エクスティア×FGO 異界魔導帝国ロギア・アース~堕ちた人理の希望~ 作:王天君
ここで戦いは終わり、次回のエピローグでちょびっとエッチだけど平和な日常を手に入れた姿を書いて終わりになります。
戦いの終わり 最後の
日本異聞帯時空における西暦2018年12月30日午後6時。
帝都城門前に集結した500を越える騎士達、
ネモ・ポセイドン、ダ・ヴィンチ・オルタ、マシュ・キリエライト・オルタ(EST:ζ)の3騎のスレイブサーヴァント。
そして量産された特殊半竜人兵器はストームボーダーに乗り込み、同異聞帯より出発。
乗組員と船員はポセイドンの眷属へ変貌したネモ・シリーズと、バーヴァン・シー・オルタに改造戦闘兵ロギリアンに改造された元カルデア職員。
突入した時とは真逆にリカエルの力で嵐の壁が一部を丸く開かれ、穏やかに凪いだ空を行く出航となった。
目的地は彷徨海カルデアベース。
最後の計画を実行に移すため、元仲間の待つかの地へ船は漕ぎだしたのである。
◇
部屋に響く大規模な振動が連続して部屋の一つに拘束されていたクリプターの1人、カドック・ゼムルプスは目を覚ました。
「なんだ?」
オリュンポスで蘆屋道満に殺されかけてラスプーチンの手でカルデアに引き渡されたのも今は昔。傷を癒してから事情聴取だと牢屋代わりに放り込まれた居住室の一つが自分の部屋だ。
仮にも敵をこんな快適な空間に置くとか頭おかしいのかってやり取りもしたが結局この部屋で過ごす毎日。時折藤丸やマシュが顔を出しては世間話と体調確認に応じてと、ただの病人と変わらない生活だった。
照明のスイッチを押すが点灯しない。しかし程なくして緊急事態発生を知らせる非常灯の赤い光が部屋に満ちた。
「またサーヴァントの誰かが何かやったのか……」
カルデアに回収されてから知ったが所属するサーヴァントが勝手に特異点を作ったり、異常現象を起こすことがまあ多い。この手の非常灯を見るのは初めてだが今回もそれの類かも。
「藤丸は何して━━そういえば妙な異聞帯攻略へ行くって言ってたな」
数日前、彼の故郷である日本に異聞帯反応が出たため急いで行ってくると挨拶に来たのを思い出す。異聞帯の中では時間の流れが違う可能性もあるので一概に言えないが戻るにしてもまだ早いだろう。
しばらく待って誰かが何か言いに来るかと思ったが、地震のような揺れが時折感じられるだけで誰もこの部屋には来ない。
(……嫌な予感がする)
サーヴァントを管理しきれていない不甲斐なさに愚痴を言いたくもなるが、とりあえず現状確認が必須だ。
なにかあったら連絡する用と割り振られた管制室への通信を起動するが呼び出しが続くだけで取る気配はない。
ますます不審さと不穏さを感じて部屋の入口へ。普段は内側からあけられない扉に手をかけると抵抗はあるものの、魔力で強化した腕なら簡単に開いた。
「管制室応答なし、一部の電力も切られてる……妙だな」
今までも似たようなことはあったが電力が止まるのは初めて。
藤丸から聞いていた話でもサーヴァント達は異常事態を起こすと自分の作った特異空間や特異点に逃げることが多いと聞く。カルデア全体の機能が失われるほどの異常となるとただのお遊びとは考えにくい。
少し逡巡してロシアから着続けている上着を羽織ると部屋を出る。
根拠のない直感だがこのまま部屋にいては良くない気がした。
誰かが呼んでいるようなわずかな感覚を頼りに部屋を出、管制室への道を歩き出す。
責任感とかじゃない。捕虜に脱走されるような警備でいいのかって文句を言う為だ。後輩が不在のカルデアで変な問題が起きるのが気に入らないとかではない……と思う。
(とにかく管制室だ。ただの故障とかであってくれよ)
◇
……。
カドックが部屋から立ち去った数分後に部屋を何人もの小柄な人影が訪れる。
機械らしい銀色のメタリックな肌と髪に金の瞳。
紫色をしたとげとげしい鎧を着こんだ彼女達は全員同じ顔。
量産されたメリュジーヌ・オルタのクローンズだった。
両腕の魔剣や腰から伸びた尻尾で部屋のクローゼットやベッドを滅茶苦茶に破壊。
隠れられる場所を無くし、眼球を熱源探知に切り替えて完全に部屋の主が不在であることを確認する。
『イタ?』
『ダ・ヴィンチ様ノ指示ハコノ部屋』
『イナイ』
『逃ゲタ』
『優先捕獲対象カドック・ゼムルプス、探ス』
『見ツケテζ様ニ渡ス』
『マスターノ為ニ』
◇
廊下を進むことしばらく。
歩けば歩くほど衝撃に混じって、あちらこちらから金属同士がぶつかる音や爆発音まで聞こえるようになってきた。怒号こそないが、ここまでくるとおふざけですむレベルをすでに超えている。
どうやら故障やサーヴァントが妙なことをしでかした次元に留まらない異常が起きているのはもう確定的だろう。
記憶を頼りに進んでいるだけなので管制室がこの先にある保証はない。
しかしとにかく合流しないと命に係わると修羅場を潜り抜けた勘が言っている。
「ふんっ!!」
「セェアッ!!!」
気合の入った声と一緒に一際大きい剣戟の音が角を曲がった辺りから聞こえた。
「近いな。この先に何かが……」
音が聞こえた通路は十字路。右に曲がれば音のした方へ行けるはずで管制室は記憶が正しければ直進。
安全を取るなら戻って迂回するか、あるいはわき目もふらず走り抜けるのが正解だ。
(……とはいえ何が起きてるか知らないと判断を間違える危険もある。危険だが……)
通路の陰に身を隠しながら角へ接近。慎重に顔を少しずつ覗かせて音の正体を見極めた。
「あれは……」
通路にいたのは複数人の男。
特に目立っているのは白いラインの入った青タイツと鎧に青い髪を逆立たせた朱槍使い。そしてその隣に日本伝統文化のジンバオリとかいう紺色の着物を着た長刀使い。
いずれもデータで正体は知っていた。
(クー・フーリンに佐々木小次郎……アイツらが騒ぎの原因か?)
てっきりこの2人が喧嘩でもしたのかと思う。しかし即座にその可能性を棄却。
彼らの向こうに見慣れない連中がいる。
金属製のフルプレート鎧で全身を覆った連中だった。数は少なく見ても20人以上。ごつくて大きな背格好からして恐らく全員男。武器はそれぞれの手に握った剣と盾でいかにもな騎士といった出で立ち。一糸乱れずに盾を前にし、剣を隣の騎士にぶつけないよう小さく構えている辺りはかなり練度も高そう。
盾と鎧にはどちらも龍と剣のエンブレムが刻まれているのでアレがシンボルらしい。
「ちっ! こいつ等、本当にただの人間か?」
「シオン殿の言葉が正しければそうであろうな。ここまでの攻防で
「ぬかせ。ただの人間がここまで戦えるものかよ」
(すでに戦闘中……ならあの鎧が敵か。だが人間だって?
本当に何が起きている?)
漏れ聞こえる話し声からするとあの騎士達は人間で、しかも白兵戦に優れたあの2人と互角に渡り合う実力者なのか。
(そんな常識外れがキリシュタリア以外にいてたまるかって話だが……オリュンポスの衛兵みたいな連中はあり得るか。でもそれなら残っているのは南米……デイビットのはず。どうみても南米の文化体系の格好じゃないぞ)
直接訪れたことはないが南米系ならもっと原住民っぽい格好になるはず。どちらかといえばブリテンの騎士よりだがブリテン異聞帯は既に切除されているので候補から消える。
「とにかくもう少し様子を……」
さらに深く耳を澄ますと今度は敵の騎士の声も聞こえ始める。
「正体は割れたか?」
「はい。外見情報も技工士殿の情報と一致します。槍の男が霊基No.17のクー・フーリン、長刀の男は霊基No.39の佐々木小次郎で間違いありません」
「必中の槍と絶死の太刀か……やむをえないか」
「ζ様に援護を要請しますか?」
「いや……あの方は全軍の為に行動されている。我ら数人の為に呼び戻すことは許されない。
━━全騎、次で仕留めるぞ」
騎士達の中でも低い声をした年輩の男がリーダー格らしい。号令と共に全員が盾を捨て、剣のみをクー・フーリンたちに向けて構え直す。
「はっ! この時代でも戦士の心を持ってる奴がいやがるとはな」
「……我らも死地に踏み入った覚悟をせねばならんか。彼奴らの瞳、鷹を喰らわんとする蛇のそれだ」
何かを感じ取ったらしい2人も魔力を全身から迸らせ、宝具発動の構え。
明らかにただの人間相手にする警戒ではなく、状況を飲み込み切れないカドックは見逃さないように目を凝らして先行きを見守った。
じっと両者ともに固まり、緊迫した空気の張り詰めだけが高まっていく。
やがて誰かの立てた息を吞むゴクリという音で均衡が崩れた。
『
『秘剣━━』
先に動いたのはサーヴァントの2騎。高らかに宝具の真名を呼び、五体から魔力を迸らせる。佐々木はともかくクー・フーリンも跳躍して放つ対軍宝具を使わないのはここがカルデアという味方の領域内だからだろう。まとめて貫こうという考えか。
一瞬遅れて騎士達も剣を固く握りしめて走りこむ。どう見ても特攻の構えだが足は揺らぐ様子がない。
朱槍は正確に心臓を目掛けた軌道で飛びだし、長刀も隣で決して躱せない3重の太刀筋を作り出す。
普通に戦えばサーヴァントでも宝具で防ぐような一幕。
騎士達が何人か切り捨てられ、貫かれる姿を幻視する。
『━━
『燕返し!』
それは想像を裏切らなかった。鎧を着た騎士達が何人もまとめて貫かれ、あるいは次元をまたぐ斬撃に切り裂かれる。
しかしここで騎士達が想像を超えた。
「がぼっ……うっ、ぉおおおおお!!」
「進めぇ!!」
「皇帝陛下の為にぃっ!!」
「カルローンばんざぁぁぁあい!!」
「こいつら……ちぃっ!」
「ふむこれは……どうにもならんな」
宝具を受けた突撃する第一陣は死屍累々。心臓を抉られ、手や足を失う騎士達。
しかしそこで止まらず、死に体の彼らは2騎に向かって突撃を続行。
複数人をまとめて貫いた朱槍は握られて抜けず、長刀も斬られた騎士が尚も突っ込んで切り捨てられながらも押さえ込む。
長刀を使えなくなった佐々木小次郎に残りの騎士が殺到して体を串刺しに。こぷっと口から血を溢れさせた小次郎は「無念」と呟いた後、体を消滅させていった。
続けて強引に貫いた騎士の体をルーンで焼いたクー・フーリンに予想外の攻撃が襲う。
『英霊見ツケタ』
『殺ス』
現れたのは銀色の体をした半竜半人の少女たち。
巨大な馬上槍のような武器を手に襲いかかる。
「ちっ! 次から次へと! 簡単にやられて━━!!」
「いえ、もう結構です。クー・フーリンさん」
息まく声に被せるようにして新しい声。
何がと思う間もなくクー・フーリンの背後に黒い影が出現。背丈は彼より小さいのに同じくらいの大きさをした盾を片手で握り、もう片手を彼の肩にかける。
彼がハッとした様子で振り向こうとした時にはその首から上を盾が薙ぎ払った後だった。
「ふふっ、クランの猛犬も改造して頂いた私には届かないのですね。尊敬していた頃が愚かに思えます」
「おお……」
「ζ様」
「皆さんも無理はしないでください。英霊は可能な限り私かクローンズで対処しますから」
騎士の称賛としたいから噴き出した血を浴びて赤く染まる新しい騎士。顔はこちらからは伺えない。
カランと朱槍が転がり、血だまりに斃れたクー・フーリンもまた力尽き、執拗に心臓へ剣を突き立てられて消滅していく。
消滅を確認して盾使いも竜の少女達もすぐ飛び去り、後には死体となった仲間を悼む騎士達だけが残る。
「……軽傷18名、重傷6名、死亡……5名です」
「そうか……全員、ここで嘆いてはならない。彼らの死を無駄にしないために進むぞ」
「了解!」
「船長からの連絡です!! 『我、召喚室への通路を確保せり』とのこと!!」
「よし! あと一息だ。残りの部隊にも遅れぬよう伝えろ!! 目指すは管制室だ」
士気を上げる兵士たちの声を聞き、カドックは肝が冷えて仕方なかった。
英霊が負けた事実。そして召喚室も落とされかかっている事実。
だがそれより見過ごせなかった情報がある。
(アイツら、クー・フーリンと佐々木小次郎のカルデアに登録された霊基Noを知っていた。正体と宝具に見当がついたから犠牲覚悟の特攻をしたんだろう。
それが知られているってことはつまり……)
カルデアに裏切り者がいるという可能性が極めて高い。
大盾を使っていた騎士に何か嫌な予感を覚えたが、それ以上は推測をやめて現実に頭を切り替える。
(管制室は無事だって言っていたな。シオン・エルトナム・ソカリスを見つけてすぐに封鎖措置を……藤丸達を呼び戻させて……っ、何考えてるんだ。アイツに頼らなきゃ何もできませんって言ってるようなものだろ!)
自分の中に浮かびそうになった考えは果たして後輩に頼ろうとしたのか、それとも彼の実力を認めていたためなのか。
それ以上深く考えることは止め、騎士達に見つからないように最短ルートを駆ける。
駆けようとした。
「見つけましたよ。立ち聞きするなんてマナー違反だと思います」
「ッ━━何っ!?」
さっき聞いたばかりの声に込められた冷たさに驚きながら振り向いて━━直後思いっきり頭を殴りつけられて意識が飛んだ。
◇
「うっ……」
頬になんだか冷たい金属の感触がする。
ちゃんとした布団で寝なかった時の節々の痛さを感じながら体を起こし、頭を振っていると徐々に意識が明瞭になる。
場所はどうやら管制室らしい。らしいというのは明かりが消えているうえに人の気配が全くなく、誰かに聞いて確かめられないからだ。
「っ……何が……僕は……そうだ! 通路で誰かに」
思い出した。
クー・フーリンと佐々木小次郎が数で押す騎士達に敗れ消滅する姿を。
そして裏切り者の存在に気づいて管制室へ急ごうとしたところで誰かに襲われた。
「やっと起きましたか?
マスターに処遇を聞く前で良かったですね。聞いていたら眠ったまま死んでいたかもしれませんから」
「っ……お前は」
いつからそこにいたのか。管制室の机の一つに腰かけて大胆に足を組んで見下ろす女。
全身が黒と灰色のハイレグスーツに覆われていて、手の甲や足や肩にピンク色の結晶体をはめ込んでいる。胸の前がパックリ縦に生地が裂けて開いており、組まれた足の上で豊かな谷間がこれでもかと強調されている。
頭には大小4本の角を生やし、顔は鼻から上がこれも巨大な結晶を嵌めて眼球のようになったバイザーをはめている。
正直胸の地肌が見えていないとオートマタと勘違いしそうなほど人間離れした外見。
それでも声だけは覚えがあった。
「お前なのか……マシュ」
「はい、お久しぶりですカドックさん」
眼球部分へ横一文字に線が走ったかと思うと上下に分断。中からは髪が銀色に染まり、瞳も赤紫色に変貌したマシュ・キリエライトの顔が覗いた。
しかし表情はやはりよく知るそれとまるで違う。こちらを見下し、軽んじる悪意に満ちた表情。唇の片方を吊り上げ、座り込んだカドックを心底滑稽に思っているのが表情だけで理解できる。
「その姿……ハロウィンでおかしくなってるわけじゃなさそうだな」
「はい、私は正気ですよ。それとこの姿を侮辱しないでください。一度目はAチームの縁で許しますが二度目はありません。
落ち着いた口ぶりに宿るふつふつと燃えるような怒り。こんな感情も以前のマシュなら見せなかった。なにより喋りながら切れ味の良さそうな爪と装甲で覆われた手をカチカチ鳴らす姿も実に手慣れている。
その気になればいつでもお前を貫くと発せられる殺気と態度が語っていた。
(マシュが裏切った……だけじゃなさそうだな。ここは刺激しないように探りを入れるか)
「マスターってのは藤丸じゃないのか」
「はい、私のマスターはもう先輩ではありません。彼……いいえ彼女も今は私と同じマスターに仕える眷属の1人です」
「……一体何があったんだ」
その先を知りたくて切り込んだが、やはりバカにした笑みでマシュは笑うだけだった。
「知ってどうするんですか?
サーヴァントもいない貴方ごときに何ができると」
「……ずいぶん変わったな。前はもっと違ってただろ」
「ああ、あの頃は仕方ありません。本当のオスも主人も知らなかったんですから。
こうして生まれ変わった今、ご主人様以外の雑魚オスに気なんか使う必要を感じません。特に先輩にも劣るあなたなんかに♡」
当然のように繰り出される罵倒。それは演技で言っているとか心を痛めながらとかの気配がまるでない。嬉々としてカドックを貶め、嘲笑うことを楽しんでいる。
カルデアにいた頃の人形みたいだった彼女の中にはこれほどの負の側面が隠れていたのか。見抜けなかった自分に歯噛みすると、さらに楽しそうに語る。
「援軍を期待しても無駄ですよ。すでにノウム・カルデアは完全に私達ロギア帝国軍の支配下になりました。サーヴァントの方々も私や騎士達で排除、召喚室制圧後には強制退去させたのでもう誰もいません。シオンさんもマリーンズの皆さんがオナホにして楽しまれていますしね。
何も知らずに気絶しているカドックさん、間抜けすぎて笑っちゃいました」
(ロギア帝国……聞いたことはないがそれが敵なのか)
「……それで。僕を捕まえてどうする気だ。殺すならいつでもできるんだろう。生まれ変わったっていうお前なら」
「……クス。まだ頭は回っているみたいですね。カドックさんの言う通り、殺すなんていつでもできます。私としては殺しても大令呪さえあれば━━」
そこで何かを感じ取ったように言葉を切るマシュ。耳元のバイザーの基部に手をやると誰かと会話を始める。
「はい
━━ふふっ、かしこまりました。はい、マスターの命令とあれば何でもいたします♡」
通信を終えたマシュはそれまでの邪悪な笑みにさらに何か別の感情を加え、座ったままの此方へ手を伸ばした。
「マスターからの指示がありました。貴方で楽しませろとのことです。ご主人様のお役に立てるなんてよかったですね」
「ッ!?」
見えない何かに引っ張られて体が彼女の足元へ引き寄せられる。さらに続けて指を振ると服が残らず切り裂かれ、裸に剥かれて彼女の足元へ投げ出された。
ひんやり冷たい床の感触が質の悪い冗談みたいな今が現実だと教えてくれる。
足を大きく横に広げて開脚の姿勢。男性器も尻の穴も全部マシュに見られてしまう恥ずかしすぎる状態。思わず隠そうとしたが体中を糸で縛られたみたいに動けなくなってしまう。
「っ……なんだ、これは……」
「説明する気はありません。
それでは……ちいさ」
股間を見た途端、露骨な軽蔑が混じった視線が性器に向けられる。取るに足らないもの、価値のないものを見る時計塔で何度も向けられた瞳だ。才能を見る目が男性としての象徴に向けられるのは結構自尊心を抉られた。
机に腰かけたまま足をぶらつかせたマシュはがっかりした表情を隠そうともせずに足を解く。
「はぁ……勃起したらもう少しは大きいですよね。きっと」
「……悪かったな」
「どうせマスターや先輩並なんて期待はしてませんから構いません。
━━それではいい声で鳴いて下さいね」
心底つまらなさそうな顔をしたかと思うとブーツのつま先でこちらの肉棒を踏みつけてきた。
「い”っ!!」
「悲鳴はまぁまぁですね」
ゴリ、ゴリリと潰れこそしないが滅茶苦茶な痛みが襲う。少しでも痛みを逃がそうと身を捩ろうとしたが見えない力に阻まれてその場で悶えるだけに終わる。
「ふふっ。なんですかそれ。潰れて死にかけの虫みたいにみっともない。
……でもいいですね、少し面白いです。ほらもっと鳴いて喚いて下さい」
「ぐっ……うぁあああ……」
呻くこちらを心配する様子は皆無。
つま先から足の裏に踏み方を変え、尚も力を込めて踏んづけてくる。
(痛っ! くっ.マシュの奴、何が目的で━━)
そこで変化が起こった。
脚とは言え刺激し続けられた肉棒。それが少しずつ勃起し、ゆっくり亀頭を上に向け始めたのだ。
当然自分の意思ではない。靴で踏まれて勃起するような性癖は持っていない。
しかし現実としてカドックのペニスは勃起し、踏まれる前よりずっと大きくなってしまう。
そして踏んでいるマシュがそれを見逃しはしない。
「クス……クスクス!! カドックさん。ちんぽ、大きくなってますよ。罵倒されるのがお気に召しましたか? それとも踏まれるのが? 私は別に勃起してもらわなくていいのですが」
「うる……さいな……! こっちだって好きで……っぐぁ”!!」
「ああ、ごめんなさい。小さすぎてつい……ふふっ♡」
睨みつけながら返事した途端に強く竿を踏まれる。
やはり痛い。
しかしこの時僅かに足の裏から伝わる刺激に痛み以外の物を感じてしまう。
(なんだ……まさかこんなことで……)
ありえない。踏まれて感じて性器を勃起させるなど魔術師以前に男としての格に関わる問題。
分かっている。分かっているのだ。
なのにブーツの固くてざらつく底の感触が竿やカリ首を撫でる度、小さくも確かな快感が生まれる。
「こんな状況で勃起するなんて本当に変態ですね」
軽蔑と嘲笑が半々くらいの視線で見下しながら踏み続けるマシュ。
短時間でこちらの反応を覚えたらしく、片足だけだったのが両足を使って踏みつけてきた。
痛みはあるが潰れる恐怖を感じない絶妙な力加減。どこか安心させられる慣れた足遣いでじわじわ性感を昂らせられる。
「まだ大きくなりますよね?
硬さはマシになりましたけど……先輩の半分もありませんよ。この雑魚ちんぽ♪」
「ぐっぅ!!」
事あるごとに持ち出される後輩の存在。マスターとしてだけじゃなく男として彼に負けていると言われるのが屈辱なのに、勝手に肉棒は勃起を強めていく。
理解が出来なかった。なぜ勃起しているのか。こんなことで興奮するなんておかしいと分かっているのに。
呼吸が早くなるほど血の巡りもよくなり、勃起も大きくなる。
強さに加えてリズム感も取り入れたマシュの足が睾丸にも伸びた。クリュっと音を立ててタマが弾んだ途端にビリビリとした快感が駆け抜ける。
「っあぅ!!」
「こっちも足で感じるんですか?
脚よりずっと気持ちいい場所なんて沢山あるのに足がいいなんて……変態ですね」
パックリ開いたハイレグスーツからおっぱいを出してむぎゅぅッと掴んで柔らかさをアピールしてきたり、あるいは股間の布を少しずらして中の隠れた秘裂をチラチラ見せつけてくる。
「見えます?
んっふぅ……このむっちりして指が沈むおっぱいも……はぁぁぁ、いつでもトロトロでちんぽハメる準備万端のおまんこも……目の前にあるのに足で感じちゃってる。どれだけ自分に低評価なんでしょう。
ふふっ、あははは!!」
嬲る言葉にもそれ以上反論は出来なかった。
勿論悔しいが勃起している事実を言い争っても仕方ない。それよりもいい気にさせておいた方がいい。
シオンもいない現状では助けも期待できないのだ。
「あーあ、先走りもこんなに垂らして……どこまでも情けない人ですね。このマゾ、ドマゾ♡」
「……勝手に言ってればいい」
グチュグチュとした水っぽい音が加わる。亀頭から漏れ出た先走りも愉しげに笑って踏みつける靴底が汚汁で汚れても気にしないらしい。
少し頬を紅潮させ、時折体を震わせているのは踏みつける行為に興奮しているみたい。
同時に刺激に慣れてきた肉棒もいよいよ快楽のみを感じるようになり、彼女の足を思わず目で追う。
「クスクス。そんなにじっと見て、本当に気持ちいいんですね。どこまでも下等なオスらしい低俗さです」
「ッ……」
「あ♡またちんぽ震えましたよ。罵倒されるのもやっぱりお気に入り。もうすぐ射精しそうなんじゃないですか?」
「だ、誰が!!」
思わずその言葉だけは否定。
勃起までは生理現象と言えても射精までしたら、それこそ男として大事なものを本当に失ってしまう気がした。
しかし何を言おうが今のマシュが止めてくれるはずもない。
「嫌がっても喚くだけで拘束も解けない……本当に情けない人です。みっともなく射精しましょう?
自分がゴミオスだと分からせてあげますね」
意地悪く笑うと同時に足の動きが加速。
シュコシュコと根元から先に至るまでを丹念に踏みつけながら扱きあげられる。
「ぐっ……あっ.うっ……!」
「こんなことされて感じるなんてどこまでも惨め。男なら拘束を解いて私を犯すくらいの強さを見せてほしいです。よくアナスタシアさんもあなたのサーヴァントで満足できたものです」
「な……どういう……意味だ?」
唐突に出てくる大切な人の名前。なぜこんな尊厳を冒す場に彼女の名前が出てくるのか。
理解できずに見返すと本当に驚いたって感じで目を丸くした。
「え.まさかセックスしなかったんですか?
あんなに親密だったんで娯楽もないロシアなんて異聞帯、いつだってやれましたよね」
「……するわけないだろ。僕は彼女に支えられていただけの外れのマスターだ。彼女を信頼しても、性欲を向けるような関係じゃない」
カドック、と短く名を呼ぶ声が聞こえた気がした。こんな自分を信じ、道を託してくれた彼女。今でも大切な人だとその最期を思い出せる。
沢山の感情を彼女に抱いてはいたが性欲なんて抱く余裕はなかった。
しかし言葉にした感想を聞くとマシュはまた不快そうに顔を歪め、足に込める力を強めてきた。
「がっ!?」
「はぁ……なんですかそれ」
「なん……だと……あぐっ!」
ぐりり、グリリと回転も加えながら扱きあげられる肉棒。
回数を重ねるごとに性感は強くなり、徐々に徐々にタマタマからこみ上げる熱い衝動の近づき。
思い通りにされてたまるかと必死に奥歯を噛みしめ、震えながら耐える。
「がっかりです。素敵なメスを屈服させるのが強いオスの魅力なのに。マスターも先輩もきっと彼女を抱いてメスにして従えていましたよ。氷の表情を浮かべる彼女も絶対勝てるわけないですから。
……それなのに手も出さずに信頼とかカッコつけて……男らしさの欠片もないゴミのような考え、すごく気持ち悪いです。
━━ええ。気持ち悪いので……もう男、辞めてしまいましょうか。よろしいでしょうか、マスター?」
踏みつけを続けながらまた通信を始めるマシュ。例のマスターとやらに何事かを伝え、こちらに向けるのとは別物のうっとりした笑みで相手の声を聞いている。
それがまた、謎の敵への劣等感を煽られるようで辛く、同時に踏まれる肉棒がピクピク動いてしまう。
「はい、お慕いしています。大切な大切な……
━━よかったですねカドックさん。足で感じて勃起する無様な貴方をマスターも気に入られました。
褒美として命は奪わないと。その代わり……私達と同じように陛下に仕えるメスになっていただきますね♡」
「なんだと……っあ!?」
笑いながら掲げた彼女の掌に眼球のついた植物の種みたいなものが出現。見せつけるようにふらふら動かした後、こちらの下腹部……へその下にぽとっと落ちた。
それは心臓のように独自の鼓動を持っていた。トクトクと生きているらしいそれが触手を生やし、触れた肌へと差し込んでくる。
「っあああああ!?」
痛みはない。しかし何かが触れ、そして潜り込む強烈な異物感。皮膚を貫通し、神経に染み込み、血管に溶け、肉も骨も全ての中へ侵蝕し一体になってくる。
「何かが入って……っぐぅ!」
「それはギルツシード。マスターが使う怪人を生み出す道具です。ただこのままだとどんな怪人になるか分からないので━━」
また彼女が手を動かすとその肩についていた結晶体付パーツが分離。空中を浮遊したかと思うと大型化、カドックの頭に張り付いてきた。最初に見た彼女のように結晶体が顔の前に展開し、残りのパーツがバイザー上に頭を拘束。内部からいくつも機械的な触手が生えて耳の中や鼻、目といった部分をカバー状の特殊パーツが覆ってくる。
「なっ!?」
「思考をコントロールします。ジェリシギルさんから与えていただいた怪人化選別機能なんですよ。
どういうものかは……実際に体験したいですよね♡」
「誰がっ……ぅあっ! やめろ!」
━━洗脳誘導 開始シマス━━
ブゥゥゥンという低い音と一緒に頭部の装置が起動。訝しむ間もなく次の変化が。
顔を負った装置の中に映像が投影。見たことの無い金髪碧眼をした一人の男がこちらを見ている。
『オレのものになれ』
口が動き、聞こえてきた声を聞いた途端に機械が動作。勝手に心臓が鼓動を早くし、まるで大切な人を見たような心地に。
そう、かつて支えて皇帝にしようとしたあの獣国の皇女を見ているような気持ち。
(違う……こいつはアナスタシアじゃない……なのに彼女と話しているように……いやそれ以上に……大切な……呑まれるな。しっかりしない━━っあ!!)
━━心的再現開始 対象個体アナスタシア━━
━━感情動作グラフ 基準値デ進行━━
「ふふっ、そのお方が貴方のあたらしいご主人様、ナイオーロ様です。貴方どころか先輩も勝てない素敵な快楽を下さる御方なんですよ。その奴隷になれる……素晴らしいとは思いませんか?」
「そんなもの……なってたまるか……っ!?」
━━感情操作開始━━
『お前はオレの奴隷だ』
声が響く。
耳じゃなく体に。そして全身にまで行き届くように染み込んでくる。
声に従いたい。声の言うことは真実だと心まで書き換えられるよう。
顔も見たことの無い男に頭を垂れたい。従属したい気持ちが勝手に生み出される。
『女になるのがお前の喜びだ。奴隷として女としてオレに屈しろ。主人はオレだ』
「うぐぅぅぁぁぁぁ……あっ、うわぁぁあ!!?」
声に合わせて足コキも続行。
囁き声に快楽を覚えてしまうような絶妙のバランスでなおも扱き続けられる。
女の子にペニスを踏まれる自分、それで気持ちよくなっている自分は男なんかではないと頭に声が入り込んでくる。
「貴方は男なんかじゃないんです。ただのメス、強いオスに隷従するのが本当の幸せ。
まんこ以外で射精したがるゴミちんぽなんて捨てましょう」
「っ……やめっ……いま扱かれたら……!!」
「ほーらぴゅっぴゅしましょうねー。惨めに敗北射精してご主人様のメスに堕ちて下さい。
あなたにとってご主人様は大切な人。頭も馴染んできているはずですよ」
手の動きが続くほどに頭から違和感が消えていく。
抵抗する気持ちが沈静化していき、代わりに声に身を委ねたくなる想いが強くなり続ける。
「気持ちいいでしょう?
私にちんぽ踏まれて気持ちよくなっている理由……それは女になりたがっているからです。男の自分に自信がないから捨てたいのが本心。本当は男の自分が嫌いだったんですよ貴方は」
「そん、な……わけが……あぁっ!!」
勝手なことを言われても肉棒から流れ込む快感は思考を許してくれない。
ギルツシードが付けられて以降、踏まれて感じる快感も増大していっている。足コキも罵倒も勃起を固くするスパイスの一つ。
荒れ狂う濁流にのまれたみたいに押し寄せる快感が正気を奪い、興奮と射精感だけが際限なく高められる。
ブーツの下で見たこともないほど亀頭を腫らしているペニスが感じている快楽を高らかに示していた。
「ほらまた固くなってます。踏まれてギンギンなちんぽ、こんなのつけてる貴方が男のはずないじゃないですか」
(男じゃ……ない……?)
マシュからそっと投げかけられる声。正常なら妄言と切り捨てるそれが僅かに心に引っかかる。
彼女の言葉を無視できない。一理あるかも。正しいかもしれない。それが本質かも……体を襲い続ける快楽の波に呑まれ思考が少しずつ誘導される。
感じていたはずの違和は迷いに、迷いは確信に。
はめられたバイザーにより、自我が変えられていくことに気づけないまま悶え続ける。
そして、
━━願望誘導開始━━
『お前はオレの女だ』
「おん……な.?」
一層強く心が揺れる。キュィイインとディスクが回るような音がして頭の中がさらに声が入ってくる。
自分は男。でも本当に?
足で踏まれて気持ちよくなり続け、カルデアの危機にも何もできず、アナスタシアも助けられなかった自分が?
生まれた疑念は膨らみ、自意識を圧迫し、己の存在すら不確かなものに変えていく。
『お前はオレの女だ』
ダメ押しのように囁かれるナイオーロの声がとても正しく、拠り所になるような気持ち。
彼に隷属することこそが正しく、これまでの全てはその為にあったと思考が塗り替えられる。
「僕は……お前に……なんて……」
「クスクス……自分で見えてないからって酷い顔してますよ。涎ダラダラで舌を突き出したいやらしいメス顔♡負けたいですって本当は思ってますよね」
「あぅ!!」
力を込めて強く踏まれた途端、信じられない程高い声が出た。無理やり搾り出したのとは違う、自然に流れるような女の声。
理解するとさらに肉棒が興奮した様に大きさを増した。
「はぁ……! はぁ……! 今の声は、僕が……それになぜ……男性器が」
「ギルツシードは欲望を具現化します。女になることを望むよう誘導した貴方の体は女に近づいた自分に興奮しているんですよ。ふふっ、お似合いな惨めさです。このまま射精すれば完璧に女の子になれますよ」
「っあ! あふぅ! や、めっ! ま、マシュっ!!」
扱きが早まる。
マシュの射精すれば女の子になれると聞いたせいなのか、肉棒から流れる快感がさらに増えた。早く射精したい。もっと気持ちよくなって女になりたいとカドック自身が望んでいるみたいに。
(違う……違う!! そんなこと望んでなんか━━)
━━欲望最適化開始━━
『いいや、それがお前の望みだ。女となり、オレに従え。そうすればこのちんぽで愛してやるぞ』
「あっ……」
男が来ていたローブをはだけ、中にあったちんぽをさらけ出す。
それを見た瞬間、カドックの中で何かが終わった。
(大きい……すごく……僕の倍以上……なんでこんな……他人の男性器から目が……)
大きさも太さも自分のそれよりずっと大きい。例えこの先何年生きても決して届かないと分かるオスとしての格の違いが明瞭に示される。
同時に肉体も変化が発生。胸が少しずつ膨らみ始め、銀髪は落ち着きを見せだし。喉仏は引っ込んで、手足が丸みを帯びだし……明確に女の体へ近づくのが分かる。
だが今度は驚きより納得が強かった。
この男の前では自分なんて取るに足らない。女になって屈服するしかないのだと。
受け入れてはいない。しかしその絶望的な感情を見ない振りが出来ないのがカドック。
そして女になるしかないと見せつけられ、またバイザーから流れ込む力が心を変えていく。
『女になれ』
「女の子になりましょう」
(女になれば……なれ、ば……)
誘導されたものでもその欲望のありかはカドックの中。体にはギルツシードの触手が少しずつ入り込み、女らしい体つきに変化。
こみ上げていく射精感。
足コキと肉体変化の快感は際限なく高まっていき、肉棒の中に溜まったドロドロと煮詰まった欲望の塊が今にも飛び出そうと破裂寸前。
「そろそろ射精しそうですね。先走りも沢山で体も女の子に近づいて……ふふっ、これならすぐご主人様に抱いていただけそうです」
ラストスパートだと掛けられる力がさらに強く。
それでも快感だけが高まっていき……最後の声がバイザーから響いた。
『お前はオレのものだ』
「あっ……うっ、ぁあああああ!!!」
所有物として宣言された瞬間、感じたことの無い幸福感が弾ける。
その肉棒に貫かれ、膣に精子をドクドク流し込まれる映像と感覚がバイザーから流れ込んで脳に焼き付く。あまりの快感で心も体も消えていってしまいそうなほど。
そして声の主に女として、奴隷として永遠に可愛がってもらいたい欲望が完全に自分の心へ具現化。同時に欲望を満たそうと肉体が変化し、踏みつけられた肉棒がビクッと跳ねる。
「イキなさいカドックさん……いいえカドック。ザコ精子ビュルビュル噴き出して男として終わってしまいなさい!!」
「っぁ……射精る……射精るっ!!!!!」
マシュの命令と共に射精感が爆発。
肉棒からこれも未経験な果てしない快感を乗せてザーメンが噴き出す。いつもはサラサラとして薄いのに、今噴き出るそれはゼリーの様に濃厚。
尿道を膨らませて迸るザーメンの流れがあまりに気持ちよすぎる。
踏まれ、罵倒され、女に改造されながらカドックは絶頂してしまった。
そしてギルツシードは完全に下腹部へ融合。♡を歪めたような淫紋へ変化すると同時、侵食されていた違和感そのものも消え去る。
(なんだこれ……この射精……溶ける……僕の心が……精液に溶けて……流れ出て……ああでも……気持ちいい……)
その射精は本当に気持ちよかった。
自分のという存在が消えていくことに恐れを抱いても、どうにかしようという気持ちが湧かないくらい。
身も心も女のそれに変えられる。
これまで大切にしてきた多くが薄れ、代わりに心の中へ例の男が存在を強めていく。
「ふふっ、女性になったカドック。とてもきれいな顔です。やっぱり貴方は男じゃなかったんですよ。帝都に戻ったらジェリシギルさんと改造してあげますから楽しみにしていてください」
笑いながらマシュが手を動かすとバイザーが再度起動。
カメラ映像が反転し、覆われているカドックの顔が自分で見えるように。
そこにあったのはもうカドックが生まれてからずっと付き合ってきた顔ではなかった。
(これが……僕か……)
銀髪は長さをそのまま跳ねが収まったショートヘア。目元のクマはそのままだが彫りの深い顔立ちと切れ長の瞳をした美人。
思わず美しいと思うと、同じく変異して作り上げられた股間の秘裂がジュクリと疼いた。
(全く最悪だ……なのにこの顔と体を好ましく……そしてナイオーロ様を思ってしまうってことは……僕も終わったってことだろうな)
━━洗脳完了━━
不意に襲ってきた眠気に誘われ、カドックは女としての体で初の眠りに落ちるのだった。
◇
カドックが眠ったのを見届け、マシュは再び主へ通信を送る。
女になった彼女は中々見た目がいい。ロシア系の顔立ちもあるが胸もそこそこだし、調整すればリカエルと同じように泥臭く主の為に尽くすいい奴隷になりそう。
「いかがでしたかマスター。それなりに面白い見世物となったでしょうか?」
『ああ。最後のマスターが情けなく女に堕ちながら射精する様はいい余興だった。そいつもリカエルと同じく優秀って話だしな。連れ帰ってからじっくり改造してやれ。
なんなら
「クス……そうですね。カドックをアナスタシアさんのような姿にするのも面白そうです」
まだまだ楽しみは尽きない。主の考え付くあらゆる淫乱で恐ろしい考えには自分が一生かかっても追いつけないと思う。
『だがまずは仕事だ。予定通り、ノウム・カルデアのサーヴァントは全騎排除したな?
シャーロック・ホームズも』
「はい。一番厄介でしたので管制室に入ると同時に首を刎ね、霊核も砕きました」
彼が愛用していたパイプを手元で弄びながら思い出す。
管制室への突入と同時に改造された盾を手に飛び込んだマシュ。逃がすと何をされるか分からないホームズは最初から最優先攻撃目標だった。
目が合った一瞬でこちらに何が起き、見抜いたのだと思う。首を刎ねる直前に浮かべた顔は自分の無力さを嘆く表情。そして最期の言葉は「すまない」だった。
(さようならホームズさん。マスターのサーヴァントとなった後でもあなたのことは尊敬していました)
僅かに感傷に浸った後にパイプを握りつぶす。まだこんな余計な回路が残っていたのが意外。もう必要ないから後で消しておこう。
『よし、術式を始める。お前はそちらで不審な行動を起こす奴がいないか注意しておけ』
「かしこまりました。では任務に戻ります」
バイザーの結晶体が展開され、再びその顔の鼻から上が完全に覆い隠される。
もうそこに人間的な表情は一切なかった。
◇
再演 星を灼く炎
━━同帝城 玉座の間━━
淫魔や捕虜でごった返したこともあるこの部屋も今日はほとんど人影がない。
椅子に腰かける王ナイオーロ。
そして彼の見つめる先にはかつての冬の女王に似た淫魔装束を着て平伏するモルガン・リリィ・オルタ。
「時は来た」
頬杖をつきながら落ち着きの下に興奮を宿した声。彼の言葉でモルガンも三つ指をついて伏せていた顔を主の声と共に起こし、ゆっくり立ち上がる。
「我が主、では━━」
「ああ始めろ」
会話の内容は酷く短い。今は愛される時間でも、褒美をねだる時間でもないから当然。
モルガンに任された役割はかなり大きく、難易度は生前も含めて初めての規模。
それでも主の信頼を裏切らない為に彼女は杖を掲げた。
「━━術式起動」
◇
モルガンが杖を掲げたと同時、帝城から空へと光が伸びる。異聞帯を覆う嵐の壁に接触すると7枚の巨大な魔法陣を形成。それぞれに違った意匠が組み込まれており、見る者もほとんどはそれの意味どころか存在さえ理解できない。
帝都の民は皇帝が何かをしようとしていることを悟って静かにその場へ座って祈り、城の守りを任された最低限の数の騎士達は静かに剣を掲げて忠義を示した。
正体はモルガンの手により作り出された超巨大な魔術制御用術式。
これから起こる大偉業━━それを操るためのものだ。
「始まったぞ。アズエル、特にお前は気を抜くなよ」
「分かってるわよ姉さん。ったく、待たせすぎなのよ」
「後は敵が想定通りに消えてくれれば問題ないがな」
「姉様達の足を引っ張らないよう、私達も気をつけなければなりませんわよ」
「うふふ。そんなに緊張しなくていいの。モルガンもきっとやり遂げてくれるわ」
「ちぇっ……ママに期待されやがってモルガンの奴。私だって……」
「問題なければすぐに終わるんだからじっとしてればいい、バーヴァン・シー。私だってお城で旦那様とアナルエッチしたいんだから」
声が7つ。
それぞれの任された空想樹レプリカの根元で7人の淫魔達が流れる魔力をコントロールし続けている。
オロチ、ソンブレロ、メイオール、スパイラル、マゼラン、セイファート、そしてもう一本。
大地に堂々とその姿を見せつける7本の樹は上空の術式に合わせて肥大化。大きく、そして高く枝葉を伸ばして広がり始める。
やがて拡大が一定の域に達すると今度は表面に亀裂が発生。
カルデアが到着した時は空虚だったはずの内部にはかつてのメイオールやスパイラルのように無限の星を湛えて輝きを放っている。
これで空想樹はいずれも開花を迎えた状態。
しかし、これは終わりではなく始まり。
天へ枝を伸ばした空想樹たち。その枝の一端が魔法陣に触れると接続され、大地から魔力を吸い上げるようにして力が陣へと吸われていく。
流れる力の色はいずれも空想樹の外見に合致した色合い。
吸われた力は陣に宿り、光の塊になってある程度の量を溜めると陣の周囲をグルグル旋廻し始める。
その数は1つ2つでは収まらない。何十、何百、何千と次々に光が引き延ばされ、魔方陣が光に囲まれて太陽のような眩い光を放ち始める。
対照的に陣の中心はどんどん光を失って暗く落ち窪み、それは空に光の輪が作る大穴が空いたよう。
かつてのカルデア職員がもし生きていてその光景を見れば驚いたことだろう。
それはあの魔神王ゲーティアが星を焼き払った光帯に酷似していたのだから。
「魔術王……いや正しく呼ぶなら魔神王。確かにそれなりに難しい技だ。指輪なしで御するなどそうできるものでもない。
━━私以外なら」
モルガンは杖で流れるその膨大な魔力をコントロールし続ける。
当然彼女にも楽な仕事ではないが処理の一部をメイオールの権能である聖駆に肩代わりさせることで処理能力を上げている。
指輪なしでもこれならば予定通り使えそうだ。
異星の神『U-オルガマリー』を南米異聞帯ごと消し去るために。
「さて魔術王よ。生前私の魔術を褒めた礼だ。貴様に敬意を払って同じ名で使ってやろう。
仮想第3宝具、再展開。【
モルガンの振るった杖の元、極光となった光が光帯より迸り南米異聞帯へと宙を駆けた。
一本の熱量がエクスカリバーに匹敵する帯をまとめた槍となって飛ぶ光。嵐の壁を抜けたその光は正確に南米へ向かい……大爆発と共に着弾した。
◇
空想樹を使ったゲーティアの宝具再現。それは言うほど簡単なことではない。
そもそもただ魔力があったから出来たものではなく、あれは人類史を2016年に至るまで燃やして作ったもの。ただ闇雲に魔力を溜めていても魔力タンクになるだけでモルガンでも実行は不可能。
しかし、空想樹には特殊な機能がある。
オリュンポスでオフェリア・ファムルソローネが語ったように異聞帯の歴史は本来滅びた時点から、西暦2017年に相当する年数分の歴史を空想樹がシミュレートすることによって再現していた。
つまり空想樹の中身にはそれぞれの異聞帯の歴史が蓄積されていると考えられる。しかもありえたかもしれない人類史と呼ばれる通り、分岐点より前は汎人類史と変わらない。
このような考えの元、ナイオーロを始めとする帝国はソラエルに空想樹の残骸や枝葉を収集させた。培養し、環境を再現し、日本を世界地図に見立てた概念論の元に正確に異聞帯の中へ配置することでレプリカの空想樹に伐採された異聞帯のオリジナルと同じように歴史をシミュレートさせようと試みたわけである。
その結果、操作こそ至難であるものの空想樹はいずれも大地に根付き、ロシア、北欧、中国、インド、ギリシャ、ブリテン、南米の歴史を内部に計算。
カルデアを各地で襲ったかつての異聞帯の敵たち━━ヤガ、巨人、多多益善号、カリ、アトランティス艦隊、モース……彼らが使役されていたのは既にそれらの異聞帯の歴史を正確に再現することが出来ていた証だったのである。
◇
(さてこれで死んでくれるとありがたいが)
命中を確認したとの報告を観測班から受けてもナイオーロは油断しなかった。現地にはあちらも壁が展開されており、そこへの命中を確認したがそれ以上は不明。現地には爆発が広がってまだ状況が見えないとの連絡だった。
完全に消えたことを確認するまで安心はできない。
案の定、しばらくして観測班からの悲鳴のような声が届く。
『へ、陛下!! 南米異聞帯は健在!! 異星の神もまた同様かと!!』
「チッ。落ち着け━━だがしかしそう簡単に死んじゃくれねえか」
送られてきた映像を見ると壁は貫かれて内部の密林地帯が露出。望遠で見ているこの状態でも形が分かる巨大生物まで闊歩している様子。
あんなものが繁栄する歴史なんてカルローンでなくてもおぞましい。
さらに映像の1点から観測魔術を貫通して視線を感じ取る。
「ほう、オレが見えているか」
角があること以外はただのロングヘア―の女にしか見えないそいつ。
異星の神U-オルガマリーがこちらを睨んでいた。
今ので敵対していると知られただろう。すぐにこちらへお返しをしてくるはず。
だがこれで殺しきれないこともまた想定の範囲内。
通信を切り替え、新しい部下に指示を飛ばす。
「モルガン、予定通りだ。計画を討伐から封印に変更する。
━━ダ・ヴィンチ」
『はいはーい。こちらダ・ヴィンチちゃんさ。君の素敵な声もバッチリ聞こえてるよナイオーロ君』
「見ていたなら分かるな。
異星の神は滅びなかった。第2プランの出番だ」
「オッケー。こっちも本命の用意終わってるから実行可能さ!」
◇
人理継続保障機関フィニス・カルデア。
100年後の地球が存在し続けることを保障し続ける国連機関。事象記録電脳魔・ラプラス、地球環境モデル・カルデアス、近未来観測レンズ・シバ、霊子演算装置・トリスメギストスと多数の発明品を備えた施設。
その本拠地は南極大陸の山脈に隠されており、攻撃的な存在でもない為におよそ外敵と呼べるものの脅威に晒されたことはほとんどなかった。
しかし2017年12月31日、殺戮猟兵とアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァを主としたクリプター勢力により襲撃され、多数の犠牲者と共に発明品の全機能が凍結封印。
惨劇に見舞われたこの場所は同日を以て閉館。
以降、殺戮猟兵を指揮したイヴァン雷帝もロシア異聞帯にて散り、異星の神勢力も破壊できた為に手を出さず、カルデアも回り道をする余裕はないことから放っておかれていた。
風雪に晒され続けるこの場所を訪れるものはもはや誰もいない━━はずだった。
西暦2018年12月31日。
ちょうど惨劇より一年を迎えた人がいなくなったはずのカルデアには人が集まっていた。壊れた施設の通路を忙しく行きかう人々。照明も煌々とついて在りし日が再現されたような状態だった。
もちろんいるのは騎士とクローンズを始めとするロギア帝国の勢力である。
そして彼らをまとめているのが、
「カルデアスとシバのシステムを同期させて! シバの観測時間は現在に設定! 帝国時間と間違えないでよ!」
「マリーンズもきびきび動く! 後で
「アイ・サー!!」
ダ・ヴィンチ・オルタ、そしてネモ・ポセイドンである。
現在時刻は午後9時。
ノウム・カルデアに到着して襲撃開始が午前0時で制圧完了したのが午前5時。その後移動してこの旧カルデアに到着したのが午前9時だったので既に12時間も経ってしまっている。
とはいえ凍結されていた全システムを再び稼働できる状態に直したのだ。12時間で出来たことを褒めてほしいとダ・ヴィンチは思う。
もちろん、これが出来ると思われたから主に任されたと分かっているので期待に応えられてとても嬉しいのだが、それはそれと女心は複雑なのである。
コンソールパネルを叩き、先代の自分の遺したデータを元に再起動を仕掛けていく。
「カルデアスの再現状況良好、シバの観測も問題なし、トリスメギストスも南米異聞帯のカルデアス一体化演算シミュレート完了……現在の地球を完璧にモデルの中へ取り込んだよ」
「陛下、こちらはこれでいける。予備電力もクローンズの核を接続しているから数日でも続けられる。遠慮なく始めてほしい」
『ああ分かった。よくやったなお前達。戻ってきたらリカエルと一緒に可愛がってやるよ』
「「♡!!」」
言葉にせずともそれぞれまんことアナルを疼かせ、主のくれる褒美を期待して表情を蕩かせた。
◇
問題なく予備プランが始められることを確認したナイオーロは再びモルガンに命じる。
「用意はできた。やれモルガン。今度こそ忌々しいあのデカブツ……奴の存在諸共に消し去ってしまえ」
「心得ました。全ては主の望みのままに」
再び呪文を詠唱後、モルガンが杖を掲げる。
いくつもの複雑怪奇な紋様が地面も空中も問わず作り出され、7つの空想樹レプリカから集められた魔力が編みこまれていく。
先ほど撃ったものは攻撃用。用途を切り替えて再度発射。
今にも南米から出てきそうだったオルガマリーを逆に押し返し、嵐の壁を境界にして中へと捕らえてしまう。
同時刻、カルデアスとシバで地球の状態を見守っていたダ・ヴィンチたちも動き出す。天体モデルであるカルデアスのデータをモルガンへ送信。彼女に攻撃座標の正確な形と立地を共有させる。
すると上空から降り注いでいた光帯が変化。
押し寄せるばかりだったそれは花が咲くように衝突面から枝分かれし、壁にそって境界面へと降り注ぐ。
やがて大地と海に突き刺さったそれは地球の中へと潜行。
およそ普通ではありえない程の巨大な光の檻を作り出すと、南米異聞帯そのものを中へと封じ込める。
内部で巨大なブラックホールを発動させようと魔力行使をオルガマリーも始めるが、質はともかく量で圧倒的に帝国側の方が上。7つの星の歴史を燃料にした大魔術、神といえども簡単には打ち崩せない。
動けない間に続けて新しい魔術を起動。
檻で封じ込めた異聞帯を空間ごと観測して同一化している地球であるカルデアスに投影・封印を試みる。勿論モルガン側にかなりの負担。ナイオーロと蓄積されていた魔力を総動員してコントロールするのも必死。
しかしやはり出力ではロギア帝国に軍配が上がる。
小さなカルデアスへの封印を実行し、カルデアスそのものを『誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの』の光で覆ってしまう。
それでもなお内部から衝撃を走らせ、外へと出ようとする異星の神。
しかし時は遅きに失した。
カルデアスそのものを転移させ、空想樹モンスターの元へ。
海の上で待ち構えていたソラエルが鎌を振り上げる。
「こういう時のためのボクなんだよね!!
宝具━━【
海面に鎌を突き刺すと広がり始める黒い泥の海。
ごぽごぽ、ドプドプと広がっていく海が破裂寸前に膨らんだカルデアスを内部に取り込んでいく。
飛び出そうと内部から空間を割りそうな衝撃が走る。それでも檻は砕かれず、中に神を捕らえ続ける。
そして底が浸かり、中ほどまで闇に呑み込まれ……やがて完全に消え失せる。
ソラエルの宝具である沼は無数の世界に繋がっており、そこから平行世界の自分を呼び出すのがもう一つの宝具である【
しかし逆にくぐることで別世界に行くこともでき、ソラエルがソアラやソーマやεと交流したのもこの力。
つまるところ、相手を無理やり放り込んで別世界に送ってしまうことも出来た。
こうして異星の神は南米異聞帯ごと別世界へと放逐され、ロギア帝国側が一時的な安寧を得ることに成功した。
◇
空想開花、そして
神が消えたのを見届けたリカエルは自分の心に何のゆらぎもないことを確認。
一応前の知り合いと同じ外見をした彼女に何か思うかと身構えていたが、心配しすぎだったらしい。
空にできていた魔方陣も消え、空想樹レプリカ達から放出されていた力も収まっていく。あれほど恐ろしい存在だったはずの神さえ一蹴とは……自分達がどれほど無謀に戦いを挑むつもりだったのかと恐ろしくなる限り。
「いやー終わった終わった!! お邪魔虫も意外とあっけないもんだね」
大規模宝具を展開して異星の神をどこかの宇宙へ葬った後とは思えない呑気な声。同じ淫魔になった後でもあらためてこの人変わってるなと思う。
なんというか、見た目のほほんとしてるわりに大物というのか。
じーっと顔を見ていたら何を思ったのかにっこり笑って飛びついてきた。
「ほらほらリっちゃん! ボクだけ活躍したからって拗ねないの。ここからはキミの出番なんだから」
「うわぁっ!? も、もう! それは分かってるって……うん、始めるね」
遥か天へと聳えるモンスターに手を伸ばす。既に淫紋と因子を通じ繋がっている私達に距離は関係ない。
こうしてお互いを見るだけで何をしたいか、相手に伝わるのだ。
意思を受け取ったモンスターが起動。
光帯を発生させた空想樹に倣い、亀裂が発生して内部を露出。既に中身は全部私の中に入ってしまったので黒い空洞が広がるばかり。
「やろうか、モンスター。私達のご主人様のために」
ウォォオオオオとどこかから地鳴りともうなり声ともつかない音が聞こえた。
あるいは樹の意思の返答かもしれないその音と共に、モンスターは桜色の輝きを深くして枝を伸ばしていく。
そして領域が広がるにつれ、嵐の壁も広がっていく。
このままいくだけでも領域は拡張され、世界に日本異聞帯が出来上がるだろう。
だがそれは望んでいるゴールじゃない。
(……ナイオーロ様)
リカエルも心に思い描く。自分を救ってくれた人、誰より愛おしい主人。
淫紋を通じて彼に繋がり、その心に触れる。
彼の世界を作る。彼が統べるための世界を。
(望みを叶えてモンスター。あなたなら出来るはず……私の、元の生活に戻りたかったあの思いをナイオーロ様の世界を作るために)
かつての自分にとって一番大切だったもの。
誰にも脅かされることのない普通の生活に戻ること。
そんなもうどうでもいい気持ちをわざと思い出し、ナイオーロの記憶をもとに世界を作り変える薪としてモンスターに宿す。
そう、これが私の役目の一つ。
汎人類史に生まれて大地の記憶と縁を持ちながら、主のためにその全てを切り捨てる存在。
マシュも候補だったらしいが元々の世界との繋がりが薄すぎたため、特異点攻略の絆では不足だったらしい。他のスタッフや所長はある程度覚悟が固まっていて、元の世界へ戻る願いを切り捨てられる大人だからダメ。
私だけだった。巻き込まれた側で元の世界への未練を捨てられず、また特異点で多くの世界を知って大地と縁を結んでいた。
その私の元の世界へ戻りたい思いを使えば汎人類史復活さえできるかもとお姉ちゃんには聞いた。
(……でもいらない。もう元の世界なんていらない。私に必要なのは━━)
「ふぇ? どうかしたのリっちゃん。ボクの顔見ちゃって。あー、さてはお姉ちゃんが可愛すぎて見惚れちゃったなー? このこのー」
「はいはい、笑わせないで」
「当たり強くない!?
……もう! お固いんだから。妹なんだからお姉ちゃんのこと好き好き~って言っていいんだよ」
「ベッドの中で気絶するまで言ってあげるわ」
(私に必要なのはご主人様とお姉ちゃんたちだもの)
良かったと心底思う。
この役割を与えられて。主の世界を作り出す大役を任される運命で。
本当の意味で私のこれまでの人生はナイオーロ様に捧げる為だけにあったと思うと、幸せすぎてイってしまいそうだった。
そして願いが届いたのか、嵐の壁との境界面が徐々に変質。
大地と海に魔力が宿り始め、世界が作り変えられていく。
モンスターの感覚を通じ、その光景を自分の目で見るように知覚できる。
人が消え、建物が消え、奇妙なモザイクみたいな残骸だけが残る白紙化地球。
その表面を日本から発した嵐の壁が通ることで書き換わるのだ。
かつての地球とはまるで違う星に。
山や海も形を変え、大陸さえも形を変えられる。
揺らがないのはモンスターに守護されたこの日本異聞帯のみ。彷徨海も旧カルデアもネモが乗員を回収した後に消え去っているはず。
そしてじりじりとしつつも広がる境界はその輪を広げ、やがて地球全体に広がっていった。
◇
沈黙を越えた世界。
藤丸ことリカエルが元の世界を捧げて出来上がった世界。
それこそがナイオーロやロギア帝国の目的であり、それは達成された。
「クク……フハハハハハ!!! 今度こそ! 今度こそだ!! 今度こそこの手でこの世界、オレのものにしてやるよ!!」
主人たるナイオーロの笑い声が帝城から世界へ轟く。
そこは森に人が立ち入れず、海を行く船は帆船で、空には竜が飛ぶ世界。
神代に近くも地球とはまるで異なる歴史を辿った異世界。
つまり、
「この世界━━カルローンをな!!」
異世界カルローンの地球を生贄とした復活である。
◇
淫霊召喚
そしてもう一つ、リカエルに任された役目があった。
カルローンとして地球が新生した翌日、ナイオーロを始めとした幹部が全員玉座の間へ集結。
モルガン、ダ・ヴィンチ、ソラエルがリカエルを取り囲み、ナイオーロとルクスリアは玉座に腰かけてその様子を見つめる。残りのメンバーはナイオーロ達の後ろに整列していた。
頃合いを見計らい、リカエルを囲む3人がそれぞれの杖や槍を地面へ突き立てる。
刺さった床に3人を起点とした円形の魔法陣が形成され、3方からリカエルを囲んだ後彼女の足元にも新しく魔法陣が描かれた。
「では始めます。貴方に仕える新しい騎士達をここに」
「許す。存分にお前のこれまでの縁、オレに捧げるがいい」
捧ぐ言葉の後、リカエルが両手を広げると下腹部の淫紋が発光。
かつての令呪に似た赤い光を放ち、魔法陣にリカエルの体から流れ出したナイオーロ因子が注入されていく。
紫色に光り出す魔法陣を囲む3人はそれぞれ調律・接続・固定を担当し、儀式が終わるまでその術が壊れないようにする役目。
もはや栄光は目の前まで来たことを確信したナイオーロが頬杖をついてクク、と笑う。
「これで帝国の戦力はより盤石になる」
「おめでとうございますナイオーロ様」
隣のルクスリアも我がことのように喜ぶのが誇らしい。
これまでに敵となった存在を含めたすべてを手に入れた。
そしてこれからは地球へ降ろしたカルローンを征服する。
今度こそこの手に世界を掴む。
そしてリカエルの行う儀式はそれを完璧にするためのもの。
見つめる中、慣れた様子でリカエルが言葉を紡ぐ。
「────告げる」
召喚術式が起動。
循環した魔力の下、魔法陣が英霊の座へと接続を開始。
「汝の身は主が下に、主が命運は汝の剣に
樹の導きに従い、人理の轍より応えよ」
ここまでは同じ。時間神殿でリカエルが使った召喚術とほぼ同じだ。
召喚に際して魔力供給は空想樹、マスターは一律でナイオーロになるように変えたくらい。
だがここからが違う。
魔法陣にナイオーロ因子が同化し、青白い光の混ざっていたソレは完全に紫色一色に染まる。
「されど汝はその眼を肉欲に濁らせ侍るべし。汝、劣情の檻に囚われし者。主はその首輪を手繰る者──」
同時にダ・ヴィンチが英霊の座へと術式を接続。
モルガンが調律することで座そのものにナイオーロ因子による侵蝕をかけた上で召喚を命じる。
そう、これは新たな帝国の兵となるサーヴァントの召喚。召喚されると同時に帝国へ忠誠を誓う淫魔の兵として呼び出されるのだ。
それもバーサーカークラスの狂化の様にランクに左右などされない。モンスターから流れ込む莫大な魔力煮物を言わせ、ティアマト神のケイオスタイドと同様の精神汚染が霊器にかかる。
絶対に裏切らない忠実かつ強力な兵を呼び出せるわけである。
(キリエライトの盾だけで足りるかと思ったが個人の縁も要るとはな。つくづくリカエルも手に入れて正解だったぜ)
もちろん以前は使えなかった手だ。マシュの盾にダ・ヴィンチの頭脳、さらに高度な魔術の才能を持つモルガンと多数の要因があって成り立っている。
偶然呼び出された彼女もこうして活用できるのだから、どこまでも運が向いているとしか思えない。
「汝、星見の言霊を纏う七天
降し、降し、狂いたまえ、帝国の守り手よ──―!」
そして召喚は成され、煙と共に魔法陣に立ったリカエルの前に次々と膝を折って英霊が召喚されていく。
大人、子供と混ざってはいるがそこにいるのは女性ばかり。
男の英霊は全く呼び出されていない。
全員がカルデアに登録された服装を淫らに歪めたような恰好でナイオーロにとろんとした瞳を向ける。
英霊に名を連ねるような強力な存在の女達。全員が自分に対し絶対の忠誠と愛情を向ける状況はナイオーロでも興奮を隠せなかった。
「ククク」
「成功ですね。これでまた可愛がる女の子が増えて嬉しいんじゃありませんか?」
「そうだな。だが一番はやはりお前だルクスリア」
「あら、嬉しいお言葉です」
やがて2人で膝をつく英霊達を見つめると1人がゆっくり顔を上げた。
最前列、鎧を捨てて胸や股間だけをわずかに隠したリリスティアに似た鎧の騎士がいる。
金髪碧眼の少年と見間違う美しい少女。
情報で知っている。特に著名で強力な英霊の1人、騎士王アルトリア・ペンドラゴン。
凛とした表情が印象的な彼女は面影を残しつつも、淫らに蕩けた瞳に赤く染めた頬を見せながら告げた。
「問いましょう。貴方が私達の━━
というわけで最終話でした。
なんか短いとか駆け足とか思うかもしれませんが、もうエロいポイントないからね。
カドックのシーンもここまで全部R-18にしてきたのに一つだけないんじゃつまらんな、って考えで入れただけですし。
空想樹擬きをわざわざ育てていたのは戦力的な意味もありましたが、今回の役割が目的でした。
歴史を仮想再現して現在までつづいたifの世界を作る空想樹なら、その中身を使ってゲーティアの宝具も再現できるだろうと。
モルガンにできるかどうかは分かりませんがブリテンでカルデアの者がなんか褒めてたし、まぁいけるかなと。彼女に出来なかったらそもそもできないし。
さて今回もけだまとんさんにファンアートを頂きました!
マシュがカドックを攻めてるシーンより一枚となります!
蔑みの目が実に良きなのでぜひご覧ください
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→https://twitter.com/kedamaton_/status/1614526063249625088?s=20&t=HKd5wEsidQp9wMYagu_beQ
次回はエピローグになります。
英霊が召喚され、地球がカルローンへ生まれ変わった世界での日常を過ごしながらエロい事してるソラエルとリカエルの姿を書こうと思ってます。
やっぱり仲良しコンビの姉妹でやってる予定。
あとサーヴァント達も暮らすようになっているので彼らの一部も登場予定です。