【完結】お家とおち○ちんお取り潰し 残されたのは好敵手と子孫を残す為の優秀な血統だけ? 生意気ぼっちゃまTS孕み嫁修行 作:あかん子を説法
度重なる修練と執務により泥の様に重くなった身体を引き摺りながら、チハヤは久方ぶりに自室のベッドに向かう。
移動の最中も考える事は山積みで、一つ欠伸をしては、何かを忘れてはいないか確かめる。
……ああ、まったく。
脳内に大きく居座るのは、当然かの好敵手、レイトのなれの果てたる少女の存在。
孕ませなければ国は滅びの道を歩む。孕ませても、己は何か根本的な尊厳を失う。
余りに異質かつ深刻な事態であり、対処を一歩間違えれば全てを失いかねない。
彼のみぞ知る、何処の誰にも計り知れないプレッシャーを背負い、ふらつきながら、彼は慣れ親しんだドアを開けた。
灯りは付けない。閉じられた、真っ暗な自分の為だけの空間。
いつもの清潔感のある香りに包まれながら、習慣だけを頼りにふらふらと進み、自身の長身も余裕で収まるキングサイズのベッドに倒れ沈む。
刹那、違和感。香りの中に混じる、何処か覚えのある甘ったるさ。一瞬跳ねて沈んだ何かの重みによる揺れ。
彼の頭脳に確信めいた予感が過ぎる。
有り得ない。かの一件を機に、施錠魔法に独自の術式を加えて強化した筈。
しかし、恐る恐る振り返れば、違和感の元凶がそこに横たえていて、目と鼻の先で紅の双眸が光っていた。
「……おい」
咄嗟に暗視魔法を行使した青の網膜が姿を捉える。
沈んでいるのは、ベッドか、はたまたその肢体か。
身を包む、清楚感ある純白のレースのワンピース含め、白銀の頭髪の天辺から爪先まで、全てが柔和な少女が、とろんとした紅の瞳を瞬く。
薄紅の唇から吐かれるのは、庇護欲を擽る小動物じみた可愛らしい女声。
「ん……? ようやく来たか」
少し眠たそうに紡がれたのは、さも自身がそこにいる事が当然の如きセリフ。
「いいベッドだな、思わずうとうとしてしまった」などと呑気に、軽妙に語られる。
「何故……」
一呼吸、ストレスで震えた溜めが入り、そして放たれる。
「何故またここにお前がいる⁉︎」
夜伽の予定も何もまだ決まっていない、突然の奇襲に対する問い。
答えは、遡る事実に約十時間前の出来事にあった。
『アナタが、かのレイト様……?』
発端はチハヤの妹たる玄霧の双子、
「信じて、くれるのか……? というか名前を、知って……」
「にいさまのお話に比較的高頻度で上がる、唯一の魔術師」
「噂でも神童と評される程のお方。嫌でも耳に入ります」
「その魔力量、最初は見間違いだと思っておりましたが」
「話せばその器量と物言い、成る程、納得致しました」
招かれざる客である彼女らは、女性使用人に両手を後ろ手に拘束されながら、その仏頂面に興味の華を咲かせている。
本来であれば即刻その場から追い出されて然るべきだった。
しかしながら、「親族である彼女達にはキチンと話を通すべき」という少女の計らいによって、その場で話を聞かされたのだ。
「しかし、話し振りや名前から殿方だと思い込んでおりましたが、まさかこの様なち、女性だったとは」
「少々意外でしたわね」
「ですわね」
尤も、元男であるという肝心の情報を彼女らは知らず、知らされず。必要最低限のピースが繋ぎ合わされた結果、“政変で深手を負った、秘密裏に匿われている許嫁候補”という認識が内々に出来上がっていた。
話合わせに即興で参加したツインテールの女衆がこそり、「これでよかったのレイちゃん?」と不安げに耳打ちする。
少女がそれに応答する前に『お黙りなさい下女』と双子が揃って遮った。
「我々の様な幼い子供を“子供だから”と邪険にせず、この様な酷な事情をお話し下さった方の心情を無碍にするおつもりですか?」
「お家を失ったとはいえ元御令嬢なのですよ? 弁えなさい」
「えぇ……お二人共もうご自身を棚上げになって……」
『お黙りなさい』
教育者側の苦労は兎も角、過酷な体験を下地にした物語はそれだけ説得力があり、胸を打つものがあったのだろう。
その上、彼女らは聡い。事情を鑑みた上で、兄を慕い敬い、取られたくない気持ちと、家の利益。総じて後者を選択する玄霧としての資質も持ち合わせていた。
「訳あり痴女で心苦しいですが」
「にいさまに比肩する優秀な血筋の方とあらば話は別」
「にいさまは比類無きお方。故にお世継ぎが難しい」
「お世継ぎは家の安泰に重要」
「お世継ぎさえ居ればにいさまは磐石」
『されどそれは我々には、叶わない役目……』
その点で苦労している事を周知していて、我が事の様に悩んでいた。
葛藤を噛み潰した表情で揃って俯いた二人は、その場で少女を応援する決心をした。
「レイト」
「レイ様」
『いえ、お姉様』
同時に、彼女らは年頃の娘である。
ロマンチックな色恋に飢え、憧れていた。
目的が切り替われば、目の色も変わる。
「な、なんだ……?」
その転換が余りにも極端で少女は驚いた。
ただ理解が追い付く間も無く、容赦も無い。
挟み込む様な形で迫られ、覗き込まれる。
「その泣き腫らした瞼」
「そして一人でお慰めだった様子を見るに」
『にいさまと、上手くいってないのでは?』
「っ、ちがぅ……そんなんじゃ」
「我々にお手伝いさせて下さい」
「我々なら出来ます」
目の前に現れたドラマに前のめりになった娘達は、二人でマシンガントークをラリーし続けるスタイルだ。
口を挟む間も、考える間も与えない。強引に聞き出され、話はあれよあれよと勝手に進んだ。
「思うに、共に過ごす時間の不足が問題だと思うのです」
「お二人はお話し合いが足りていないのが現状なのでは?」
「いや、この間二人で沢山話して」
『また逃げましたわね』
「ひっ……」
「痛い所を突かれると目が泳ぐ」
「核心に近付くとへたれる」
『淑女としてなってませんわ』
んな事、言われたって……。
少女の女性として過ごした歴は、赤子同然である。
た、たすけて……。
カゾノへ救援サインを送るも、申し訳なさそうに黙って首を横に振るばかり。
「ちょっと聞いてますの?」
「女子としてはポンコツも良いところですわね」
「ゆるしてくれ……」
『許しません』
そんな嵐の様な応酬の中、一方的にこき下ろされた末、彼女らから結論が下った。
『兎に角先ずは寝食を共にして下さい』
「やはり夜伽以外別々に過ごすとか有り得ません」
「許嫁を名乗るならもっときちんと仲を深めて下さい」
「なあ本当に待ってくれ! それには色々問題が」
「順次解決していきましょう。うだうだしていたら老けますよ」
「善は急げ。今宵からにいさまのベッドに忍び込みますからして」
「アグレッシブに行きましょう」
「大事なにいさまじゃないのか……?」
「大事だからこそです」
「最善策を取るのです」
双子は全く止まらず。「全員纏めてついて来い」と言わんばかりに先を行く。
「愚弟、お前もです。やりますよついて来なさい」
「ええっ⁉︎ いや本当ににいさまに悪い」
『やると言ったらやる』
「はいぃっ────」
「舌戦で、あれ程までの劣勢を味わったのは初めてだ。流石お前の妹だな……」
「それはそうだ、アイツらが二人揃ったら俺でも敵わん」
「はは……」
戻って現在。尚も少女の内で鳴り止まぬステレオボイスが事情として語られ、チハヤとの間を取り持った。
「術は……弟だな」
「怒らないでやってくれ……あの子はやらされただけなんだ」
弟
彼にかかれば、通常の部屋に掛けられる規模の施錠術は簡単に突破されてしまう。
かの双子はそこに目をつけ、日頃悪行を尽くし屋敷の人間を困らせているんだとか。
「アイツの才能を悪用しないで欲しいんだがな……って、それはそれだっ!」
が、チハヤはふと我に返り、警戒を再び強め身構える。
「勝手な行動はするなと言ったばかりだろう」
「いや、勝手に部屋に入ったのは悪かったって……でもさ、そう思うなら、出来る限り行動を共にした方が、理に適ってると思わないか?」
突っぱねようとした返答が詰まった。
確かに、それはそうなのだ。心理的な側面を除けば。
「それをお前が言うか……馬鹿な脅しみたいな事はよせ」
「ええっ、予定だって決め易いし、他にも理由が」
「気が! 散るんだよ! 今の自分の姿を今一度俯瞰して良く確認しろ!」
「ぅ……」
彼も年頃の男子である。性欲は無い訳では無い。
少女がかのレイトであるという事を理解していても、肉体は別。
蠱惑的な肢体の魅力に惹かれ、執務がままならなくなる事は想像に難くなかった。
「大体現状のその身体は勝手に暴発しかねない爆弾だろう? 何故近くに居られると思うんだ? その根拠は?」
「ああ、それなら大丈夫だ」
何やら少女はゴソゴソと自身の腰か太腿の辺りを探り、そして「あった」と呟いた。
取り出したのは、抑制剤の入った注射器。細い手指はその先端を首筋に構えると、一瞬躊躇い表情を強張らせた後、プシュッ。一息に注射した。
痛みと苦しみに顔を顰め、「っ……はぁっ……!」と荒く息を吐いた後、ニッと強がった笑みを浮かべる。
「話し忘れたけど、双子の助けもあって、ミマタと話が付けられてな……これで、少なくとも暫くの間、身体の感覚を抑えられる……」
「おまっ、何を……」
「なんで自分で注射を、って? これもまあ、命令で補強して貰ってな……あ、そうそう」
更に立て続けに「あと、はい、これ」と口にして、彼の目の前に白い指輪を転がす。
「万が一の時は、それで命令してくれ。お前の魔力なら、かなり強力なのも実行出来るだろうから……」
チハヤは顔を掌で覆うと一つ息を吐き、嘆いた。「勘弁してくれ……!」と。
「お前またっ……こんな事の為に何を犠牲にした?」
「……やっぱ話したんだな、ミマタと」
「質問に答えろ!」
「……肋骨の骨を左右下から数本。体型がより細く見窄らしくなって、呼吸がちょっと苦しく」
刹那、ドンッ! 飛びかかったチハヤの拳骨が振り下ろされ、少女の顔面のすぐ横を叩いた。
白銀の頭髪が、風圧でふわりと舞う。
その上で、暴圧的な青い魔力の波動が猛々しく荒ぶる。
「いい加減にしろっ……!」
押し殺された怒声。ひりつく空気。
それらを前に、少女は動かない。静かに微笑みを浮かべたまま、何処か虚げな紅の瞳をほんの僅かに揺らすだけ。
低く涼やかだった男声が更に昂り、震わされる。
「俺はっ、この家を、家族を守る為にっ……常に重要な選択を迫られている今もな!」
「……だから?」
「っ……! お前はっ……! お前はその事の重みが理解出来ていないだろう! だから軽々にその様な振る舞いをっ!」
「そうだよ。ボクには理解出来ない。大事な人間なんて、居た事無かったから」
虚に、仄暗い闇の中に吸い込まれ、堕ちていく。
そんな錯覚に襲われ、青の波動は勢いを失う。
怒声は静まり、ひび割れた言葉が続く。
「ああ、でも強いて言うなら、自分が大事だったか」
何かを察し、「待て……」という声が消え入った。
女声は無機質さを増す。
「自分が絶対。だから、自分の為に何でもやった。悪事も働いた」
「嘘を言うな……」
「嘘、そう、全部ウソ。ボクは、ボクの魔法を自分と両親に使ってたんだ」
「待て、もういい……!」
「全部、嘘で作り上げた。本当の部分なんてない嘘がボクそのものだ」
「もういいと言っているだろう!」
沈黙。痛い程の夜の静けさが二人を包む。
「何故遮る? そんなに聞きたくないか? 見たくないのか?」
「っ…………」
返事は無くとも明らか。チハヤの腕は震えている。複雑な胸の内は、“聞きたくない”と拒絶していた。
「なら指輪を取って命じろ。静かにさせろ。それかせめて物理的に口を塞げ」
虚しく響く声音は段々と震え、弱々しくなる。
そして末に、「それが出来ないのなら、せめて……」と口にして、細まった瞳から一筋、涙が零れた。
「せめて……そこに居させてくれ……」
チハヤは、儚げな白い華を前に何も返せず、ただ苦々しく息を呑んだ。
すぅ……少女の意識が薄らいでいく。
その身体から力が抜けていく様を見て初めて、「おい……っ、おい待て!」と彼は少女の肩に触れようとした。
が、途中で背後で蠢く気配に気付き止まる。
「……やはり居たかお前達」
背後で姿を表す、小さな三つの影。
左向きのサイドテール、サラは「お気づきになられましたか」と口にし、続いてその鏡写しマリが「流石にいさま」と讃える。
その真ん中すぐ後ろで小さく丸まった影、ハルキは「にいさまごめんなさいっ……!」と震え、頭を抱えると、前に立つ二人も頭を下げて謝った。
『勝手な真似をして申し訳ありませんでしたにいさま』
「そこな子女、レイト様はご心配無く」
「薬の作用と疲労が重なっただけと思われます」
「起こさずそのまま眠らせて差し上げて下さいませ」
「かなりお疲れの様でしたから」
「ああ……はぁ……」
彼は振り返らず、心底しんどそうに溜め息を吐く。
双子娘は流石に焦燥感を露わにし、わたわたと縋り付いた。
「お家の一大事と見て、居ても立っても居られず」
「差し出がましいと思いながらも、ついこの様な事を」
『どの様な罰でもお受け致しますので、どうか』
「いいっ、許すから……今は、今だけは……」
若くして家を背負う背中が、丸まって細かく震えている。
弟妹達にとっていつも大きく見えたそれが、少し小さく見えた。
翌朝。固くないふかふかのベッドの感触の中、少女は目覚める。
久々の良質な睡眠からの起床を噛み締めたのも束の間。隣を見ても誰も居らず、起き上がって人影を探す。
が、然程時間は掛からず直ぐに見つけた。
ベッドの横の床。壁にもたれ掛かり、弟妹達に囲われて眠るチハヤ。
朝の陽光の射すその場所を見て、少女は愛おしげに、かつ少し寂しそうにふっと笑った後、口を固く結んでただ静かに遠目で見続けた。
羨むその輪の中には入れず。
されどその日以来、少女レイはチハヤの側に侍る事を許された。
心こわれる
次回からはもう山場だけ