「姉としての威厳が無い」
「……どしたの急に。霊麗って威厳とかそういうの、気にするタイプだっけ?」
「違うけどさ」
「違うのかーい」
ある日の修行終わりに、霊麗は唐突にそんな事を口にする。それを耳にした姉の霊愛は、気になって追求するも、霊麗は違うと言う。
確かに霊麗は、威厳なんてものを気にするタイプではない。それを姉も弟も妹も誰もが知っている。恐らくはエスカルゴチルドレン全員が知っている事だろうし、各チルドレンの親ですらも知っている。
しかし、霊麗がそんな事を口走るのも無理は無いだろうと思われる理由があった。
「んでも、違うならどうして?」
「だってー、ねぇ?博麗神社の子供達の中で私だけ四天王入りしてないんだよ?別に病みやしないけど少しだけ劣等感があるというか……」
「あはは、まぁ四天王の枠4つの内の3枠は私達が埋めちゃってるもんね」
「そーだよ、全くさ。お姉ちゃんといい霊魔といい霊子といい……巫月お姉ちゃんを除いて23人も居て、どうしてその中で選ばれた4人中3人が博麗なの?幾ら何でもヤバすぎでしょ」
「霊麗はトーナメントの当たりが悪かったよ」
「それは知ってるよ。知ってるけど、その上でね。思う所は……無くはないよね」
あのキング・オブ・チルドレンのトーナメントは第2回が行われるまでの長い間、多くの子供の心に残り続けた。霊麗もまたその中の1人で、あの時の戦いに魅せられた1人でもあった。
「どうやったらお姉ちゃんみたいに『お姉ちゃん』らしくなれる?」
「私だって、狙って『お姉ちゃん』をやってるワケじゃないからなー。やっぱさ、とにかく強くなればいいんじゃない?巫月お姉ちゃんなんて私達の中の誰よりも強いし、誰よりも『お姉ちゃん』じゃん」
「ま……まぁ確かに……?」
────強さが「姉らしさ」を生むものなのか?霊麗は姉の言葉に疑問を隠せなかったが、奇しくも霊愛の言う通り、霊麗が「姉らしい」と感じる者は揃いも揃って一定以上の力を持つ者ばかりだった。
実の姉の霊愛は勿論、異母姉妹の巫月もそうだし同じく異母姉妹の穹、弦月姫。この4人は霊麗から見ても「姉らしい」者達だし、実際そうだ。そしてその中でも更に飛び抜けて姉らしいと感じるのは、巫月と、霊愛。そう、チルドレンのナンバーワンとナンバーツーその人であった。
「強ければ姉っぽく見えるのかなぁ」
「そうじゃないの?」
「うーん」
巫月も霊愛も決して「姉らしさ」を誇示しているようには見えない。それは霊愛が好きだとか身内を庇う気持ちなどは全く無い、純粋な気持ちだった。その上で、もしも「強さ」が「姉らしさ」に繋がる要因となり得るなら────霊麗の出せる結論は、1つしかなかった。
「強くなるしか、ないかぁ」
「霊麗は五女、上から6番目。弟も合わせて18人の姉だからね。『姉らしさ』ってのは分からないけどそれを目指して頑張るのもいいんじゃない?」
「……うん。私、頑張ってみる」
とはいえ、誰に挑もうかと霊麗は頭を悩ませた。霊魔にはつい最近勝ったし、かと言って博麗神社の末っ子の霊子に挑む気にはなれない。そして霊愛も紅魔館に攻め込む為の特訓をしているようなので、霊麗にはそれに割り込むような事はできなかった。
そもそも霊愛はいつも「私が相手になろっか」と自分から相手を買って出てくれる。なのに、今回はそれが無い。姉も手一杯なんだと、彼女は悟った。
「────で、私の所に来たってワケか」
「うん。お母さんはまた推理小説の虜になってて、話してても心ここに在らずって感じだったからさ」
「あははっ、霊夢ってば相変わらずだなぁ。それで体調を崩してちゃ話にならんぜ。昔からそれで何度身体を壊したことか……。ハマればって条件付きだが霊夢も本の虫だよなぁ。エスカルゴもそうだよな?全く夫婦ってヤツぁ……」
「……魔理沙はそうじゃないの?」
「私は読むより研究メインだから。読んで試して、ダメなら読んで考えて試して。そこまで己を客観視してるワケじゃないから詳細は分からんが、大体はその繰り返しかもな」
それだけでここまでの強さを────と、霊麗は内心舌を巻く。
霧雨魔理沙、元人間、現魔法使い。母の霊夢とは幼少の頃からの付き合いで、霊夢が人をやめる事を決心したのを見て、そして霊夢からの説得もあり、魔理沙もまた同様に……。
「……!思えば、霊麗とはあんまり弾幕ごっことかはしてこなかったよな」
「そうだね。いつもお母さんやお姉ちゃんとばっかしてたと思う」
「じゃあ今日は記念すべき日になるだろうな。精々私に本気を出させるよう頑張りな!」
「魔理沙の本気って、それ、お父さんすら消し飛ぶレベルでしょ」
「あいつが本気を出してないなら、な。さぁ霊麗、まずはルールを決めよう。美しさを競う方じゃないルールの方がお好みか?」
「そうだね」
弾幕ごっこは基本的に美しさを競ったり、相手のスペカを攻略し尽くすのが定番。しかし「定番」はもう1つ存在する。それが「弾幕格闘ルール」だ。
相手が負けを認めたり、逃げ出したり、もしくは気絶するか体力が尽きるまで行われる。殴る蹴る、箒でブン殴る、斬りつける、大抵なんでもありだ。ただし弾幕のスペルカードを使うならやはり不可能弾幕は基本的にアウト。相手が認めた場合にのみ、つまりは合意がある場合のみ、それが解禁される。
不可能弾幕を認める者は、大抵が自分の
「よし、なら弾幕格闘ルールでいこうじゃないか」
「いいの?
「いいのさ。それに、吸血鬼であるお前にとってもそうであるように、私にとっても都合のいいルールでもある。普通のスペルカードでは使えんモノも、このルールでなら使えるってモンさ」
「……嫌な予感がするから、それを使われる前に早く終わらせないと」
「ならば早く終わらされる前に終わらせようか!」
「霊符────」
「魔符────」
2人の思惑は交錯し、共に「必殺技」とも言える十八番の技をぶつけ合う。しかしお互いに耐久力はお互いの予想を超えていて2人の勝負は予想以上に長引き────今回は、最終的には紙一重で霊麗に軍配が上がった。
「ちぇ〜、参ったな。お前の底力、ハッキリ言って予想以上だったよ。また
「次は負けそうだからヤダね」
「はははっ!そうならないよう修行しとけよな!」
「……そーだね、それするしかないかも」
霊夢と魔理沙は、人間の頃から戦闘をこなす事で力を高めてきた。そして、霊夢と魔理沙では霊夢が勝つ事が多かったが、それは単純に霊夢が強かった事だけが理由ではない。
五行の相性において、霊夢は木属性で、魔理沙は水属性である。レベル差が小さければ属性の相性で勝負は決まりがちだ。それが顕著に出ていたのが、かつての霊夢と魔理沙だが……同じ現象が今、霊麗と魔理沙に起きていた。
霊麗の父、エスカルゴもまた五行において木属性である。雷とは、五行においては木属性だからだ。両親が木属性。それを抜きにしたとしても、霊麗もまた木属性なのであった。
霊麗の霊力が枯渇し、魔理沙の魔力が減りに減り鎬を削る戦いに突入し────そこにまできて遂に霊麗の特性「戦闘が長引くと吸血鬼らしい凶暴性が出てくる」のが、今回もまた起きた。
とはいえ魔理沙も、霊麗の父エスカルゴとは20年以上の付き合い。吸血鬼との戦いは、既に百回をも超えるくらいに経験していて、対処法などは身体が覚えていた。霊麗の対処もまた限りなく完璧に近いものだった。
それでも最後は子供らしい負けず嫌いさが霊麗を突き動かし、魔理沙の防御を、これまでの経験を、打ち破るまでに至ったのだった。
「ていうか魔理沙、威力上げすぎでしょ。翼の再生中々終わんないんだけど?」
「お前が私を殺しかねないからだろ!?」
「えー……そんなんで死ぬ魔理沙じゃないでしょ」
「
「やー……長引くとつい、ね……面目ない……」
ある意味、試合に勝って勝負に負けたようなものだろうか。実際、生まれ持った強さで勝ったから、そうだとも言えないのだろうが、理性を失った方を敗者とするなら、勢いに任せて本能に任せた時点で霊麗は負けていたとも言える。
理性こそ完全には失わないものの、本能に任せるという意味では暴走と変わらない。
霊麗は、博麗神社の子供達の中で一番の冷静さの持ち主だ。しかし、戦闘が長引いただけで、吸血鬼として彼女が生まれ持った凶暴な本能が顔を覗かせ霊麗を蝕み、戦闘を強制的に終わらせに掛かる。
それは「相手を打ちのめして」かもしれないし、
「霊麗を完全燃焼させて」という意味かもしれないという危うさも持っている。
「……そっか。分かった気がする」
「うん?どした?」
「ありがとう。魔理沙のお陰で、『お姉ちゃん』に近付けたかも」
「『お姉ちゃん』……?霊麗はもう15人?いや18人?とかのお姉ちゃんじゃないか」
「そうじゃなくって。……まぁいいや。これは沢山の兄弟姉妹が居ないと分からないよ」
「ハハッ、違いない。大家族のお前達には、私には分からん苦労をする事も多いだろうと思う。まぁ、私には相談に乗る事しか出来ないが……聞くだけなら聞いてやる。だが適切なアドバイスは期待するな、私は親に絶縁された子供で、未だ家族というものをよく知らんからな」
「そーだね。愚痴だけでも聞いてくれたら嬉しい。もしかしたら親子姉妹共々、お世話になるかもね」
「違いない。ま、お前ら親子に苦労させられるのは今に始まった事じゃあないからな。霊夢も含めるとかれこれ30年以上は苦労かけられまくりさ。今更、そんなもん気にすんな。『子供っていうのは大人に迷惑を掛けて、面倒をブン投げてナンボだ』って、エスカルゴがよく言ってるが、お前だってまだ子供なんだ、迷惑だの苦労だのと気にする事は無いぜ。ンなモン、大人にブン投げろ!なっ!」
「!……ん。ありがと」