【完結】お家とおち○ちんお取り潰し 残されたのは好敵手と子孫を残す為の優秀な血統だけ? 生意気ぼっちゃまTS孕み嫁修行 作:あかん子を説法
「はぁっ……っーー……」
症状が落ち着いた少女レイは、病衣に身を包みカプセルの中。治療室の外からの視線に配慮したマジックミラーの如き壁を見つめたまま、静かに涙を流していた。
……サイアクだ。
胸の内の靄は、これまでにない色を見せていた。
単なる状態的な発情による悶々としたもののみにあらず。悔しさ、侘しさといった、何か女々しい感情が多分に混雑していて、消化がままならなかった。
そこへ給仕服姿の小柄なツインテールの少女、カゾノが心配そうに「レイちゃん」と声を掛ける。
「大丈夫……? お腹痛い……?」
「痛くない……」
「ほんと……? 何か出来ることない……?」
「ない……頼むから、一人にしてくれっ……」
確かに下腹部は鈍痛と気怠さに苛まれている。恐らく生理のせいだろう。
初めての頃は、本当に落ち込んだものだ。玄霧に保護されてから一月も経たない頃だったか────
当時、治療が始まって間も無い頃。朝の起き抜けに見た股下の血の池地獄が、鮮明に思い出される。
ショッキングではあったものの、逸物がまだあった頃に、性器から散々血を噴き出していた故、彼は悲鳴は上げなかった。
しかし女性としての肉体の完成を告げるかの如きそれは、覚悟していた以上に受け入れ難く。一日中女々しく涙を溢し、精神的に参っている様を衆目に晒した。
医師曰く、装具によるものか、はたまた極限状況下におけるストレスか。妨げていた原因が取り除かれた為、本格的に生理が始まったとの事。
そのせいで鬱症状に悩まされるとは、とんだ本末転倒だ。
彼は心中で皮肉って笑おうとしたが、口角はピクリとも動かなかった。
痛い、怠い、辛いだけならまだ耐えられる。しかし、気分に直接となると、慣れたつもりになっていても、どうしても苦渋が滲み出る。
余りに非合理、余りに理不尽。これが子を孕めるという事、女として生きていくという事だと、どうして割り切れようか。
──これまで道の険しさに幾度も心が折れそうになった。ミマタ相手に大見得を切っていなかったら、きっと挫けていた事だろう。
その茨の道を越えて、やっとその先に辿り着いた。そう、思ったのに。
「…………ぐすっ」
失敗した。拒絶された。
当然だ。元は男で、こんな身体で、厄種盛りだくさん。自分だって拒絶する。
だからこそ、強引に行った。理解される前に、何も分からぬ内に子種を中に注いで貰い、目的だけ果たすつもりだった。
甘かった。彼は、チハヤだ。この国最高の才人だ。敗れ被れでは上手くいくわけが無かった。
想像は付いていた。なのに何故、こんなにも傷付いている?
彼は傷心を自覚しながらも、己の心理を測り兼ねていた。父や母に愛されないと分かった時よりも、こんな身体にされて、女達に蔑まれていた時よりもずっと胸の内が痛むのだ。事態はそれらの方が余程深刻だった筈なのに。
分からないが故、全て肉体のせいにして、折り合いを付けようとしていた。しかし初めての生理の時の、えも言えぬ不快と不安ともまた更に異なり、上手く行かず、今は周囲に当たり散らしている。
「レイちゃん……」
「いいからっ……! 全員出ていけっ……!」
さめざめ泣く彼の元を一人、また一人と離れていく中、看護服を着たクリーム色の短髪の女だけがその場に残って動かない。
「シスイ、一人にしろと、言ったはず……」
「言いたい事は、そうではない筈です」
何かを見透かした様に彼女はそう言って、カプセルを開いた。
そして少しばかり不機嫌そうに、そのセクシーな声でくだを巻く。
「前々から思ってたんですけど、こういう時は、はっきり言っちゃった方が良いですよ。辛い、とか、ムカつく、とか」
「思ってない……見透かした様に言うなっ」
「見透かすまでもありませんよまったく……他者への悪態で、怒りと不満で自分の感情を押し殺して隠そうとする癖、やめた方が良いですよ。悪態吐くなら、己の感情を吐露する方にしましょう」
「っ……普段、悪態吐くなと言う癖にっ」
「お行儀は良くありませんからね。場合によりけりです。因みに少なくとも私は今、少々ムカついてます。手塩にかけた教え子が袖にされたのですから。玄霧の御曹子は不能だって、言いふらしちゃいたい気分です」
己を悪く言われる以上に、チハヤの悪口に彼の心のささくれは引っ掛かった。
癪に触って、眉を顰め、瞼の腫れた双眸で睨むと、元のレイトの調子で悪態を吐こうとする。
「アイツを悪く言うな……こんな気持ち悪いモノ前にしてっ、逃げない方がおかしい」
「それを言うなら、貴方は貴方をこんな気持ち悪いモノ呼ばわりしないで下さい。メイクセットとかも私が手伝ったんですからね? それは私への侮辱にもなるって分かってます?」
「っ……うるさいっ……」
しかし、弱々しく言葉は震え、消え入ってしまった。
認識阻害のベールの下、シスイの顔は曇り、ため息を吐く。
「そこは『そのつもりだが?』みたいな感じで言い返す所でしょうに……相当参っているんですね」
「うるさいって言っているだろうがっ……はやく失せろっ……!」
「……分かりました。本日は終日お休みにする様ミマタさんに伝えておきますから、ゆっくり休んで下さいね」
彼女はそう言い残し、自動ドアの向こうへ去って行った。
少女は訪れた静寂に一つ吐息を震わせ、くすんと鼻を啜ると、奥歯で涙を噛み殺す。
意識するは、次の一手。チハヤの視線。役割を遂行する、女の自分。
こんな姿はアイツに見せられない。早く次の自分を作り上げろ。瞳の奥で、虚勢への原動力を燃やす。
泣くな……泣いてる時間なんか無いんだ……考えろ、次だ、まだ終わりじゃない、考えろ……。
「…………」
治療室の内と外を隔てる、マジックミラーの如き壁の向こう。
気丈に振る舞う元好敵手の壮絶な始終を目の当たりにした青の双眸が宿す光は、惑いの色で揺れ動く。
「……声、掛けなくて良いんですか?」
通りすがる看護服の女衆にそう問われたが、彼は返事無く、立ち尽くしたまま。ただ拳を握り、奥歯を噛み締め、震えていた。
数日後。
「はぁっ……!」
チハヤは未だ、囚われた責務から逃れる様に己が研鑽に励んでいた。
その日は朝食後から昼食の時間まで玄霧の訓練場で剣術と射撃術をローテーション。
事情を知らぬ他者から見ても何処か荒んでいて、鬼気迫っている様に映った。女性使用人が声を掛ける。
「チハヤ様、そろそろお休みになっては……」
「昼食か……⁉︎ 違うのならば口を出すな……!」
「ひっ! すみませんっ!」
人を遠ざける事が増えた。以前から近寄り難かった彼だが、より強く、より露骨に。誰も寄せ付けなくなっていた。
その脳裏で延々と回るは、少女レイの様々な姿と、父親から受けた言葉。
────事が事だ、決して無理に受け入れろとは言わない。だがどうか……。
途中で途切れた言葉の先には、様々な葛藤が詰まっていた。
そしてそれは、チハヤ自身にも。
「ああ゛っ!」
ドッ。苛立ちを込めて放たれた魔弾が最後の的を射抜き、仮想空間を生成する魔法の光が消え失せる。
彼は息を切らし、操作板に手を付いて寄り掛かると、俯き心中で嘆く。
どうしろっていうんだよ……! どうしろって……!
事を知ってからというもの、彼は人工授精を検討し、技術者、研究者を散々訪ねていた。
しかしどれだけ粋を集めても、魔術師の受胎は、自然な交配以外では不可能という常識範疇の答えしか返って来ず。足掻きは徒労が募るばかり。
いっそ強要してくれれば……いや、されたとしてもっ……!
動悸が激しくなり、一層呼吸が苦しくなる。
考えれば考える程、その頭は重くなる。
出来る限り思考から逃避しても、肉体に失調を来してしまう。
「ち、チハヤ様、昼食の時間ですっ、シャワーは」
「浴びてから向かうっ……!」
「承知しましたっ……!」
女の使用人を見ると、かの少女の姿が脳裏にチラつく。
視界に入れない様にしても、甲高く姦しい女声が気に障る。
チハヤは、己が感情の制御が狂っている事を自覚せざるを得なかった。
汗と共に苛立ちを流そうと、彼はシャワーを浴びる。
物理的に清められ、多少気分はマシになった。
が、何が変わる訳でも無い。問題は骨身にへばり付いたまま、剥がれない。
食事に移っても同じ。一刻も早く焦燥から逃れる為の手段を探る思考が止まらず。
食器を使う手は、最低限のマナーこそ守れどそぞろ。料理の味もせず、口はただ栄養の為だけに、出された食物を飲み込むばかり。
「もう少し、ゆっくりお食事を────」という外界の声もあった。が、彼は雑音として全て無視し、流し込み続けた。
早めにそれを済ませた後は、追い立てられる様にして、その脚は自身の書斎へと向かった。
心を閉ざす様に強く部屋の鍵をかけた後、席につき、大学院の研究論文の返答に目を通す。
安心出来る環境下での頭脳労働による没頭。限られたその時間だけ、彼は平穏が保たれる気がした。
────こ、そこ
が、深海の底の如き集中に、突如としてそこに存在し得ない筈のふわりと香る甘臭と、耳元を擽る囁き声が届く。
「そこ、間違ってるぞー……」
「ッー!」
彼は声にならない声を上げ喫驚し、身を仰け反らせ、バランスを崩した。
そのまま椅子と共に転倒、床に転がり、無様を晒す。
「はっ、おい、大丈夫かぁ?」
動揺したまま上げた彼の視線の先には、挑発的に笑うかの少女、レイの姿があった。
「んなっ、なっ……!」
チハヤは溜めに溜めて叫んだ。
「なんでここに居るッ⁉︎」
「ぅおっ、うっさっ!」と少女は耳を塞ぐも、その悪戯な表情を変えない。
揺れる白銀の前髪の下、紅の瞳のすぐ横、泣き黒子のある目尻が愉快に撓み、薄紅色の艶めく唇の端が片側だけ上がっている。
「何でって、分かりきってるだろ? お前が逢いに来ないからさ」
首から上は、耳に軽く掛かる程度の長さの中性的髪型から何から寸分違わず。懐かしい、かつての好敵手の面影と重なって、そこからあの頃と殆ど変わらない、気持ち少しばかり甲高く、愛らしくなった様に思える声音が発せられる。
動揺は極限に達し、相手とは異なり低く変わった男声が、情けなくひっくり返った。
「っ鍵を、鍵を掛けてた筈だっ!」
「ああ、すまん。合鍵、玄霧夫妻から貰ったんだ」
「はぁっ⁉︎」
聖域が崩れ去る愕然とした感覚で、チハヤの腰が抜ける。
困惑と絶望の入り混じった彼の表情に、見下す童顔は暫しぷっと笑いを堪えたものの、間も無く破顔。
「ぷふぅーっ! っ、ぅひひっ……わっ、悪いっ……ちょっとたんまっ……!」と女性的デザインの給仕服を揺らし、爆笑して見せた。
「お前っ……!」
一瞬怒りで我を忘れそうになった彼だが、沸点は振り切れず。はぁーっと長い溜め息の後、震える言葉を吐き出す。
「お前そんなっ……人を笑える様な立場じゃないだろっ……」
「ひー……ああ、まあ、そうだな」
レイは目尻に涙を湛えながら一歩前に出て「立てるか……?」と手を差し伸べようとした。
しかし、上がらず。「あれ、おかしいな……?」と首を傾げるその左腕は、細腰の横でただプルプルと小刻みに震える。
苛立ちを覚えながら、チハヤは奮い立つ。一瞬にして目線は逆転。
彼は白銀髪に乗せられた白のカチューシャを見下ろし冷淡に言い放つ。
「出て行きたまえ。ここは執務室だ。使用人の君が勝手に立ち入って良い場では無い」
「いや、別に勝手にって訳では」
「出て行け!」
ドアを指差し、怒号が室内を轟く。
へらりと笑っていた幼気な顔貌が、寂しそうに、切なげな笑みへと変わった。
「……その様子だと、玄霧名代から話は聞いたんだな」
小動物の如く上目で見上げざるを得ないその姿は、どうしようもなく少女であった。
微かに震える肩幅もあまりに狭く、ボディーラインが比較的出難そうなデザインの給仕服を着ているにも関わらず、丸く膨らんだ胸と腰の曲線が目立つ。
変わり果ててしまっているのだ。肉体は、何もかも。
「へへ、やっぱ、キツいよな、こんなのさ……」
チハヤの口はへの字に曲がって、返事を返さない。否、返せない。
いざ認識してしまうと、突き放す言葉すら憚られ、何と声をかけて良いのか分からず、ただ沈黙してしまう。
少女はそんな彼へ向け、優しい口調で続ける。
「いいんだ。軽蔑してくれて構わない……ただ一言、謝りたくてな」
かの面影が、今にも消えて無くなりそうな、弱々しくて儚げな顔で微笑む。
「この間は、悪かった。いきなり襲う様な事をして……」
やめろ、やめてくれ。
チハヤの胸の内は無意識のうちに張り裂ける様に痛んで、そう悲鳴を上げた。
「気分を害したよな、ほんと……ひでえザマだもんな……」
かの面影が、離れていく。
「まあ、なんだ……それだけ。へへっ、じゃあな」
こんなこと、許されてなるものか。
刹那的衝動が、去り行く小さな手を掴ませた。
「……なんだよ」
「……もう少し」
「ん?」
「もう少し、話そう」
ここしゅき