「────お母さんが初めてスペルカードルールで解決した異変、『紅霧異変』。首謀者はレミリア。人と悪魔という圧倒的な種族差を覆し、視界を覆う程の弾幕すら乗り越え、人の身でありながら見事、強大な悪魔を打ち倒す事に成功────か」
「お姉ちゃん何読んでるの?」
「お母さんの記録」
「……初めての異変の犯人ってレミリアさんだったんだねぇ。今じゃお茶会なんてするくらいには仲良しなのに……最初はバッチバチだったんだろうな〜」
「だね」
博麗の巫女を受け継がんとしている霊愛は、日々修行に励んでいる。両親による試練も乗り越えて、
「博麗の巫女」を受け継ぐ資格を得たと、現巫女の霊夢からは認められている。しかし霊愛は、それを受け入れつつ、心からは納得しきれていなかった。
その原因は、霊愛自身が、何より分かっている。そう、実力不足。博麗の巫女を受け継ぐにしては、まだまだ実力が伴っていないと感じていた。
「……よし。紅魔館にカチコミしよっか」
「私も行っていい?」
「霊麗は留守番。お父さんとお母さんは魔界だかに出掛けてるし、霊子と霊魔だけにしておくと、絶対何か起きるでしょ。神社は消し飛ばないにせよ絶対ヤバいって」
「あ〜。霊子、少し前の虔魔みたいに思った事すぐ口にするもんね……霊魔とは相性悪いとこあるよね。分かった、あの2人の事は私に任せて」
「頼んだよ」
「頼まれたよ〜」
虔魔とは霊魔の弟で、エスカルゴチルドレンでの三男である。母親は吸血鬼化した十六夜咲夜。彼の本名は十六夜虔魔。思った事をすぐ口にする悪癖があり、それによってとある一件で霊魔とは決定的な溝が生まれてしまっている。
博麗家末っ子の霊子は、虔魔とはほんの少しだけベクトルは違うが、「思った事をすぐに口にする」という意味では虔魔と似た性格の持ち主だ。だから2人は、霊魔と霊子は相性が悪いと判断した。
そして霊愛は、霊麗に博麗神社の留守を任せて、単身、紅魔館へ赴いた。
エスカルゴチルドレンやハーレムの一員であればたとえアポ無しだろうと紅魔館に出入り可能。主のレミリアが認めているので、門番である紅美鈴も、家族であれば侵入者として対処せず応対している。
だから今回も、美鈴はいつも通り、素直に霊愛を通そうとしたのである。
「……あっ、霊愛ちゃん!おはようございます!」
「おはよう。今日も起きてるんだ。昔とは大違い」
「あはは……最近は何があるか分かりませんからね、予定などは無くとも起きてるようにしてますっ!」
「そっか。いいね。お陰様で、私が乗り越えるべき壁が……1枚増えたみたい」
「!……おや、その『目』……どうやら霊愛ちゃん、かなりの
「うん。相手してくれるよね?
「さァてどうでしょう。エスカルゴさんですら私を沈める事は一度も叶わないのに────。その娘の霊愛ちゃんに私が倒せますかね?」
ドッと強く地面を踏み締め、構えを見せる美鈴。霊愛は「それは格闘だけで戦った場合でしょ!」とツッコミたい気持ちを押さえ込み、深呼吸。
今から、突撃する。悪魔の館、紅魔館。昔よりも遥かに強くなった紅魔館へと、侵入者として、足を踏み入れる────。
「────お母さんが紅霧異変の解決の際に使った攻撃方法は、記録によるとたったの4つらしいの。夢想封印、ホーミングアミュレット。あと封魔陣、パスウェイジョンニードル……だったかな」
「……ええ、覚えていますよ。当時も、私が紅魔館で最初に霊夢さんの相手をしたんですから。ですが、それがどうしたんです?」
「分からない?昔より戦力的に強くなった紅魔館を相手に勝てば────それもお母さんよりも少ない技の数で勝ち抜けば、それは、『紅霧異変時点での博麗霊夢を超えた』と言えるんだよ。……記録上は、だけどね」
「……ま、あの時の霊夢さんはかなり必死でしたし、本気を隠していたようにも見えなかったですしね。確かに、そう言えるかもしれません」
ハッタリをカマしたつもりだった霊愛だったが、意外にも、当時の霊夢を知る美鈴が肯定する反応を見せたので、霊愛はそれを貫く事にした。
「なら、私はスペカ2枚、非スペカ1枚……かなぁ。流石にスペカ1枚は自殺行為だし……」
「ですが忘れていませんか?
「────ッ!!」
「強化の幅は霊愛ちゃんの想像よりもエゲツナイと思いますが……本当に大丈夫ですか?先程の『スペカ2枚、非スペカ1枚』という発言、悪魔でない私が対応してる内に訂正した方が良いかと思いますよ。私達だって、霊愛ちゃんに傷付いてほしいワケではありませんから」
美鈴はそう言って、構えつつも微笑んで見せる。霊愛はそれに対して小さく微笑み返す。そして次の瞬間には、鬼神の如き殺気を表に出す。
「忠告どうもありがとう、美鈴。だけど私はやる。それを最後まで貫き通して初めて、私の中で『私は過去の博麗霊夢を超えた』って認められるの」
「────そう、ですか……分かりました。あなたがそれがお望みとあらば、相手して差し上げます」
「決まりだね。じゃあ……いくよッ!!」
共に地面を蹴り肉薄する。上から振り下ろされる美鈴の右拳を、霊愛は左手で受け流す。その頃には美鈴の左拳が霊愛の顎に迫っていたがこれを器用にお祓い棒を使って弾き飛ばす。
拳での攻撃を立て直すのにはコンマ数秒の時間が必要と感じた美鈴は、今度は左足を軸にして右足でアッパーのような蹴りを放とうとするが、霊愛は、その小柄な体型を利用し身を縮めてこれを回避。
そして身体を縮めた反動で、霊力で強化した足で思い切り地面を踏み締めると、美鈴の股間へ強烈な頭突きを見舞う────!!
「ほごぉっ!?」
「……股間は女にとっても急所だもんね。頭突き程度だとしても、それなりには効くでしょ」
「ぐっ……くふっ……くぁぁ〜〜ッ…………!!」
脂汗をかいてひたすら地面を睨みつける。美鈴も妖怪とはいえ女だ、野外であからさまに股間を手で押さえたりなどはしない。内股気味だが、構えすら崩しはしない。
「……やっぱ正攻法でしか勝てないよね。弱点らしい弱点が無いんだもん、美鈴って。……トドメだよ」
お祓い棒を袖に仕舞い、拳を構える。格闘家とも言える美鈴に、格闘でトドメを刺すつもりらしい。美鈴はその挑戦を受けて立とうと、痛みを我慢し、痛みで乱しつつあった構えを改める。
「ハァッ!!」
(
後方に土塊を飛ばすほどの勢いで肉薄。構えこそ改めたものの痛みが残る美鈴は対応が遅れ、改めて拳を突き出すもそれを払い除けられてしまい胴体がガラ空きになってしまう。
「ッだりゃあぁああぁっっ!!」
「ひぐっ……」
股間へ再度の打撃。続いて水月、タン中、人中、眉間へ凄まじい連撃を加える。
(これは、正中線五段突き!まさかこんな……こんな精度、威力だとは────ッ!!)
「五段突きだと思った?残念、七段突きだよ♡」
「!?」
二度も攻撃されたからか、反射的に股間を両手で隠してしまった。けれども、それがいけなかった。最後の二撃は、どちらも、首より上だったからだ。
「これでェ!終わ、りィィッ!!!」
「────ッ……」
顎へアッパー、それにより少しだけ浮き上がった身体へ、美鈴の頭上に飛び上がって、最後の最後に頭頂部────
「はーっ、はーっ……これで、どうだっ!」
地面へ大の字に倒れる美鈴へ、肩で息をしながら問い掛ける。美鈴は、声にも出せない程に弱々しい笑みを見せ、門へ視線を移す。
通っていいですよ、と無言で許可したのだった。
「……ありがと、美鈴。楽しかったよ」
それだけ言い残し、スタスタと焦る様子も見せず門扉を開け、紅魔館の敷地内へ足を踏み入れた。
「体格差がありすぎると、あそこまで動けないもんなんですね……やれやれ、まだまだ修行不足です……波紋なんて使ってる余裕、ありませんでしたねぇ。とりあえずこのケガを、痛みを癒さないと……」
◆
「さて、と。紅魔館に入ったはいいけど……」
「そこまでです」
「!!」
ひた……と冷たいナイフが首に当てられる。実際に首に当てるのは紅魔館ではたった1人だけ。そう、三男の
「……虔魔」
「美鈴さんを倒したようですね。ですが、お姉様の進撃もここまでです。僕は、お姉様が相手でも首を斬りますよ。半妖ですし、一応、人間よりは強いのでしょう?」
「……」
「それとも一戦交えます?僕さえその気になれば、お姉様が勝てる見込みは限り無く0に近い、いえ、まるで0なのですがぐぶっ!?」
背後でペチャクチャと喋っている虔魔の顔面へ、容赦なく裏拳を叩き込む。虔魔は時間を止められる能力を持っている。霊愛の背後に立っていたのも、この能力があるが故。だからこそ霊愛は決して彼を逃がさないよう、一撃で気絶させる為に、最大限に強化した裏拳を叩き込んだ。
「ぶば……」
顔面が凹む程の威力。時を止める数秒の余裕すら得られず、虔魔の意識は闇に沈んでいった。
「止まってください、お姉様」
「今度は
時を止めずに現れたのは、虔魔の姉にして霊愛の妹、エスカルゴチルドレン四女である十六夜弦月姫だった。彼女は虔魔とは違って、母・咲夜の能力を満足に受け継いでいる。時を止める以外にも能力を行使できる、稀有な存在だった。
「よくも虔魔を────とは言いません。微塵も、そう思っていませんしね。ですがこれは、宣戦布告だと、そう受け取ってよろしいのですよね?」
「そうだよ。もう美鈴も倒したし。弦月姫も、私が昔のお母さんを超える為の踏み台になってよ」
「かしこまりました。霊愛お姉様の事は、この私が巫月お姉様に近付く為の踏み台にさせて頂きま……」
1歩、踏み出した弦月姫。そこには既に対妖怪の御札が貼っており、触れた事によって一時的に封印状態に陥った。かつて父を
「残念。周囲の確認はしっかりしないとね?」
「くっ、うあああぁっ!!」
「ナイフ投げても無駄。────跳弾狙いも、ね」
「……!!」
投げられたナイフをそのまま回避する。背後の壁などに当たって跳弾したナイフは、振り向きもせず指に挟んでキャッチしてしまった。
「あっぶないなぁ。このナイフの跳弾、頭串刺しにするつもりで投げたでしょ」
「……せめて掠ればいいと思ったので」
「うわエゲツな〜。まぁいいや、妹のオイタとして覚えておくよ。あとこのナイフ、2本借りてくよ」
「お好きにどうぞ。……これいつ動けるようになるんですか?」
「あと2時間かな」
「なっ!?そっ、それじゃ仕事にならないじゃないですか!」
「そうだね、まぁ負けて私を通してる時点で咲夜に怒られるのは確定だし、どっちでも同じことだよ。それと、ごめん。
「はぁっ!?」
弦月姫は、思わず声が裏返ってしまう程の衝撃を受けた。霊愛としては、加減した弱い御札を使ったつもりだったが、在庫を確認したところ、1枚だけ減っていたので、その過ちに気付いたのである。
「さて。次は誰が相手してくれるのかな?」
この時点で、既に紅魔館勢力を3人倒している。まだまだ序盤、霊愛は未だにスペカを使っておらず霊力もかなり温存している。
「次は私が相手よ!霊愛お姉様っ!」
紅魔館お嬢様2世────紅魔館の現当主であるレミリアの愛娘。名をレイチェル・スカーレット。エスカルゴチルドレンの八女で、魔法は、火属性のモノを多用している。
見た目だけで言うなら、フランドールより遥かに
「レミリアの妹」に見える容姿をしている。
「レイチェル、か。これまた厄介だね」
レイチェルは能力を2つも有している。1つは、
《悪魔を召喚する程度の能力》。自分の親を含む、悪魔と称される存在を召喚し、自我を残しながらもある程度は好きに使役できるというもの。
しかしメインは、レミリアの《運命を操る程度の能力》が変質して受け継がれた《確率を操る程度の能力》である。これは「完全に0%または100%の事象」以外は
なんでも好きに操れるという能力。はっきり言えばチートだ。
「もう少しで助っ人が来るけど……その助っ人の手を借りる前に、倒してあげるわっ!」
「あっそう、じゃあ短期決戦だねッ!!」
「『私は霊愛お姉様の弾幕に被弾しない』」
「そんなの無駄だよ!確実に被弾させてみせるッ!霊符『夢想封印 夢幻』!!」
1枚目のスペルカードは、元の夢想封印を霊愛がアレンジさせた、派生バージョンだ。弾幕に込める霊力量の、大幅な加減を可能にした弾幕である。
「ホーミング……!でも無駄!追尾されたって、私に当たりはしない!」
「私のホーミング弾、舐めないでよね!!」
「舐めてないけど、避けるまでもないわっ!」
バリアを張る様子も無く、まして魔法を使ったり自ら動いて回避する様子も見せない。それなのに、レイチェルは「当たらない」と断言した。霊愛はレイチェルの緊急回避からの急接近を警戒し周囲の警戒を強めるが、そんな様子は無い。
そして弾幕がレイチェルにぶつかりそうになったその瞬間────。
「な……ッ!?」
ガシャアアアッと凄まじい音を立てて、天井から吊り下げられていたシャンデリアが、落ちたのだ。そのシャンデリアは落ちてくる瞬間にレイチェルの目の前の弾幕を全て掻き消してしまった。
「……成程、確かにホーミング弾は遮蔽物や障害物にぶつかると消えるもんね」
「そーそー。
「白々しい……」
「ふふん♪」
そう、シャンデリアが落ちたのはたまたまなんかではない。レイチェルの能力にて落下させられた。老朽化でシャンデリアが落ちる確率は、完全な0%ではないからだ。
「なら……!」
「『私は霊愛お姉様の徒手格闘も受けない』!!」
「あッ!?」
────やられた。霊愛は、直感的にそう感じた。
弾幕もダメ、格闘もダメ。ならばもう、霊愛には打つ手が無くなってしまう。……
「……っとと、危ない危ない。焦る所だった」
「……」
「必中の弾幕ってのを見せてあげるよ」
「そんなのスペカルールの範囲外じゃな〜い?」
「いいや?お母さんも使ってるから、セーフだよ。というワケで────『夢想天生』ッッ!!!」
2枚目のスペカも、防御のスペカではなく攻撃に特化した、それこそ「必殺技」だと言えるスペカを選択した。しかも今回は、御札の弾幕バージョン。とあるBGMが流れそうな、あの弾幕だ。
「くっ、あっ、うぐぁぁあああっ!!」
霊愛は、母・霊夢から受け継いだ能力を、とうに覚醒させている。だからこそ奥義の夢想天生を行使できる。これは、消費霊力はかなり多いがそれだけ強い効果を発揮できる。不可避とも言えるだろう。
これによりレイチェルは倒され、霊愛は更に歩を進める。そしてシャンデリアの落ちる音を聞き付けレイチェルの言う「助っ人」がやってきた。
「あーあー、派手にヤッてくれちゃってぇ。これ、掃除すんの私なんですけど?」
「……天子……!」
レイチェルの言った「助っ人」。それは、刃物も通じない不良天人、比那名居天子である。今はもう実家から正式に追い出され、絶縁もしているので、紅魔館に居候している。……メイドとして雇われて。
「参ったなぁ……連戦に次ぐ連戦でちょっとヘトヘトなんだけど……」
「あっそう、それはご愁傷様ね。でも残念、私にはそんなの関係ないわ。仕事の一環だから。あんたのお父様……いや私のご主人様には悪いけど、さっさと紅魔館、出てってもらうわよ」
「……ッ」
緋想の剣を構える。アレは、対象の弱点を的確に突くことが出来るとされる天人にしか扱えない剣。霊愛とて弱点は存在する。だから天子のあの剣は、霊愛にとってかなりの天敵だと言える。
そこで霊愛は、神社を出てくる際に持ってきた、小道具をゴソゴソと取り出す。
「ジャーン。これ、知ってる?」
「?」
そう言って彼女が袖から取り出したるは、白くて小型の、箱型の物体。手のひらサイズだ。天子は、それが分からず素直に首を傾げるが……。
「……これはね、昔お父さんが河童に作ってもらった道具で、『モバイルバッテリー』っていうの。この付属品として、お父さんに刺す用の注射器みたいな道具もあるんだけど……それはまぁ要らないかな」
「その、もばいるばってりぃ?……がどうしたのよ」
「お父さん、昔は雷の能力に『容量』があったって言っててさ。今は無尽蔵だけど。だから昔はこれを使って充電してたんだって。おっかしいよねぇ〜、そんな機械みたいなコトしてたんだよ、お父さん」
「……」
「で、ここから本題。……このモバイルバッテリーの中身は、何でしょうか?」
封魔針を天子に向かって投げる。しかしそれらは天子に直接は当たらず、天子の周囲にザクザクッと突き刺さる。そして霊愛はその針で囲んだ中心に、そのモバイルバッテリーを投げると、続けて弾幕を打ち込み、破壊────!!
「ひゃっ、何これっ……んあぁああっ♡♡」
破壊されたモバイルバッテリーは、爆発しながら凄まじい勢いで放電する。外の世界にも実在する、同名の「モバイルバッテリー」などとはまるで違う挙動をするが、そんな事は霊愛は知る由もない。
そして霊愛により破壊されたモバイルバッテリーから飛び出した電気は、それぞれ分岐しては近くの避雷針────封魔針へ向かっていく。霊愛が針を刺したのは、避雷針とする為だった。
避雷針とは本来、地面に電気を逃がす為のもの。しかし今回は不幸な事に、爆破源から避雷針までの電気の軌道上に天子の足があった。故に、天子は、足から感電してしまったのである。
そして天子は、霊愛の父・エスカルゴに施された
「電気による開発」を
「はひっ♡ はひっ……♡ い、今のぉ……♡♡」
「……お父さんに『調教の成果がまだ残ってる』って聞いたから、もしかしてと思ったけど……。まさかのまさかだったね……」
「ごしゅじんしゃまぁ……どこぉ……ろこなのぉ♡」
「……変態は放っておいて、次に行こっと」
その場で、グッチュグッチュとだらしない自慰を始めてしまった天子を放置して、霊愛は次の相手を求め、いよいよエントランスより先に進み始めた。