1巻から読み終わるまで待っててもらう!」
斯くして、霖之助の提案で姉と弟の勝負が始まることとなった。霊愛はこれまで子供達の中で不動の第2位だった。前回のキング・オブ・チルドレンのトーナメントは当たりが悪く四天王止まりだったが普段なら第2位は霊愛のものである。
果たして霊魔、霊愛と戦って初勝利となるのか。それとも、セオリー通りに霊愛の勝ちとなるのか。
霖之助と朱鷺子が見守る中、とうとう店の前で、弾幕ごっこという名の姉弟喧嘩が始まった……!
霖之助ってそれなりに好奇心旺盛ですよね。