すっかり低くなった夕日が部屋の窓から差し込む。
吐き出した煙が一段暗い空間から明るい空間を通り過ぎ、暗くなった天井で見えなくなった。
何度か読み返してる村上龍の単行本をテーブルに置いて、流しっぱなしにしてたlofihiphopを止めた。
アンクル丈のグレーのスラックスを履き、白いロング丈のタンクトップの上にオーバーサイズの黒い半袖シャツを羽織る。
シャツのボタンは上まで止めた。
部屋を出て階段を降りると、いつものように妹がスマホをいじってる。
「デート?」
「そんなとこ」
「へえ、兄貴はフリーターだけど顔は悪くないもんね」
無視して玄関に向かう。
「あ、そういえば今日お父さんお母さんと三人でおばさんとこ泊まりに行くから。ってデートだから関係ないか。」
「わかったよ。行ってきます。」
言いながら黒いプレーントゥの革靴に足を入れる。
今日はデートだ。
年上のお姉さんなので、少し気合を入れる。
昨日、ケンジに付き合わされて海岸線脇のパチンコ店に行った。
ここ数年の逆風でパチンコ業界はすっかり様変わりする中、この店は昔ながらのゴチャゴチャした感じの店内を維持していた。
ピカピカの快適空間よりこういう店の方が好きだ。
腰を据えて打つ気はなかったが、良さそうな台がないか全てのシマを物色していた。
ふと、自分のバイト先によく来るお姉さんがスロットを打っているのが目に付いた。
茶色がかったロングの髪はサラサラして、伏し目がちな瞳と白い肌がやけに色っぽい。
気を抜くと赤っぽいピンクのリップを塗った綺麗な形の唇に目を奪われ思わずドキリとする。
身長は165cmくらいだろうか。スラリと伸びた足に細身のジーンズを履いて白い長袖のシャツを羽織っていた。
今日の服装はパチンコ仕様なのだろう。それでも目を引いてしまうのは美人の役得だ。
いつかタイミングが来れば声掛けたいなと思っていた人だった。
脊髄反射で判断を下し、たまたま空いていたお姉さんの隣の席に着いた。
コソコソと横目でお姉さんを見ながら、じっとタイミングを待つ。
素晴らしい集中力を発揮していて、周りでどれだけ大きい音が鳴っても微動だにしない。
コインが無くなる度に小さく息を吐く。表情は乏しそうだが実際は感情豊かな人なのかも。
最近彼氏に教わりましたみたいな打ち方で、回すのがやたら遅い。
慣れない手つきで、サンドに万札を溶かしていく姿は、鷹の住処にフラフラと迷いこんでいく子猫のようだ。
確かにあんまり勝ってる所は見たことはない。
お姉さんがコインを落とし、靴に当たる。
「落ちましたよ」
「あ、すみません。あれ?駅前の?」
「そうですよ。今日はこの店なんですね。」
ギリギリ認知はされていたようだ。
息の成分が多い少し高めな声が物静かなイメージに合っていた。
それとなく打ちながら会話を促す。
絶望的な回転数を見上げてお姉さんが呟く。
「全然だけどね・・・・・」
残念な空気を変える為に話題を振った。
「今日は休みですか?」
「今日は夕方から夜勤だよ。国保で看護師してるの。」
「お姉さん目押し下手なのに注射は大丈夫なんですか?」
「スロットのリールは見えないけど静脈見つけるのは得意なんだよ?」
想定外の無邪気な笑顔にドキリとしてしまう。
今度店に来た時絶対にデートに誘うと密かに心に決めた。
しばらくダラダラとスロットを打ちながらお話したが、さすがのお姉さんも心が折れたようで掠れた声で「がんばって」と一言残して退店していった。
初めて話したけど、普段纏ってる雰囲気の割に話しやすい人だった。
ただ単に集中し切っていたんだろう。美人って近寄り難いものだし。
今日は8時17時でバイトが入っていて、出勤すると眠そうな顔のお姉さんが居た。
「夜勤お疲れ様です。朝から頑張りますね。」
「夜勤でも結構寝れてるからなんともないよ。」
本当にこの人は大丈夫なのか心配になるな。
恐らく昨日が夜勤で、今日が明けになるから明日は休みなんだと思う。
そして、こんな時間にパチンコ来てるって事は予定も無さそうだ。
とりあえずダメ元でお誘いだ。
「あ、そうだ。今日、晩飯行きません?」
「へ?」
呆けた声を出したが予想通り拒絶の色は見えないので、もう一押し。
「晩飯」
「え? あ、うん。いいよ?」
「やったー じゃあLINE交換しましょう。」
多分この人、びっくりするぐらい押しに弱いんだろう。
そんな感じでお姉さんとデートに行くことになった。