困惑したままのレイナさんを浴室に押し込む。
自分の精液やらでカピカピになっている股間が気持ち悪かったが、状況が状況なので我慢してボクサーパンツを履き、白いTシャツとジャージを履く
リビングに戻り、窓の外にたたずむユナに玄関に来いとジェスチャーで促した。
一瞬驚いた顔をしていたが、トボトボと歩き玄関からユナが入ってきた。
「ごめんなさい」
俯いたユナがそう呟いた。
「相当飲んでるね。コーヒー淹れるから上がって。」
「お邪魔します。」
大胆にも非常識な振る舞いをしているユナだったが、最低限の常識は備わっている女子であった。
別にやましい事をしている訳ではないのだが、この二人の女性をこれ以上居合わせるのはよくないと考え、ユナを自分の部屋へ連れていった。
「ちょっと待ってて」
階段を降り、レイナさんのバスタオルと着替えに自分のジャージを脱衣所の台の所に置いておく。
「上がったら声かけてくださいね。送ります。」
浴室のレイナに声をかける。
浴室のドアを少し開けレイナさんが顔出す。
「うん、ありがと。大丈夫?」
「なんでウチに来たのか見当もつかないんですけど、二階の自分の部屋に居るので大丈夫ですよ。」
「うん、わかった。」
コーヒーを淹れ、部屋に向かう。
「酔いはだいぶ覚めた?」
「うん・・・・・・・」
「ケンジに住所聞いたの?」
「ごめん。今日涼子ちゃんと三人で飲んでて。私がお願いして教えてもらって、酔った勢いで来ちゃった・・・」
まさに苦笑という顔だ。
「来るなら先に連絡してくれたら良かったのに」
ピクリとユナが揺れた。
何かを言いかけたユナは苦し気に飲み込む。
「ご、ごめんね。夕方からさっきまでずっと飲んでてさ、どうしてもユキオ君に会いたくて来ちゃったんだ。」
「分かったよ。多分シャワーそろそろ終わりそうだし、送ってくるからここで待ってて。」
そう言ってリビングに降りると、ソファに座ってレイナさんが髪を拭いている。
「なんか急にゴタゴタしちゃってすみません。さっきまで飲んでて酔った勢いで来たらしいです。」
「彼女?」
「いえ、俺は6年位彼女いないですよ。」
レイナは困惑げに答える。
「え?・・そ、そうなんだ」
「俺もよくわかんないですけど、レイナさんに危害加える事は無いので大丈夫です。」
「とりあえず、送りますよ。」
言って車のキーを手に取る。
「うん・・・・ありがと。」
車で送っていく間、これと言って会話は無かった。
昨日の事はまるで、夢であったかのような空気が漂っていた。
家の前に車を停めたタイミングで、レイナさんは言う。
「ねえ。キスしてよ。」
ゆっくり体を寄せて、昨日の事が現実であったと証明するような優しいキスをする。
レイナさんは少し頷き助手席のドアを開ける。
「バイバイ」
レイナさんは家に帰った。
家に帰ってきて、部屋に戻る。ユナが床で爆睡していた。
ユナを抱きかかえベットに寝かせる。
ふと、リビングのソファがどうなっているだろうと心配になる。
リビングに行き、ソファを見て愕然とする。
昨日は興奮し切っていて、細かい事をあまり考えていなかったのだから仕方ない。
執拗な前戯でレイナは愛液を飛び散らせ、しまいにはゴムも付けず射精したまま寝たのだから。
これは妹に気づかれたら大変な事になる。
そう思い、小一時間かけソファを掃除し、半分は残っていたファブリーズを使い切って証拠隠滅をしたのだった。
掃除を終え、汗をぬぐいながらホテルの清掃員の人に人知れず感謝をするユキオであった。
シャワーを浴び身ぎれいにしたユキオは部屋に戻る。
まだユナは寝ていた。徹夜で飲んでいたのだからしょうがないかと一人掛けのソファに身を鎮める。
テーブルの上に置いてあった単行本を手に取る。村上龍の「限りなく透明に近いブルー」という本だ。
ユキオはこの本を何度か読んでいた。
1976年の作品で村上龍のデビュー作だったらしい。そして、そのデビュー作で芥川賞を獲る。
あえてユキオは最初のページから開く。
読むたびに、気持ち悪い程に、匂いたつ表現に身震いした。
場面が変われば微妙に描写を変え、知らず知らずのうちに違和感を抱え、気づいたら心を掴まれている。
そうやって、ユキオはほの暗い70年代日本のめくるめくドラッグとセックスの世界に沈んでいく。
ユナの声が突然部屋に響いた。
「あっ・・・・・ ごめん。変な時間に押しかけてきて・・・ベットで寝ちゃって・・・・・」
いつの間にかユナは起きていたようだ。
「おはよ。今日はバイト夕方からだから大丈夫だよ。でも、もうお昼になるから送ってくよ。どこかでご飯食べてく?」
ユキオはユナの行動を咎めもせず、普通の友達のように扱う。
その振る舞いはあまりにもユキオの存在を遠くに感じてしまい、あの腕の中の感覚がまだ体に染みつくユナにとってあまりにも遠い。念願のユキオに会い、同じ部屋に二人で居るのにユナは酷く孤独感に苛まれた。
あの指が声が香りが遠い。
それは、ユナにとって一番に認めたくなかった事実そのものであった。
数秒間を置いて、ユナは言った。
「やっぱりごめん。歩いて帰れるから。ベット借りてごめんね。」
その時、自ら地雷と決めつけた女の子の自分に向けられた好意を失った事をユキオは気づかなかった。
さすがに色々あって疲れたユキオは、夕方のバイトの時間まで睡眠を取ることにした。
ユナがさっきまで眠っていたベットで、甘い香りに包まれて、眠った。