レイナは箱入り娘だった。
家が特別裕福というわけでもなかったのだけど、両親は美しい一人娘を可愛がり、蝶よ花よと際限なく愛情と手間とお金を注いだ。
そんなレイナも、両親の期待に応えるために精一杯の努力をしてきた。
中学生の頃、サッカー部のそこそこ女子に人気のあった男の子に告白をされた。
思春期真っ最中のレイナは、思わず浮かれ、その告白に応えた。
所詮は付き合い始めの中学生である。
習い事が3つあったレイナだが、空いた日は彼が部活を終えるまで教室で待ち、一緒に帰ったりしている程度だった。
ある日、彼氏に家まで送ってもらった時。家の前に父親がいた。
父親が彼氏に話があるからと、彼氏を連れていった。
次の日彼氏が別れたいと言ってきた。初恋はあっという間に、訳も分からない内に終わった。
高校は親の言う通りに女子高に入り、卒業してからも女子大の看護学科に入った。
そこでレイナはある男性と運命的な出会いを果たす。
大学の職員で、既婚である。
10歳年上の彼氏は、レイナの世界を180度変えてしまった。
ここまで全く男に免疫の無いレイナはあっと言う間に夢中になり、彼が嫌がる事は絶対にしなかったし、彼が望む事はなんでもするようになる。
彼がレイナの部屋に入り浸るようになり、結婚三年目だった彼は奥さんとあっけなく離婚した。
レイナは女の喜びを噛みしめ、幸せだった。
こんなに素晴らしい人なんだと両親にも知って欲しくなり、彼氏を連れて実家へと行く。
穏やかに時間が流れた。
10歳も年上の彼は、大人だった。両親の前でもちゃんとしてくれた。
両親もずっと笑顔だった。
レイナはまた幸せを感じた。
しばらくすると、彼氏は仕事を辞め旅に出てくると言った。
お金が欲しいと、協力して欲しいと、頭を下げられた。
意味が分からなかった。
彼氏の知り合いの店という事で、スナックを紹介された。
意味が分からなかったけど、この時すでに彼氏に逆らえないように、レイナはなっていた。
2か月程でお金が溜まったのか、彼氏が旅に出た。
部屋に一人ぼっちになり、レイナは寂しかった。
スナックは、店長にお願いされて辞められなかった。
2か月後、彼氏が帰ってきた。
レイナはもうどこにも行かないでと、なんでもするからどこにもいかないでとお願いした。
「わかったよ」と、彼は言ってくれた。レイナは幸せだった。
少しすると、やっぱりまた旅に行きたいからお金を貸して欲しいと言われた。
断った。すると泣きながらお願いされた。大仰な夢を語り今度こそはと言って大粒の涙を流しながら訥々と語った。でも、その夢の中にレイナの欠片も無い事をレイナは知ってしまった。
何も言わず通帳を渡した。
「私の前に、もう現れないで。お金を持って出て行って。」
大好きな彼にお金を叩きつけて追い出した。
通帳を大事そうに抱える彼がひどく惨めに見えた。
それなのに、また彼は現れる。大の男が涙を流してお金を貸して欲しいと頭を下げるのだ。
そんな事を繰り返すうちに、レイナは壊れ始める。
結局は、お金を出してしまう自分が、それでも彼の事が大好きな自分が許せなかった。
大学を卒業して、病院に入っても。5年経っても10年経っても、彼の事は忘れられなかった。呪いのようだと思った。
いくら貸したのかなんてもう分からなくなってた。
それでも連絡があれば、顔に出さずとも少女のように喜び、抱かれれば精一杯奉仕してしまうのだ。
元々真面目なレイナは仕事に対してきちんと向き合っていた。
しかし、夜になれば寂しくて酒に逃げ、酒を飲むとセックスがしたくなった。
めんどくさくない男を選ぶのが上手くなった。
それでも収まらない気持ちを誤魔化すように稼いだ金をギャンブルにつぎ込んだ。
ユキオと別れ際にしたキスで、あれは夢じゃなかったと確認できて嬉しかった。
自分の壊れた心を優しく撫でてくれる人が現実にいる事が分かって嬉しかった。
レイナは、生きていればいい事もあるんだなと思った。
ほんの少しだけ、前向きになれた気がした。