将軍の設定は某戦車映画ベースなので終始ふんわりしてます。ファンタジーです。
荒い始まり方をしますがなんだかんだ愛あるセックスをします。
<注意が必要な描写>
・初夜→アナルセックス
・40近い歳の差+不倫
・(モブからクラリッサへの)いじめ
・希死念慮からの自殺未遂
・某将軍が攻です お察しください
西部方面統合軍総司令部は、西欧――すなわち東はオストマルク、西はブリタニアまでを担当する、対ネウロイ戦の砦の一つだ。突如、黒海より出現した異形の使徒・ネウロイの侵攻により、欧州が陥落してはや五年。我々は未だに
三年前のオラーシャはネフェドヴォ村の戦いにて私は重傷を負った。それだけでなく、仲間のほとんどを亡くしてしまった。不慣れなオラーシャの地での、航空型ネウロイによる奇襲だったとはいえ、たった一度の戦闘で戦車中隊を壊滅させた私への追及の声は極めて厳しかった。当然である。
我が国帝政カールスラントは、質実剛健を良しとする武人の国だ。ウィッチもまた国防の要として貴ばれ、対ネウロイ戦闘員として重宝される存在である。しかし、戦場で切り裂かれ痛々しく開いた傷を何針も縫われ、まともに動くことすらできぬ右半身の痛みと、高熱に魘され朦朧とする意識の中で聞いたのは、「あんな小娘如きに戦車中隊を任せるなど馬鹿げている」「死にたがりは父親譲りか」といった、蔑みの言葉ばかりであった。
確かに、齢わずか十五の小娘が自分たちの上へ立ちあれこれ命令をしてくるのは、彼らにとって面白くないことだろう。組織の円滑な運用のためとはいえ、ウィッチの階級が本人の年齢や戦果にそぐわないものだという意見には一理ある。ウィッチの殆どが二十歳を境に魔法力を失うことを鑑みてもだ。私は無能な小娘で、仲間を守れなかった指揮官だ。責められても仕方がなかった。だが、尊敬する父を貶められたことだけはどうしても許せなかった。
私の父クラウス・イェーガーは、優秀で勇敢な機甲将校であった。祖国のために戦う父の傍らで、父と同じ戦場に立ち、父と同じものを見たいがために、私は陸戦ウィッチの道を志した。そんな父は、
遺体は残らなかった。残っていた所で還る土などありはしなかった。焼け落ち崩れ去った首都。方々へ逃れていく人々。捨て置かれるものたち。戦火を逃れブリタニアへ疎開していた母の元へ届けられたのは、ひしゃげて焼け焦げた将校の制帽と、融けて歪に崩れた突撃章。たったそれだけだった。
行かないでおくれ。一人娘のお前まで失うようなことがあれば──そう泣き縋る母の声を、ペテルブルクへ向かう汽車を待つ、駅舎の電話口で聞いた。冬の終わり。数多の命芽吹く春の日。踏み締める大地の下には数多の同胞の屍が埋まっている。ある日突如として奪われ、そして二度とは戻らぬものたち。奪われ壊された日常。
私は傷が癒えてすぐに、激戦区である東部戦線への派遣を希望した。前年の反攻作戦がいずれも失敗に終わった後、東部方面統合軍総司令部――ここはオラーシャ=オストマルクの国境線から、ウラル山脈、および東欧諸国の担当である――は、領土奪還のために積極的な戦力増強を行っていた。空には、一九三九年におけるスオムス義勇独立飛行中隊の活躍を受けて、国家の垣根を越えた組織編制の動きがあった。二年前に第五〇一統合戦闘航空団、通称〝
これから自身が向かおうとしている場所には、寒さと戦い、そして死のみが待ち受けていることを、私は理解していた。オラーシャの冬は長い。全てを氷の下に
遠い異国の地で聞かされた父の訃報に、私は終生の目標を失った喪失感と、もし祖国での任務に就いていたらすぐにその場に駆け付けられたのにという後悔に、すっかり打ちのめされてしまった。涙は出なかった。それでも私を支えてくれる同僚が、部下たちが傍らにいた。
そんな彼らを失ったあの冬の日も、やはり涙は出なかった。額から頬、唇にかけて、ネウロイの破片によって抉り取られた傷は、私からあらゆる感情を奪った。今は少しの引き攣りを残すのみである傷痕も、あの頃はほんの少し口元を動かしただけでも激痛が走った。話すことはおろか咀嚼すらままならなかった。また怪我の後遺症なのか、何を食べても血と硝煙の残滓が香って、私は度々苦労して嚥下した物を吐いては台無しにした。
痛みはやがて和らいだ。そして深い絶望は烈しい怒りへと転じた。失態を演じた上に感情に任せた無茶な戦い方を繰り返し、ついには軍規に触れるようなことすらしでかすようになった私は、とうとう組織へ居られなくなった。拒絶と追放。秩序を乱す者に対する当然の罰だった。
そんな私に皇帝陛下直属の親衛師団への異動を斡旋したのが彼の人であった。彼は私がこの世に生を受ける以前の、第一次大戦の頃から軍人として活躍しており、機甲戦と無線技術に明るく、皇帝陛下からも一目置かれる存在であった。
彼はかつての部下であった父の死に心を痛め、娘の私に何かと気を回してくれた。しかし私は、陸軍の重鎮である彼が中隊を壊滅させ、軍規に逆らい、同僚だけでなく上官にまで不遜な態度を取り続ける
私のような人間と懇意にしていれば、彼の輝かしい名と生き様に大きな瑕が付いてしまう。彼は父の様に私を見守り、導き、叱り、そして認めてくれる。心の底から渇望するもの。腕を伸ばせど決して手に入れられぬもの。早く忘れてしまいたかったのに。だから――彼に優しくされるのはいつだって辛かった。
★ ★
ここに派遣されてからも、彼と私の交流は続いていた。定期報告など他の手の空いているウィッチに任せれば良いものを。彼はたびたび私を司令部へと呼びつけては、決まってコーヒーと茶菓子を振る舞う。定期報告は表向きの口実に過ぎず、本当の目的が私と顔を合わせて話をすることなのだろう。
もはや顔馴染みとなった彼の副官はいつも優しげに私を迎えてくれる。愛想笑いくらいすれば良いのに、私はいつも硬い表情のまま暗い廊下に佇み、副官が扉を開けるのをじっと待っていた。きっと愛想がなく生意気な、頬傷の不気味な小娘だと思われているだろう。
ふと彼が常々言って聞かせてくる言葉を思い出す。「すぐ隣にお誂え向きの〝手本〟がいるだろうに、なぜお前は学ぼうとしない」――いつも私に付き従い、職務の補佐から身の回りの私的な世話へ至るまで全てを完璧にこなす、忠実なる私の副官。おっとりとした、いかにも
初めは頬の傷痕を怖がってか、上官の私から視線を逸らした彼女のことを、所詮は親衛師団の箱入り娘に過ぎないのだと侮っていた。彼が私の世話を焼かせるために寄越した〝お目付役〟だと、冷たく突き放した時期すらあった。しかし彼女の勤勉さには目を見張るものがあったし、ウィッチとしての能力も申し分なかった。
何よりも彼女は、とても優しかった。ひどいことを言って何度か泣かせたことすらあったのに、彼女は他の人間たちと違って、私の傍から離れてはいかなかった。もしも私が、彼女の様に純粋で穢れのない真っ直ぐな人間であったのなら。私も彼女の様に上手く笑えただろうか。
招き入れられた部屋で、彼は普段通り晩酌をしていた。私を見るなり、彼は酒瓶やグラスなどはさっさと片付けてしまい、それから副官にコーヒーと茶菓子の準備を言いつけるのだった。将軍閣下を前に〝要らない〟などと無礼な言葉を口にできるはずもなく、私は居た堪れなくなってそっと視線を逸らした。〝要らない〟というより〝止めてほしい〟といった方が正しい。あの日失った味覚は二年経った今でも元へは戻らず、何かを口にするたびに不快な感覚ばかりを生んでいた。私にとって、最低限の命を繋ぐ以外の飲食は苦痛そのものだ。楽しめるわけがない。何より辛いのは、彼の気遣いを無碍にしてしまう己の弱さだった。
隣に控えた副官より手渡された資料に目を通す彼の前で、私は普段通りの定期報告を滞りなく済ませた。副官の手前もあってか、彼はこの時ばかりは一人の軍人として私を扱ってくれる。常にそんな関係で居られたのならどれほど気楽だろう。それ以上の関係など必要ないし、求めてはいけないのに。
「母君は息災であるぞ。顔を見せてはやらんのか」
「……
コーヒーであるはずの温かい液体を口へ運ぶ。それを含んだ途端、じわじわと広がる不快な感覚につい顔を歪めそうになるのを必死に堪えながら、ぎこちなく飲み下す。母とは手紙のやり取りはしているが、頻度はあまり高くない。南リベリオンは遠い。ブリタニアから北大西洋を経て数ヶ月の船旅となる。軍事基地への郵便物は何かと検閲が厳しい。何よりの原因は、私が返事を滞らせがちであるからなのだが。
これ以上将軍閣下のお手を煩わせるわけにはいかない。私は何度も訴えたのだが、彼は私の代わりに、私よりも高い頻度で母に便りを出してくれていた。「手続きは全て副官に任せてあるから気にするな」と豪語する彼の前で、私は苦々しい気持ちを薄い笑みの下に隠すしかなかった。
ブリタニアを経由して他のカールスラント人たちと共に南リベリオン大陸に位置する新首都ノイエ・カールスラントへ移ったものの、あちらに頼れる知り合いがいない母が暮らしていけているのもまた、彼の支援があってこそだ。解ってはいるけれど。解っているからこそ、彼にどんな顔をして会えば良いのか解らなかった。
「それに私をここへ留め置いたのは貴方の判断です。将軍閣下」
そんな、彼の好意を踏み躙るような行動を繰り返す自分にほとほと愛想を尽かしていたからだろうか。とはいえ最も言ってはいけないことを口にしてから、私は「しまった」と思った。心の中では何度思っていても、決して口に出してはならないものだとは解っていた。ああ、だがこれで彼に見放してもらえるのならば願ってもない話だ。その夜の私は、ひどく自棄っぱちになっていた。
「クラリッサ。今の言葉聞き捨てならんぞ」
「ですが事実です。私はただ閣下のご意向に従ったまでのこと」
そう言い放ち頬を張られることすら覚悟して、私は感情を削ぎ落とした表情と声色で続けた。顎を僅かに傾け見上げた彼の顔は怒りと失望の色に染まっていた。母には悪いことをしたと思った。だが今や私は親衛師団の大佐で、左遷されたとはいえ軍事施設の運用を統括する立場の人間である。彼からも、私の仕送りのみで何不自由ない生活を送れていると聞いているから、彼の庇護が失われたとて何の問題もない。敬愛する父が世話になった人間へ対してあまりにも不誠実な態度であると、頭では理解はしていた。
父はかつて、彼に戦車兵としての才を認められ取り立てて貰った立場であり、私も陸戦ウィッチの道を志したことから、彼とは家族ぐるみの付き合いがあった。しかし、それはもう二度と戻らない、過ぎ去った昔の話だ。父はベルリンで死に、母はノイエへと発った。一人ここに残された、否、しがみついている私は、勲章と階級だけはご立派なただの無能な小娘に過ぎない。どうなってもいい。はやく消えてなくなりたかった。
どんっ、と彼が拳で机を叩く音に、びくりと肩が跳ねた。突然の物音に驚いただけだ。他意はない。気性の荒い彼がときどき部下へ体罰を行なっていることは知っていた。彼が愚かな進言や腰抜けの提案をした者の胸倉を引っ掴み、殴りつける場面を何度見てきたことか。
私は女だが、一人の軍人であることにはかわりがない。遠慮など要らない。覚悟ならばとっくに出来ている。副官は彼の指示で席を外しているから制止に入る人間などいない。厳しい懲罰を与えるならば丁度良い環境だろう。しかしながら、彼は私を睨み付けるだけで何もしなかった。
やがて彼は大きくため息を吐き、とうとう私から視線を逸らした。やっと見放されたのだと思った。火急の用がない限り、今後ここへ足を運ぶ必要はなくなるだろう。吐き気を堪えながら、味のしないコーヒーと茶菓子を平らげる苦行を強いられることもない。信頼を積み重ねるのは容易では無いが、裏切るのはほんの一瞬で事足りる。今の私ならば、それを痛い程に理解できた。
──「立て」。そう命じられた私は、言われるがまま席を立った。何を言われようと従うつもりだった。私の皇帝親衛隊入りは、彼が手を回したとはいえ彼の一存ではない。謹慎等の処分はあってもすぐに追放されるようなことはないだろう。副官には、ヒルダには迷惑を掛けるが、数ヶ月に一度、責任者である私が基地を離れている間、代理を務めるのは彼女である。適切な運用のなされていない定期報告が、私だけでなく彼女にも負担を強いていることを鑑みても、この判断は正しいのだと思った。正しいと思いたいのに、胃に差し込むような痛みが走るのはどうしてだろう。
伸びてきた彼の腕が齎したものは、手ひどい体罰などではなかった。そっと頬に添えられた指先の熱に、私はひどく戸惑った。取り繕う余裕もなく、眉を潜めた怪訝な表情をそのまま彼の前へ晒すほかなかった。
「貴様、そんなに死にたいのか」
発言の意図を図りかねて、私は縺れる思考を巡らせた。内容とは裏腹に脅すような口振りではなかった。呆れ返った表情は、「死にたいのならどこへでも行ってしまえ」と、私を突き放す想いから来たものだろうと推測した。運が良ければ、厄介払いだと前線送りになるかもしれない。もう一声、何か彼を怒らせるような内容を紡ごうとした私の唇は、囁き掛けられたその言葉に凍りついた。
「クラリッサ、お前は優秀だ。それ以前にお前はわしの娘同然の存在だ。なればこそ、御節介な父の忠告を今はどうか聞き分けてはくれないか。なあ、〝リッサ〟よ」
「……もう、お止め下さい」
震える声で、私は拒絶の意思を示した。体罰よりもずっとむごい、あまりにも屈辱的な仕打ちだと思った。心の底から絶望し、失望した。ようやく一人前のウィッチとして、カールスラント軍人として認めてもらえたと思っていたのに。彼もまた、私を所詮ただの小娘だと見做しているようだった。
縋るような口振りで懇願するその姿には、私のよく知る、勇猛なカールスラント機甲師団を統べる、厳格にして苛烈なる装甲兵総監の面影はどこにも見つけられなかった。彼をそのような姿にしたのは私の至らなさのせいだ。彼の存在を歪ませ、貶めたのは、他でもない己なのだ。私は嘔吐きそうになった。
彼は何も言わず、しかし頬に添えた手を離してはくれなかった。父親のつもりならば、いっそ殴りつけて叱ってくれたのなら。聞き分けの悪い娘を、きついやり方で糺してくれたら良かったのに。彼の、いかめしい普段の姿から凡そ想像もつかないような途方もない優しさを、こんな形で知りたくはなかった。わがままだとは解っていた。
「子ども扱いをなさらないで下さい、閣下」
もうここに用はない。一刻も早くこの場から立ち去りたかった。惨めな気持ちだった。ようやく手が離れてゆき、ようやっとこの場から解放されるのだと、私は胸を撫で下ろした。だから制帽を取り払われ、露わになった額にされたその行為の意味が、何一つ理解できなかった。
柔らかな感覚と、ちゅ、と吸い付く音。顔を離されてからようやく何をされたか理解した私は、頭に血が上るのを感じた。怒って見せようとした。けれども胸を締め付ける不可解な感情に戸惑った私は、二度目の接吻を許してしまった。
「……なら、お望み通り大人扱いをしてやろう」
冷たく低い声と獰猛な眼差し。耳元で囁かれた言葉に背筋がぞくりとした。それは一体どういう意味かと、解りきったことを問い質そうとする私に背を向けた彼は、両開きの扉へ歩いてゆき、ガチャリと鍵を掛けた。早鐘を打つ胸が、ここに居てはいけない、ここは危険だと警告している。
裏腹に私の頭は冴えていた。言って解らぬならば、体で解らせてやるということか。どうせ〝あがり〟の近い、名ばかりの大佐だ。瑕物にされたとて……いや。既にこの手は血に塗れて、心も体も傷だらけだ。今更何を気にすることがある?
「脱げ」
言われるがまま、ソファに体を沈めた彼の前に立つ。そのまま出方を窺っていると、彼は耳を疑うほどあけすけな言葉を吐いた。私は息を飲んだ。これはきっと試練なのだと思った。彼はきっと、私が怖気付いて自らの過ちを認め、無様に許しを乞うのを待っているのだ。
かたくなに払い除け続けた庇護の腕が、暴虐と好色を与えるものへと変貌してゆく。ちらりと視線を合わせたが、彼の顔からは感情が欠落していた。得体の知れなさが余計に恐怖を煽った。生意気な小娘を自らの立場と腕力を以て捻じ伏せ辱めようとしているのに、それを愉しんでいる様子もない。
どうせ傷だらけで痩せぎすの、色気の欠片もない体だ。異性の前に晒すくらいどうということはない。もはや恐れることなど、何も無いはずなのに。
なのに、この指先が震え縺れるのは何故だろう。首元を飾る綬と騎士鉄十字章はまるで首輪の様だと常々思う。私を前線から遠ざけ、飼い殺すための桎梏。戦場へ駆け出していかぬよう閉じ込めておくための檻。皇帝陛下の御眼鏡に敵うよう、選りすぐられ整えられた理想のかたち。
「なんだ、震えておるのか?」
「震えてなどおりませんッ!!」
ため息混じりの声に被せるようにして叫んだ私は、引き抜いたベルトを投げ捨て、ボタンを外し終えた野戦服を脱ぎ捨て、僅かな躊躇いの後でブラウスのボタンも外した。肩幅に足を開き、ぐっと胸を張って堂々と立つ。侮られたくはなかった。彼は短気で口も手も早い質であるはずなのに、こんな時に限って辛抱強くあるのはずるいと思った。厳しいのは見せかけだけで、その実は優しく在ろうとする空虚な振る舞いが許せなかった。こんな私に優しくしないで欲しい。願わくば、手酷く罰して欲しい。
「大きな声を出すな。姦しい」
呆れ顔をされて歯噛みをした。これでは駄々をこねる子どものようだ。胸を覆う下着も取り払ってしまい、それからタイツに手を掛けたところで、「もういい」と言われた。ならば気恥ずかしさから肩に引っ掛けたままにしていたブラウスを床へ落とそうとした私は、急に目の前で立ち上がられて驚きまごついた。その隙を狙って、伸びてきた手を露わになった胸に当てられた。
私は思わず悲鳴を上げ、身を固くした。普段、他人に触れさせない場所に直に触れられたのだから驚いただけだ。そう自らに言い聞かせるも、肌の上を行き来するその動きに、妙な気持ちが生まれてきてしまった。当然だと自分に言い聞かせた。私は彼に性の対象として見られているのだから。奥歯を噛み締め、堪え抜くつもりでいた。
「そう緊張するな。お前はもう子どもでは無いのだろう?」
「不慣れな、だけです」
「しかしだな……大人の物にしては、些か平坦が過ぎるのでは無いか?」
最低だ!そう吐き捨てて舌打ちしたかった。年頃の娘に掛ける言葉とは思えない。だが、戦車乗りに女性の扱い方など求めてどうするのか。女好きな、軽薄なロマーニャ人でもあるまいし。ひどく扱われることを期待していた癖にと、蔑む気持ちは自身へも向いた。
私は自身の発育について、身長が伸び悩んだ以外は気にしたことなどなかった。否、気にしないようにしていたのかもしれない。新たな命を産み育てるのもまた、戦時の女の役目なのだと教わってきた。だが厳しい戦況の中で未来について考える余裕など無かったし、質実剛健たるカールスラント軍人にして、純潔を良しとされるウィッチで在ろうとする努力の中には、色恋沙汰の類が割り込む余地など無かった。いっそ、戦場で散るが本望と自らに言い聞かせていた。
それが今、彼の挑発に乗る形で異性の前へ体を晒している。この先に待ち受けるものは性交渉以外の何物でもないのに。それも上官の、妻子持ちの男との許されざる行為だ。突如、自分のしようとしていることがとても悍ましいものに感じられて、私は吐きそうになった。足の震えが止まらなかった。
「ンぅっ!くっ……」
乱暴に揉みしだかれる動きは、ただ痛くて不快なだけだった。きっと捌け口としてひどく扱われるのだろう。惨めさに泣きたい気持ちにさえなっていた私は、彼の指先に敏感な場所を探り当てられ、びくりと肩を跳ねさせてしまった。
「ふ、あっ!?」
そこが快楽を生む場所だとは知っていた。戦いは何かと心身が高揚するものであるし、前線を離れて久しい今も、その昂りは時折名残惜しく燻っては、振り払えない劣情を連れてきた。単なる体調管理だと自らに言い聞かせ、誰に教わったわけでもないが自然と身についた拙い手付きで、仕方なく欲を解消する夜もあった。
それは睡眠時間と体力を削る行為であるから、手っ取り早く済ませたかった私は、性器にしか触れてこなかった。しかし最中、寝着の裏地に胸が擦れるたびに切ない気持ちになったことを思い出す。私は興奮しているのだろうか。上官に、懲罰として辱められているのに。
「随分と感じやすいのだな。普段からいじっておるのか?」
嘲笑。侮蔑。せめておかしな声をあげないように奥歯を噛み締め、私は首を横へ振った。吹き出してくる汗が止まらず、衣服がじっとりと濡れていく感覚が気持ち悪かった。布地を濡らすものが汗だけで無くなってきていることから必死に意識を逸らそうとした。しかし、形を確かめるように軽く触れるだけだった動きが、指の腹でころころと転がしたり、摘んだり、いやらしく弄ぶようになってくると、いよいよ隠し通せなくなった。
「あ……ん、ぅっ!はあ、あっ……やあぁっ!」
下腹部に切ない刺激が生まれてきて、内股を擦り合わせるのがやめられなかった。ぐっしょりと濡れたズボンがタイツへ恥辱の染みを広げるのも、時間の問題だろう。ただ胸を触られているだけなのに。これでは、経験のない初心な小娘だと喧伝しているようなものだ。身を捩らせ逃れようとしてみても、固くなったそこを親指で弾かれるようにされると堪らない。声が出てしまう。体が反応してしまう。
いやだと口にしようとした唇は、強引な接吻に封じられた。捻じ込まれた舌は煙草と酒の味を纏わせたまま、無遠慮に敏感な粘膜をいじくり回した。息苦しさも相まって頭がくらくらした私は、つい目の前の体へ腕を回して縋り付いてしまった。拒絶しなければならないのに。いや、これは私を断罪する行為であるから受け入れるべきなのか。何もわからない。されるがままに腕を、舌を彼に絡めた。
「リッサ……綺麗に、なったな」
ようやく唇が離れていく時に、彼はじっと私の瞳を見、表情を綻ばせた。吐息混じりの声。理解し難い言葉。私は目を見開いた。自分の弱さから目を背け、優しく差し伸べられる手をかたくなに払い続けた心。狂ったまま治らない味覚。女らしい丸みも柔らかさも何一つ持たない、見すぼらしく痩せ細った体。顔の右半分に刻まれた醜い傷痕。強さの意味を履き違え、過去を、自身の性別すら否定するように短く切りすぎた髪。
違う。そんなわけはない。それは私を形容する言葉として相応しくはない。取り下げてくれと懇願するように泳がせた眼差しの前で、彼は残酷な微笑みを崩さなかった。幼子のようにぎゅっと握りしめていた布地から離し、咄嗟に体を隠そうとした腕を、手首を掴まれてやんわりと剥がされた。「もういい」と首を振られた。──〝もういい〟?よくない。いいわけがない。目頭が腫れぼったく熱を持ってくる感覚。涙はまだ、溢れない。
ふたたび唇を重ねられる。葉巻の甘い香り。ふわりと揺れる煙の先に、私は懐かしい背中を垣間見た。クラリッサと、揺らめく輪郭が私の名を口にする。立派に蓄えられた髭の下でパイプを咥えた口元が、〝リッサ〟と、優しい声で名前を呼ぶ。かつて傍にあったはずのぬくもり。私は瞳を
「泣いていい」
「今更、流す涙など」
「許可する」
まなじりをそっと拭う指先は、逞しい武人のかたちをしていた。そういえば副官にも、ヒルダにも同じことを言われたのを思い出す。軍人に涙など不要だ。真っ先に削ぎ落とすべきものだ。それなのに、どうして私の身の回りの人間は、私に涙を流すことを求めるのだろうか。そんなものはとっくに枯れ果ててしまった。
「ああっ!……はあ、はあッ、閣下」
「……クラリッサ」
屈んだ彼に胸へと顔を埋められ、痛いほど勃起した乳首を舌先で突かれ舐られる。口髭が擦れただけでも火照った肌はぴりぴりと痺れ、しきりに快楽を生んだ。あたたかい。気持ちがいい。回した腕の中に確かにあるぬくもりに私はきつく目を瞑って感じ入り、それからがくりと膝を折って気を遣った。
★ ★
胸だけで上り詰めて腰を抜かしてしまった私を、彼は優しく横抱きにしてベッドで運んだ。仰向けにされて接吻を落とされる。額へ頬へ、それから唇へ。しかし、彼は痕を残しはしなかった。代わりに傷痕を舌先で辿られた。そこは肌の薄くなった分だけ敏感になっていて、堪らなく擽ったかった。
「ふぁあ、うぅっ……閣下、あぁっ!」
覆い被さってきた男に乳首へ吸い付かれ、痩せた体がびくびくと痙攣を繰り返す。妻子持ちの上官が貧相な小娘の平坦な胸を愛撫しているという、あまりに倒錯した状況に、気がどうにかなりそうだった。口の中へ含まれ、舌で突かれ、包まれ、扱かれて。丁寧にもう一対も同じようにされて、上り詰める寸前まで追い立てられ、高められた。
肩で息をする私に、彼は何度目かの接吻をした。私が苦しくないように、それは触れ合うだけのものに留められた。彼の分厚い体の下で、私は与え続けられる快楽と寵愛をただ享受し続けた。離れた唇はやはり痕を残さぬ強さで押し当てられ、脇腹に、臍に、下腹部に、じんわりとした熱を生んだ。
期待を膨らませてぐっしょりと濡らしてしまった場所を見られたくなくて、私はぴったりと脚を閉じて拒んだ。触れられたなら、きっと歯止めが利かなくなってしまう。今も彼の目の前だというのに、しきりに内股を摺り寄せては、微かな快楽を得ることをやめられない。「見ないでください」と顔を覆った腕は、すぐに払い除けられてしまった。その間にも火照った肌をなぞる舌先は、いよいよ秘められた場所へと至ろうとしていた。
「わしばかりにさせるつもりか?クラリッサ」
彼の手によって恥ずかしい秘密を暴かれてしまう恐れと期待に打ち震えていた私は、急に体を離され戸惑い、閉じていた瞳を開いた。抱き起こされてされるがままに身を預けると、手を取られて甲に口付けをされた。それだけならば、まるで御伽噺の忠実なる騎士のようだと、夢見がちな乙女のようにうっとりと目を細めることもできただろう。そのまま手を持って行かされた場所は、彼の体のうちで最も熱を持った部分だった。
「な、にを……あっ」
「期待しておるのは決してお前だけではないのだぞ、クラリッサ」
心なしか上擦った声でそう言って彼は、振り解くことを許さぬ強い意志で私の手をそこへ触れさせた。色気の欠片も無い生意気な小娘が、無様に善がって乱れる醜態を前にして、なぜそこは反応を示しているのだろう。孕ませるべき女体を前にした当然の生理現象なのだろうか。
張り詰めた男の性器は、窮屈そうにズボンの布地を押し上げて存在を誇張していた。はっきりと姿を目にせずとも、布越しに触れる手でその硬さと巨きさを感じ取った私は、ぶるりと身震いをした。腰が痺れて揺れてしまう。これが、欲しい。
言われるがまま震える指先でベルトを外した。ズボンの留め具を外しジッパーを下ろすと、心臓が口から飛び出てしまいそうになった。ほんの少しでも下着をずらせば。彼の物が、目の前に。
慄き先へ進めない私の前で、彼の手が焦ったそうにそれを取り払った。邪魔な覆いを取り払われてようやく姿を現したものから、私は顔を背けないように努めた。成熟した男性器の、性交渉のために勃起した様を目の当たりにして、ごくりと唾を飲み込んだ。それは私が思っていたよりもずっとずっと巨きかった。記憶の彼方、幼い私が風呂場で何度か目にした父のそれとは、全く違う。男性のそれが、性交渉の為に姿を変えることは、知識としては知っていた。けれど、大きさだけでなく形までもが、まるで別物のように変わってしまうなんてことは知らなかった。経験はおろか恋すら知らない小娘に、そんな知識は無かった。
とても手に負えないと怖気付く私に、「手でして見せろ」と彼は言った。やり方など分かるはずもないのに。やがて「わしの言う通りにしろ」と手を取られ、彼の声と手によって導かれる。教えられた通りに手で輪を作り上下に動かしているうちに、ますます膨らんで、びきびきと血管を浮き立たせてくるもの。もっと強く。もっと早く。そう声をかけられ、両手でそれを支えて無心に動かした。少しも上手くできている自信がなかった。私はこれまでも、何度も彼の期待を裏切り続けてきた。今度こそは上手くやらなければ。
顔を近付けると、饐えたにおいがした。けれど私はそれを厭だとは思わなかった。ありのままの彼に触れられることができて嬉しいとすら思えた。使い込まれた百戦錬磨の砲身。彼がしてくれたように、私は唇でそこへ触れた。
やめろと言われた気がした。けれども、たとえ「浅ましい真似をするな」と言われたとしても、されるがまま言われるがままは癪だった。手で触れて良いのなら舌でしても構わないだろう。私はそれをなんとか口に収めてしまおうと、握り込んだ物を咥え込み、無様に咽せた。
「何故わしの指示に従わない」
「申し、訳……けほっ、御座いません……」
顎を掴まれて叱責された。出過ぎた真似をしたことを詫びれば、「そうではない」とぴしゃりと言い放たれ口籠るしかなかった。閉じた口の中には舐めとった体液が残っていて、青臭かった。男のそこが射精の前に濡れることなど知らなかった。粘ついたこれは、
「そんなにこれを舐めたいのか?」とあけすけな問い掛けをされて、適切な回答を見つけられなかった私はこくりと頷いた。初めてだからと気を遣う必要などないのに。なら口に入れる必要はない、先端を舐めるのみで良いと返され、不本意ながら従った。彼は呟く様に、お前を苦しめるつもりなど少しも無いのだと零した。本当にそうなら、なぜ彼は私を見限らないのだろう。
「んっ……ふぅ、は、あっ」
「悦いぞクラリッサ。その調子だ」
手の動きを早めると、どくどくと脈打つそれはさらに濡れて、舌先に粘つきを纏わせた。ちゅっと吸い付いて、それが下へ滴っていかないようにする。だが試み虚しく、私の唾液と混じり合ったそれは、彼のズボンやシーツを汚してしまった。広がる染みに、ふと下半身の惨状を思う。未だに触れられないそこが、ずくずくと疼きを訴えていた。一度考えると歯止めが利かなかった。忙しなく腰をもぞつかせながら、私はペニスに齧り付くようにして奉仕を続けた。
やがて、「もういい」と言って腰を引こうとする彼の前で、厭だと横へ振り続けた顔へと絶頂の熱りが浴びせられた。びくびくと跳ねる雄は尊い子種を散々に無駄撃ちして、本懐を果たせぬままに元の大きさへと戻った。その一部始終を、私はぼんやりと見つめていた。
擦り合わせた股の付け根がじんじんと痺れている。軽く果ててしまったようだ。「済まなかった」と差し出したハンカチで甲斐甲斐しく白濁を拭ってくれる彼の手つきは優しく、私はじっと目を閉じてそれを受け入れ続けた。
★ ★
すっかり顔や手を拭き清められた私は、再びベッドへと倒された。粗相をしたように内股まで濡れたそこは、そっと指先を添わされるだけで快楽を生んだ。タイツの上からかたちを確かめるように触れられるだけで、絶頂してしまいそうになった。いよいよ彼と交わることになるのだと思うと、恐怖が期待を上回って、カタカタと全身が震えた。これは懲罰だ。いや懲罰などではない。そんなこと、とっくに理解していた。
恐ろしいのは、彼の優しさに寄り掛かることで、一人でじっと堪え忍び保ってきたこれまでの自分を失ってしまうことだろうか。それとも、彼にこのような判断をさせてしまったことだろうか。拒むチャンスはいくらでもあった。それをしなかったのは、心の底でずっと彼を求めていたからなのだと思った。私は、本当は誰かに縋りたかった。揺るがぬ強い存在に頭を撫でられ、大丈夫だと言われたかった。弱さゆえ、未熟さゆえに重ね続けてきた罪が償えないことは解っている。せめて「ここに居ていい」と言われたかった。父を失い、仲間を失い、果ての大地で一人ぼっちになったあの日から、ずっと。
全身を強張らせてきつく目を閉ざす私を見かねてか、彼は指先を離してしまった。子ども扱いは厭だと言った癖に、いざ性の対象として見られると恐ろしくて堪らなかった。彼が、私に乱暴をすることはないとは解っているのに。彼は普段の短気を押し込め、努めて丁寧に労わるように触れ続けてくれている。「大丈夫です」と強がりを口にしようとした私は、あらぬ場所へ触れられる感覚にびくりと肩を跳ねさせた。
「閣下、いったい、何を……」
節くれだった指が、臀肉のあわいにぴったりと当てられた。指の腹で窄まりを擽られ、恥じらいつつ困惑する。緊張を少しでも解そうとしてくれているのか、それとも――
「お前は、嫁入り前の大事な体にあるからして〝こちら〟を使う」
今、彼は何と言った?使う?ここを?……一体、何の用途で?頭の中に疑問符が飛び交うのは、理解してしまったことから意識を逸らそうとする心の動きだった。想像するだけで気が遠退きそうだった。彼は、私を孕ませる気が無いことを示すために、ベッドサイドに避妊具を出していた。だからこの後に待ち受けるものは性交なのだと、私は信じて疑わなかった。嘘だ、そんなことがあるはずがない。彼に限ってそのようなことが。
タイツに手をかけられてずるりとズボンごと脱がされた私は、思わず悲鳴を上げた。足をばたつかせて抵抗するも虚しく、羽織ったブラウスを除いては、生まれたままの姿にされてしまった。にちゃりと糸を曳いて離れていく布地の感覚に、顔が耳まで赤くなるのを感じた。
私をベッドへ運ぶ前、逞しい片腕で私を抱えた彼が空いた方の腕で戸棚から取り出した小瓶には、どうやら香油が収められていたらしい。彼は蓋を回し開けるとそれを手に取って広げ、既に前から垂れた愛液で濡れているその場所へ良い香りのする油を塗りつけてきた。
「ひ……!お止め下さい、どうか」
「お前、まだ処女なのだろう?」
なぜ今になってそんな話をするのだろう。今更嘘をついても仕方がないし、彼も解っていて聞いているのだろう。身を捩りながらなんとか頷いたが、指先は止まらない。丁寧に油を塗りつけ、伸ばし、擦り込んでくる動き。やがて少しばかり緩まった場所へと指先を埋められた。
「いや……いやだっ、お願いです、抜いて、下さい!」
「落ち着け。力を抜いていろ」
苦痛はあるが、痛いから抜いて欲しいのではない。彼は、どうやら本気で私とここで交わるつもりらしかった。排泄の為にのみ存在する、性行為とは全くの無関係であるはずのこの場所で。背筋が寒くなった。やはり彼は私を辱めるつもりなのか。油塗れの指が徐々に深く入り込んでくる感覚に、脂汗が噴き出してくる。
異物の侵入に引き攣っていた場所も、ずっとそうされていると慣れてきて、いくらか柔らかくなってきた場所へと指を増やされる。私が悲鳴を上げるたびに、彼はあやすように接吻をしてくれた。時折傷痕を舐られ、敏感な場所へ施される刺激に、体の力が抜けていくのを感じた。あらぬ場所に指を入れられ、蹂躙されているというのに。
私は嗚咽した。ここまで来たのに有耶無耶にされるのが厭だった。ようやく臆病な心が決意を固めたというのに。ここまで来たなら〝ちゃんとしたやり方〟で抱かれたかった。
「ぅ……あんっ、ああぁ……閣下、はあっ」
心とは裏腹に快楽を享受する体。私は愕然とした。ここは性感帯では無いはずだ。しかし、それを言えば傷痕の残る場所も本来は性感帯では無い。彼の手によって体を作り替えられていく感覚。慄きと、不安と、期待と、悦びと。後ろの穴をいじられるたびに、かくかくと腰が揺れてしまう。彼は、私に経験がないからここを使うのだと言った。経験があればちゃんとしてくれたのだろうか。じゅんっ、と捨て置かれた女の部分が疼いて、とろとろと涎を垂れ流す。その全てを彼の眼前に晒しながら。
「嗚呼、可愛いリッサよ……お前は、
男の太い指先を二本、排泄の場所へ根本まで食まされたままで囁き掛けられる声。爛れた様に熱い内壁を擦り上げる動き。それが快楽として受容されるなど知るはずがなかった。ただでさえ前にも指を入れたことが無いのに。そうしている間にも、指をまた一本増やされた。増してゆく圧迫感と異物感。そして快楽。全く予想のできなかった感覚に、また後ろで快楽を得ているという事実に、私はすっかり取り乱していた。
リッサ──可愛い〝リッサ〟と、彼は呼ぶ。それは、かつて私が包み込まれていた優しさによく似ていた。高貴なプロイセン騎兵の流れを汲む、選ばれし者のみが纏う色。
可哀想に。可哀想なクラリッサと、誰かが言う。窮屈すぎて息が詰まりそうだ。無限に広がる雪原。立ち昇る黒煙。「可哀想に」──そんな言葉など要らない。早く前線へ帰りたい。嘲笑とため息。遠巻きの目線。伸ばし続けた髪を鷲掴みにする誰かの手。視界の端で揺れていた、鈍く光る鋏の刃。
「……やめろ、クラリッサ!」
突然大声を出されて、ひゅっと喉が震えた。私は顔を隠そうとした。乱れて緩んだ表情を彼に見せてはならないと思った。手首を強く握られて初めて、指先が自身の首へ食い込んでいることに気付いた。
それを引き剥がされたことで、絞め上げられ狭められていた気道が元へ戻り、私は数度咳き込んで、瞳を
「よもや、そんなに厭であったとは……済まなかった。どうかわしを許してくれ、リッサ」
違う。私は緩慢に首を振って、呻吟に似た彼の言葉を必死に否定した。そこに留まり続ける、私を死に至らしめんとして食い込んだ指の感覚を、早くどこかにやってしまいたかった。私は腕と脚を絡めて彼の体が離れていかないよう縋り付いた。厭じゃない。厭なはずがない。こんなにも求められていることが、厭なわけがない。
腕の力は弱まったが、彼はそのまま私を抱き締めていてくれていた。正しい呼吸のやり方を見失って痙攣を繰り返すばかりの背中を撫ぜて、「大丈夫だ」と繰り返してくれた。まなじりをそっと拭う指先は、靭く逞しい武人のかたちをしていた。削ぎ落としたはずの、枯れ果てたはずのもの。滴で頬を濡らしながら私は、か細い声で彼を渇望した。
指を引き抜かれてからはまともに目が開けられなかった。彼は閉じたままでいいと言って、また接吻をしてくれた。私はやめないで欲しいと懇願した。ずっと彼の香りに包まれて、自身の境界線が解らなくなるほどにぐずぐずに形を失くして、蕩けたかった。
胡座を掻いた彼に抱き上げられ、しおらしくその腕の中に収まった私は、閉ざされた視界の中で彼の鼓動を静かに聞いていた。熱い塊がぴったりと臀肉の間へ宛がわれる。あんなにも巨きく反り上がった物が、今からここへ入るのだと言い聞かせるように。きっと上手くはやれないだろう。それでも良かった。彼が求めてくれるならば、居場所を与えてくれるのならば、もうどうなってもいいと思った。
「は……ッ、うあぁ、アッ!!」
押し当てられた先端はぬるぬると滑っていた。少しでも挿入が楽になるよう油を足されたのだろう。それでも彼をそこで受け入れるのは困難を極めた。背筋が反って、逃れようともがく腰を撫でられる。私はそれに腕を回してしがみつき、汗の滲む首筋に顔を埋めることで応えた。
夢中で吸い付いたから痕を残してしまったかもしれない。彼に恥をかかせるようなことがあってはならない。苦しい。だがしかしその苦しさの中に、彼をはらの中へと受け入れる悦びが確かに在った。
「はあっ、はあっ、ああぁ、閣下……ッ!」
「落ち着けクラリッサ。わしの言う通りにやれ」
みちり、と肉の合わさりを押し除けて挿入を遂げようとするペニスと、それをきつく締め上げて追い出そうとする場所が鬩ぎ合っていた。それは徐々に太くなってゆく形をしているから、途中でつかえてしまうのは仕方が無かった。深く息を吸って吐くように指示され、私はそれに従った。意思決定の何もかもを容易に年上の男に委ねてしまう私は、幼く無力な小娘に過ぎなかった。今はそれでいい。そう在れば、彼は私が欲しい物の何もかもを与えてくれる。立場。居場所。庇護と愛情。大きくて優しい手のぬくもり。生きようという心の動き。亡き父親の面影。
彼は気の遠くなるような時間をかけて挿入を終えた。私はそこが切れてしまわないよう細心の注意を払いながら、呼吸を整えた。少しでも早く馴染ませようという努力が伝わったのか、彼はよく頑張ったと頭を撫でてくれた。性交は二人で行うものであるから、彼にも満足して貰いたかった。たとえ半端なものであっても。私は吐息まじりの声でおずおずと問い掛けた。
「これで全部、入りましたか」
「いいや、まだ中頃の手前だ」
私は耳を疑った。突きつけられた現実に血の気が引いた。今だって堪えられなくなる手前で、辛うじて踏み留まっているというのに。体の力が抜けると共に支えられなくなったことで自重がかかり、それが奥へと入り込みそうになった。ぎち、と更に押し広げられる感覚。悲鳴をあげそうになった唇を塞がれ、添えられた手で体を支えられた。
「もういい。今日はここまでだ、クラリッサ。あとはわしに任せておけ」
引き抜かれていく感覚に、ここまで来たのにと歯噛みする。堪えられないほど苦しくて辛い行為なのに、心はその先を求めてやまなかった。初めはあんなにひどくされることを願っていたのに。私は、ひどくされて当然の存在なのに。見開いた瞳はきつく閉じ過ぎていたせいでぼやけていたが、徐々に焦点を結んできた。私はそこに在る彼の表情が、今度こそ失望であることを願った。
「ひぃいイッ!?」
出ていきかけていた肉の杭が再び突き立てられる衝撃に、私はさらに目を見開いた。抉られた内側がじんじんと痺れている。何が起こったのか理解できなかった。無骨な両手がしっかりと臀を支える動きに、私は行為の続行を悟った。彼が腰を揺すると、半分入っただけでも圧倒的な存在感を誇るそれが、私の中で暴れた。指で弄られて悦かった場所全てを、獰猛な獣のかやちで擦り上げられる感覚。
「掴まっていろ」と囁いた後は、彼はもう何も言わなかった。限界まで広げられた排泄の場所をずぶずぶと犯され、私は泣きじゃくりながら目の前の体にむしゃぶりついた。どうにかなってしまいそうだった。何もわからなかった。拙い腰付きで追い立ててくる彼に応じた。好きで好きで仕方が無かった。
「閣下ぁっ、グデーリアン将軍、閣下……ああぁあ――っ!」
「リッサ……愛している。わしの可愛い、クラリッサよ」
絶頂の果て。白んだ意識を手放す寸前、避妊具越しに吐き出される熱の感覚に、私は歓喜に咽びながら達し、それきり糸が切れるようにぐったりと倒れ込んで、重くなった目蓋を閉ざした。
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心地よい微睡みの中にいた。こんなにも深く眠ったのは随分と久しぶりな気がする。私はよく寝食を忘れた。食事は、それ自体が苦痛に満ちた行為であるから仕方が無かった。生命を繋ぐための営みを面倒に思い、栄養価が高い支給品のチョコレートで済まそうとすることすらあった。
体を案じた副官が控えめに声を掛けてくるまで、遅くまで書類に向かう日が続いていた。勿論、起床時間は厳守するし、日々の業務や鍛錬を怠ることはしない。そんな張り詰めた生活をずっと自らに強いてきた。前線にいるわけでもないのに気の休まる暇など皆無だった。許されない気がした。そうしていないと自分というものが、いま自身が立っている足場が粉々に崩れ去ってしまいそうで、無性に怖かった。実際はそうでは無かったのに。
ゆさゆさと肩を揺する手に、「起きろ」と優しく囁く声にゆっくりと意識が浮上する。よく体の沈む柔らかなベッドにもうしばらく身を預けていたかった。窓から差し込む光の角度にはっとして飛び起きようとした私は、全身の倦怠感に呻いた。
肘をついて辛うじて半身のみを起こした私を、彼は手のひらで押し留め頭を撫でてくれた。寝癖を直すように撫で付けられているうちに、冷静さを取り戻した私はようやく朝の挨拶を口にした。
「おはよう。というには、些か遅過ぎるのでは無いかね、イェーガー大佐?」
「申し訳ありません、閣下……」
いつも通りの皮肉めいた口調に安堵した。それは決して、私を責めるような言い方では無かった。次第に覚醒する意識。体を包むものが掛け布だけで無いと知った。欠伸を噛み殺しながらゆっくりと這い出す。いつの間にか彼のシャツを羽織らされていたようだ。洗い立ての清潔な洗剤の香りの中に、彼自身のにおいが混ざっていてほっとする。それから私は、その下に何も纏っていないことを思い出して慌てて胸元を閉じた。
彼はそんな私を見るなり、朗らかに笑った。「コーヒーはいるか?」と聞かれて、私は戸惑いながらも返事をした。上官の彼へ寝起きの一杯を所望するなど失礼極まりないことであるが、昨晩結んだ〝関係〟を考えるならば、ここは頷いておくのが適切だろう。何よりも、今は素直に彼の気遣いを受け入れたかったし、受け入れるつもりであると示したかった。
「クラリッサ、先に風呂を使え。それと、わしが良いというまでは出てくるな。いいな?」
不可解な指示に、私ははだけないようにボタンを留めながら、ベッド脇に立つ彼の姿を見上げた。自室内ということで制帽は取り払っているが、服装はいつもと変わらぬ、いかめしい将軍閣下の出で立ちであった。いつかその姿に憧れた春の日を思い、切なさに胸が締め付けられた。
「あれがここへコーヒーを持ってきた時に、湯浴みをしたばかりのお前が居ると厄介であろう?」
「っ!そ、れは……」
あの優しい、人の良さそうな彼の副官の顔が浮かぶ。彼は私が閣下のお気に入りであるのは知っているだろうが、まさかそういう関係に至ったことまでは知る由もないだろう。知られてはそれこそ厄介だ。次にここへくる時にどんな顔をして部屋の前で待てば良いのか、見当もつかない。
そこまで考えて、昨日あったことを改めて思い返した私は、真っ赤になって顔を覆った。彼の大きな手にばしばしと背中を叩かれて痛いと呻く。やっぱり子ども扱いをされている気がしてならない。しかし以前までの、彼と二人きりで居る時の気まずさや息苦しさは、もはやどこにも見つけられなかった。
マイペース過ぎて前回から一年以上空いてしまいました!すみません。
ようやくのカルスラウィッチ話です。あと三作くらい投稿予定です。
少しずつデレていくリッサちゃんをよろしくお願いします。