店に入ると小柄で不愛想な女の子の店員に促されスニーカーを脱ぐ。
使い古された靴棚にスニーカー突っ込み、すれ違うのがやっとくらいの通路を進んだ。
涼子は少し大きめの個室を取っていたようだ。
隙間だらけの薄っぺらい引き戸を引き、女性過多の姦しい掘りごたつ式の個室に入る。
涼子と知らない女の子3人に、高校時代の同級生のナオキとナオキの大学の友達と思われる男が居た。
「久しぶり」
ナオキに会うのは1年振りだった。
大学生が好む大人数飲みは、やっかいなノリが多く最近ナオキとは距離を置いていた。
全員集合という事で、おそらく本日何度目かの乾杯をした。
涼子はもういい感じに仕上がりつつあった。
そんなに酒に強くなく、この勢いがあれば「何か」の一つや二つあってもおかしくないのに、なんでこんなに放置されているのか逆に不思議だ。
ナオキの友達はヨースケ君というらしい。
見た目からして童貞っぽい。
酒の勢いに任せ肉食獣さながらの勢いで女性軍が童貞いじりをしていた。
女性陣はこっちがわざわざお膳立てをしてるのに手を出してこない男共に一家言あるようで、ヨースケ君に対する口撃は熾烈を極めた。
涼子が「ベットに二人で寝てるのに手出さない男ってどうかと思う。」と言った。
二人でベットに入ってまで手を出されない女だったのか。そりゃきつい。
「それって、女の人の信頼に答えてるだけなんじゃ・・・」
とヨースケ君が呟いた。
きちんと調査したら男性ホルモン量と童貞率の相関関係が見えるのかもしれない。
バイト先の30代半ばの社員の人が、「最近おっさんの時代が来ている」と言っていたがこういう事だったんだなと納得した。家庭を壊さない程度に頑張ってくれと思う。
「ちょっとタバコ」
と、喫煙所に行くために一言断りを入れて立ち上がった。
「一緒に行くー」
と、なんかやたらフリフリしてて全体的に白い女が立ち上がった。
白くてフリフリのくせにタバコ吸うらしい。
妙に甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
白くてフリフリで甘い匂いしてるのにタバコ吸うらしい。
「いい匂い」
と言いながら白い人が狭い通路と酔いにまかせて、ぐっと距離を詰めてくる。
勝手なイメージだが香水のパンチの強い匂いは嫌いだけど、最近はよく練香水を使っていた。
ある程度距離が近くないと香らないらしいそれは、思いのほか女性に好評だったので気をよくして常用している。
「名前なんだっけ?私はユナだよー」
にしても近い。
アピール過剰な谷間に思わず目線が行ってしまうのをぐっと堪える。
5センチも下げたら乳首出るんじゃねえのか。
白くてフリフリで甘い匂いのする谷間はきっと思うように男を弄んできたんだろう事は想像に易しい。
とりあえず、こういう場での振る舞いとして正解なのはまず女性をイジる事だ。
下手に出たところで会話が盛り上がるわけでもない。出会い頭はまずイジる事による主導権の確保をする。
「首にコガネムシついてるよ?」
「えっ!?違うってこれライオンだよー」
金色の丸っこいネックレスいじったらライオンだった。ライオンか。
「ネイルかわいいねー。これなんかのキャラクター?」
「かわいいでしょー ムック書いてもらったんだよねー」
「ユナちゃんもムックもなんとなく似ててかわいいね!床綺麗になりそう!」
「なんかよくわかんないけどありがとう?」
酔っ払いなんてなんでもいいのだ。
どうでもいい話をしながら喫煙所でタバコ吸って個室に戻る。
そして、そのままの流れるように隣にユナが座って来た。
谷間がいちいち視界に入る。
基本こういう手合いは大体地雷だ。
甘え上手でとにかくコントロールしてくる。そしてコントロールが効かないとなると、あの手この手で気を引きに来るのだ。絶対めんどくさい。
しばらく色々と話しているうちに、床についている右手にユナの左手を重ねて来た。
落としに来たらしい。
こういう人の多い場で、こっそり手を繋ぐというドキドキ感の演出は極めて破壊力が高い。
ユキオにとってもやりがちな手管だ。
ただ、今日だけは地雷と分かり切ってるのに跳ねのけられる気がしなかった。
絶対「あの夢」のせいだ。盛り上げるだけ盛り上げやがって。解消できてない性欲のマグマが腰のあたりでグツグツと沸いている。
白い肌に大きな瞳、ユナの常勝パターンとなっているであろう極限までアピールされた谷間。
まるで詰将棋のごとく挟み撃ちされた俺は白旗を上げるしかなかった。
最後の砦の連絡先の交換だけは断固拒否しなければ。
まず、重なってるだけの手をゆっくり恋人繋ぎに切換えた。
そして、おもむろにユナのうなじあたりに口を寄せる。
「飲み会、抜けよう」
小声で耳に息が当たるようにしながら小声で囁く。
ゆっくりとユナがこっちに顔を向ける、少しだけ頬を赤くしてニッコリと笑顔を返してきた。