お互いベットに座り、美咲ちゃんは他人事のように語った。
美咲ちゃんの説明を端的に説明するとこういう事だった。
大学生の金持ちの息子がいて、女の子を引っ掛けては家に連れ込み、仲間と数人で輪姦していた。
かなり常習的だったらしいのだが、動画を撮影し、お金を押し付ける事で事態が表面化される事を免れてきたらしい。何かあったとしても、和姦だったと主張出来るようになのだろうか。
たまたま、美咲ちゃんの友達も引っ掛かり、運悪くリーダー格の男に気に入られたようだ。
何度も繰り返される所業に限界を感じ、これ以上は無理だと、止めて欲しいと懇願した時に、今まで撮りためた動画の法外な金額での買取か、可愛い友達を連れて来いという選択肢が提示されたらしい。
そこで、美咲ちゃんに声がかかりとりあえず付いていったのだが、玄関ドアの前で友達の様子を訝しみ、逃げ出そうとした所、涙を流して懇願されたらしい。
ドアを開けると中に5人の大学生くらいの男たちがおり、友達と美咲ちゃんは部屋に連れていかれ、ロープか何かで縛られた。
隣で泣き叫びながらレイプをされてる友達を横目に、スマホで動画を取られながらその5人に代わる代わるレイプされた。
気が済んだのか、録画した動画を見せられ、金を渡され、すんなり解放された。
友達は泣き止んではいたが、何か薬を盛られていたのか、表情を失くしたままレイプされ続けていたらしい。
美咲ちゃんには荒事の得意なお兄さんが居て。マンションを出てからすぐに連絡したらしい。
「分かった」とだけ言って、その後は連絡が無いらしい。
きっとあのゴツい人なんだろう。既に血の匂いがしていたし。美咲ちゃんの顔を見て、すぐに取って返した所を考えると、その常習犯たちは警察に突き出された方が幸せだったのかもしれない。
わざわざ証拠を残し、女の子達の弱みに付け込んで性的搾取を繰り返した男たちは、繰り返した分だけ今度はその証拠達が自ら抱える大きな爆弾となり、一生涯お兄さんに搾取され続けるかもしれない。搾取されるだけのお金もありそうだし。
そう考え、少しだけ溜飲が下がる。
病院の検査も陰性で、念のためにアフターピルも飲んでいた。被害としては、最小限に収まり、僅かに安堵する。
感情が動かないように、決めつけないように、出来る限りフラットに美咲ちゃんの話を聞く。
同意したところで男の俺には到底理解してあげられない。
一緒に怒ったところで、お兄さんのように出来るわけでもない。
大事なのは、今、俺は何を求められているのかなのだろう。
きっと今の話も、美咲ちゃんにとって自分で水の表面をパンパンと叩いている程度の事なのだ。奥底に何があるのかはまだ見えない。
じっと、息を潜めて美咲ちゃんの続く言葉を待つ。
「私、今まで、セックスで気持ち良いと、思った事が無かったんです。」
一瞬止まりそうだった呼吸を慌てて戻す。
「でも、多分ですけど、何か飲まされて、わけわかんなくなってて。そう思いたいっていう気持ちがそう言っているのかもしれません。」
さっきまでの整然とした言葉と打って変わって、言葉が散らかりはじめる。必死に感情を吐露しようとしているように見える。
フラットに、フラットに慎重に言葉を咀嚼する。
「頭のおかしい空間で、頭のおかしい人達がいて。わけわかんない事が起きて。」
「現実感が無いんだけど。現実なんです。見えないけどしっかり残ってて。」
「わたし、普通に生きていただけなのに・・・・・」
これ以上ない程に顔を歪める。フゥと美咲ちゃんは息を吐き表情を戻す。とてつもない胆力だと思った。
「多分あの人達の事はお兄ちゃんが何とかしてくれてます。病気も無いしアフターピルも飲んだので、表面的な問題は解決してます。」
「でも・・・・・・許せないんです。多分、あの人達が全員ひどい形で殺されたって、時間が巻き戻って全部無かった事になったとしたって。許せないんです。」
「自分が許せないんです。」
「玄関の前で逃げ出そうと思えば逃げられた。泣きながらお願いしてくる友達を突き放せば良かった。」
「愛ちゃんからの電話を取らなきゃ良かった。高校で愛ちゃんと出会わなければ良かった。」
「縛られた時に舌を噛み切って死ねば良かった。」
「全部出来なかった自分が許せないんです。」
美咲ちゃんは掠れた声で呟く。
今にも溢れだしそうな安い言葉を飲みこむ。
美咲ちゃんの声が震え、散らかった言葉を一つづつ紡ぐように語る。
「私には逃げる力なんて無いの分かってて、手足を縛って、男達は束になって押さえつけきて。」
「バカな人達だなって思ったんです。こんなセックスで満足してるんだって。」
「これまでも、この人たちは罪を犯して、罰に怯えて、こんな事を繰り返してるんだろうって思ったんです。」
「でも、私もバカなんです。」
「コウジと付き合っていた時だって、同じだったんだって気づいたんです。」
「私は、したくなくても、コウジがしたいって言ったらしてました。」
「コウジの言葉はきっと、昨日私を縛り付けていたロープと同じだったんだと思います。」
「出掛けにフェラして欲しいって言われて、しました。断ると拗ねるからです。あの時も悔しかったんです。関係性を盾にされると、渋っても、最後はしてしまう自分が。自分の口の中で果てた事に高揚している自分が。」
「代わる代わる私を犯す男達が果てていく姿を見て、高揚してたんです。非現実的な空間に酔って、今までない程に声を上げました。そんな自分に酔っていたんです。」
「だから私はあのバカな男達と一緒なんです。バカなんです。体毛が薄いだけのケダモノなんです。」
つい、呼吸を忘れる。そんな独白だ。
二十歳の女の子が、この短時間でここまでの考えに至れるものなのだろうか。
敵わないと思わされてしまった。
「店に電話して、ユキオさんの声を聴いた時に思い出したんです。」
「優しいセックスをするって。友達に聞いたんです。」
「そして、3年も勤めた店の店長が結婚してる事も知らない程、他人に興味がなくて、どんなに良いセックスだったとしても、日付が変われば無かった事になってるって事も。」
「私は知ってるんです。」
「なので、ユキオさんにお願いがあるんです。私を、ちゃんと抱いて。そして、もうバカな男のセックスに喜ばないようにしてください。そして、全部忘れてください。」
こんなセックスの始め方を俺は知らない。「心の準備が」という常套句が口から漏れかけた所で、飲み込んだ。