※この作品はR-18です。

エクスティア×FGO 異界魔導帝国ロギア・アース~堕ちた人理の希望~   作:王天君

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エクスティア×FGOシリーズ第2話です。第1話のプロローグが先にありますのでお気を付けください。
日本異聞帯突入直後、対馬島の上空にて突如敵が襲来。
ソラエルを名乗った彼女は異聞帯の王、皇帝ナイオーロから話があると言い出して・・・

※この小説はpixivに投稿している同名シリーズのハーメルン用編集版です。
pixivで投稿している分は既に完結済みです。


第1節 集う剣達と主従を蝕む淫謀

敵の名はナイオーロ

━━ロギア帝国領 対馬島上空 ストーム・ボーダー同ブリッジ━━

リリスティア・ソラエル。

やたらテンションの高い挨拶をしてストーム・ボーダーに入ってきた少女。

彼女の水着みたいなトップスや前張り一枚だけで覆った股間という露出の多い恰好に、襲撃者への警戒とは別の緊張感がブリッジを包んでいた。

マシュはあれが正装なのか悩んでいるし、新所長は情報量にパンクしているし、ネモとダ・ヴィンチはあからさまにヒいている。

 

(アレ戦闘服、なんだよな? でも防御力なさすぎじゃ……)

 

過酷な異聞帯を踏破し続けて沢山のサーヴァントと出会ってきた藤丸でも、同い年くらいのスタイル抜群なエロい格好の美少女に何も思わないほど壊れてはいなかった。

しばらく周りの反応を見ていた彼女だったが、急に胸元を押さえてまた笑いながらムニエルを指さした。

 

「えへへーボクの胸ずっと見てるよね。メガネ君のエッチ!」

「ええ、ええええ!!?? 俺!? いや見てない見てない!! まったく見てないぞ!!」

 

ムニエルに一斉に非難の視線が集まる。実際入ってきてからガン見してるのバレバレだったし仕方ない。

 

「ムニエル……君散々僕やマリーンやアストルフォを追っておいて……」

「ちょ、違う! 俺はマリーンとネモ一筋だから! 浮気しないから!」

「あ、ボクの服あげようか? キャプテン君に合うサイズ作ってあげるよ」

「言い値で買うからお願いしま━━」

「ナースー、ムニエル連れていくから頭の薬出しておいてー!」

 

ダ・ヴィンチの手でブリッジから叩きだされるムニエル。

急速に残念な空気に包まれたブリッジの中で張本人はケラケラ笑っていた。

相変わらず屈託のない笑みで笑ってくる少女。マリーン達はいい人なんじゃない? と空気が弛緩し始めているが油断はできない。

硬直していると近寄ってきていたダ・ヴィンチが隣からこっそり耳打ちしてくる。

 

(藤丸君)

(どうしたのダ・ヴィンチちゃん)

(ふざけてるけど油断しちゃダメだ。一人で敵地に乗り込んでくる時点で普通じゃない。ずっと笑ってるのも自信の表れだ)

(あそこまで馴れ馴れしいと俺も警戒するよ。彼女が異聞帯サーヴァントでいいのかな)

(立場は近いだろうけどね。ソラエルなんて英霊は聞いたことが無いし、この異聞帯限定だとすると手の内が読めなくてなお脅威だ)

 

谷間や腰回りを大胆に露出していながら、彼女の笑い方はむしろカラッとして気持ちがいい清廉なもの。汎人類史側のサーヴァントと言われても信じてしまいそうな屈託のない笑い方。

だからこそ気にかかる。彼女達にとって明確な敵であるこちらへ笑う真意が見えない。

それに忘れてはいけない。彼女こそがミサイル級の速度でこの艦を襲撃してきた敵。

交戦の意思はないと言っても油断が出来るような相手では━━

 

「内緒話なんて傷ついちゃうナー♡」

「っ!」

「先輩!!」

 

姿がかき消え、肩に手が触れたかと思えばダ・ヴィンチと反対の耳にゾッとするほど甘い声。

さらに背後から回された手が藤丸の両頬を摘まんで痛くない力で引っ張られた。

 

「へぇ~。体結構鍛えてるのにほっぺはぷにぷにだね! にゃははは!」

「は、はなひてくれ!!」

「ごめんごめん。触りっぱなしはずるいよね。ボクの柔らかおっぱいでお返し。ほら背中にむぎゅ~」

「先輩から離れてください!」

「あ、キミも触る? 女の子もいけるよ」

「結構ですから早く!!」

 

マシュの声にも動じない。しかも跳ねのけようとするとどこにそんな力があるのか離せない。

どうにもならず背中に伝わる2つのふわふわ柔らかい感触から目を背けるのに終始。密着した体からは花みたいな甘い匂いまで漂い、少年的なふるまいと女性的な体がアンバランスな魅力が心臓に悪い。

しばらくムニムニ遊んでいたがやがて満足してパッと離れるとまた笑った。

 

「キミが藤丸君、藤丸立香君ね。見た目は結構好みかなぁ。そっちがマシュ・キリエライトちゃん。

……ふふーん。いい感じの子じゃん。よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「マシュ、挨拶しなくていいから」

 

警戒していても挨拶にきちんと返すのはマシュらしいが今はそういう時じゃない。

コホンと咳払いした新所長が空気を取り戻すようにして口を開く。藤丸やマシュの前に立つようにして一歩進み出た。

 

「それでソラエルだったか。皇帝の使いできたということだが用件を聞かせてくれないか」

「いいよー。オジサンが一番偉い人で合ってるカナ?」

「ゴルドルフ・ムジークだ。階級だけなら一番偉いと言っていいだろうね」

「ゴルドルフ……ごるど……ああ! コヤンちゃんに毒を盛られた人!」

「うぐぅっ! な、中々に痛い所を突くじゃないかね君ぃ」

「あはは、ごめんね。やっと来てくれたお客様でテンション上がっちゃってて。

ちょっとふざけすぎちゃったな。ホントごめんね?」

(ちょっとか?)

 

全員が同じことを思ったはず。

ただ満足したのかようやく彼女の空気が落ち着いたものに。腰を折って大仰に一礼する姿も妙に似合う。

 

「━━あらためて名乗りをば。

旧日本国を統治するロギア帝国皇帝ナイオーロ様麾下、帝国四天王『リリスティア四姉妹』が末妹リリスティア・ソラエルと申します。以後お見知りおきを」

 

腰を折って一礼。ふざけていた言動が嘘のように丁寧になると、全身からまた甘い香りが漂い出す。

自分を誇るように歪めた口元の笑みは打って変わって男を誘惑する気配の色気あるものに。ムニエルがいたらまたつられていたんじゃないか。

 

「なんだ、ちゃんと話せるんじゃないかね。ついでにその目に毒な衣装も直してくれんか? 

未成年の健全な育成にも責任があるものだからねぇ」

「やだよ。エロい服着て注目されるの好きだもん。敬語も面倒っちいしあんまりやだなー……って今のナシナシ! 

━━失礼しました。さて皆さま。私のご主人様であるナイオーロ様はここまで到着された健闘を称え、対談を望んでおられます」

「それは私達を皇帝の元へ連れていくってことでいいの?」

「いいえ。この場で通話を繋ぎます。敵陣に招かれるのは不安だろうと陛下からの配慮です」

「わざわざ敵のトップが僕たち侵入者に話すことがあるとは思えないね。通信している間に包囲するつもりの可能性もある」

「それはどうぞお好きに推察を。ただ私の四天王の名に懸けて罠を掛けたりはしていないと宣言はしてもかまいません。

もちろん対談の答え次第で敵対の可能性はありますが」

「……よかろう繋いでくれ。ここはトップ同士、私が話そうじゃないかね」

「かしこまりました。ではしばしお待ちを」

 

即決した新所長に応じてソラエルが胸元から小さな端末を取り出すと何か操作し始める。

 

「ゴルドルフ君! なんで勝手に答えたの!」

「船長としても今のは浅慮すぎると言わせてもらうよ」

 

その間に全員で彼に詰め寄る。

いくらなんでももう少し考えるべきではないのか。それか相談してでも遅くなかったはずだ。

だが自分達がそう言っても回答は翻さず。振り返った顔も心配になるくらい青いが気丈に返してきた。

 

「あの小娘は対談に応じなかったら敵対するだろう。そうなればボーダーの損害だけが残る。ならば表面上は相手を満足させて帰ってもらうのが一番だ。シグルドに襲われた時の様にな」

「……そうか。現状の状態で言っても情報戦は相手がずっと上を行ってる。藤丸君とマシュの顔も知っていたみたいだし。少しでも安全と利益をとる方が……いやでも」

「でもそこで君が矢面に立つ必要あるのかい? 

船だけで見れば艦長の僕が話すのが自然だし、経験は藤丸も負けていない」

「そうです新所長。俺とマシュが皇帝とは話しますから」

「それが出来たら苦労せんわ! ━━藤丸とキリエライトは万が一の戦闘時に奴を艦外に放り出す用意だ。令呪を使っても構わん。

あとは船長と技術顧問は破廉恥娘から逃げる手段を考えてくれ。なに、私の華麗な交渉術で納めてしまえば不要になるがね!」

「……了解。キャプテン、高度を下げよう。万が一に備えて私もシャドウ・ボーダーを出せるようにしておくね」

「こちらも了解した。すぐエンジンに伝えて低速降下を始める。

藤丸、マシュから離れないように。ピラニアのように臆病になっていいから」

 

会話が終わったのを見計らったようにソラエルの操作した端末から映像が投影され、空中にどこかの部屋の様子が映し出された。

古く厳めしい雰囲気をした内装。最奥のステンドグラスから室内に差し込む灯りが神々しい。

そんな背景を従えながら、傲然と椅子に腰かけて頬杖をつく男が一人。

 

『ようこそオレのロギア帝国へ。ひとまず歓迎するぜ、カルデアの諸君』

 

腰まで届くような長い金髪と暗い光を湛えた青い瞳が印象的な男だった。

黒いローブとマントに所々金色のラインを入れた豪勢な服。フランス特異点で見た貴族などの服のイメージに近い。ゆったりした余裕を持たせたデザインながらどこか窮屈そうな印象なのは男の筋肉を封じ込めているようにも見えるからか。

薄く歪んだ口元の笑みはソラエルにも似ているがより貪欲で、牙を研ぎ澄ました肉食獣のようで。

 

(リンボ……いや奴よりはまともに見えるけど)

 

どこか平安京で引導を渡した外道を想起させる笑み。この時点で藤丸にとってこの男は油断できない存在に決まった。

少なくとも分かりあえる相手ではない気がする。

 

『オレの名はナイオーロ。ソラエルも言っただろうがこのロギア帝国を支配する皇帝だ。お前達風に言うなら異聞帯の王って奴だな。それでオレと話すのは━━』

「人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長、ゴルドルフ・ムジークだ。陛下と呼べばよろしいか?」

『クク、初手から下手に出るとは分かってるらしいな。

ああ、敬語は止めていいぞ。性に合わない喋り方されても疲れる』

 

所長の態度はとりあえず合格点だった様子。

相変わらず偉そうに片肘をついているが険悪な空気はない。

 

「で、では遠慮なく……それで我々と対談を望んだ理由は一体なんなのかね。我々を評価していると━━」

『単純だ。お前たちの持つ技術と艦、全て俺に差し出せ』

「ほ、ほう」

(……一方的な提案としては優しい方か?)

 

小声で聞こえないように呟く。

汎人類史と異聞帯の関係上敵対は避けられない。アトランティスみたいに問答無用で殺しに来ないだけ優しくはある。

所長もいきなり結論から入られた会話を引き延ばそうと首に汗をかきながらトークを回す。

 

「━━失礼。そこはこう、もう少し段階を踏むものじゃないのかね。トップの話というのはもう少し優雅に小粋なジョークを交えつつ……」

『仲良しこよしになる関係じゃねえのは分かってるだろ? 

単純に俺はそちらの艦とカルデア式召喚術に興味がある。それが欲しいんだよ』

「いやしかし、それは……」

『おいおい。交渉できる立場と思ってるのか? 

そこにいるソラエルに全員殺させて強奪してもいいんだぜ』

 

対談とは名ばかりの脅迫だ。

自分の理屈を一方的に押し付ける傲慢さに湧いた怒りで握り拳に爪が食い込む。これまでの異聞帯の王達とは違う世界を背負った気概や誇りみたいなのも皆無。

 

(先輩……)

(ごめんマシュ。大丈夫、暴れたりしないから)

 

表情で心配してくれる後輩に答え、所長の陰から気づかれないようにナイオーロを見つめる。話し相手でもない藤丸には興味もないのか視線を向けてさえこない。

近くにいるソラエルに隙が生まれないかと窺う。特に動かず、逆にこちらの視線に気付くとニコニコ手を振ってきた。

 

(何を考えているのか読めない)

 

過度なスキンシップさえ除けば敵であることを忘れそうな無邪気さ。だからこそ厄介なのだが。

あの態度が演技でもそうでなくても怖い。

ナイオーロはここまで高圧的にきておいて、急に肩をすくめた。

 

『とはいえだ。興味があるのは道具だけじゃない。それを使うお前達にも少なからず価値はある』

「む、むう。我々の経歴に価値を見てもらえるとは光栄だがね」

『6つの異聞帯を越えた勇者共だ。その知見も能力も幸運も手に入れようと思ってどうにかるもんじゃない。

だからもう一つ選択肢をやろう。全員まとめてオレの配下に加われ。帝国の末端として受け入れてやるぜ』

「……それはさっきの選択肢とどう違うのかね? 

何も変わってない気がするのだが」

『前者ならもらえる物をもらったらお別れだ。それ以上関与はしない。この地を去ろうと異星の神に挑もうと気にしねえが敵対すれば殺す。

後者はそれなりに得もある。皇帝直属の配下だ。帝国人より身分が高い。帝都での暮らしには不自由しねえだろう』

 

もちろんオレに絶対服従はしてもらうがなと最後に付け足した。

笑う態度は明らかにこちらを軽んじている。相手を道具としてしか見ていないその態度がどうにも腹立たしい。

 

「っ!!」

「先輩!?」

 

余りにこちらを馬鹿にした発言につい物陰から出て睨むと、ナイオーロもこちらを見つめ返してきた。

所長が「ちょ、なにしてるんだね!?」と言わんばかりに顔を引きつらせる。マシュには暴れたりしないって言った後の大声だけに驚いて、周りをコソコソ動いていたマリーンも同様。

しまったと思った時にはナイオーロが藤丸を睨んでいた。

 

『誰だ……と思ったが、お前がカルデアのマスターか。だったら納得だな』

「待った待った!! こやつはこの対談に参加はしておらん。野次の一つでも飛んできたと流してもらえんかね」

 

どうにか庇おうとしてくれる所長。

だがナイオーロの視線は外されず、それどころか楽しそうに口元をゆがめた。

 

『ダメだな、目立った時点で関わったも同然だ。

━━藤丸立香、お前の本心を言え。奴隷になるのがそんなに受け入れられないか?』

「……当たり前だろ」

『何が不満だ? 

人間の体は残してやるし、オレの命令に絶対服従する以外は自由意志も持てる。本来なら男も女もエネルギー源。運が良くて怪人なんだ。人間のまま生きていけるだけでも相当に恵まれてんだがな』

 

その態度に異聞帯の王達を思い出す。

国を統治するために恐怖で縛った雷帝。命全てを愛していても世界を広げられなかった慈愛の神。世界を存続させるために知恵を独占した始皇帝。悪しき存在を削って理想郷を作ろうとした唯一神。愛玩ではあっても生きる場を保ちつづけた全能神。最期まで多くを知れなかったが國に君臨し続けた冬の女王。

殆ど言葉を交わせなかった王もいた。

理解しあえなかった王もいた。

それでも誰もが形は違っても世界とそこに生きる命を尊び、愛していた。

ナイオーロは自分の国しか見ていない。世界全体を見ているとは思えない。

何よりこんなところで膝を屈したら、今まで踏みにじってきた世界に顔向けできない。

 

「異聞帯の王達(彼ら)とは違う!! お前を皇帝とは認めない!! この日本も必ず取り返す!!」

『ほう。ではオレの下に来る気はないと?』

「当り前だ!!」

 

勢いに任せて思い切ったことまで口にした。

だが言ってみて自分の心を理解。この国は大切な故郷だ。

どんな事情で今の世界になってしまったか分からなくても、こんな奴に支配された間違いを認めたりは出来ない。

そんな思いで啖呵を切ったが、激怒すると思った予想を裏切ってナイオーロは大口を開けて笑い出した。

 

『ク、クク……ハハハハハ!!!』

「ナイオーロ様?」

「っな、なんだね急に笑い出したぞ! 情緒不安定か!?」

 

この場においては所長と同意。思惑が外れたはずなのになんで笑う? 

何を考えているのかまるで分らない笑いが一層不気味。

 

『クク、勇ましいなカルデアのマスター。昔の自分を見ている気分にならないか、ソラエル?』

「あう……意地悪ですナイオーロ様」

『そう拗ねるなよ。それにな、オレに噛みついてきた頃のお前も中々面白かったぜ』

「またそんなことをおっしゃって……愚かだった頃を褒められても複雑なんですけど」

『いつだってオレのお気に入りってことだ。誇っておけよ』

「もう! そんなこと言われたらますます何も言えないじゃないですか」

 

話し始めた2人を置いて所長に駆け寄る。

思い切っては見たもののこれでソラエルと敵対は必至。ネモ達の用意が出来ているかも確認できていないのに喋ったのは自分の落ち度だ。

 

「すいません所長。勝手なことして」

「ホントだぞバカ者! 

……お願いだからいきなり攻撃的になるの止めなさいよ。お前達の行動の度寿命が縮んで仕方ない」

「で、でも所長! 皇帝の言葉に同意できないのも事実です」

 

マシュが出してくれたフォロー。これには所長もやれやれと息を吐きながら奴の映る画面をチラッと見つめる。

 

「分かっとる。どうせ頷けるわけもないのだから敵対するのは決まっていた。藤丸が言うか私が言うか、その違いだけだ。

こうなればうまく見逃してもらえるのに賭けるしかないが……」

 

希望的観測すぎるがここはもうそれしか望むところがない。

こちらもソラエルを不意打ちするためにマシュとそろそろ彼女の死角へ移動開始。

それを見越したようにナイオーロが口を開く。

 

『戻るか保証のねえ世界のために戦うよりオレの下で働く方がよほど利口だと思うがな。

……ま、いい。実を言うとお前らがそう言ってくれるのを望んでいた』

「それはつまり、我々が要求を蹴ると考えていたと。ならば最初から攻めてくればよかっただろうに」

『自分から降る奴には寛大でな。選択肢を与えてやるのも皇帝の度量が出る。

だが冷静な交渉で手に入る勝利なんざつまらねえ。相手の持てる全てを蹂躙し尽くしてこそ征服した実感が出るってものだろ。だから敵対してくれる方が嬉しいんだよ。

━━ソラエル』

「はぁい、ナイオーロ様♡」

 

待っていましたと言わんばかりに満面の笑みで映像の前に立つソラエル。その右手を横にすると髑髏や蛇の装飾が施された彼女の背丈ほどもある大鎌が手中に顕現。両手に持ち直すと刃先を下に大きく身構えた。

 

「ご命令を」

『予定通りだ。キャプテン・ネモ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、マシュ・キリエライト、その3名を確保して連れてこい。使い道がある。

あとは好きにしろ。生かすも殺すも任す』

「承知いたしました。どうぞ玉座にて吉報をお待ちください……というわけでこれで敵同士! 楽しく殺し合おうか!」

「ッ、所長、先輩後ろへ!!」

 

通信が終わってナイオーロの姿が消える。

それと同時にギィンと派手な音がして、藤丸は背中に鈍い痛みがして視界が天井を向いていた。ソラエルから目を離していなかったはずなのに。

横に所長も転がっているのを見てマシュが自分達を庇って放り投げ、ソラエルとぶつかったのを理解。

急いで体を起こすとオルテナウスの盾でソラエルの大鎌をすでに受け止めている最中。

 

「くっ、う……!」

「すぐ2人を守ったのはグッドだね! 残ってたらそっちは輪切りだっただろうし! 

でもマシュちゃん一人でボクの相手はぁ……少し大変じゃないカナ~?」

 

柄を盾に押し当てて足で踏みつけながらどんどんマシュの上になる姿勢へ。逆に重みが逃がせないマシュは徐々に膝を折り始める。

 

「鎌って便利でね。盾を持ってたって意味ないんだ」

 

盾の縁からはみ出た鎌の刃がマシュへ牙を剥く。彼女が顔を逸らしても体勢が不安定になり、ジリジリ押し込まれていく。

急いでマシュの混乱を察知。こちらの安否や周囲が分からないために判断を迷っていることを見抜いて後先考えずに叫ぶ。

 

「マシュ押し返して! 全力!!」

「━━はいマスター!!」

「うわたぁっ!?」

 

こちらの指示通り一気にソラエルを跳ね返すマシュ。そのまま今度は見失わないよう注意しながら彼女の側へ。

 

「ありがとう。おかげで命拾いした」

「いえ! お二人にお怪我がなければ何よりです」

「藤丸君ももっと戦おうよ。マシュちゃんに戦わせてばっかりじゃポイント低いよ?」

 

何か言ってやろうと思ったがそれより先に上がる声が一つ。

 

「先輩を馬鹿にしないでください!!」

 

血の通った魂からの叫び。

マシュだった。

滅多に見ない、それこそカルデアでランスロットに向けるより苛烈な怒りの表情でナイオーロを睨む。先輩を馬鹿にするのは許さないと言外に語っていた。

自分を見ず、ただ純粋に怒ってくれる彼女の熱意が嬉しかった。

サポートをちゃんとしなくてはと必死に目で追う。

 

「マシュちゃんの忠誠心もいいね。君が本当に仕えるべきお方の下に連れて行ってあげようっていうのに」

「ッお断りしま━━くあっ!!」

「ご主人様の決定に逆らっちゃダメだって。大丈夫、たっぷりちんぽで犯して頂いて心の中をナイオーロ様だけにすれば幸せだって分かるよ。自分の生まれてきた意味を知る瞬間、最ッ高に気持ちいいんだから♡」

「ち!?」

 

反論しかけたマシュを再びソラエルが押さえ込む。

さっきから見ていても全体的な力はソラエルの方が上。バランスもいい。瞬発力だけならマシュが勝つだろうが……

 

「あはは! ちんぽって聞いて赤くなってるの可愛いー」

「ぅ!? そ、そのような卑猥な言葉はよくないですッ!」

「そういう初心な反応ってことはマシュちゃん処女(ヴァージン)?」

「っ貴女に関係は━━!」

「隙あり♡」

 

僅かに動揺で崩れたマシュのガード。その隙間を縫って動いたハート型の尻尾の先端が彼女の眉間に命中。

電気が流れたみたいにビクっと短く痙攣し、そのまま崩れ落ちてしまう。

 

「か、はっ……」

「マシュ! なにを━━がはっ!」

 

マシュが倒れた動揺を今度は自分が突かれ、首を押さえられながら地面に押し倒された。

そのままソラエルが馬乗りになって、こちらのズボンの股間に前張りを貼った股間をむぎゅっと押し付けてくる。

打ち付けられた衝撃で肺から空気が抜け、思わず息を吸い込むタイミングで彼女の顔が唇を重ねられそうなほど近づく。桜色のきれいな髪から漂う甘い香りをたっぷり吸わされてしまう。

そして時間をおかず、体の中にカイロでも入れたみたいに腹の中が熱くなる。

 

「最後のマスターなんて言っても男の子。淫魔の魔力を浴びただけで顔赤くしてるの可愛いね♡

はぁ……近くで見てもいい顔♪ カッコよくて可愛いボク好みの素敵な顔だぁ。帝都のおにーさんは満足させてくれなかったし、殺す前にいい思いさせてあげる」

 

身の毛がよだつ言葉が聞こえた気もするがとりあえず後回し。

まずマシュだ。大切な後輩の彼女だけは……彼女に何かあったら自分がどんな行動に出るか分からない。

 

「ぷっ! 先にそっちのこと聞いちゃう? 

ま、心配ないよ。ちょっときっかけをあげただけ。二度と覚めないとかそんなことないから大丈夫だって。

……というかまず自分のこと心配しなよ」

「させないよ!!」

「これ以上僕の艦で勝手は許さない!」

 

裏工作に専念していたダ・ヴィンチちゃんとネモが杖やマリーンズと、それぞれの得物を手に止めに来てくれようとする。

しかしそれを一瞥したソラエルが手を動かすと彼女の周囲に光球がいくつも出現。周囲を周回しつつ、藤丸に向けて刃型に変形すると先端を刺す直前で静止。

 

「はいはい動かなーい。宝具が本体のライダークラスが2人、ボクより早く動けるの? 

分かったらそこで大人しくしてなって」

「っごめん藤丸君……」

「くっ!」

「俺は大丈夫だから! それよりマシュを━━むごっ!」

 

言い終わる前にソラエルの唇が重ねられる。

プルプル柔らかくてしっとり水気を含んだ感触。また吸わされる香りもあって熟れたフルーツを口に押し付けられているのかと錯覚しそうだ。

ふわっと全体に押し付けた後は上唇、下唇と交互に鳥が啄むみたいに唇で摘ままれる。ちゅっぱちゅっぱといやらしくまぶされた水音の正体が彼女の涎だと気づき、不快と同時に認めたくない熱が生まれてしまう。

唇同士を使ったキスが何分も続けられた後にようやく離され、いたずらっぽく、そして意地悪く笑みを見せつけてきた。

 

「もう。目の前にいる女の子を無視して別の女の話しないでよ。

でも藤丸君、唇もいいねー。戦場と困難ばかりで手入れも無縁な荒れた唇、体だって筋肉しっかりついてて美味しそう……乗せられただけのレジスタンス共よりよっぽど素敵で魅力的♡」

「お、まえ……げほっげほっ」

「あは! キスは静謐のハサンとしたことあるって知ってるよ。なのに咽るくらい興奮してくれたのかな? 

……つまりボクの方がいいってことだよねぇ。ね、どうだった? ボクの唇、気持ちよかった?」

「知らない! そもそも離せ!!」

 

女の子の柔らかさや甘さを勝手に感じてしまう自分の体に腹が立つ。

そもそもこんな奴にキスされても嬉しいわけがない。吹き上がる体の熱全てを怒りに変えてソラエルを睨みつけた。

それでも自分の優位は揺らがないと安心している彼女はその頬を赤くして、

 

「くふふ! ムキになっちゃって可愛いね。

ズボン越しでも分かっちゃうよ。ボクのメスまんこを押し上げる逞しく勃起したちんぽの感触、出して出してーって叫んでる。どんなに頑張っても快感に抗えないんだから諦めなって。

それじゃあ次はちんぽを手コキしながらキスで━━」

 

身を捩ってズボンのチャックに手をかけたその瞬間を見逃さなかった。

 

「━━『ガンド』!!」

「っ!?」

 

無警戒だった腕から礼装の射撃魔術を速攻起動。さっきからの卑猥な言動から性行為を迫るのは予想がついていた。だからこそズボンに手をかける一種の隙を狙った。

だがそこまで。

傾けた顔を掠めて天井に穴を刻むにとどまり、ソラエルを傷つけることは叶わなかった。

 

(くそっ!! もう片手で……いや令呪で2人のどちらかを)

「させないって」

「うあっ!」

 

跨った姿勢のまま上げられた彼女の両足で腕を抑え込まれる。M字開脚の姿勢でこちらに股間や胸を惜しげもなく見せつけ、そこで急に動きが止まる。

笑みが無表情に変わり、じっと観察するようにこちらの顔や眼を内臓まで見透かしそうな勢いでジロジロ覗き込んでくる。

顔を両手で掴まれた時はまたキスかと身を固めたが、やはり観察を続けるだけだ。

 

「……なんなんだ」

「不思議だね、キミって」

「意味が分からないんだけど」

「勝利の確信があるわけでもない。自分が正義だから負けないって思い上がってもいない。強がりだったらとっくに剥がれてる。

だってサーヴァントは封じて礼装の奇襲もタネ切れ……勝利の可能性は全くない。なのにキミの眼は少しも揺らいでない。

なんでそんな目が出来ちゃうのかな?」

「……まだだ」

「まだ?」

「まだ諦めるだけの理由を見つけてない。生きる為にたくさんを押しのけてきた。ここで止めたら、出会えた歴史も全部無意味になってしまう。そんなことはさせない。お前達にも従わない。

最後まで戦い続ける。

━━俺は生きる為にここまで戦ってきたんだから」

 

その回答を聞いたソラエルの顔は動かない。また性行為にでも出ようとしてくれれば今度こそ令呪で不意打ちしてやるのに。

沈黙を数秒経て、跨ったまま口を大きく開けて笑い出した。

 

「あはは、あははははははは!!!! いいね、すっごくいいよキミ! 身体にしか興味なかったけど訂正! キミは心までボクのものにしてやる!!」

「は、何言って!?」

「ご主人様以来だよ、こんなに誰かが気になるの!! ボクとっても気に入っちゃった!! 

だから━━」

 

唇がまた押し付けられる。

それで終わるかと思いきや舌が閉じていた口の中に差し込まれ、藤丸の舌に巻き付いて舐め尽くされる。たっぷりの甘い唾液も絡んだ舌越しに流しこまれ、頬の内肉や歯茎一つ一つにもべっとり塗りつけられる。

彼女の両腕は頭の後ろに回されてがっちりホールド。ただの人間の力では外す以前に動かすことさえできない。

混乱と動揺で至近距離に見える彼女の瞳にはハートが浮かび、キスをしてもしても足りないと口の中全てを舌で蹂躙される。

抵抗も反撃もままならない。経験豊富な淫魔のキスという名のオーラルセックス。

女性を知らない藤丸の頭は舌同士が絡まった時点でパンクしている。

甘い水飴みたいな唾液がにゅるり、ぬちょぬちょっと自分の舌に押し付けられるのだ。誰にも邪魔されないキスの時間が長くなるほど頭の中にピンク色の靄が広がる。冷静な意識も残さず流してしまいそうな、そんな濃厚で甘美なキスの快楽。

 

(聞こえるかな、藤丸君)

(こえが……頭に……)

(あは! いい蕩け具合。口はキスで忙しいからこっちで説明してあげるね。

結論を先に言うとキミにはボクの妹になってもらうよ。ボクの祝福で心も体も女の子にしてあげる♡)

(しゅく、ふく……?)

(そ。辛い旅を頑張ってきたキミへのご褒美さ。お姉様がご主人様に見初められて贈られたのと同じ、愛する人に全てを捧げる契約の証。

キミは可愛い一人の女の子に生まれ変わるんだ)

(そんな……なるわけ……)

(なるの。そう決めたんだから。さ、もっと心を開こう。過去も信念も全部溶けあって気持ちいいことで頭を一杯にして━━うぇあ!?)

 

脳の中に直接聞こえる音にぼんやりしていた意識が急な揺れで中断させられた。

 

◇

 

救援

何が起きたと気にする間もなく、上方向つまり寝ている藤丸の頭を飛び越えるようにソラエルが吹っ飛んで行った。お互いの絡みつけられていた舌からわずかに唾液の残滓が宙で舞う。

さらに藤丸もソラエルを追って滑りそうになって理解した。ストーム・ボーダーが舳先から海へ直角の姿勢になっている。直接ではなく船体を傾けて攻撃に転じたのだ。

 

「エンジン! 全炉点火! 艦を水平に戻せ!!」

『南無三!!』

 

後部エンジンが再度着火。海面へ加速しつつも強引に船体を水平に戻していく。

着水寸前でどうにか水平に戻ったストーム・ボーダーはそのまま日本海へ不時着。激しい振動が襲うが大破は免れている。

ソラエルは垂直降下と角度修正の連続操作でふっ飛ばされてフロントガラスに衝突。他のクルーや所長は予め知っていたらしく船体にしがみついて無傷。

危うかった藤丸とマシュはダ・ヴィンチがマシンを使って拾ってくれていた。

 

「遅くなってごめん藤丸君!」

「すまない! エンジンとの船体維持同期に手間取った」

「う、ううっ……すいません。マシュ・キリエライト、今意識を取り戻しました」

「あ、りがと。マシュも無事でよかった……」

 

だが問題は解決していない。口の甘ったるい感じは元より、まだ船内にいるソラエルをどうにかしなくては完全な事態解決とは言えない。

 

「いたたた……艦そのものが宝具ならこういうこともやれちゃうのね。勉強になるなぁ」

 

打ち付けたらしい肩や頭を撫でているが怪我にもなっていない。鎌を杖代わりにしてあっさり立ち上がった。早くもネモの奇策に対応してみせるこの機転、戦い慣れしていて厄介極まりない。

 

「しょうがないか。生きてれば手足ぐらい再生できるし、ちょっと手荒にしちゃお。

最終確認だけど、やっぱり大人しく一緒に来てはくれないんだね?」

「当り前だ!! 俺は絶対に立ち止まらない! マシュ!」

「はい!! ……え、盾が!?」

 

ソラエルを拒絶したと同時にマシュの盾が少しずつ光を放つ。

始めはランプの灯りみたいだったのが回転しながら強さを増して、やがて太陽の様に直視できない輝きに変わる。

時同じくしてどこか聞き覚えのある落ち着いた頼り甲斐のある女性の声がブリッジの中に響いた。

 

「━━よく言った藤丸立香」

 

聞いたことのある声。

悲しい戦いと決着の果て、ブリテンで別れた誰より騎士らしくあった彼女の声だ。

マシュも同じ人物を思い出したみたいで思わず顔を見合わせる。

声と自分達の態度に反応したソラエルが鎌を持ち直した途端、横薙ぎにされた大剣が激突。踏み止まろうとした彼女ごとボールみたいに吹き飛ばした。

 

「っあああ!?」

「君は……」

「ブリテンの!」

「サーヴァント、セイバー妖精騎士ガウェイン。真名バーゲスト、ここに現界した。これより結ばれた縁に従い、カルデアのマスターの支えとなろう」

「「バーゲスト(さん)!!」」

 

たなびく獅子の鬣みたいなブロンドの髪。男の藤丸も越す背丈に白銀の鎧と大剣。

全身から放たれる捕食者であり強者のオーラ。

かつて妖精國で分かりあい、最期は手にかけざるを得なかった騎士バーゲストが藤丸達の前に出現していた。

壁に激突したソラエルが乗っていた椅子を蹴り飛ばしながら這い出てくる。

 

「ああもう! なんでサーヴァントが呼べるのさ! ちゃんと先手は打っておいたっていうのに!!」

「バーゲスト1人だと思ってんの? 頭足りてねえよバーカ!!」

「っあああ!?」

 

今度はソラエルの影から幾本もの棘が出現。飛び退いても振り切れず、すべてが彼女の身体を射抜こうと追いすがった。そして空中に飛びあがった所へ矢が降り注ぎ、天上へと縫い付ける。

そんな離れ業を見せつけるのは血のように赤い髪をした嗜虐的な笑みと同じく赤いドレスがトレードマークの妖精。

 

「サーヴァント、アーチャー妖精騎士トリスタン。赤い踵のバーヴァン・シー、仕方ねえから来てやったぜ」

「バーヴァン・シー!?」

「気安く呼び捨てんじゃねえよザコマス!!」

「私だっている。せっかくの初舞台を無視されるのは気に入らないかな」

「メリュジーヌも!」

 

更に出現した蒼の鎧を着こんだ小柄な騎士が両腕の鞘から魔力の剣を編み出し、柄の根元まで腹部へ突き刺して切り裂いた。

 

「がっ、ああああ!!」

 

上がった悲鳴に斟酌することなく、正確無比な切り裂きがソラエルを痛めつけて追い詰める。

妖精國で何度も輝きを見せつけたその剣捌き。人形のような愛らしい見た目と流れるような剣の技が冴えわたり、追い詰められていた空気がどんどんと解放されていく。

 

「こんなもの━━か! 

サーヴァント、ランサー妖精騎士ランスロット。真名メリュジーヌ。久しぶりだね、カルデアのマスター!」

「くぅぅ、サーヴァントが3騎……流石にマズいかな……あいたたっ!!」

 

何かの仕掛けがあるらしく、ソラエルの傷が急速に回復していく。常人なら3回は死んでいそうな出血も傷口を押さえながら動きを見せる。

それでもまだ現れた彼女達の連鎖召喚は終わっていない。

 

「痴れ者が。消え失せるがいい。〖はや辿り着けぬ理想郷(ロードレス・キャメロット)〗」

「え━━うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「僕の艦の中でなんてこと━━」

「きゃああああ!?」

「先輩後ろへ!!」

 

縫い付けられ、傷つけられたソラエルにダメ押しに巨大な光の槍が11本殺到。

強固な魔術と科学の守りが施された装甲を粉砕し、圧倒的な粉塵を巻き上げブリッジの天井に大穴をあけてしまう。普段なら見えない青空が垣間見え、磯の匂いが船内にも漂ってくるのが少し物悲しい。

そしてこんな大規模魔術ができる魔力と気配には覚えがある。

圧倒的な大規模魔術。アルトリア・キャスターと似ているがより断絶を感じさせる物悲しさ。

黒いロングドレスの裾を地面まで届かせる銀髪の女王。藤丸の予想を裏切らず、カツコツ音を立てながら背後にもう一人の女性が姿を見せる。

 

「サーヴァント、バーサーカー。モルガン、ここに参上しました。手を貸しましょう藤丸立香」

「モルガン、陛下」

「生前の敬称は不要。今はただのサーヴァント。他の者と同様に扱いなさい。

━━下がって」

 

モルガンに庇われた直後に光弾が複数飛来。彼女が片手で張った魔術障壁を震わせて飛び散った。

天井に空いた穴の向こうからイライラを隠さなくなったソラエルの視線が全員に向けられる。

 

「ああウッザ!! 皆してボクの楽しみを邪魔してさ!!」

「邪魔は貴様の方だ、異なる歴史の英霊よ。命の在り方を娯楽で捻じ曲げようとする悪性、看過できるものではない」

「っつーか、まだやるワケ? 

とっとと帰って飼い主にピーピー泣き付いた方がマシじゃねえの。絶対逃がしてやんないけど! キャハハハハ!!」

「早く降伏するのが賢明だよ。僕がいる以上、君はもう藤丸に二度と触ることもできない」

「私もいる。どうあっても貴様の勝利は訪れない」

 

ギリギリ歯を鳴らしてこちらを睨んでいたが、急に自らの頬を両手ではたくと表情が落ち着きを取り戻す。

また顔を覗き込んだ時と同じ観察する目になって見つめ、何事かブツブツ呟き始める。

 

「三大騎士クラスにキャスター適正もありそうなバーサーカー……奥の手を使っても一騎相討ちが限界か……タナトスほどじゃないけど……ふぅ、仕方ない。

━━クク、あははは!! 藤丸君も悪運が強いね。それともボクから逃げられたんだから単純に運がいいって言うべきカナ?」

「待てソラエル!」

「怖いお姉さん達が来たしお暇するよ。キミに刻印も刻めたしね。首、見てごらん」

「これは!? 先輩!」

 

鏡で見せてもらった首元には紫色をした禍々しい光を薄く放つ、ハートを邪悪に歪ませたような紋様が刻まれていた。

ぐるりと首を一周して繋がり、さながら藤丸に付けられた首輪のよう。

 

「ただのアクセサリーじゃないからね。ボクの唾液で侵蝕したしそろそろ……」

「う……あっ!? ごほっ、げほっ!!」

「先輩!」

「だいじょうぶだから……マシュ……あれ、声が」

 

首の紋が光り、喉に巻き付くような感覚をさせた後。

咳が収まった時には藤丸の声はこれまでの声から、男にしてはやや高めな声変わりに近い少年じみた中性的な高さに変わっていた。

喉仏も引っ込み、首から明確に男の特徴が消えている。

 

「にゃはは! 早速効果が出たね。その紋はボクを殺すか、完成するかしないと消えないよ。

これでボクとキミの間にも縁が出来たってわけだ」

「お前、まさか本当に……」

「忘れないでね藤丸君。キミはボクが必ずもらうから♡じゃ、ばいばーい!」

「逃さん!」

「逃がすかよ!!」

 

翼をはためかせたソラエルが飛翔。バーゲストとバーヴァン・シーが追撃しようと飛び上がったが、すでに遥か空高くへ舞い上がってしまっていた。

ご丁寧にもこちらが肉眼で見える距離から投げキッスまで飛ばしてから逃走。

少し離れた対馬の空想樹擬きの方へ逃げ去るまでは確認したが、ここで観測班もロスト。

メリュジーヌが追跡しようしたのをこれはモルガンが制止。敵地の中で一人追跡に出させるべきじゃないだろうと、クルー全員共通の判断だった。

こうして日本異聞帯突入後最初の戦いは藤丸とマシュの体に妙な手が加えられた以外、大きな損失なく全滅も回避できたのである。

 

◇

 

奇妙な同行者

「あらためて、来てくれてありがとう皆」

「礼を言われることではありません。貴方が求め、我々が応えた。ただそれだけのことです。魔力も相応にもらっていることですしね」

「それでも……来てくれて嬉しかったから」

 

出現したサーヴァントを代表してモルガンと握手を交わす。彼女の後ろには妖精騎士の3騎も表情は様々ながら並ぶ。

対馬からソラエルと敵の増援が来ることを警戒し、ストーム・ボーダーは日本海を本州へ向けて低速で航行中。高速飛行能力はブリッジに空いた大穴を補修しない限り使えないと、悲痛な面持ちのネモが先ほど語っていた。

現在はマリーン達が補修工事中。プロフェッサーとダ・ヴィンチはそれぞれ敵影の接近がないか警戒。

ナースは何かを打ち込まれたマシュと先に壊れたムニエルの治療中。

ベーカリーが戦闘で疲弊した面々のために軽食を作ってくれている。

所長はというと「し、死ぬかと思ったわ」と青い顔して穴の向こうの青い空を見つめて動かない。

握手が終わったところでバーゲストが沈痛な面持ちを見せた。

 

「それで藤丸立香……首は異常ありませんの? いえもちろん異常は起きていますけど……」

「ナースの見立てだと体に異常はないみたい。ただ喉の部分だけ男性の成分が失われているって」

「私でも解呪が出来ない。あの小娘、相当に手を入れて組み上げたらしい。

生前なら力技でどうにかなったかもしれないが」

『そりゃまあボクのとっておきだしね』

「マシュは先輩のお顔とも合っていますって言ってくれたけど……って」

 

変な声が聞こえた。

声のした方を見ると藤丸の肩にちょこんとゆるキャラみたいになったソラエルが腰かけていた。大きさは彷徨海に残してきたフォウと同じ小動物サイズ。胸もお尻も幼児体型の体に引っ張られて絶壁同然で、露出過多な衣装がちんちくりんな印象を受けさせる。

 

『やっほー。さっきは本体がお世話になったね』

「バーゲスト、斬れ」

「はっ!」

『うぇえええ!? ちょ、ちょっと待ってよ! いきなり斬殺とか野蛮すぎ!! 少しは話聞こうよ!! ね、ね!?』

 

嫌な意味で覚えがあるやかましさ。突き付けられた剣をコミカルに掴む小さなソラエルを妖精騎士たちが囲んで尋問。

一応表面上は大人しく情報を語りだした。

 

『ボクはミニソラちゃん。藤丸君に付けたその紋に契約されてる使い魔だと思って頂戴』

「その使い魔風情が今更何の用だ。事と次第では喰らってくれる」

『ちょっとしたサービスだよ。完全に勝ってたあの状況から逃げおおせたご褒美。

今のままじゃキミ達、日本のどこに行けばいいかも分からないじゃない』

「それで君が情報をくれると?」

『正解メリュちゃん。この世界の人間は事情も知らない余所者を簡単に受け入れたりしないしね』

「テメエには何の得が有るのよ。このザコを助けたって敵を手助けするだけじゃねえか」

『ふふ~ん、それはひみ━━いたた! 分かった分かったから首千切ろうとしないで! スペアないんだよ! 

……ふう。単純に藤丸君に興味が湧いたって話。人間狩ってばかりで退屈してるしね』

「……藤丸立香。コレを生かしておいても良いことはない。得より損を生むだろう。ここで殺しておくのが正解です」

 

大したことでもないように話すが信用はまったくできない。ソラエル自体が笑いながら切りかかり、かと思えばキスまでしてくる異常な奴。

胡散臭いし疑わしいし。

ここで遠巻きに「また出たのか!?」と叫んでいた所長も近くへ。

 

「所長、どうしたらいいと思います?」

「情報源として使えるのは事実だが……かといってコレが我々をハメないとも限らんしなぁ」

『信用ないなぁ。先に行っとくけどボクは正真正銘敵。それでもそんな妖しい敵の手も取らないと生きていけないのがキミ達でしょ?』

「ぐ、ちんまい格好で小癪な口を聞きおる」

 

ダ・ヴィンチやネモも加えた相談の末、確かに情報源として利用価値はあると結論。情報をもとに判断を決めるのを気を付けていくしかないと。

不審な行動をとればすぐ殺すとして、常に妖精騎士達の誰かの監視下に置かれることとなった。

 

『というわけでボク、ミニソラちゃんが皆を助けてあげる! ありがたく思ってね。

━━まずは九州。特に福岡へ行けばいいよ』

「一応確認だけど理由あるのかい?」

『この近くでただの人間が生きていけるのはそこしかないの。本州は西が山口県と四国まで制圧済み。北も東北まで侵略し尽くした後さ。

嘘だと思うなら九州と本州の境、下関まで行けば? 人間達の涙ぐましい努力が見られるから』

「……」

 

総員で相談の上、進路を九州の福岡へ。

少なくとも愉快犯的な態度から今すぐ罠にかけて攻めてくる可能性は薄いとの結論だった。

やや軋みながらも動き出すストーム・ボーダーの窓にちらほらピンク色の何かが少しずつ付着しだす。

ふわふわと舞って窓にくっつくと水に変わって消えるその儚さ。

日本の冬、かつて子供時代に校庭に降り積もると駆け回った記憶が思い出される。

 

「雪? でもそんな寒くは……それに色も」

『違うよ。これは世界樹から噴き出す花粉。ご主人様の力の一端。バカな人間達は変な雪って思ってるみたいだけどね。

━━あらためてようこそ日本異聞帯へ。歓迎するよ、心の底からね』

 

ガラスがいつの間にか花粉で埋め尽くされて見えなくなってしまう。

無論すぐに風に散らされ、拭われて晴れる。この不透明な海が置かれた状況を暗示しているようで、藤丸は仲間たちに囲まれていながら不安を感じずにはいられなかった。

 

〈つづく〉

 

◇

 

幕間 たくらみ

対馬に不時着したソラエルはやれやれとため息をついていた。理由はもちろん取り逃がしたカルデア一行のせい。

ひとまず怪人を生み出す工場や監視員は正常稼働中で、敵と誤認されて襲われることもなくて助かった。

 

「陛下に怒られちゃうなぁ。あんなに期待しておられたのに。

ま、セカンドプラン(・・・・・・・)の許容範囲だから問題ないけどね」

 

4騎に寄ってたかってつけられた傷も既に完治。

大して後遺症もない傷より気にかかるのは現れた援軍たちのこと。

 

「汎人類史ですらない異聞帯英霊……召喚は出来ないはず……対馬……ひょっとして……」

 

背後に聳え立つ空想樹擬きとカルデアが呼称する空虚な巨大樹を仰ぎ見る。

 

「セイファート・レプリカ(・・・・・・・・・・・)。これを縁にしたってことか。偶然とはいえ、逆転のカードを引くなんて怖いねぇ。次は同じことが起きないように陛下に報告しておかなきゃ。

ま、おかげでこっちも極上のメスたちを見つけられたから悪いことばかりでもなかったと。ふふ」

 

怖いと言いつつ、その表情は既に明るい。

せっかくのイレギュラー。楽しまなくては損というのがソラエルの考えだった。

 

「ライオンみたいなバーゲストはリズ姉ちゃんと騎士ペアパイズリよさそうだし、モデル体型のバーヴァン・シーはアズ姉ちゃんとお尻の大きさが合いそうだから尻コキさせてみたいし、メリュジーヌって子はロリ体型でユリ姉ちゃんとロリフェラでいい組み合わせになりそう……あはは!! いいねえ、テンション上がってきちゃうよ! 

なによりモルガン! クールでかっこいい美女だし、お姉様と同じ女王の素質もありそう! 

優秀なメス奴隷としてここは全員快楽で堕としてご主人様の眷属にしてあげないと♡」

 

すでに頭の中は援軍に現れた彼女らを堕とした後にどう主人と愉しむかしか考えていない。

差し当って次の手を打つかと、製造された怪人達の動向を見守りながら飛び立とうとする。

 

「これから忙しくなるなぁ。藤丸君の調教も必要だし。マシュちゃんは……ふふふっ♡

誰か手遅れになる前に気づくかな。ボクの用意した裏切り者が入り込んだことに。あははは!!!」

 

ソラエルの向かう先は中国地方。西方侵略軍指揮官、リリスティア四姉妹の次女リリスティア・アズエルのいる場所へ。

次の戦いへの準備は既に始まっている。

 

◇

 

幕間 異変

ネモはストーム・ボーダーの通路を一人自室に戻っていた。

ブリッジにはムニエルとゴルドルフがいるし、ダ・ヴィンチも艦内の様子を見てくれている。

だから少しは休んできてと言われてだったのだが。

 

「はぁっ……はぁっ……」

(おかしい。なんなんだ、この感じ)

 

ベッドに横になり、シーツを食いちぎりそうな勢いで噛みつく。マリーン達との接続は一時的に立っておいたから聞かれることもない。

耐えがたい熱を熱病患者みたいにうなされながらベッドで悶え続ける。

息は荒く、体温は燃えそうなくらい熱く、口の中には勝手に涎が溜まる。半ズボンの下は生地を押し上げて勃起した可愛らしい子どもチンポが懸命にピクピク震えている。

発情。そんな言葉が頭に浮かんだ。

 

「でも、それだけじゃない」

(こんな……お尻どうして……)

 

同時に受け入れたことの無いお尻の穴が勝手にパクパク開いたり閉じたりして落ち着かない。そこにあるべきものが納まっていないような物足りない感じ。

そっとズボン越しに指で入り口に触れるとキュッと吸いつき、尻穴の快感に気持ちよさと幸福感まで感じてしまう。

だがそれでも足りない。快楽が弱くてじれったいだけだ。絶頂に連れて行ってくれるような快感ではない。

ズボンの上からちんぽに恐る恐る触れると、気持ちいいのをもっと欲しくなる。

 

(落ち着くため……少し落ち着くためだ)

 

半ズボンを降ろし、手に納まるちんぽをシュコシュコ擦りながら直接尻穴にも指を。

ぷっくりの乳首がいつの間にか勃起して顔を覗かせ、どれだけ興奮しているか証明するみたいに固く張りつめる。

 

「んっ、くっ、このっ」

 

1本では物足りない。2本でももどかしい。3本でようやくマシ。リズムが自然と前後で合うとまるで自分のちんぽでアナルを犯しているみたい。

いやそんなのよりもっと大きくて頼りがいのある腕に抱かれてみたい。人魚姫の様に、強くてたくましいオスに身も心も服従して……画面で見ただけのナイオーロに後ろから抱かれている姿が急に頭に浮かぶ。

獣みたいに激しく、ぐっぽぐぽ水音を立てるいやらしい尻穴。そして幸せそうな表情で受け止める自分。

知らず腰が高く持ち上がり、もっと奥までとねだるような姿勢になってしまう。

 

「っ!! 僕は何考え……ダメだ! 射精る!!」

 

敵に犯される想像なんてありえないことを考えての射精。さらにちんぽからビュルビュルと噴き出す海水のように薄いザーメン。白濁の熱が引いて落ち着いてくるほどに自分が何をしたのか、なんて変な想像をしていたのかって正気が戻ってくる。

ありえないはずの何かを考えてしまった自分に後悔。

 

(疲れていたんだろう。今回はかなりハードな作戦だから。

━━でも気持ち良かった……いやいや! 何考えてるんだ本当に!)

 

身なりを整えて部屋の外へ。

キャプテンは気づけなかった。自分のすぐそばに異変が起きていることに。

そして後になって気づく。この異変を見過ごしたのも後の最悪の事態を招いた一因だったと。




というわけで第1節でした。
ナイオーロと完全に敵対しつつ、藤丸とマシュにソラエルの手で種が植え付けられてしまう回でした。
藤丸は次回以降少しずつ女体化していく感じ。
マシュも心の中に変化が起き始めます。
そしてネモを襲う謎の不調。何が起きているのか、これからどうなってしまうのか。
次回以降も真面目な話をしつつもエロも混ぜられるよう頑張ります。

次回は福岡に到着した藤丸とマシュが調教・開発される話の予定。それプラス現状の日本が置かれた環境と、その次の下関海峡攻防戦の前日譚の話になると思います。
多分エロ以外はダイジェスト気味になるかも。

念のため、このシリーズにもモルガンとバーヴァン・シーは出てきますがpixiv投稿のトリ子成長物語シリーズの2人とは別人ですので混同されることのないよう。
純愛で終わった後に続編でNTRとか極刑ものですからね。
あちらの作品では2人共変わらず藤丸と幸せに暮らしています。
ではまた次回。
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