<注意が必要な描写>
特にありません。今回は健全です。
「やあ! よく来たな、イヴシュキナ」
イェーガーに部屋へ呼びつけられた私は、両開きの扉の前へ来た時点でうんざりしていた。中へ足へ踏み入れた時には、今すぐ回れ右をして帰りたい気持ちだった。
少女一人に対して不釣り合いな広さの部屋に、悪趣味な調度類の数々。嫌でも身分の差というものを思い知らされる。いけすかない、いかにも体面ばかりを気にする、カールスラント軍人らしい部屋だと思う。私はなるべく不機嫌な顔をして、机へ歩み寄った。入り口で私を睨みつけてきた見張の兵士にはムカついたが、こいつと二人きりになるくらいならいっそ一緒に来て欲しかった。
「喉が渇いているだろう? 飲み物を出そう。そうだ、アプフェルショーレはどうだ?」
「好きにしろ」
「わかった。では用意をするので待っていてくれ」
なんで、こいつはこんなにはしゃいでいるんだ。オラーシャの難民なんて、都合のいい肉壁くらいにしか思っていない癖に。こいつが私を気に入っている? ふざけるな。カールスラント人どもの礼儀作法なんて知ったこっちゃないが、気に入っている相手に躊躇いもなく銃を向けるやり方は気に入らない。私だけでなく、アーリャを傷付けようとしたことも許せない。それなのに、馴れ馴れしくべらべらと喋りかけてきやがって。
睨み付ける私にも構わずに、イェーガーは上機嫌で戸棚を開き、グラスを二つ持ってきた。アプ……なんとかはよく知らないが、私たちは未成年だからきっとジュースだろう。それなのにかっこつけてワイングラスなんか用意しやがって。そんなに自分が偉いことを自慢したいのか。私はますます不機嫌になった。早く用事を済ませて、こんな気味の悪い場所からはさっさと退散しよう。
「乾杯しよう。君と私の、喜ぶべき再会に」
私とこいつの初対面は三年前だ。あの寒い冬の日。絶望の最前線で、私は目前まで迫ったネウロイの一団から首都モスクワを守り抜くため、オラーシャの陸戦ウィッチとして戦った。そこへ支援に来るはずだったカールスラント陸軍の中隊は、合流前に奇襲を受けて壊滅していた。それを率いていたのが、こいつだった。血と泥に染まった冬季装備。長く伸ばされた癖っ毛。将校の制帽の下。仲間を失った怒りと悲しみ、それを上回る獣の獰猛さに爛々と光っていた瞳。
表情はとろけるような笑顔であるのに、こちらを見る青い眼差しの中に三年前と変わらぬ輝きを垣間見た私は、どきりとした。今のこいつは、男のように髪を短く切り、右頬には不気味な傷痕があり、贅沢に仕立てられた皇帝親衛隊の制服も相まって、とても同一人物だとは思えないのに。
「……乾杯」
視線を離せず、私は渋々とイェーガーの言葉に応じた。グラスを傾け、炭酸水と混ざり合った林檎の果汁が喉元を行き過ぎる頃には、奇妙な既視感も消え去っていた。私は慌てて呆けていた表情を元へ戻した。惑わされるな。こいつは、カールスラント人だ。最初から私たちを使い捨てるつもりの人間どもと、どうして仲良くする必要がある?
「美味しかったか? イヴシュキナ」
「微妙だな。どうしてわざわざ薄めるんだ? ジュースなんてそのまま飲めばいいだろ」
気を許すな。こいつは私より階級はずっと上だが、上官とは認めたくない。こいつの下に就くつもりなど無かった。従わなければアーリャに何をされるか解らないから、仕方なく言うことを聞いてやっているだけだ。私たちを助けてくれなかったカールスラント軍のために戦う理由なんて、どこにも無い。
「そうか……」
寂しげに伏せられる瞳。またしてもざわつく胸の内に、私は困惑していた。本当に私と仲良くなりたいのなら、もっとやり方というものがあるだろう。命の恩人だと言いながら銃を向け、無理やり大切な人と引き離してここへ連行した上に、半ば強引に部下にしてしまうなんて。何もかも最低の選択だ。私を物か何かだと思っているのか。悪意があるとしか思えない。なのに、どうしてそんな目をするんだ。やめろ。こっちを見るな!
「私に用があるならさっさと話せ」
「よろしい。では、早速本題へ入ろう。明日の演習についてだが――」
普段手袋で覆われているせいか日に焼けていないほっそりとした指先が鉛筆を握り、紙面へさらさらと演習場の地図を描いてゆく。その様を、私は揺れる心を気取られぬよう、努めて固い表情でじっと眺めていた。
元ネタ映画の例のシーンをにょたゆり再現しました。
ただしスト魔女世界なので言葉が通じるのと、そもそも基地の外にいるのでアーリャくんはいません。
また更新止まっててすみません。短い話だったので二話連続投稿しました。
次はニーカ×クラリッサの百合えっちを投稿予定です。気長にお待ちください!