「美鈴、虔魔、弦月姫、レイチェル、天子────もう5人も倒したけど、これでもまだ半分じゃないなんて……。紅魔館だけ、戦力過多じゃない……?」
霊愛はそう愚痴を呟きながら紅魔館の中を進む。
しかしどこからどう見ても、そしてどう考えても今は博麗神社の方が戦力過多である。霊夢は勿論、博麗神社での次女の霊麗、三女の霊子。更に長男の霊魔。言わずもがな、エスカルゴチルドレンの中で比べるとするなら、揃いも揃って上澄みの連中だ。
しかし霊愛はそんな自分の妹達がそこまで大きくズバ抜けているとは思っていない。紅魔館の方が、人数でも質でも上だとさえ思っている程だった。
「────
「……あら。勘が良くなったわね」
「お陰様でね」
時も止めず、霊愛の呼び掛けに応じて曲がり角の先から現れたのは、紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。現在ではレミリアの眷属の吸血鬼であり、吸血鬼化に伴い、人間の頃から優れている体術にも更に磨きが掛かっている。
「実は、紅魔館に入った時から霊愛ちゃんの戦いは見せてもらっていたけど。やっぱり、虔魔は未だにダメダメねぇ。油断するなとまでは言わないけど、そこまで有利でもない状況で、よくあそこまで油断できたわよねぇ」
「そーだね。能力に頼りすぎなんじゃないの?」
「かもしれないわね。さて、そんな息子と違って、今の私はたまたまイケイケモードだから────。能力なんて使わずに相手してあげるわ」
「……!正直、有難いかな……時間能力者はもうお腹いっぱいなんだよねっ!」
霊力にて身体を強化し、お祓い棒を構えて咲夜に肉薄する。けれどもただ霊愛が迫ってくるのを待つ咲夜ではない。袖、腕を掴むと柔道などの投げ技のように霊愛を投げ、床に叩き付けようとする。
────しかし、そのまま叩き付けられるだけの霊愛は既に存在せず。空中で身を捻り、ダンッ!と床に足をつき、投げられるその勢いをまるまる利用して咲夜を投げ返した────!
「ちぇっ、掴みが甘かったかな」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
当然、そのまま霊愛に投げられる咲夜ではない。カウンターへのカウンターこそしなかったものの、自分が掴んだ霊愛の手を離し、霊愛に掴まれた手を振り解いた上で、受け身を取るのではなく、着地。
この流れを、コンマ数秒の間にやり遂げたのだ。しかも、元々予想していたカウンターではなく全く予想外だった所からのコレだ。咲夜のアドリブ力が試されたのは言うまでもない。体術の方が得意だと公言するだけある、と霊愛の肝を冷やさせるのにも丁度良すぎたパフォーマンスであった。
「甘いわ。こうも易々と振り解かれてちゃねぇ……」
「……勘違いしてるみたいだから、教えてあげるよ。今のは振り解かれたんじゃない。
「何ですって……?」
「袖、よく見てみなよ。咲夜にとって余計なモンがあるんじゃない?」
「?……なっ!?」
それは、また御札だった。しかし今回は弦月姫に使ったモノよりは1段階も2段階も強さが劣るものだった。しかも相手は弦月姫より格上の咲夜なので完全に身動きを封じられていないようだ。こうして霊愛から言うまで気付けない程だったのだから。
「何なのよこれ、剥がせないじゃない」
「そりゃ、御札を貼っつけただけとはいえ、それも封印だからねぇ。本人に簡単に解かれちゃ、封印の意味が無いッてモンだよ」
「……まぁいいわ。身体は動かせるようだし、封印の効果はかなり微弱ね」
「……」
「怪我しない内に、さっさと紅魔館を出て行く事をオススメするわ。来るなら普通に遊びに来なさい。そう言っても、聞いてくれないとは思うけど」
「それが分かってるなら喋るだけ時間の無駄なのも分かってるよね」
「そうね」
再度動き出す2人。しかし今回に限って、咲夜の移動速度は、格段に落ちていた。
「速い────いや、私が遅くなっているッ!」
「正解!人間と変わんないでしょ!」
「……くッ!!」
「終わりだよ」
いくら咲夜が、人間の頃から優れた体術の持ち主だったとしても、限度というものがある。相手は、次期博麗の巫女。しかも純粋な人間ではなく半妖。その上、小回りの利く小柄な体躯まで加わったら、人に霊愛の動きを目で追うのは不可能に等しい。
しかしそこは戦闘慣れしているだけあり、咲夜は霊愛の動きを予測して反撃しようとしたが────咲夜の振り向きざまに顎を膝で蹴り上げて、一撃でノックアウトしてしまった。
顔の保護の為、そして他の意味も含めこれ以上は無益と判断し、霊愛に降参を言い渡した。
「────気を付けなさい。今の紅魔館には私より恐ろしく、私より優れた時間能力者が居るわ。奴がその気になれば……霊愛ちゃんでもまずいわよ」
「……流石に、
「アイツは地下牢に居るから大丈夫だと思うわよ。くれぐれも、地下牢には近付かない事ね」
「忠告どうも。
「それがいいわ」
こうして咲夜を撃破した霊愛は、地下牢とまるで反対、地下の図書館へ向かう。そこで4人を倒し、一気に数を稼ぐ。
「お、お姉様!止まってください!」
「図書館にはこれ以上近付かせません!」
「きたきた。待ってたよ、ここあ、シガレット」
図書館へ向かう道中の階段で霊愛を迎え撃つのは小悪魔とエスカルゴの双子の娘。九女のここあと、十女のシガレットである。
パチュリーと同じく全ての属性の魔法を扱える。ただし魔力量はパチュリーよりずっと少ないので、パチュリーの下位互換でしかないが……、攻撃方法の多彩さ
「2人同時に掛かってきな。それくらいしないと、私とは勝負にもならないよ」
「いッ、言ってくれましたね……!?」
「そこまで言うのなら!!」
「「合魔符『
双子と霊愛の間に通路を塞ぐかのようなサイズの巨大な炎の竜巻が発生した。ジワジワと回転速度が上がり、大小様々な炎の弾幕も飛ばし始めた。
ヂリヂリと通路の壁も焦がしつつある。
「────霊符『夢想封印 夢幻』」
「「そんなのが通じる私達の魔法じゃ────」」
「
「「!?」」
霊愛は霊力にて身体強化を施し、炎の竜巻の中へ飛び込む。竜巻は逆円錐状。根元の方だったら炎の威力も弱いし、前後、左右の範囲も狭い。そこまで見越して突撃したが、小悪魔姉妹は、まさか霊愛が炎の中を突っ切ってくるとは夢にも思っておらず、反応が一瞬、二瞬、それ以上遅れてしまい……。
「へぶっ」
「ぷぎゃっ」
拳を顔に受けてしまい双子はそれぞれ違う方向に吹っ飛ばされる。2人が集中を切らした事で魔法も中断。そしてそこから遅れて、夢想封印の弾幕まで二手に分かれ双子に手痛い追撃を加えたのである。
「「キュゥ〜……」」
「こうすれば私の弾幕は余計な相殺はせず、2人に満足にダメージを与えられるってね」
「き……鬼畜ゥ……です……」
「霊魔くんゴメン……お姉ちゃん負けちゃったぁ」
「……。さてと、さっさとあの2人も倒しますか」
その後、小悪魔を夢想封印で、そして魔法を詠唱している隙を狙いパチュリーを素手でノックアウトしてしまった霊愛は、とうとうボス戦へ向かう。
紅魔館のボス────レミリアに挑む。
「中々に暴れてくれたわねぇ。今回はレイチェル、いつもよりは粘れたかしら?」
「そーだね、いつもよりはね。けどあの子、どうも気に食わないんだよね」
「……そいつは聞き捨てならないわね」
「だってレイチェル、どう考えても本気じゃない。手抜きでしょ」
「!」
「ついこの前やった、キング・オブ・チルドレンのトーナメントもそう。レイチェルからは、必死さをイマイチ感じなかった。全力を出すんじゃなくて、まるで7割くらいで流してるような違和感────レミリア、気付いてスルーしてるでしょ」
「ふふ……いい機会だから教えてあげる。貴族というものはね、みだりに全力をひけらかさないものよ」
「ッ!?」
一瞬の内に距離を詰めたレミリア。反応が遅れた霊愛は為す術なく、レミリアにより吹っ飛ばされ、頭を壁にぶつける。
「あぐっ……」
「さ……掛かってきなさい。虔魔くんから咲夜までを倒して、さぞや良い気分なのでしょうけど────生まれながらの吸血鬼の恐ろしさ、見せてあげる」
その後、何度も何度もレミリアに挑んでは、また吹っ飛ばされる。しかも、それによって段々と手を抜かれて相手されているのが、霊愛にも分かった。
それなのに勝てない。勝てない悔しさで、霊愛は母に追い付けない現実に、目の前が暗くなったが、ここはフラン戦の為に温存するより、目の前の敵を倒すのが優先だと思い直す事にした。
「────『夢想天生』ッ!!!」
「……判断が遅いわよ、全く」
BAD END
最初は余計な縛りをしたり、無理な難易度には挑戦せず、身の丈に合った難易度から始めよう!自分の実力を把握するのも大事だぞ!
次回から霊麗編!第2部!