すっかり日が落ち、星がチラホラ出始めていた。
ガラガラとディーゼルエンジンが唸り、うっすらと街灯が照らす国道を進む。
お姉さんのLINEの表示名は「レイナ」だった。
助手席のレイナさんは、首元から腕まで透けた白いブラウスを着て、ネイビーの7分丈くらいのワイドパンツにタックインしている。きれいめなパンプスを合わせてお手本みたいなお姉さんコーデだ。
普段あんまり化粧気の無い感じだからなのか、しっかりメイクしてるレイナさんは普段の2割増しで美人だ。
あれからいくらか取り返したレイナさんは、午前中にはさっさと帰ったようだった。
いくらかでも取り返せて良かった。
帰ってから夕方くらいまで寝ていたのか、スッキリした顔をしている。
「寝られました?」
思いの外緊張しているのか、パッと素早くこちらを向いた瞬間、シャンプーの匂いが車内に広がる。
「うん。スロットも勝てたしね。 ゆっくり寝れたよ。」
「勝てて良かったですよ。ちょっと心配だったんで。」
「全然大丈夫だよ。沢山働いてるからね。名前はユキオ君?でいいんだっけ?」
「そうですよ。レイナさんですよね?」
お互い名前の確認を済ませ当たり障りの無い会話が展開された。
年齢はまだ分からないが、休みといえばほぼパチンコ屋に来ているような生活をしているように見える。こんなに美人でそれなりの歳だったとしたら、もしかすると色々抱えているものがあるのかもしれない。
「ユキオ君ていくつ?」
考えを読まれたようなタイミングで、半歩程踏み込んだ質問を投げかけてきた。
「22ですよ」
「ええっ!20後半位かと思ってた!」
心底びっくりという感じで珍しく声を張り上げる。
それでも音量は涼子の3分の1にも満たないが。
「そんなびっくりされても・・・・そんなに老けてます?」
「いや そうじゃなくて、随分落ち着いてるからさ」
フォローというか本音なのだろう。よく言われるし。
「声も低いですしね。よく言われますよ。」
本音を言えば年齢を聞きたいが、やはり躊躇する。
だが、レイナさんは自ら身を切る選択をしたようだ。
「私36なんだよね。こんなオバサンでごめんね。」
予想の年齢が上限でも30そこそこだったので、素直に驚いたがギリギリで表情に出すのを堪える。
美人て前世で徳でも積んでるんだろうか。
「俺年上の人好きなんで、何も問題ないですよ。あんまり年上の女の人って若いやつ相手してくれないものなんで、構ってくれて嬉しいです。」
ちらりと助手席を見ると、何か可哀そうなものを見るような視線を送ってきていた。
レイナさんより上の人ともセックスしてますよ。なんて言っても詮無い事なので口を噤む。
会話が途切れた所で丁度予約した店に到着する。
ちょっと変わった雰囲気の居酒屋っぽい店だ。
木目のイメージを大事にしてるのか、ログハウスっぽい見た目に暖色の照明は妙な安心感がある。
だが、出てる料理は居酒屋のそれというのが不思議だ。
愛想の良い女性店員さんに奥の個室に案内してもらい、二人で個室に入る。
「飲みたかったら酒飲んでも大丈夫ですよ。」
「あんまりお酒強くないから止めとこうかな、一人で酔っちゃったら微妙だし」
「めっちゃやさぐれながら一人で飲んでそうですけどね。」
「ひどい!どんなイメージだよー」
冗談ぽく言ったが、本音である。
この感じで36歳で、夜勤明けからスロットなんて絶対なんかあるんだろ。
美人じゃなかったら地雷認定だ。美人は役得だ。
それでも、やっぱりこの人は無邪気な笑顔が似合う。
会話と居酒屋にありそうでなさそうな料理を楽しんだ後、そのまま帰る事になった。
会計で少しゴタゴタしたものの、レイナさんの払いでこの場を収めたあと、店に車に乗り込む。
「久しぶりにめっちゃ楽しかったよ。ありがと。」
素直な感謝に胸が暖かくなる。
「じゃあまた誘ってもいいんですか?」
「こんなオバサンの相手してる場合じゃないでしょ?若いんだから」
「その言い方はズルいですよ」
言いながらレイナさんの少し骨ばった細長い手を取る。30代女性のひんやり張り付くような肌はエロチックだ。
レイナさんは大きな瞳をクワッと開き、ピクリと跳ねた。
数瞬見つめた後、殺してやるつもりで一言吐く。
「レイナさんだから、誘ったんですよ。」
ゆっくり顔を寄せ、触れるかどうかのキス。たっぷり時間をかける。
ほのかに頬を赤くしたままのレイナさんをわざと放ってドキドキを収めるように言葉と一緒に息を吐いた。
「さて、帰りましょう。」
来た道をまっすぐ戻る。
「絶対遊びまくってるでしょ」
「死ぬほどモテそうな人に言われたくないです。」
「そういうとこ、ほんと小賢しい。」
家に着くまでがデートだ。レイナさんは文句ばかりである。