今回はR-15くらいの内容です。
<注意が必要な描写>
・(回想シーンのみ)ロリに対するレイプ、輪姦、暴力、いじめ
・廃人化
・失語症
「お風呂に入ろうか」
いつもと同じようにベッドの上で膝を抱えてじっとしていると、彼は私の顔を覗き込んでこう言った。私は目を合わせなかった。俯いたままでも彼は私を殴らないし、ひどいことも言わない。口の利けない、飯を食って用を足す事くらいしか能のない私を、この先彼がどうするつもりなのかはまだ解らないけれど。
彼は二人分の生活費を稼ぐ為に一日中働き通しだ。おそらくそうなのだと思う。毎日ほとんどベッドから動かない生活をしているから外のことなど解らないし、目も耳もよく働かないから彼が時折話す身の上話もきちんと聞き取れない。そもそも何もかもが私にとってはどうでも良い、少しも興味が持てない話題だった。
疲れて帰って来ているだろうに、彼は律儀にお湯を沸かしては私の体を濡らした手巾で清拭してくれる。ずっとこの部屋の中に、彼の家に何もせずに居座っているだけの私は、手足を泥で汚すことはない。だから放っておいてくれて構わないのに。こんな小汚くて不気味な気持ちの悪い小娘に、どうして彼はこんなにも良くしてくれるのだろう。
答えは簡単だ。彼は私と性交がしたいのだ。どれほど穏やかな笑顔を浮かべて見せても、生活がこれ以上に苦しくなって心が荒めば、きっと彼は私を捌け口にするだろう。私を殴って、ひどい言葉を吐いて、不具の性器の中に精液を出して、気持ち良くなりたいのだろう。あの闇夜に目をひからせる、煤と欲に塗れた戦車兵たちのように。
「ほら、バンザイして」
私は目を合わせなかった。合わせないまま彼の言葉に従った。命令ではないし逆らった所で何もされないのに。鳶色の眼が心配そうに様子を伺ってくるのみだ。いくじなし。抵抗のできない女を連れ込んでおいて手を出さないなんて。
服を脱がされ下着姿になった私に、彼はいつも「ここからは自分で」と促す。けれども私がそれきり何も反応をしなくなるので、結局は彼の手によっていつも裸にされるのだった。
膨らみかけた胸とうっすらと毛が生えてきた性器を前にして、彼がどきまぎしているのが伝わってきた。私はまだ子どもだけれど、体は日々確実に大人に近付いている。大人になれば「あがり」がやってきて、私はウィッチでなくなる。ネウロイを殺せなくなった私に一体何の価値があるというのだろう。
あいつらの捌け口になっていた時は辛かったけれど、居場所があった。役目があった。だけど今はベッドの上からろくに動かず、口も利けず、ただ飯を食って用を足すばかりの穀潰しだ。彼に世話を焼かれるだけの存在。家畜と何が違うんだろう。肌寒さにくしゃみをすると、彼は「寒がらせてごめんね」と言って抱き上げてくれた。
★ ★
「髪……けっこう伸びたね」
寒々とした浴室も古びた浴槽に沸かした湯を満たせば少しばかりは暖かくなった。彼の手が腰まで伸びた髪を梳いて指先が頭皮を洗う感覚を、目を閉じて受け入れる。心地が良かった。もしかすると、このまま何事もなく穏やかな日々が続いていくのではないかと思う。こうしている間にも
――〝同志〟?幼い私を組み敷き、抵抗のできない娘を性と暴力の捌け口にしたあの獣のような男たちが?日々虐待され強姦される私を助けるどころか、「男に媚びを売る気持ちの悪い子」だと蔑んだあの氷のような女たちが、〝同志〟だと?
そんなものはどうでもいい。他の人間なんてどうでもいいのだ。私はウィッチで、ネウロイを殺す者。だからこのままだらだらとここに留まっていてはいけない。だから彼と……アレクセイと共にここにいる偽りの平穏を享受してはならない。
ちらりと視線を落とすと、色素の薄い陰毛を掻き分けて少しばかり首を擡げている彼の性器が目に入った。悍しいなどと、汚らしいなどとは思わない。裸の異性と共にいて精力的な青年である彼の体が反応しないはずがない。それは子孫を残そうとする生物の原始的な反応で、当然のことだから。学校で習ったから知っている。望まぬ妊娠はウィッチとしての寿命を縮めるからきちんと避妊を行う必要がある事も、そのやり方もちゃんと解っている。
私を組み敷いた男たちはそれをしてくれなかった。けれども私は声が出せず、痩せ細って戦う事もままならないだけでなく、何度中に精液を出されても孕まない不具であるからその必要はない。だから彼も好きに
「あ……ごめん。嫌だよね」
私の視線にようやく気付いた彼は恥じ入るように脚を閉じ、それから私に謝った。私は、「どうして謝るの」と聞こうとした。どうして何の役にも立たない私を責めたり罵ったり殴ったりしないの。どうして。開いた口からは、強張った喉からは、吐息が漏れ出すだけだった。
ばさりと湯をかけて石鹸の泡を綺麗に落としてしまうと、彼は私を抱きかかえて浴槽へ入った。溺れることがないように彼の股の間に座らされて、後ろからすっぽりと包み込まれる。「僕のことなら気にしないで」と彼は言う。「一人で入りたくなったら言ってね」と囁かれながら湯船の中で火照った肌を寄せられるのは、気持ちが良かった。ここに居たくないのに。ここに居てはいけないのに。
私は俯き、揺れる水面に視線を落とした。膨らみかけた胸と、うっすらと毛が生えてきた性器が目に入る。ああ、このままではだめだ。大人になってしまったら、「あがり」が来てしまったら、ネウロイどもを殺せない。そうなる前に、オラーシャの長い冬が終わる前にここを出て行かなくては。今夜にでも、すぐに。
「お腹空いたよね。上がったらすぐに作るよ。起きていられそうなら僕と一緒に食べよう」
けれども、優しく囁く声と体を包み込む湯の温かさ、それに後頭部に落とされるキスの心地良さに、私はがくんと項垂れてそのまま意識を飛ばしてしまった。
★ ★
「……」
目が覚めるとそこはいつもの硬いベッドではなく、古びたソファの上だった。体を起こして窓の外を見る。光の角度からして随分と眠っていたようだ。何もされていない。また、彼に何もしてあげられなかった。
がたつくローテーブルの上に置かれた紙に手を伸ばす。そこには私が昨日浴槽の中で眠ってしまい、上せたのかと心配になった事や、次の日シーツを洗うつもりだったので、ソファに私を寝かせる事になり申し訳ないという事、そして昨日の夕食が鍋の中に入っているから、お腹が空いたら温めて食べて欲しい事などが綴られていた。
彼は既に働きに出ているようだった。一人きり残された私は、今日もベッドの上で過ごすのだろう。日中外へ出たくはなかった。彼以外の人間を見かけると何かひどい事をされそうで、またひどい事をしてしまいそうで怖かった。出て行くのなら夜しかない。その前に彼に想いを遂げさせてあげなければ。
君は僕の家族だ。だから一緒に暮らそう。何処にも行かないで――夜の雪原へ消えてしまいたくなる度に、彼はいつもそう繰り返す。けれども彼の本当の願いはもっと他にあるはずだ。そう考える事で、私は彼の献身から目を背け続けた。国を守れず、仲間を見捨て、生き残るために捌け口に甘んじた私には、与えられるべきものではないと思った。
「……っ」
そっと瞼を閉じる。頬を伝う滴の意味を考えないようにして、私はざらついた座面に頬を押し付けると、再び泥のような眠りに沈み込んでいった。
ニーカとアーリャの話はこれで一段落です。
次からはカルスラウィッチの話をやります!