角度の付いた真夏の太陽がユキオの顔を照らしていた。
開けっ放しの窓から風が通り抜け、レースのカーテンを揺す。
ユキオは勢いよく起き上がり、慌てて辺りを見渡す。
使い古されたテーブルと一人掛けのソファ。
そこはユキオが暮らす実家の見慣れた自分の部屋だった。
「すっごいリアルな夢・・・・・」
カナの感触が残る右手を見つめながら呟く。
口内がカラッカラに乾いているのが気持ち悪くて水を飲むため階下へと降りる。
リビングには高校3年生の妹がソファに寝っ転がってスマホをいじっているのが見えた。
キッチンに向かいガラスのコップを掴み、水道の水を流し込み一息で飲み干した。
「ふぅ・・・」
トイレに行こうとリビングに戻る。
「ねえ、駅まで送ってくんない?」
さっきの夢でただただ可愛いだけの幼女だった妹が、ふてぶてしさを隠しもせずに言う。
「今?」
「うん、今」
「あー 着替えるからちょっと待って」
こうして、度々妹にはアシとして使われる。末っ子の妹は兄弟の仲で一番勉強も出来てしっかりしている。
兄貴の俺がひく程度に両親に可愛がられる妹はそれだけの結果を出し、その上大事なポイントはしっかり押さえ両親の心をガッチリ掴んでいた。
結果こうして面倒な我儘を無下に出来ない空気が出来上がっていた。
「タバコも無かったからいいか。」
自分の部屋に戻り、潰れたマイルドセブンの箱を横目に一人掛けのソファに脱ぎ捨てられたグラミチのストレッチデニムに足を通す。
厚手の白いオーバーサイズTシャツを勢いよく被り、ランクル80のキーをひっつかんだ。
玄関に脱ぎ捨てられた3代目のアディダススタンスミスを足にひっかけ家の前の駐車スペースに止めてある黒のランクル80に乗り込みキーを回す。
ディーゼルエンジンが勢いよく回り低音のやかましいエンジン音が駐車場に鳴り響いた。
「相変わらず乗りずらい・・・よっこらせ」
女子高校生らしからぬ気合の一言で妹が助手席に乗り込む。
駐車場からバックで道路に出るタイミングで妹が言う。
「土曜なのになんも予定ないの?」
「どうだろ。誰かから連絡来たら行くけど。」
「フリーターは楽そうでいいよね。」
「そりゃフリーターだからな。」
嫌味を受け流す。
今年22歳になったユキオは近所のパチンコ屋でアルバイトしていた。
まったく勉強しないまま地元の高校を卒業し、一年程無職で親のすねをかじっていたが流石に堪忍袋の緒が限界を迎えた母親に勘当寸前まで追い込まれ、仕方なく適当に近所のパチンコ屋でバイト募集してるのを見つけそのまま3年程フリーターとして生きていた。
給料からいくらか実家に入れているが、地元の相場より高いパチンコ屋の時給は、金のかかりそうなでかい車を持っていても実家住みである限り貯金できる程に余裕を持って生活が出来た。
ふとさっき見た夢の事を思い出し妹に聞く。
「はるオジさんが離婚したのっていつだっけ?」
「10年ぐらい前じゃなかったっけ?急に何?」
「いや、なんとなく」
はるオジさんとは母親の弟で、つまりはカナのお父さんだ。
小学生の頃はよく家族一同で母親の実家、はるオジさんの家に行っていた。
それが10年程前にはるオジさんとおばさんは離婚し、3人の子供はおばさんが引き取りそこからカナ達従姉弟とは会っていなかった。
つまり、あの夢の中の姉妹達の育ち加減から見るとおじさんが離婚する少し前の事だったのかもしれない。
あれは本当にあった事だったのかもしれない。そう思ったと同時に右手の感触が呼び戻され心臓がトクンと鐘を打つ。
スマホを見る妹を横目に駅前のコンビニ前に路駐した。
「ありがと」
「うん」
妹は助手席から飛び降りるよう降り、オーバーサイズのTシャツがふわりと舞い上がり白い背中が見えた。
そのままタバコを買い、やっぱりシャワー浴びようと家に引き返した。