※この作品はR-18です。

エクスティア×FGO 異界魔導帝国ロギア・アース~堕ちた人理の希望~   作:王天君

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エクスティア×FGOシリーズの第4話です。日本の存亡をかけた戦い。そしてバーヴァン・シーを襲う淫謀。
更に敵の大ボスまで出現して・・・


第3節 関門海峡攻防戦/バーヴァン・シー触装調教

開戦

━━福岡県北九州市 関門海峡━━

西暦2018年12月某日。

ピンクに色づく奇妙な雪、ミニソラが世界樹の花粉と呼称したソレが深々と降る日。海面に落ちては消えていく薄紅の夢が落ちる海はほのかに同色へ色づく。

そんなどこか幻想的な背景をさせて日本国軍は対岸に布陣したロギア帝国軍と向き合っていた。

もっとも近い地点で約600mしか離れていない対岸の様子は九州側から嫌でも確認できる。

ずらりと海岸線を埋めるように並んだ異形や帝国人の兵士たち。数にして数万に匹敵する侵略者の軍勢に対し、防衛側の人員は1万に届くかどうか。

侵略警戒警報の耳をつんざくようなサイレンが鳴り響き、艦に乗り込む兵士の顔は暗い。誰もがこの戦闘で死ぬかもしれない恐怖と緊張で戦っている。すでに戦勝ムードで士気の高い帝国軍とは色々と雲泥の差だった。

 

「……勝てるのか俺達」

 

ある船の中で思わずつぶやかれた兵士の声が全員の本音だった。

海峡に配備された日本の戦力はイージス艦20隻。

軽空母級護衛艦4隻。

諸々を含めた航空機戦力が約300機。

戦車などは別にして、事実上の海上戦力としては日本に残された最後の砦に頼るには余りに心許ない。福岡の司令部から援軍として送ってこられた白亜の巨艦が一隻加わっているが兵士たちに詳細は知らされていない。そこから降り立った少女達が空母の甲板にてそれぞれ構える姿は何の物好きだとも思いたくなる。

敵は人員だけでも数倍。しかも今回からは背後に小山のような大きな人影や見慣れない兵器まで並ぶ、ここまで負け知らずの帝国軍だ。

絶対に勝てるなんて奴がいたら現実が見えていないか裏切るつもりかの2択だ。

それでも日本側は誰一人逃げ出さない。逃げれば九州への上陸を許すことになるし、そもそも逃げ場なんてないと誰もが知っていた。

そして例の大きな人影達が入水し始め、艦隊からも砲撃で応えることで静かに関門海峡攻防戦は始まった。

 

◇

 

関門海峡は全長約20㎞を越える長大さ。並んでいる帝国側兵士も橋は見切れてしまうような遠くまでずらっと海岸線を占める。

極端に言ってしまえば敵はどこからでも渡ればいいだけな分、相手の方が非常に有利。

当然一か所に固まっては防衛にならないとのことで防衛側も艦隊を横に長く展開している。東は関門橋跡地付近から西は小倉駅近くの海まで。要所に軽空母級護衛艦が配置されて指揮系統を担う。

そしてカルデア側は戦力として護衛艦の更に護衛として各艦に西からバーヴァン・シー、モルガン、バーゲスト、メリュジーヌをそれぞれ配置。東端にストーム・ボーダー。

クサカベから指示が来てもいい顔をしなかった軍人もいたが、藤丸とゴルドルフとダ・ヴィンチのゴリ押しで無理やり置かせることに。

現代兵器が信頼できないのもあったがボーダーだけ守っても無意味なのは誰にも明らかだった為だ。

 

◇

 

「うおぁっ!」

「先輩!?」

「大丈夫マシュ! ちょっと揺れただけ!」

 

ストーム・ボーダーの甲板に藤丸とマシュは立っていた。主砲発射の轟音が鳴り響き、荒れた波に打ち付けられた船体が震える。

例の雪っぽい桃色の粉が舞う視界は少々支障があるが対岸も問題なく見える。言葉だけ知っている黄砂みたいなものだろうか。

現にイージス艦からの砲撃も行われて対岸に集まった敵を少しずつ吹き飛ばしている。ほとんどは相手の張った結界に弾かれ、動きの遅い奴だけが食らっている感じ。

護衛艦から飛び立った航空機による爆撃なども敢行されているが総じて大きな被害にはつながっていない。

防衛側もこれが全力ではないみたいで火器を総動員している感じではない。渡河(海だが)の動きを遅らせようとしているだけみたいだ。

 

「先輩、あの敵は……」

「うん。スルトを思い出すね」

「やはり北欧異聞帯の巨人たちなのでしょうか」

 

共に視線は対岸で武器を振り上げる見覚えのある仮面をつけた巨人の軍勢。

かつて敵対した北欧異聞帯に住んでいた幻獣生物。たまたま似ているだけかとも思ったがブリッジに入ってくる通信では軍も初めて見るらしい。確証はないがカルデアの参加を予知して用意したのではと思える。

ただの勘だ。

なんとなくニマニマ笑うソラエルがやったのではという考えが浮かんだのだ。一度会っただけの彼女を理解しているとは言い難いが笑って、用意してあげたよと言ってそうな気がする。

 

(まさか……だけどな)

『━━ス。あーテステス! よーし通信回線OK! 藤丸君とマシュはそのまま待機ね。

対岸に展開している巨人種は外見データは北欧異聞帯の個体と酷似してる。体内サンプルが取れていないから同じ行動や弱点があるかは分からないから要注意』

『宝具展開の関係から外に出したけど今回の君たちは本当に艦の防衛が最優先だ。何か起きても勝手に持ち場を離れないように』

「了解!」

「分かりま━━きゃッ!」

 

耳に付けた通信用礼装から入ってくるダ・ヴィンチとネモの声に反応して対岸を向くと急に周りから水柱が次々上がりだした。

数メートルも吹き上がる水柱。凪いでいた海面はたちまちに白泡で満たされて穏やかさとは無縁に。

水柱が沈む衝撃で船体は揺らされて甲板に届く高波も次々生まれ、マシュ共々身を縮めつつ必死に耐える。流れに負けて滑り落ちそうになった彼女の手を間一髪で掴んだ。

 

「マシュ平気!?」

「は、はい! ありがとうございます」

 

引っ張り上げて無事なのに一息つくが状況はそんな余裕もない。ストーム・ボーダーの周りだけではなく他のイージス艦の周辺でも次々と同じ現象が発生。時折水の爆音に加えて金属が重く歪む音まで聞こえだす。

 

『ぬわぁぁぁ!!? ななななんだねいきなり! 敵の魔術か!? それともまた核か!?』

『落ち着くんだ! ムニエルはレーダーで周辺警戒継続! ダ・ヴィンチ周辺状況は!?』

『何かしらの攻撃だってことは確か! ━━ああもう! 舞った水しぶきのせいで光学レンズが良く見えない!!』

「状況混乱……モルガンさん達は大丈夫でしょうか」

「そこは信じよう。

攻撃なのは間違いない……ミニソラは? 何か知ってるんじゃ?」

『おおそうか! 我々には知恵袋的捕虜がいたではないか。さっそく━━む? あのちんちくりんはどこへ?』

『ブリッジの真ん中で瓶に詰めておくってオッサンも納得しただろ! 今忙しいんだから自分で見てくれ!』

『オッサンじゃない! それより奴が、ミニソラがおらんぞ!』

 

ここに来て脱走したのかと歯嚙みする。本体と同じ奔放さだから想像していたが嫌なタイミングでいなくなったものだ。

だがいないものへ頼りきりでは話にならない。頭を切り替えて対岸で何かの異変が起きていないかを見ようと目を凝らす。

海面に何かがぶつかっている。

砲撃? 

そう思いかけたが対岸の高台にいる巨人たちが腕を大きく持ち上げてから振り下ろす動作を見て理解。同じようにしていたマシュが戦慄したように藤丸の肩を掴んだ。

 

「投擲です! 信じられませんが巨人種の投擲がここまで!!」

『北欧じゃしてこなかっただろあんな攻撃!?』

『そもそもこんなに当ててこれるものかね!?』

『できるからやってるんだろうね全く!! 投擲が質量兵器とかふざけてるよ!! 

補充と投擲の役割分担までして……北欧の時より兵器として完成度を上げてきてる!』

『ぼやッとしない! ストーム・ボーダーでも直撃を何発も受けたらただじゃすまないぞ!! 

藤丸、マシュと一緒に防御を! マリーンズ船首を対岸へ向けて! 被弾を少しでも下げるんだ!!』

「了解! マシュ、盾を!」

「はい! 周辺の軍艦と共に防衛行動に入ります!」

 

マシュに盾と宝具を展開させる。スキルも合わせ、投擲前の巨人達から攻撃対象を奪って近くのイージス艦に向かう攻撃を受け止める。

彼女と一緒に盾を支え、ストーム・ボーダーへ飛んでくる棍棒や石槍や石斧を迎え撃つ。

一発受け止めるごとに肺の空気が全部抜けそうな衝撃。

魔術を限定的に使用してきた過去より今の方が数段厄介。巨人の知識や魔術の差を計算に入れない、単純に筋力だけを使った兵器運用。

 

(モルガン達は大丈夫なのか?)

 

きっと大丈夫と思いつつ、いきなり予想外の行動に入ってきた帝国の次なる手を考えると不安しかなかった。

 

◇

 

秤にかけられる命

藤丸の懸念はこの時点では杞憂だった。

配置されたそれぞれの場所でモルガンを始めとしたサーヴァント達はいち早く投擲に気づいて迎撃。

己が立つ護衛艦を含めて周囲のイージス艦にも被害を出さないことに成功していた。

飛んできた端から鎖で捕らえ、大剣で叩き落していたバーゲストは材木や石片が散らかった海を見下ろす。

 

「この質量に速度。不意打ちでは確かに有効打ではあるだろう……しかし」

 

中遠距離戦は得意分野と自らの弓と魔術で尽くを撃ち落としたバーヴァン・シーが護衛艦の艦橋屋根に降り立ち、心底バカにした表情で高笑い。

 

「こんな攻撃がサーヴァント(私ら)相手に効くか!! バァァァカ!! 

そんなことも分かんないのかしら。キャハハハハ!!!」

 

空を飛べる利点を生かし、いち早く空中で全て切り伏せたメリュジーヌ。自分以外に主砲や機銃で応戦した防衛側の戦力を見る余裕もある。

 

「僕らだけじゃない。人間達(彼ら)の対応も速い。

━━敵の指揮官がバカじゃなかったら戦う前から分かっているはず」

 

特に動くまでもなく杖の一振りで結界を張って防いだモルガン。冷たく温度のない瞳で下関側に展開する巨人と怪人に隠れたソラエルを見つけようと睨みを聞かせるが見つからない。

 

「小さな島国と言えど平らげてきた敵。力押しで済むのにそれをしない理由がある。我らと戦った四天王がいればなおの事。本命は、真の狙いは何だ? 

━━マスターは防衛に専念させて私が仕掛けるべきか」

 

見た目は少女や女性でも一線を戦い抜いてきた英霊達。

藤丸が心配するまでもなく耐え、そして敵の次に備えるだけの余裕は持ち合わせていた。

 

◇

 

「迎撃率90%越え。まぐれ当たりで小破したイージス艦が2隻かぁ……思ったよりやるね。

ちゅうぅぅぅ……あ、空になっちゃった。お代わり持ってきて~」

「はいただいま!!」

 

対岸で様子を見ていたソラエルもまたそんな彼女らを逆に見ていた。

戦場の只中で武器を振るう少女達に対して、高台の木陰で適当に拾ってきたハンモックに寝転がってドリンク片手と大部違いはあったが。もちろん戦場が見えているので敵に捕捉されれば撃たれるのに、そんな危険をまったく感じさせない態度。

隣で肩をすくめるアズエルが流石に気になった風で口を出す。

 

「ねえ。兵士たちにやる気出させたのに私達の出番まだなの? 

木偶の坊達にいろいろ投げさせてるばっかりで勝てそうにないじゃない」

「焦らない焦らない。楽しく確実に勝つのがボクのポリシーだもん」

「ポリシーねぇ……アンタ、次の日には別のこと言ってる気がするけど」

「ご主人様と姉ちゃん達が一番大事なのは変わらないから無問題! 

それに司令塔のボク達が先陣切って飛び込む必要性もないしね」

「私達が飛び込んで大暴れしてる間に巨人共が泳いで来るんじゃないの?」

「なにそのブラック作戦!? 誰も得しないし……ま、姉ちゃんも焦れてきてるからそろそろ動こうか」

「ソラエル様お待たせしました!」

 

運んできてくれた怪人に投げキッスと胸のチラ見せご褒美で応えつつ指示。

 

「んっ美味し♡ドリンクありがとね。チュッ♡

━━ついでに悪いんだけど下の人に虎戦車を出せって言ってくれるかな?」

「ははっ!! 直ちに行ってまいります!!」

 

またバタバタと走って消えていく怪人。下と言ったが山の麓まで走らないといけないので結構な距離があることを走る彼は知らない。

その慣れた男使いにアズエルが呆れたような声を上げた。

 

「だから男の扱い手慣れすぎなのよアンタは」

「元男だからね♪ 

━━虎戦車が出たらボクらも出撃だよ。お互い楽しもうね」

 

やや間の抜けた会話を挟みつつ、戦局は動き始める。

 

◇

 

マシュと一緒に投擲を防ぐことしばらく。

武器だけに飽き足らず自動車や自販機まで飛ばされてくる無茶苦茶さに驚いていると、静音性をまるで考えていない爆音を鳴らした車両が次々に対岸へ現れ始める。

その黄色をしたやたら前衛的なデザインには見覚えがあった。

 

『なんか見たことある奴出てきたぞ!』

『あのトンチキな外見の戦車は!?! ……なんだったかね。外見が印象に残りすぎて名前を覚えておらん』

『なんだいあれ? 奇抜……いや奇怪な外見してるけど』

 

直接見ることの無かったネモだけが戸惑いで終わるが、他のメンバーはまた驚きが走る。

10輪なんて論外な数のタイヤを駆動させながら現れた大型車両。

後部には大型の大砲らしい砲身を備えた戦車。

黄色いボディにヘッドには取り付けた奴のセンスを疑う虎の頭。

それは中国異聞帯にてシャドウ・ボーダーを解析した始皇帝が作り出した大型兵器。

あとダ・ヴィンチが本気でキレた因縁の平気でもある。案の定今回も一人だけ怒りの方向性と勢いが違う。

 

『多多益善号!! ロギア帝国め、よくもあんな黒歴史の塊みたいなのを……! 

キャプテン、今すぐストーム・ボーダーの全火器解放の許可を頂戴! 私の美意識にかけて一機残らず破壊しないと気が済まない!』

『ダ・ヴィンチ!? ムニエル押さえ込んで!』

 

ブリッジの方が喧しくなってくるがそれ所じゃない。

巨人に加えてあの戦車で確定だ。敵はこれまでの異聞帯の戦力を使ってきている。それもより効果的で兵器としての面だけを優先して。

対岸の道路から次々に出現した虎戦車は耳障りな騒音をまき散らしつつ爆進。そのまま海面へと次々にダイブ。

 

「元は地上用だったけど……」

『せいかーい。改造してあるからじゃんじゃか渡ってくるよ』

「ミニソラ!」

『うんうん。忘れられてないかなってひやひやしたよん』

 

逃げたと思っていたミニソラが出現して背後から首にしがみついてきた。

ぶんぶん振っても落ちやしない。

 

「この! 降りろ!」

「降りてください!」

『ケチケチしないでよ。首だって減るもんじゃないし』

「そもそもどうやってここに!」

『ボクはキミの淫紋が本体だもの。見張りさえいなかったらいつでも君の側にいられるの。

ところでボクに構ってないで戦車(あっち)見た方がいいんじゃない?』

 

示された指先では虎戦車がタイヤを水平にしてフロートのように変形。そのまま何かの推力で後ろに巨大な水しぶきを巻き上げつつ突っ込んでくる。

時速60㎞は出ているだろうか。水の上でこの短時間、始皇帝の設計方針までしっかりコピーした性能だけを優先したやり方だ。

さらに走りながら車体の天井が展開。檻のようなものに人影がたくさん詰められている。そこから防衛側に向かって何かを必死で振っている。

その正体に気づいて巨人の投擲とは別の意味で血の気が引く。

 

「アレは、人?」

 

疾走してくる多多益善号に詰められていたのは大量の(恐らく)日本人。アジア系の顔つきを悲壮に引きつらせてボロボロの日本国旗をこちらに振っていた。

老若男女、様々な年齢の人間達が車両の音にかき消されても分かる必死な顔で叫んでいる。

助けて、と。

 

「先輩、彼らは」

「……恐らくこれまでに捕まった人たちだ」

『なんということを……』

『くっ! 車体に人質を入れるなんて。どう救助すれば』

『早く迎撃しないとあの質量と衝突だ!! ボーダーだって凹むじゃすまないよ!』

 

今彼らの正体への考察は意味がない。

決まっているのは助け出さないと彼らは助からない。それに衝突されでもしたらダ・ヴィンチの言う通り、ボーダー以外の船なら轟沈しかねない。

更に状況は悪化。こちらを焦らせようというのか、虎戦車に付けられた大砲と虎の口のレーザー砲が発光を開始。狙いをつけ次第発射するためのレーザーサイトだ。

 

(捕虜を盾にしたまま戦うつもりなのか!?)

 

撃ったら日本人が死ぬぞという明確な脅迫。放置すれば軍艦が沈むどころか完全に戦線が破綻する。

しかしこちらには打てる手がない。

モルガン達に頼もうにも向かってきている虎戦車は見えるだけで10台以上。しかも何カ所かに別れている様子で、他の護衛艦の場所にも差し向けられていると思われる。

つまり今助けに動けるのはストーム・ボーダーだけ。

 

(どうする、どうすればいい!!)

 

ボーダーを横っ腹に体当たりさせる? 

魚雷で駆動部だけを破壊? 

マシュの盾で受け止めてしまう? 

必死に回した思考を引き裂いたのは聞きなれた轟音だった。

轟音━━それはイージス艦の主砲発射音。

 

「え━━」

 

金属に金属がぶつかる軽めの音、火薬同士の炸裂しあう音がして、一瞬の沈黙の後に疾走中の虎戦車が爆散。乗っていた人々も巻き込んで。

発射音に負けず劣らずな大音響が大気を叩き、火柱が見上げるほどに空へ伸びる。

海には機械油ではありえない赤色の水が濁りあい、嫌な色味を広げていく。機械部品じゃない千切れたナニカが海面に弾けてぽちゃぽちゃ沈むのがはっきり見えた。

とっさにマシュの眼を覆う。この後輩にだけは見せてはいけない。

地獄としか思えないこんな光景は。

 

「マシュは見ないで!!」

「きゃっ!? 先輩何を!」

「いいから!」

 

周囲のイージス艦は最初の一発を皮切りに次々虎戦車へ発砲を開始。

国旗を振っていようといまいと関係なくすべてを破壊し、鉄くずと肉塊に変えて焼き尽くしていく。

人が人を殺す光景。

今までも何度も見た。

それでも現代の日本で日本人が殺されるのを見るのは初めてで。

いつか帰るはずの自分にとって特別な故郷が踏み躙られ、平和の象徴が穢されていくような気持ち。日常を犯す非日常みたいな光景のギャップでこみ上げる吐き気を必死に押し殺した。

 

『ひどいねー。せっかく捕虜返還してあげたっていうのにさ』

「お前他人事みたいにッ!」

『端末のボクには他人事だし。本体のボクも何もしてないじゃない。兵器の積み荷が人間だっただけ』

「盾にしておいて!!」

『撃ったのは日本側だし殺したのも彼ら。怒られても困るよう』

『藤丸! 今そいつとの議論は後! まだ後続が来る! 

防衛側の判断が正解だ。兵器に積まれている上に今の戦力で救助は出来ない。この場で覚悟を決めて』

 

すっとぼけるミニソラに苛つくがネモの言う通り。彼女に怒りをぶつけても何も解決しない。

だがソラエルのことを許せない気持ちだけは着実に高まっていく。

同じように大人の判断を下しているだけの防衛軍への憤りも。

 

(そりゃ全員助けるなんて甘いって分かってるけど……だけど!!)

 

仕方ないから殺すのを割り切れるほど大人でもなかった。

 

◇

 

藤丸がマシュに見せないよう、盾を持ち上げてひたすらに防ぎ続ける頃。

防衛軍が人質を載せている兵器を破壊したことでモルガン達も問題ないと各自現場判断。それぞれ苦渋や退屈、事務的や哀愁など表情や思いは違う。しかしマスターと同じ人種を手にかける嫌な気持ちは誰もが同じだった。

そして藤丸の近くで真っ先に多多益善号を砲撃したイージス艦。そのブリッジでは名も無き士官が艦長に食って掛かっていた。

後ろ手に手を組みながら無表情に悲痛な面持ちで直訴する下士官を見つめる艦長。

 

「クサカベ一佐! いくら選択肢がないと言っても味方を……」

「君らは命令に従っただけだ。咎も責も私が負う」

「そのようなことを言っているのではありません! 彼らはただ助かりたかっただけ! 我々が守るべき被害者です! それを手にかけるなんて!!」

「その甘えが被害を生んだ時、貴官はどうやって責任を取る? 

あの奇天烈な戦車に爆弾が積まれ、受け入れたばかりに我々の防衛が破られでもしたらどうするのか?」

「それは……ですが!」

「理解したなら撃ち続けろ。後悔も贖罪も全て終わってからしてやる」

 

不承不承と言った体で持ち場に戻る部下を眺め、それでいいとクサカベは思う。そして今撃ったばかりに死んだ何十といた民間人犠牲者にも恨んでくれて構わないとも。組んだ手にもう片手の爪が食い込んで血が滴る。

しかし覚悟も信念も戦場では意味をなさない。

多くの人間達の悲痛な思いを嘲笑って、イージス艦の艦底から爆発音と衝撃が船を揺らした。

 

◇

 

近くの船と同じくボーダー全体にも何かのぶつかる衝撃。さらには艦後方から装甲を貫通する光が伸びて空に消え、発生した揺れで立っていることもままならない。

後ろから突き上げるようにした衝撃のせいで艦首から海に突っ込み、大波で体が持っていかれそうに。

 

『あわわわ! 揺れる揺れる~』

「くぉっ!?」

「先輩!」

 

今度はマシュに掴んでもらい事なきを得る。あと呑気な声で遊んでいるミニソラがいちいち緊張感を削ぐ。

いちいち緊張感を削いでこちらのミスでも誘っているんじゃと思うほど。

 

「キャプテン! 皆! そっちは!?」

『っ! 船底に衝撃!? プロフェッサー、ダ・ヴィンチ! 詳細を!』

『何かの攻撃を受けた……いえ受けてますね進行形でー。かなり高速の移動型、後は分析急いでますが詳細不明ですー』

『プロフェッサーの言う通りだ! 海峡の海底から何かの攻撃が次々来てる!』

『何かって帝国以外おらんだろう!』

『分かってる! とにかく機雷とかじゃないよ! 魚雷か砲撃だ! 魔力障壁も気軽に貫通してくれちゃって! 

すぐにでも迎撃に移らないとやりたい放題さ━━うわぁぁぁ!』

 

また衝撃が船全体に走る。

今度は海上を疾駆してくる虎戦車による一斉砲撃。海底からの攻撃を受けて迎撃の手が緩んだ瞬間を狙ってきた。

もちろん藤丸もマシュと一緒に盾で防ぎにかかるが数が多い。多すぎる。イージス艦側の応戦も海底の砲撃のせいで照準が定まらずにそれまでより成果が落ちる。

 

『プロフェッサー攻撃が来た方向の共有を! マリーンズ予想範囲に向けて音響探知型誘導魚雷発射!! 精度はこの際無視だ! とにかく敵の手を止めさせる!』

『アイ・サー!』

『エンジン!』

『こちら機関部! 手が離せねえんだ手短にしろ!』

『━━緊急浮上の可能性も考慮する。飛行機能への支障は?』

『最悪のタイミングだぜ畜生が! 第2エンジンが今ので撃ち抜かれた! 

出来たとして飛ぶのが限界! オリュンポスの高速飛行は出来ねえ!』

『くっ……まさかそこまで考えて』

「ネモ! とにかく俺とマシュで時間を稼ぐから━━」

「えー、出来るかな?」

 

その間にと言おうとした時、ふっと背中からミニソラの気配が消えて違う重みが乗る。ふにょんと柔らかい水饅頭みたいな感触と花に似た甘い香り。体が覚えているその特徴で正体を見抜いてはねのける。

 

「━━ソラエル!」

「はろーん藤丸クン♡」

『およ? 本体ボクじゃん。来たってことはもう勝ち確?』

 

見慣れた感じがする人好きしそうな笑顔。

クラスにいれば人気者間違いなしの柔らかい雰囲気と人当たりの良さ。

逆に首から下は娼婦だってしないような胸当てと前張りだけの露出。

四天王リリスティア・ソラエルが初めて会った時と同じくピースサインを決めた。

 

「現実だと久しぶり? 

夢でもあったからそんな気もしないね」

 

現実? 

言われると確かに最近も会ったような気がする。侵入直後の対馬で会った以来のはずなのに。

誰か、そう誰かソラエルに似たもう一人も交えて会ったことが……

にこやかなソラエルと対照的な勝気な顔立ち。

責め立てるのが好きと語ったイメージ通りの相手を搾り取るような耳舐め。

尻尾に射精させられた藤丸をバカにしたあの少女の名前は。

 

「アズエル……そうだアズエル! 俺の夢の中でお前と一緒に出てきた!」

「へぇ。思い出したんだ。思い出すの大変なはずなのに」

 

夢の中という言葉に隣のマシュがピクッと身を強張らせる。

何かあったのかを聞きたいが今はソラエルから視線を離す余裕はない。

 

「それでここに何の用だ!」

「あはは冗談キツイな~。キミ達を襲い(愉しみ)に来たに決まってんじゃん。

ここまでサプライズどうだったカナ。ボクが用意した巨人たちと改良型多多益善号! 懐かしい気持ちになったんじゃない?」

 

きっと面白がってくれただろう。そんな意図しか見えない笑いの彼女に怒りが燃え上がる。

道具の様に使われる幻獣生物たちへの侮辱。

捕虜を盾にして戦車に積んで突撃させる非道。

砲撃で爆散した虎戦車の中から飛んだ被害者たちの悲しみと戸惑いの生首を見た憤り。

その全てを彼女が仕込んだと一層の怒りが募った。

 

「お前がアレを!!」

「もちろん! 四天王サマだからね! 

でも酷いよね~。人質満載だから撃てないと思ったら撃つんだもん。驚いちゃった」

「お前が撃つように仕向けたんだろ!」

「う~ん、ちょっと違うね。ボクはイージス艦(彼ら)が撃っても撃たなくても良かったの。撃ったのは彼ら。ボクが望んだって言われると心外だなぁ。

防衛軍が撃ったせいで追い詰められてるんだよ」

『撃ったせい、だって?』

「あ、ネモ君だ。キミもそろそろこっち側の良さが分かってきたんじゃない?」

『何を言っているか分からない質問は回答拒否するよ。それよりどういう意味だい?』

「言葉通りだけど? 海底から攻撃してるのは沈んだ多多益善号さ。

━━水上走行機能しか追加してないと思った?」

 

言葉を裏付けるように再び衝撃がボーダーを震わせる。

言われてみれば海中から襲って来る攻撃の揺れは砲撃しながら突っ込んできている多多益善号のものと同じ。

つまり最初から沈められてもいいようにしていたのだ。どうにかしてこちらの防衛を崩せればそれでいいという考えで。撃たれずに福岡へ辿り着いたら爆破するなり何かする気だったんだろう。

現に後続の海上を走行する虎戦車隊は一定距離を保ったままで砲撃を繰り返している。最初の一段だけが特務隊として中に詰められた人間は使い捨てたのだ。

 

「撃ってくれたおかげで防衛ラインは乱れた。後は戦車たちと巨人の投擲でじわじわ削ればおしまいさ」

「━━そんなことにはならない。俺達は諦めない。マシュやモルガン達もいる」

「はい! この海峡を渡すわけにはいきません!」

「ふふふ。その頑張りも報われるといいね~。ボクらの戦力はこれで終わりなんて言ってないけど」

 

笑いながら大鎌を出現させるソラエル。

呼応するようにマシュも前へ。ソラエル襲来の報告だけブリッジに流して自分もガンドを打ち込めるよう待機。

 

「先輩後ろへ! ━━っ!!」

「マシュちゃんもご主人様に会った感想聞きたいナー。

(どうだった? カッコよくて、おちんぽ様大きくて、最高にオスって感じしたでしょ)」

「━━知りません!!」

「あはは! 顔真っ赤にしちゃって可愛い~」

 

振りかぶった鎌を受け止め、その拍子に何かを囁かれたマシュが顔を紅潮させて跳ね返す。

そのまま積極的にマシュから打ちかかるがソラエルには簡単にいなされ、隙を見たつもりのガンドも尻尾ではたき落される。

やはり一筋縄ではいかない。

 

「(ダ・ヴィンチちゃん。シャドウサーヴァントの召喚は出来る?)」

『(かなり厳しいね。海底の戦車隊攻撃と防御に障壁リソースを割いてる。破壊された機関の影響で魔力生成炉の調子も悪い)』

「(……っ。分かった。マシュと二人で何とかするから。モルガン達が無理しないか見てて)」

『(了解だよ。どうにかできたら私も援護に向かうから!)』

「それじゃしばらく(……)遊ぼうか2人とも♪ 

ダウンしたら相手の前でたっぷり恥ずかしい所見せちゃうから頑張ってね~」

 

ただの軽口。

気にすることの無いいつもの彼女の発言。

しかしその言葉の何かが妙に頭の中に引っかかった。

 

◇

 

幕間 バーヴァン・シー調教 触手衣装の呪い

藤丸達がソラエルの襲来を受けたのと時同じくしてもう一つ変化が起きている戦場があった。

それは西端、バーヴァン・シーが持ち場とされたポイントでのこと。

 

◇

 

「食らいなさい!」

「チッ━━あぐっ!!」

 

回避が遅れた体目掛けて振るわれる肉厚の刃。細い私の体なんて輪切りにしそうなバトルアックスを片手で振るってくる敵。

回避の時間はなくて、歯と体の間に弓を挟むのには成功。それでも鋼鉄のぶつかった衝撃が全身を貫いて、空母の甲板に仰向けに転がってしまう。

細いレーザーが何本も貫通した両足がじくじくと痛み、消費した魔力のせいで治癒がままならない。

せっかく朝セットした髪も同じくレーザーで所々が焼かれて傷だらけ。ドレスも焦げ跡と切り傷で酷い有様。

手元から転げ出そうになった弓を掴もうとして、眼前で刃に叩き斬られた。同時に目の前に降りてきて腰に手を当てた自信満々のポーズをとる女。

 

「アハハ!! 妖精騎士、三大騎士って言ってもこんなものかしら! 

━━この帝国四天王リリスティア・アズエルの前ではね!」

 

リリスティア・アズエル。

以前追い払ったソラエルとかいう眷属と同じ桃色の髪と服装をした女。痴女しか着ないような服に角と尻尾。片手で握った大鎌と同じ巻き付いた蛇の意匠を取り入れたバトルアックス。周囲には4基の攻撃端末を浮遊させたこいつに私は追い詰められていた。

 

「クソッタレが……このアバズレ」

「……あ”? 舐めた口きいてんじゃないわよ負け犬の分際で!!」

 

痛む体で嫌味たっぷりに睨んでやるとイラついた表情で顔を蹴り飛ばされた。口内に血の味が広がってマズいったらない。それでも目線は逸らさずに精一杯挑発してやる。

 

「どさくさ紛れで襲わなきゃ戦えないザコがよ。ソラエルって女にもこんなやり方しないと勝てないって思われてんじゃねえの。キャハハハハ!!!」

(お母様も戦ってるのに無様負けしたなんて言えないわ。何か手柄を立てないと)

 

この女は直接挑んできたわけじゃない。

人質満載の虎戦車をイージス艦が沈めた混乱の隙に突如出現。浮遊している端末が撃ったレーザーで足をやられたせいでこのザマだ。

ちゃんと戦ったら負けたりするものか。

なにより自分のプライドにかけてこんなクソみたいな女に心まで負けてやる気はない。

ピクッと眉毛が跳ね上がってまた怒っているのを確認。思った通り沸点の低い女だ。

このまま怒らせて作った隙で反撃してやる。あるいは油断させて敵の情報を引き出すか。まだまだ取れる手はある。

 

「……ふぅー。ダメね。また暴れたらリズエル(姉さん)に何言われるか分かんない。けどムカつくからっと!!」

 

片手でバトルアックスを振るうと甲板の横に配置された艦橋を根元から両断。当然のように傾いたそれは多くの人間を載せたまま横倒しになって船上から消えていった。

 

「アハハ! アンタが情けないせいで大事な人間がまた死んじゃったわね!! 役割も果たせないで可哀想ー!」

「テ、メェ!!」

「そうやって悔しがってるのが似合いよ━━来なさいヴェステギル!」

「ここに控えておりますわぁ♪」

 

アズエルの呼びかけに応えて海から人影が飛んできた。

紫色の肌をして頭に単眼式のバイザーをつけている以外はほとんど人間の女だった。腰まで届く長髪を垂らしているのと背丈から判断して藤丸(ザコマス)より年上っぽい。

ただ着ている服がアズエル以上に分けが分からない格好だった。

首から股間までを肌にぴっちり貼りついて覆う肉っぽい色のハイレグスーツ。胸にひし形のくり抜きがあったり股間の食い込みが際どかったりするが、それ以上に服の生地から覗く無数の触手が目を引く。

飾りとかではなくて一本一本が本当に動いている。どういうセンスをしていれば着ようと思うのか。

生前まで含めてダサさがぶっちぎりトップクラス。罰ゲームで着せられてんじゃねえのと本気で思った。

ヴェステギルと呼ばれたクソダサ女は動けない私に近寄ってきて服や体を伸ばした触手で触り、しばらくすると感嘆の声を上げた。

 

「うふふ。素材は十分ね。アタシの服で可愛いお人形にしてあげる」

「……おいアバズレ。なんなんだよこのダサ━━」

「うるさいわね。アンタに質問する権利はないのよ」

 

視界の端でアズエルの尻尾が動いたかと思うと首に先端が突き刺さる。

ダメージがあっても起こせていた体が電池を切られたように力が抜け、言葉を発するのもままならなくなってしまう。

 

「うっあ!? て……め……」

(体が、動かない。毒か何か!? これじゃ逃げることも……)

「念には念よ。これでコイツ一人じゃ逃げられない」

「承りました。それではお嬢さん、貴方のお洋服も最高の作品に仕立ててあげますわ」

 

怪人が近づくとさらに服から触手が大量に出現。手足と首に巻き付いて完全に動きが封じられる。

ぶよぶよ自在に変形する生肉が自在に動いて肌を締め付けるようなその感触。さらには表面から潤滑油か何か知らないが変な液体まで分泌して服と肌に触れる。

モースを見た時ともちがう怖気が背中から立ち上らずにはいられない。

 

(うぇ!! 気ッ持ち悪い!! この! 身体さえ動けば!!)

「━━うふふ、服の解析完了。それじゃあ全身に触手をっと」

 

なにが楽しいか分からない笑みの怪人から触手が伸ばされ、全身のドレスに先端が次々と差し込まれる。

 

(さっきから何やって……はぁっ!?)

 

変化はすぐに。

二の腕から手首まで覆う真っ赤なロング手袋。

リボンで結んだ襟首。

胸を大胆に開けてふわふわのフリルを裾にあしらってセクシーさと可愛いらしさを両立したお気に入りの赤いドレス。

中に着込んだ薄手のショーツ。

太ももから足のつま先まで形の良さを強調させてぴっちり貼りついたワインレッドのロングブーツ。

その私が身に着けた服の内側全てにびっしり触手が生まれて体に触れてきた。

 

(ひっ!! ━━コイツ私の服をよくも!!!)

 

気持ち悪さに慣れた後に浮かぶのは怒り。モルガン(お母様)が誉めてくれたこの服を勝手に改造した罪は絶対に許さない! 

しかし触手は出現しただけで終わらない。

生まれた触手たち。何十とも何百とも数えきれないそいつらが肌にべろべろと濡れた体を撫でつけるみたいに触ってくる。

手も足も胸も秘所もお尻も首もくまなく粘液を塗りつけながら触手が蠢く感覚。

 

(服の中に何本も舌が生えてるみたい……触んな気持ち悪い!!)

 

それは気持ち悪いし恥ずかしかったが、しかし私の頭の中は戸惑いの方が大きかった。

 

(侵略とか言って拷問代わりにやるのがくすぐり? 

バカなんじゃねえのこいつら。ひゃっ! ━━この程度で!)

 

目的が分からない。妖精共みたいに私を嬲り者にして弄ぶのが目的か? 

多少くすぐったいだけの行為に何の意味があるのか分からない。

 

「どうかしらお嬢さん。楽しんでいただけている?」

「どう……たのしめって……くすぐったいだけじゃない!」

「……変ね。普通ならもっと照れたり抵抗したりするのに……もしかして」

「っ」

 

触手に体を無理やり動かされてM字開脚の姿勢に。大きく開けられた股の間に怪人が顔を近づけると、ショーツから生えた触手がワレメの中を奥まで見える様に左右へ開いていく。

そこから何かを確認したらしい怪人がアズエルに向けて大きく頷いた。

 

「ああやっぱり。アズエル様、この子まだ処女ですわ」

「なんだ、アンタ処女なの? 

あれだけ生意気な口きいた割に乳臭いお子様とはね。アハハハハ!!」

(処女? 処女っていったい何のことよ?)

 

頭に疑問符だらけ。

もちろん排泄器官をさらけ出されたのはムカつくし、舐めたことしてくれるこいつらは許せないがなんでここまで大笑いしてるかよく分からない。

処女というのは人間の体の状態を示す何かなのだろうか。

しばらく馬鹿笑いしていたアズエルも私が反応しないのを思い出すと何か考えだす。

 

「そういえばソラが妖精種は人間と常識が違うとか言ってたわね。おまけに女王の箱入り娘って話だし……性知識ゼロの奴なんかいるのね」

 

◇

 

アズエルの勘は当たっていた。妖精種はそもそも生殖で子孫を残さない。死ねば同じ思考を宿した次代が生まれてくるのみ。

そのためにセックスを始めとした性行為にも遊戯以上の深い意味はなかった。体を預ける親密さの意味で恋人がいれば、汎人類史から遥かに劣っても文化に触れる機会はあったかもしれない。事実、バーゲストとメリュジーヌならばこの触手たちの辱めの意味も理解できただろう。

しかしモルガンから守られて他人は傷つけるもの、また妖精は愉しむための玩具とて愛を育まなかったバーヴァン・シーにとって性行為など全く知らない未知の事象。

おかげで今も秘所やお尻といった隠すべき部位を見られている屈辱や恥ずかしさはあっても、それ以上にアズエルや怪人が何を目論んでいるかは理解できていなかったのである。

 

◇

 

「どうしますアズエル様? 私の触手で破いてしまっても?」

「……いいえ、処女はとっておきなさい。ご主人様に捧げる方が喜ばれる。

処女は守ったまま感じさせるの。出来る?」

「もちろんお任せを。腕が鳴りますわ」

 

何かよく分からないことを言っていた2人がこちらに向き直ると、また怪人がうふふと嫌な笑いを隠さずに私の改造服に触れる。

 

「素敵な体をしているのに無知だなんてとってもレア! 貴方に快楽をたっぷり教えてあげる!」

「こんな、気持ち悪いだけで、何言って」

 

言語力が戻ってきた口で突き放しても怪人は動じない。

 

「くすぐったいのは性感に変化する下地。さっきから何も感じてないわけじゃない。

私の触手ちゃん達の液も深部へ染み込んで感じ始める頃合いよ」

「だからなにいって……んっ」

「その証拠に体は時々反応しちゃってる。もっともっと敏感な体になるといいわ」

 

ムズムズするくすぐったいだけだった感覚が確かに変わり始めている。

触手の動きが変化。ただ粘液を塗りつけるだけじゃない。

太い触手は胸を揉んだり腰の括れを掴んだりと大味な力強い感触を理解させる触り方。

細い触手はヘソの穴やお尻の穴回りやワレメの敏感な箇所をゆっくり粘液を塗りつけながら丹念に広げる触り方。

手や足にもにゅるにゅるが絡みついて指の一本までも粘液に濡らされる感覚。

そして触手たちが秘裂の突起に集まるとぺろっと舐め上げ。

 

「ひゃんっ!!」

 

くすぐったさとは明らかに違う鋭い刺激。思わず上がった声が私自身信じられない。

そして怪人も見逃しはしなかった。

 

「ようやく反応してくれた。クリトリスが一番感じるのかしら」

「はぁ? 何言って━━んんっ!」

「今触手ちゃんが触っている場所の事。クリトリスって女の感じるポイントの一つよ」

(く、クリトリス?)

 

纏った皮を剥かれ、べっとり3方から押し付けられた触手でクリトリスを舐め上げられると言葉を続けられない。

口を開けた瞬間に言語の信号が秘所で蠢く触手からの信号に上書きされて、適当に罵倒しようとしても出るのは押し殺すような荒い息だけ。

いちいち嬉しそうな顔をする怪人の反応からこの声を聞かせると喜ばすと判断。意識して言葉を発しないように気を付けるとどうしても黙って耐えるしかできない。

 

「くぅっ、あっ、ああっ!!」

 

陰核を舐められたまま全身を愛撫されると、こちらも次第に覚える感覚が変わりだす。

くすぐったい感覚の中にある体内に蓄積するほのかな熱。じっとりとした妙な熱さが体内に生まれてお腹の奥辺りにゆっくり集まっていく。

液の染み込んだ肌は敏感になり、その上を這う触手一本一本の動きが鮮明に感じ取れる。羽箒でさわさわなぞられているみたいな感じと、クリトリスを舐められる刺激をずっと弱めたみたいな刺激。

 

(気持ち悪い、悪いのに、それ以外に……違う何もない!! あるわけねえ!)

 

自慢の巨乳に巻き付いた触手に乳首をシコシコと痛まない力で擦られるとビクッて体が震えてしまう。さらに固くなったそれと胸全体へ巻き付き、よりしっかり引っ張られて刺激を強く受け取ってしまう悪循環。

 

(なんで! 私の体どうなってんだよ!)

「反応が変わってきたわね。今あなたが感じているのこそが快楽……キモチイイって感覚」

「何が快楽だ。気持ち悪いだけよ。いつまでも変なこと言ってんじゃ━━ひゃうぃっ!!?」

「そうその声!! 理性ではどうにもならないエッチな声。貴女、キモチイイって感じてるの」

 

これが気持ちいいなのか? 

妖精國で一度も体験したことの無いこれが。

認めたくないがクリトリスと乳首から感じる刺激には確かに気持ち悪さ以外がある。だが体を好きに弄られていることへの怒りと認めてたまるかという気持ちでその感情を押し殺した。

 

「次はここ。オマンコを弄ってあげる」

「お、オマンコ?」

 

どうせどこかのいやらしい名称だろうと感じて、予想をたがえることなく秘裂に触手たちが割り入ってくる。

小指より細い触手が4本パックリ広げ、膣内の入り口近くをやたらめったらに擦りだす。

 

「っ! ひぁっ!? なっ、これっ!??」

「あらぁいい声♪ オマンコの感度も処女と思えないくらいにいいのね。愛液たっぷり出しちゃって。

奥の奥まで犯して気持ちよくさせてあげられないのが残念だわ」

(声止まんない! このクソアマブチ殺したいのに!)

 

ねばねばの液が塗りつけられるたびに感じ方も変わる。襞に触れる感触に水気が混ざり、オマンコの入り口と膣内を一緒に上から下までぞりぞり舐め上げられると背筋を電流が走ったみたいに震えちゃう。

一舐めずつ感度が上がって舐められている感じ以外にも触手が分かるように。

表面がゴムみたいにぶにぶにしているのもあればブラシみたいな小さい粒に覆われたのも。

ヘソやお尻も穴を広げるようにして入り口を広げてペロペロ舐めしゃぶられる。

 

「んひぅ! こ、このテメエ! 私の体に何しやがった!! 気色悪いの塗りやがって!!」

(なんでそんなとこっ! ヘソも、お、お尻も触手で変な感じが……!)

「何もしてないわよぉ。感じやすくはしても気持ちよくなってるのは貴女自身。

体を触手に触られて気持ちよくなるのは貴女が女の本能に目覚めてきてるって証拠なの♡」

「ヴェステギルの言う通りよ。こうして指を入れて……」

「ふぁぅ!?」

「引き抜いてやれば私の指、アンタの愛液でべっとべと♡

分かる? これは触手で気持ちよくなっちゃいましたって証拠なの」

 

アズエルが私のオマンコに指を差し入れ、その刺激でまたビクッと体が痙攣。

更に引き抜かれた指を汚しているトロトロの液が私から出たものというのが信じられない。

とにかく否定しなくちゃって思った時に指を激しく出し入れされる。

 

「ふぎっ! ふっ、ふぅぅぅっ!! て、テメ、抜き差しすん━━んあぁぁあ!!!」

「触手服で全身愛撫、そんなに気持ちよかったのかしら? 

アハハ! この変態! ちんぽの前に触手の快感知っちゃって!」

「良かったわねぇ。アズエル様に手マンしてもらえて。

たっぷり触手液も塗りつけたし、そろそろイきたいんじゃないかしら?」

 

イきたい? 

また知らない単語。

戸惑ったこちらの顔を見たアズエルが私のお腹を撫でまわして顔を近づけてきた。触手が押されて肌に密着し、体の中までムズムズが入り込むような感覚。

でもそれも敏感になってきた肌ではやっぱり気持ち悪い以外にも感じてしまう。

 

「さっきから下腹部(ここ)に熱が溜まってるでしょ。それを全部爆発させて最高に気持ちよくなるのがイクってこと」

「ば、爆発……?」

「別に死ぬわけじゃないわ。例えよ例え。でもイクのが死ぬほど気持ちいいってのは本当ね。

頭の中が真っ白になってどこかに飛んで行っちゃうようなすっごい感覚。アンタも壊れちゃったりして♡

━━ヴェステギル」

「お任せくださーい♪ 

さぁ触手ちゃん達、未来のお仲間をたっぷり気持ちよくしてあげて頂戴」

「ひゃぁあぁぁあ!!???」

 

一気に触手の動きが激化。

胸を揉むように巻き付いたままリズミカルに動かれて、乳首にはキャップっぽい形の触手が取りつく。中の空気と一緒に乳首が吸われ、引き出された形に密着すると表面のブラシが一斉に振動。液を塗りこまれて敏感になった乳首の快感はクリトリスのそれと同じくらい。

ヘソの穴とお尻の穴も周囲から張り付いた触手が先端を潜り込ませ、液で感覚を研ぎ澄まされつつ出し入れが開始。秘裂みたいに感じてしまう2か所もくすぐったさ以上に熱いものがこみ上げて体を昂らせる。

 

(へ、へそもケツもぬっぽぬぽって水引きながら触手が出し入れするの……気持ちよくなんかない、ないはずだってのに……!)

 

肌を這う刺激ももう羽箒には収まらない。

脇、括れ、二の腕、手の指、足の指、鼠蹊部……全身隈無く数千の舌で舐め尽くされる刺激も快感に変じて、もう腰が砕けて立ち上がって逃げるのもままならない。

そして確かにお腹の奥の熱もどんどんと勢いを増している。今でさえも抵抗が大変なのにこれが爆発したらどうなってしまうのか。

猛烈な不安や恐怖と一握りの認めたくない感情。

 

(い、今よりもっとヤバイのが……)

「あは♡アンタ、今期待したでしょ?」

「す、するわけね━━んぐっ!?」

 

真っ赤になって否定しようとした口がアズエルの唇で塞がれる。顎を奴の指でなぞられながらキスされるとぞわぞわって驚きと変な気持ちが頭を満たす。

女同士で唇を重ね、舌が口内を跳ねまわって私の舌をたっぷり舐め尽くされるそれは未知数。

鋭い触手の刺激と真逆の激しくも甘々に頭を蕩けさせる刺激に思考が巡りを失う。

 

「んっちゅ、ちゅっぺ、ぺろろぉ、れるりゅ━━アンタのマスターも味わった淫魔の唾液の味はどうかしら? 体の中が燃えるみたいに熱くなるでしょ」

 

アズエルの唾液が食道を通って胃に落ちた瞬間、彼女の言葉通りに全身が燃えたように熱くなる。思わず息を吸おうと開けた口がまた奪われ、獣みたいに馬乗りされて貪られる。

 

「じゅる、じゅじゅ、れるろ、れっちゅ、ちゅべぇ……アンタの舌、甘くて美味し♪ 

ベロフェラで頭にしっかり刻むの。誰のおかげで気持ちよくなれたのかってね」

(だ、だめよ……イくのは、ヤバ……)

 

胸をグイグイ揉まれて乳首を扱かれる快感。

皮を剥かれたクリトリスを巻きつかれながら吸引される快感。

オマンコの浅い所をレロレロ、ペロペロ~って舐め尽くされる快感。

それ以外にも敏感になった体を数えきれない触手で舐め尽くされる暴力的快感。

じっくり整えられた快楽の種火にアズエルの唾液が油となって一気に燃え上がった。

 

「ほらイけ。イけよ。気持ちいいこと大好きなメス奴隷の第一歩踏み出しなさい!!」

 

一際情熱的に唇を奪われ、今度は舌からエネルギーを吸うみたいに強烈な吸引。

ベクトルの変わった刺激は容易く引き金となり、慣れない快感に必死に耐えていた最後のラインへ私の体を押し流す。

靴の中も満たした触手が足の指を全てクリトリスにするように激しく扱いた瞬間、頭の奥で何かが弾けた。

 

「━━━━ッッ!!!」

 

その衝撃は本当に爆発といってよかった。

胸やクリトリスやオマンコで少しずつ溜まっていた気持ちいいの塊で頭が満たされ、思考の一切が消えて真っ白に。

逃げなきゃとか目の前のアズエルが敵とかの考えも回らない。絶頂しながら絡められた舌へ無意識に絡め返し、ビクビク痙攣する肉体が触手服とアズエルに抱きしめられて頭が全て支配されていく。

 

「ちゅっぷ……キヒヒ。舌突き出してエッロいイキ顔♡」

「は……はぁぁぁ……♡」

 

抵抗できない。

イッたばかりで敏感な体をまた火で焙るように触手がこね回し、口から心を吸い出すようなキスの快感に逆らえない。

 

「━━気に入ったわ。ご主人様に捧げた後で私のふたなりちんぽの味を覚えるまで犯してあげる。触手服とちんぽで頭の中ザーメン漬けにされる快感、知ったらきっと病みつきになっちゃうでしょうね♡

ヴェステギル、ちゃんとやってる?」

「途中から良い所を全部持って行っておいて酷いですわ。でも美少女が触手服で気持ちよくなったところを見れたから全てよし♪ 

後は……」

 

まだ何か言おうとした怪人の声がかき消える。それと同時に全身を包んでいた触手服の感触が消え、元通りの服に戻る。

跨っていたアズエルの体が続けてふっ飛ばされ、甲板をゴロゴロと転がった。同じように二本近くに転がっているのは怪人の脚の残り? 

誰かがヴェステギルを瞬殺して助けてくれたみたい。

トロトロに溶けた頭でゆっくり状況を理解し始めた私の視界に広がるのは大好きな銀髪のあの人。

 

「━━何をやっている」

 

だけど冷たく私を見据えながら言われた言葉で、気持ちいいなんて忘れる恐怖が私の心をつかんだ。

 

「あ...ああ! 待って! 待ってお母さま!! 違うの! ちゃんとやれてたの! 

私は━━」

「もういい。お前は先にストーム・ボーダーに戻っていろ。

私の判断が間違っていた」

「何私を無視して話進めてんのよ!」

 

早々に復帰したアズエルがまたバトルアックスを飛びあがりながら振るい、お母様が杖で張った結界がそれを受け止める。4基の端末が取り囲んで仕留めようとするけどそれも片手間に迎撃。凍り付いて動きを止めた兵器がゴロンと転がった。

それでもアズエルは凶暴に笑って、開いた背中の翼からは魔力が吹き荒れて結界ごとお母様を押し込みだす。

 

「出来の悪い娘を持って大変ね。私にちょうだいよ!!」

「ほざいていろ。お前にやるものなど何一つありはしない」

 

結果はお母様が奴を弾き返して押し勝つ。

しかし改めて周りを見渡すと酷いことになっていた。

私が捕まって動けなくなり、艦橋も落とされた空母は既に死に体。援護を無くしたイージス艦隊も投擲と戦車の波状攻撃を受け続けたせいであちこちで黒煙が上がってしまっている。

誰が見ても配色が濃厚な状態になってしまったことを悟り、お母様がどうして怒っていたのか分かった。

 

(私が……こいつらにやられたせいで。

どうしよう……どうしよう)

 

失敗した。

またお母様と一緒に戦える場所に来たのに。

私が弱くてダメな妖精だから。

何かやれることをしなくちゃ。

これ以上お母様に叱られたくない。

せめてアズエルを逃がさないようにしなくては。

しかし弾かれたあと武器を構えてこちらを伺っていたアズエルは武器を消すと再度翼を広げる。攻めではなく逃げる目的と分かるように手を広げて

 

「━━やーめた。仕掛けはしたし、女王サマ相手だと私も無傷とはいかないでしょうしね」

「逃がすと、いいや逃げられると思っているのか」

「思ってるわよ。私よりアンタ達はマスターの心配した方がいいんじゃないの。

アレ、見てみなさいよ」

 

意地悪く笑って示された指の先。

私が守っていた西端の港からさらに北の方。

何かがこちらに向かってきている。紫色をした泥のような何かの軍勢。

さっきまで私を苦しめていた触手にも似て不定形にうねうね動く異形の生命。

その正体は━━

 

「は? ……なんであれがここにいるの!?」

「貴様ら、アレが何かわかった上で使っているのか!」

「なんだっていいわよ。使えるものは全部使っておかないとね。

それじゃ私はここで。早くマスターを守りに行かないと手遅れになるわよ。

ああでもそれってここの人間は見殺しにするってことかしら。アハハハハ!!!」

 

高笑いしながら飛び逃げるアズエル。

しかしもう構っていられない。

海の向こうからやってきた怪物。

それは妖精國に根付いた呪いの影━━モースだった。

 

「……話は後だ。ついてこいバーヴァン・シー」

「う、うんっ!!」

 

ストーム・ボーダーへ向けて海を走り出すお母様に続く。

とにかく怒られないように、嫌われないようにしなくちゃ。

 

◇

 

他の妖精騎士とも合流したバーヴァン・シーがストーム・ボーダーへと駆ける。

ヴェステギルが死んだことで触手が消えた服は一見元通り。

黒いレースの彼女の下着からにゅりゅりゅと生えた触手がいた。

 

◇

 

終戦、そして

バーヴァン・シーがモルガンと共にボーダーへ向かって走り出した頃。

ストーム・ボーダーの位置する東端の戦場でも大きな変化が起こり始めていた。

 

◇

 

マシュをサポートしてソラエルの動きを止めつつ、周辺と対岸に目を配り続ける。

 

(やっぱり強い。シャドウサーヴァントを繰り出してもあっさり対応してくる)

 

一対一でもマシュを容易く翻弄するソラエル。盾が大型なせいで攻撃も大振りになるこちらを、動き出しから弾いて止めてしまう技量の冴えが厄介だ。援護でどうにか召喚したレオニダスとヘクトールがいる間は防戦に追い込めたが、傷は彼女の頬についたヘクトールの槍の一撃だけ。勢い任せな性格に見えて異様に戦いの嗅覚がいい。

もちろんマシュも負けていない。以前は受けた不意打ちの尻尾も常に警戒。どんなダメージも受けずに食らいついている。少し過剰とも思えるほどだ。

しかし膠着状態では意味がない。

防衛線を押し返すためにはこちらからダメージを負わせないと。

妖精騎士達は無事だろうか。

西の方から敵の歓声が聞こえてきているのが特に不安を煽った。

さらに厄介な報告は連なる。

 

『西方からモースの魔力反応が多数出現! 位置からして対馬から来た援軍だ!』

『モース!? モースかね! 思い出したくもない思い出が大量にフラッシュバックしそうだぞ!』

『いやでもあれって人間は襲わないんじゃねえの? 

妖精國でそういう話だったろ』

『甘いよムニエル。地上用戦車だった多多益善号も潜水機能付きに改造されてた。モースの毒も人間に通じる様変えていてもおかしくない』

『キャプテンの想像通りだろうね。ベリル・ガットでもやれた改造なんだ。していない方がおかしい』

『あーちょっといいですかねー。割と緊急の話題でー』

『プロフェッサー? モースなら既に……』

『いえそうではなくー。東側からも巨大な魔力反応が来てますねー。それもモースの数倍規模ってレベルのが』

『キャプテンー!』

『今度はマリーンズ! なんだいモースも東からの敵も━━』

 

マリーンズが何を告げに来たか、藤丸は一足早く理解した。

マシュもソラエルさえも思わず足を止めて東から来た新たな脅威に固まる。

足元の水が一気に引かれ、ストーム・ボーダーが関門橋跡地よりも東に引きずられそうに。

 

「そ、んな……」

『津波だと!?』

『こんな内陸で!』

『ボーダー急速上昇だ! エンジン、浮遊機関始動!!』

『ッダメだ! エンジントラブル! 海底から攻撃された時の損傷が拡がって━━動けってんだよ畜生!!』

 

瀬戸内海方面から文字通りの水の壁が迫ってきていた。何キロも離れた関門海峡からでもその大きさが分かるほどはっきりした規模の。

イージス艦も脅威を察知して船を動かそうとしているがどうにもならない。

6~10m級の大津波。こちらだけに留まらず対岸の兵力も残らず薙ぎ倒してしまうことだろう。

だとしても受け入れることはできない。

 

「マシュ!! 絶対守り切るよ!! 令呪を持って命ずる!! 『皆を守って』!!」

「はい!! 宝具展開します! ━━『いまは脆き無双の城(モールド・キャメロット)』!!!」

 

ボーダーに突き立てた盾を基準に光の壁が展開。心と魔力を力にして形成される歪にポリゴン化した壁が令呪のブーストも受け、関門海峡に作られた関所みたいに両端まで壁が覆っていく。

直後押し寄せた津波が宝具の城壁に衝突。込められた激烈な魔力が突破しようと凄まじい圧力をかけてくる。

礼装の魔力回路を全て起動。マシュの宝具を維持させるために回せる力を全て彼女へ。

シャドウサーヴァントを使った後で消耗は激しく、足は立っているのだけでやっと。視界が霞み、手は震え、感じていないつもりだった戦闘開始からの疲労が一気に噴き出したみたいに全身が重くなっていく。

 

(それ、でもっ……!!)

「うぉおおおおお!!!」

 

津波を通せばストーム・ボーダーだけでなく防衛軍のイージス艦も壊滅的な被害を受ける。そんなことになったらどれほどの被害になるか。

帝国も無事では済まないだろうがこちらの方が圧倒的に大きな損害を受ける。

藤丸もマシュもそれが分かっているから宝具の維持に必死となる。

しかし。

 

「っあああああ!!! ━━え」

 

マシュの戸惑いの声に続いて突如、宝具の壁が崩壊。

崩れて消えた壁からは大量の水が流れ込み、せき止められていた分まで鬱憤を晴らすみたいな暴力的勢いで押し寄せる。

何が起きた? 

 

(マシュの宝具が突破された!?)

 

しかしそれはおかしい。彼女の身体からギャラハッドが消えてもその防御力は健在。北欧異聞帯でスルトの『太陽を超えて耀け、炎の剣(ロプトル・レーギャルン)』を防いだことから分かっている。

神話の兵器に比べれば津波などで壊れるとは思えない。

原因に思いをはせても意味がない。

目前に迫った水の壁からせめて大切な後輩だけは守らないと。

僅かに残った時間でボーダーの陰になるよう彼女を引っ張って━━

 

「━━いやいや。何いい顔して死のうとしてるのさ」

 

いつまでたっても予感した衝撃は来ない。

恐る恐る目を開けると藤丸やボーダーの周りを紫色をした球体の結界が取り囲んでいた。

そして大鎌を甲板に突き立てて守ってくれているらしいのは予想しなかった少女。

 

「ソラエル?」

「ん? 口開けちゃってどうしたの? 

ボクの唇恋しいってサイン?」

「違うに決まってるだろ。どうして俺達を」

「嫌だなぁ。キミが死んじゃったら悲しいからに決まってるじゃん」

「嘘つけ」

 

少しでも感謝しかけた自分が恥ずかしい。逃げる間もなかったから自分ごとボーダーを守ったってだけだろう。

波が通り抜け、ソラエルが結界を解除した後には想像以上にひどい光景が広がっていた。

イージス艦も護衛艦も転覆。周辺の街の建物も押し流され、磨り潰され、学校の教科書で見た大戦後の日本みたいな惨状。

 

「先輩!」

「マシュ大丈夫だった?」

「━━申し訳ありません! 私が誰よりも前で守らないといけないのにこんな、こんなことに……」

「ううん。とにかくマシュに怪我がなくてよかったよ。他に不調はない?」

 

責任を感じている様子だがこれはもう仕方ない。もちろん犠牲者にそんなことは言えないが、彼女を攻めてどうにかなるわけでもない。

目立った外傷もないことを確認して再度ソラエルを振り返ると、また楽しげに笑ってくる。

 

「邪魔な人間も片付いたし、そろそろ詰めよっか」

 

津波が来た方から再び強大な魔力の高まりを感じ取る。

はっきり口にできないが過去に戦ったことのある気配。津波の後の飛沫と世界樹の花粉で霞んだ向こうから何隻もの船が近づいてきている。

イージス艦やボーダーとも違う、もっと原始的な帆船っぽいデザインの船。大砲や帆を備えたデザインはそんなもので何ができるのかって見た目。

思い至る前に懸命に動こうと奮闘していたイージス艦が砲撃を浴びて爆散。

それを皮切りにしてあちこちで敵船から砲撃が次々と打ち込まれ、巨人の投擲や多多益善号の砲撃にも耐えていたイージス艦の装甲が容易く穴だらけにされ始める。

 

『━━っあ! 良かった。そっちも無事だったんだね! ボーダーの方も被害は軽微。でもいったい何が』

「ソラエルが守ってくれたみたいだ。コイツの思惑もあるだろうけど。

でもダ・ヴィンチちゃん、何か嫌な気配が……」

『うん。東の方向から強力な魔力反応が複数来てる!! プロフェッサーの言っていた敵だよ! 

一つはリリスティアの反応に酷似してるけど後は……』

『お、おいどうしたのかね技術顧問! 私は一番の引きで回答をお預けされるのはあまり好きではないぞ!』

『そうか。それはそうだ。攻撃に追われて気づくのが遅れた。敵が今までの異聞帯の兵器を使うなら当然使うに決まってる。ここは海の上なんだから』

「ダ・ヴィンチちゃん?」

『やられたよ藤丸君。ここに来て確実に取りに来るなんて。

敵が用意した切り札の援軍、私達が戦った中でも特に屈強で統率の取れた組織として脅威だった彼ら。東から来ているのはアトランティス艦隊(………………)だ。

そうか。児島半島の空想樹擬きから瀬戸内海を通じて……』

「━━もうそこまで仮説を立てたのね。さすがの慧眼と褒めておこうかしら、レオナルド・ダ・ヴィンチ」

 

優しい声をさせて背後に舞い降りる気配。

対馬のソラエルと同じで音もなく回り込まれ、そっと肩を抱かれる。頬をスッと撫でる指は優しいのにまるで心臓を凍った手で掴まれたような恐ろしさ。

マシュはと見ればずっと強い彼女が歯をカタカタ鳴らして震えてしまっている。

力を入れた様子もないのに2人そろって身動き一つできずに背後の人物の腕の中。

だができない。

ソラエルやアズエルに似てはいる。だが生物としてあまりに違う気配が瞬きだって許してくれない。草食動物が肉食動物に甘噛みだと言われて牙が添えられて安心できる? 

ほんの気まぐれで全て壊されてしまいそうな本能的恐怖が体を縛った。

 

(誰、何(・)なんだ。俺達の後ろにいるのは)

「クス、そんなに怯えなくてもいいじゃない。いずれ同じご主人様にお仕えする眷属になる子。私も乱暴なんてしないわ」

 

手が離れたかと思えばマシュとの間を抜けてソラエルに向けて歩いていく人影。

 

「あ、お姉様久しぶり~」

「ふふ、数日会ってなかっただけでしょう?」

「えへへ。お姉様の顔は毎日見たって飽きないもんね」

 

気安く会話して距離を話してくれたおかげで全身が見える。

藤丸よりさらに高い背丈。ヒールを履いた足元まで届いて余りあるソラエルと同じ桃色のウェーブを入れたロングヘアー。

かろうじて服だった彼女よりさらに露出を増やして乳首をプレート状のアイテムで隠して、後は腕にロング手袋をつけただけの上半身。

子宮の位置には藤丸の首と同じような邪悪に歪んだハートの淫紋を備え、胸下から足へ届くような紫色のレースの前掛け。

黒く邪悪な気配を漂わせた2対の悪魔の羽にぬめぬめした尻尾を背中に生やし、腰回りにはふわふわとした黒色のスカートとフリルを付けたブーツと一体のストッキング。

権威を象徴する刺々しい王冠を頂き、これもソラエルより1対多い角を頭に生やした女性。

 

「初めまして。君が人類最後のマスター、藤丸立香君で合っているかしら? 

私はルクスリア、淫魔聖姫ルクスリア。偉大なるナイオーロ様の妻であの方のために全てを捧げると決めた眷属たちの長よ」

 

妖しく笑ったその笑みはとても優しいのに感じるのは恐ろしさだけだった。

 

◇

 

「ルクス、リア」

「ええそう。様はつけなくてもいいわ。どうせご主人様のものになれば勝手につけるしね」

 

うふふ、と上品に可愛らしく口元を押さえて笑う姿はただの美少女。

しかし分かる。

この子はソラエル以上に危険。恐らくは津波を起こして関門海峡を一掃したのも彼女だろう。

 

「でも四天王ソラエルと同じ顔をしています。あれほどもそっくりなことが……」

「ボクとお姉様は特別だからね」

 

お互いがお互いを前から抱きしめ合い、4つの豊満な果実を柔らかに変形させながら互いの頬をなぞって見せる。

 

「私達は同じ生まれの姉妹」

「双子って言ってもいいかな」

「クローンでもあるわ」

「家族だった時もあったし」

「恋人だった頃もあったわね」

「そして今は」

「同じお方を愛する眷属同士」

「「とても仲良しな愛奴隷」」

 

示し合わせたようにお互いの呼吸が息ぴったり。

アズエルともまた違う何かの繋がりがこの2人にもある。

接触を堪能したように体を離したルクスリアが藤丸にフフっと笑いかける。

 

「あなたはよく頑張ったわ。ソラエルがまだ捕まえていないのは君が健闘したんでしょう? 

それだけで十分、ご主人様のお役に立てる才能だわ。だから早く降伏しなさい」

「何を……言って」

 

どうにか絞り出した声にも笑いが崩れない。子どもの駄々を見守る母親みたいで、慈悲深さ以上に何をしても彼女を上回れないような予感が頭に付きまとう。

アズエルはこちらが生意気な態度を取れば怒ったがルクスリアは違う。きっとカルデアを敵とも思っていない。簡単に潰せると思っている為の寛大さのはず。

 

「仲間になる子を傷つけたくないの。ほらこっちへいらっしゃい」

「違う。俺はお前達の思い通りになんか」

「あらあら聞かん坊ね。元気がある子も好きよ。ベッドの上でも長く啼いてくれると可愛いもの。

それとも不安? 自分が変わってしまうのが。大丈夫、いらない心配よ。数日、それとも数時間かしら。すぐご主人様の役に立つこと以外どうでもよくなるわ」

 

さあ、と伸びてきたルクスリアの手が藤丸の顔に触れそうになった瞬間、足元がすさまじい勢いで震える。

どこかから突っ込んできた護衛艦がボーダーに衝突したことによるもの。元々傷だらけになっていた艦はぶつかった衝撃で軋んだ音を上げ、次いでこちらを押し上げるように爆発。

爆発の勢いを受けて浮かび上がったボーダーはそのまま上昇を開始、続けて背後から伸びてきたロープが藤丸とマシュの体を固定。

 

「藤丸君、動かないでよ!」

「ダ・ヴィンチちゃん!?」

「キャプテン今だ!」

 

固定が完了するとストーム・ボーダーの船体がぐるっと180度上下反転。

ソラエルとルクスリアを一息にふるい落とした。

 

「あら? ……ふふ、可愛らしい抵抗ね」

「お姉様!!」

 

翼を広げて落下速度を落とすソラエルとルクスリアに向けてボーダーから対空魚雷が発射して炸裂。爆風と熱が彼女達を一気に引き離す。さらに球体状のアイテムが複数落下していったかと思うと殺人的な閃光と音響をまき散らして視覚と聴覚を奪う。

風の感じからすると出現したアトランティス艦隊からの砲撃が続いているようだが、落としたスタングレネードと魚雷の影響か、直撃は避けられている。

そのまま艦の体勢を戻し、雲の上までかなりの速度を出しつつ上昇。完全に追撃の手が無くなって艦内に入るとロープが解かれた。

ダ・ヴィンチがふうと息を吐き出しながら額の汗を拭う。

 

「お疲れ様。モルガン達は収容出来てるから安心してね。

戦闘敗北にマシュの宝具の不調……色々言いたいことはあるだろうけど、一先ず2人が無事なのは良かった」

「無事って、でも関門海峡は!」

「まだたくさんの人があの場にいました!!」

「落ち着いて聞いて。

まず関門海峡は落ちた。津波の前からモースのせいで戦線は西から切り崩されていたけどアレが止めだった。残っていた軍艦も全て轟沈。

対して敵は結界を張って全部凌いでたからね。ルクスリアとアトランティス艦隊がいなくても後1時間もたずに包囲されたっていうのが私達の判断。

その上で脱出強行をこっちで決めさせてもらったよ」

「そんな……」

「ルクスリア出現の時点でこちらの勝率は限りなく低くなっていた。そして生存者ももう私達以外にはいなかったんだ。動く直前でも調べたから間違いない。

冷たい判断だと思うだろうけど理解してほしい」

「……」

 

見殺しでも敵前逃亡でもない。

ダ・ヴィンチの言葉はこちらが思い悩まない為の優しさだ。分かっていても簡単には割り切れない。まだ何かできたんじゃないかって思いがグルグルと頭の中を追い詰める。

 

「……俺達はこれからどうするの。もう日本の滅びは止められないんでしょ?」

「それについてはもう決まってる」

 

真っ直ぐ示された先は南。

 

「最後に突っ込んできた護衛艦、クサカベ一佐から津波の直前に通信が入ってたんだ。『鹿児島に国民が残っている。彼らだけでも助けて欲しい。北海道はひょっとしたら━━』って」

「じゃあ鹿児島と北海道に?」

「うん。元々この国の状況をもう少し知っておきたいところでもあったから。ストーム・ボーダーはこのまま鹿児島へ向かいたいと思う。北海道に何があるかは未知数だけど調査は必要だしね。

藤丸君とマシュもそれでいい?」

「……うん。せめて残った人だけでも助けたい」

「はい。少しでもできることをしたいです」

 

◇

 

関門海峡は陥落した。

対馬から雪崩れ込んできたモースが海峡を埋め尽くした後にルクスリアによって固着化。海面だけを埋めた仮の地面にされて本州と九州が陸続きに。

勢いそのままに侵攻した帝国軍は福岡から佐賀、長崎へ進軍。防衛戦力の要が崩壊した2か所に守る力はなくあっさりと陥落。当然そこに逃げていた避難民も殺されるか奴隷になるか怪人になるか。

大分にも四国方面を監視する陸上自衛隊が前身の勢力がいたのだが、関門海峡来襲前のルクスリアが同じように津波で粉砕。遅滞戦術さえもままならない。

そんな惨憺たる境遇の中、次なる舞台は鹿児島。

九州最南端の地でカルデアを待ち受ける試練とは。

そして鹿児島へ向かう途中のストーム・ボーダーの中、相変わらず体を苛む発情に悩むネモの夢へ……

 

「な、どうやって艦内に!」

「うふふ。情報で聞いた通りの可愛い子ね、ネモ君。

お姉さんが貴方の欲望、満たしてあげるわ」

 

〈つづく〉




というわけで関門海峡陥落。
最初から戦力差がヤバいのでどうやっても正攻法じゃ勝てないですけどね。
次回は鹿児島編ですが、その途中でネモの夢を襲撃してきたルクスリアとのエロシーンを入れる予定。
タイミング的にここで堕とすのもアリですがどうしましょうかね。
内部にいる裏切り者の正体も明かすには早いけどほっとくと忘れそうだし。
後はページ次第ですがもう一人鹿児島で捕まってしまう予定であり、その次は彼女の怪人による調教と悪堕ち回。その後また本編という流れです。

ではまた次回。
マシュの宝具が何で壊れたか
バーヴァン・シーの体に残った触手服の魔術はどうなるのか。
リズエルどこ行ったとか
乞うご期待ください。

後ただの設定ですが、眷属たちのスペック貼っておきますので暇つぶしにでもご覧ください。
適宜更新していきます。
[[jumpuri:設定資料 > https://www.pixiv.net/novel/series/8010188/glossary]]
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