※この作品はR-18です。

【完結】お家とおち○ちんお取り潰し 残されたのは好敵手と子孫を残す為の優秀な血統だけ? 生意気ぼっちゃまTS孕み嫁修行   作:あかん子を説法

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二十一話 結闘 前編

 

 

 

 数日後、午前、玄霧訓練施設。

 今日もその床に御曹子の汗は滴り落ち、覇気のある声が木霊す。

 ひたすら続く、剣閃の風切る音と、拡散する魔力の波動。

 それが漸く止んだ頃。給仕服姿の少女は、白銀の短髪を揺らしながら、彼の元へ歩み寄る。

 

 「お飲み物は?」

 

 小さな手元が差し出したのは、ボトルに入った飲料。

 彼は一瞥し、ぎこちなく「っ、ああ、有難う」とだけ言って受け取ると、無言で飲み干し、空になった容器を返す。

 少女は受け取ると、ふわりと香る甘い残り香を残し、軽い羽根が落ちたかの如き存在感の希薄な足音を鳴らして去って行った。

 

 ある種日常的光景の一つ。傍目には何も特別な事は無い。

 しかしながら、何かを振り払うが如く再び修練に勤しみ始めた彼の心理は、大きく騒めいていた。

 

 こいつ、本当に普通に使用人の仕事を……!

 

 悶々とする彼を他所に、少女は極めて自然に、彼の日常に溶け込んだ。

 それはもう、彼の側にとっては意外な程に違和感無く。

 玄霧領内に限り、また定期的な治療時間を除き、朝起きてから夜眠るまで、さも当然の如く連れ添って見せたのだ。

 

 その日の朝もそう。

 

 「おはよう御座います」

 「……おはよう」

 

 起きれば当然の如く先に起きて支度を整え、枕元に立って待っていた。

 

 「御支度中に敷布団を片付けますので、少々お待ちを」

 「あ、ああ……」

 

 少女はチハヤが起き上がると、彼の寝ていた布団をサッと畳んで片付け始める。

 就寝を共にする様になって以降、彼は少女と共にベッドの上では眠らず、床に敷かれた布団で眠っていた。

 

 発端は、初日の夜。

 

 「俺は……布団で眠る……」

 

 彼は万全を期していた。情欲に飲まれぬ様、ひいては少女の魔力成長に追いつく様日々の訓練強度を倍以上に増やし、男根が張り痼る気力も体力も無かった。

 計算され尽くした気絶寸前の状態。だが心の安寧の為、彼はそう要望したのだ。

 

 「かしこまりました」

 「……えっ」

 

 反論してくるかに思われたが何も無く、ただ簡単にそう返ってきた。

 

 「? 如何なさいましたか?」

 「いや、何か……無いのか?」

 「御座いませんよ」

 

 しかも、それを予期していたかの如く。ベッドの下のスペースから敷布団を出し、ものの数秒で敷いて見せた。

 

 「……今更使用人気取りか?」

 「ええ、使用人ですから」

 

 張り合わない。挑発に乗らない、して来ない。

 まるで冷たい機械の如く、ただ淡々と仕事を熟す使用人と化した。

 恐らく専属の者としては、これ以上無いという程のクオリティで。

 

 食事の席でもそう。

 

 「ぁっ……」

 「どうぞ、変えの物です」

 「あ、ありがとう……」

 

 隣の弟が箸を落とした時に一番に対応して見せた。

 訓練時は内容を把握している故か、給水や休息の呼吸合わせもぴったり。

 執務室の掃除は細やかに行き届いていて、コーヒーはいついかなる時も、まるで欲したタイミングを知っているかの様に出て来る。

 

 今までの他の者達がダメな訳では無い。寧ろ玄霧で働く者は皆優秀だ。

 

 「……そこの君」

 「は、はいっ」

 「よくやっているが、アレに引っ張られ過ぎない様に」

 「はひっ、頑張りましゅっ」

 「あっ、ちょっと待ちたまえっ」

 

 現に全てを少女が行っている訳では無かった。ただ触発されたか、はたまた少女が何か触れ回ったのか。皆の職務まで活性化したのだ。

 当家家政婦長に直接話を聞いた所、この様な答えが返った。

 

 「近寄り難い者ですが、非常に優秀でして……彼女、何も言わず手記を渡してきたんですけど……その内容が素晴らしく、参考にした結果業務効率が飛躍的に改善致しました」

 「そうか、有難う……」

 

 お陰でして貰いたい事が、全て命じる前に終わる。痛快であった。

 本来なら喜ぶべき所だろう。しかし、チハヤの気分は晴れなかった。

 詰め寄り、直接問い質した。

 

 「どういうつもりだ?」

 「……質問の意図を測りかねます」

 「っ、その妙な態度を続ける意図だ。今度は何を考えている?」

 「何もありませんよ。これが本来、今の自分が取るべき態度というだけです」

 

 原因は、恐らくあの夜の言葉の中にある。

 

 “嘘が僕そのものだ”

 “せめて……そこに居させてくれ……”

 

 真意は共に過ごす上での条件を守る為か、はたまた別の何かか。

 単純に傷付き、疲れ果てた末の防衛反応とも見て取れる。

 何にせよ探り当て、適切な対処を────

 

 しかしどれだけ探っても確かな答えては得られず、頑なな姿勢は崩せなかった。

 

 「お前は孕むつもりなんだろう? だとしたら目指すのは妻なのでは無いか?」と冗談気味に問うても「自分には今それを選ぶ権利が有りません」と無表情。

 「随伴が嫌なのか」「嫌ならやめるか」と尋ねても「特別思う事は御座いません」と一蹴。

 「別にそこまでしなくてもいい」「気持ち悪いからやめろ」と直球で命じても「そういった命令は、指輪を通して下さい」と返事された。

 

 状況を元に戻す事も検討したが、戻した所でどうにかなるとは思えず。

 そのらしくもない氷の表情と態度には、心理的距離以上に、唯の皮肉では済まない何かがあると感じてしまい、諦めて放置するのも憚られた。

 

 今の少女(レイト)は、自分から強くメッセージを発さない。

 ならばと今度は妹達をあたった。

 

 「お前達発案だろう? その時はどんな顔をしていた?」

 

 昼休み中。レイトの付いて来られない男子更衣室の中、態々魔力回線を使用した念話でそう尋ねた所、双子は、揃った仏頂面をキョトンとさせて答えた。

 

 「困った様な顔をしていました」

 「嗜虐心を煽る表情をしていました」

 『とてもいじらしかったです』

 

 彼女らはとても良い性格をしている。

 心配事が増えた気がして、チハヤは溜め息を吐く。

 

 「はぁ……今の具合はどう思う?」

 「気になって伺いましたが、何とも言えません」

 「高度に感情を殺している様に見えました」

 『なので想像ですが、好き避けでは?』

 

 理解出来ず小首を傾げた所、更にこう続いた。

 

 「にいさまに非があるとは言いませんが」

 「にいさまは唯一女心の把握に関して疎く御座います」

 『何卒、積極的に理解に励んで下さいませ』

 (アイツは一応中身は男の筈なんだがな……)

 

 心中で考えた折、身体を重ねた時の事が過ぎる。

 いや、そう思っているのは、もしや俺だけで……。

 

 彼女達の意見も一考に値するとはいえ、確証は得られず。

 今度は領外で行う職務に託けて、かの女衆をあたった。

 

 「や〜や〜、言われた通り、頑張っている様だねぇ〜」

 「ミマタ、貴様また何かしたのか……?」

 

 昼間の郊外、初夏の陽気の下、人里離れた長閑な田園の淵で。

 蛇女を前に、彼は本気で魔法の刃を向け威圧し問うた。

 が、相手はいつもの如く飄々と笑うのみ。

 

 「や〜ってないってぇ〜。もぉ〜、分かってるでしょぉ〜?」

 

 「露骨に遠ざけられてアタシゃ悲しいんだぞぉ〜?」と泣き真似をする当人の言う通り、この妖怪はもう出来うる限り少女には近づけさせない様徹底していた。行動も常に監視している。

 とはいえキッカケになった夜の直前には、取引をした記録がある。

 その内容に怪しい点が無くても、何もしていないと信じ切る理由は無い。

 

 「いや、貴様はあの夜、アイツの肋骨と引き換えに、指輪を」

 「八つ当たりはやめて欲しいな〜」

 

 追求は遮られた。

 

 「アタシはあの子の行動選択までは捻じ曲げてなぁ〜い。全てその意に沿った手助けをしているに過ぎないんだよねぇ〜」

 「取り返しのつかない対価を散々要求しておいて、何を言っているんだ?」

 「んんんん〜、取り返しが付いたら対価じゃないっしょ〜。それにぃ〜その対価があの子の行動を左右した事あったっけなぁ〜?」

 

 知る由も無い。ただ、分かる事がある。

 

 「そもそも、アタシなんかがどうこう出来る様な精神性かなぁ〜? 出来てたら、も〜ちょい上手くやれてると思うんだけどなぁ〜?」

 

 この化け物は、嘘は言わない。ここで嘘を吐くメリットが無い。

 ここに居て、レイトの成れの果てと共に帰還した以上、此方に与するしか無い存在だ。

 

 「ああなったのは、アイツの意志だと?」

 「それ以外ある〜?」

 「理由は……」

 

 尋ねかけて、噤んだ。

 これは、自分で考えなければならない問題だ。

 

 「……二度と妙な取引をしないと誓え、と言っても無駄なのだろう貴様は」

 「そだねぇ〜、それがアタシの役割だからさぁ〜」

 

 戦略上、ここで切り捨てる事も出来ない。

 刃を納め、彼は彼女を捨て置く。

 その背に「あ〜まってまって」と言葉が飛ぶ。

 

 「夜伽は、せめて週に一度はした方がいいよぉ〜」

 

 彼女には、敵側の情報収集も担当させている。

 術式によって送られてくるその内容は完璧。毎度正確で、他の情報員の報告とも概ね一致する。

 憎らしくも間違っていた事は、今の所無い。

 

 「……忠告助かる」

 「……んも〜かわいくないなぁ〜」

 

 仕方ない。言い出したのが自分である以上、ここは此方から言い出すのが筋だろう。

 そう彼は覚悟を決め、何時もの常態魔力強化訓練を控え、少女の元へと向かった。

 

 

 

 「お帰りなさいませ」

 

 玄関で当人に迎えられ、そのまま共に執務室へ移動する。

 最中、気恥ずかしさ全開ながらも、若干の突破口になるのではという打算的期待も込めて遂に切り出した。

 

 「夜伽についてだが、今夜する。其方は大丈夫か?」

 「……承知致しました。問題御座いません」

 

 特に眉一つ動かさず返された。

 馬鹿な事をした。我に返り、少し腹立たしくなって言う。

 

 「お前のそれは、こうやって誘い易くする為の配慮では無いのか?」

 「そうお思いになりたいのなら、それでよろしいかと」

 

 スカされて更に腹が立つだけだった。

 翻弄されている。この気分だけはまさに、かの好敵手と相対している時の感覚である。

 が、改めて能面を演じる少女の、ただぞくりとする程愛らしく、美しいだけの愛玩人形的顔貌を目の当たりにすると、心は噛み合いを失う。

 

 「気味が悪い。本当にやめてくれないか? それ」

 「やめさせたいのなら、指輪を使って下さい。それで済みます」

 

 またこれだ。頗るムカつく。

 彼はいつもの挑発的な態度に対する物とは別の、何か込み上げるものを感じた。

 

 何なんだ、自分は、コイツをどうしたい?

 

 口に出す所か、形にする事すら憚られる。

 儚くも美しく可憐で、いじらしく、愛らしい。

 抱き締めたい。優しくしてやりたい。愛して、やりたい。

 

 今の少女は、日に日にその肉体的魅力を増している。歩けば弾んで踊る、胸と尻の膨らみ。首輪の嵌められた細く綺麗な頸を撫でる、短めの柔らかな白銀髪。その都度振り撒かれる、男を悩殺する甘美なフェロモン。

 外見からそう思うのは男として当然だろう。

 しかしそう割り切ろうとすると、必ずと言って良い程今の少女と昔のレイトの面影が並び、重なる。

 

 コイツは男だ。それも自身と唯一競い合った程の豪傑。

 見る影も無いが、確かにその筈なのだ。

 

 沈黙の中、ごくり。息を呑む。水分は足りている筈なのに、喉に渇きを感じた。

 

 その筈なのに、そうだと分かる程に、かの存在は儚く、脆くなる。

 抱き締めてしまえば、愛してしまえば、壊れてしまう。己の中の好敵手の印象の崩壊と、運命を共にしてしまう。

 そんな気がしてならなくて。もどかしさ、歯痒さが解消されないまま、手は虚空を撫で、歩調を合わせていた脚は速まった。

 

 「……ふんっ、誰が使うものか」

 「っ、お待ち下さいませ」

 「待たんっ」

 

 

 

 気持ちにケリの付かぬまま、定刻を迎える。

 

 約束した場所は館一階の浴場。彼が訓練後よく、汗を洗い流す場所。

 広い割にいつも自分だけが独占していたその場にぽつり、あどけなさに不釣り合いな程豊かで妖艶な、弾けんばかりのトランジスタグラマーの裸体が待ち受けていた。

 怪しげに輝く、痛々しい下腹部の淫紋に吸い込まれる様に彼は歩み寄ると、相手は少し伸びた白銀のショートボブを丁寧に下げる。

 

 「……本日は、宜しくお願い申し上げます」

 

 涼やかで美しいソプラノの女声が木霊すと共に、ふるんっ。その胸元の魅惑の果実が揺れた。へたの部分は前と違い恥ずかしそうに隠れているのに、それ自体はまるで恥ずかしげも無く漫然と弾んで、その豊かさを主張して来る。

 チハヤの方が思わず羞恥と劣情を催し、前屈みになり、腰に巻いたタオルで股間を抑えてしまった。

 

 ……畜生。

 

 触れた自身の逸物は痼り勃ち、脈打っていた。

 余力が有ればこうなるという事は既知の事実。意識しても如何にもならない事を悟り、切り替える。

 

 「……だいぶ、薄れたな刻印。腹のやつ以外は」

 「ええ……お陰様で」

 

 治療のお陰か、全身に広がっていたアザのような刻印は今や殆ど見えず気にならなくなっていた。

 尤も、少女の魔力を糧とする下腹部の物は別で、初期よりもいっそ禍々しくも見える程未だ濃い。

 首元のチョーカーが光っている以上、全く以って健全とは程遠いのが実状である。

 

 「っ、まだその調子なのか」

 「ええ。調子は万全です。如何なさいますか?」

 

 噛み合わない返事。紅の瞳は、チハヤを見ている様で見ていない。決意は硬い様だ。

 彼は一つ深呼吸して冷静になり、慮る。

 

 成る程、要はこいつは、これを私情を挟まない仕事の場と取り、演じる事にした訳だ。

 これ以上先延ばしにする訳にも行かない以上、理に適っている。

 良いだろう、乗ってやろう。

 そう胸中で息巻いて無理矢理対抗心を燃やし、腹を括り、彼もまた一つ恥を捨てる為、演技に興じる事にした。

 

 「ではまず、身体を洗って貰おうか」

 

 比較的定石通り。軽い先制ジャブのつもりで放った一言は、「かしこまりました」の定型的で淡白な返事で味気なく返された。

 唖然とするチハヤ。その手を、小さく嫋やかな手が引き、シャワーの前まで誘った。

 そして腰掛けを手に取り、所定の位置に置く。

 

 「腰のタオルを取り、腰掛けて下さいませ」

 「……ああ」

 

 言われるがまま座った彼の前、諸々の道具を桶に入れ背後に周ると、少女はシャンプーを手に取り泡立てた後、黒の頭髪を掻いた。

 

 「痒い所は御座いませんか?」

 「……ああ」

 

 耳元を擽る女声。頭皮を掻く細い指の絶妙な力加減。首筋で稀に感じる柔和な肌の存在感。

 ここまでは何の問題も無く、「目を閉じて下さいませ」という掛け声の下、泡立った頭髪を洗い流される事によって一段落。

 しかし次。少女は泡立て用のスポンジタオルを手に取り泡立てると、自身の身体に泡をたっぷりと塗り込んだ後、ふにゅり。弾力ある柔和な感触を、筋肉質な広背筋に押し付けた。

 

 んなっ……!

 

 迸る、思春期男子の健全な情動。

 それを彼は必死に押し殺し、涼しい顔を取り繕って耐えた。

 尚容赦無く、「んっ、ふっ……」と、甘い吐息を漏らしながら、女肉が背中の上で往復する。

 官能を誘う、よくよく訓練された動きだった。同時に手元の泡立ったスポンジタオルは、手の指先から足の爪先の隅々に至るまで彼の肉体を洗っていく。

 

 こいつはっ……!

 

 覗き込んだ至近距離のその瞳は、相変わらず何も見ていないものの、何処か淫欲に蕩けて濁っていた。

 

 「はぁっ……失礼します……」

 「くぉっ……⁉︎」

 

 泡塗れの華奢な手指が、痼り勃った逸物に触れた。

 文句の一つでも言おうとしたチハヤだが、腑抜けた声が出てしまいそうで言うに言えず。

 すにゅっ、くにゅっ。玉と竿は、丁寧に洗われていく。

 

 っ、耐えろっ……でないと、格好が付かんっ……!

 

 「……っ、このまま、いたしますか……?」

 

 吐息混じりの甘い声と共に、誘う様に、鬼頭が撫でられた。

 ぐんっと惹き込まれ、彼の視界はぐらつく。

 競り合う理性と本能。末に、強靭な理性が勝った。

 明らかに正気じゃないコイツに、そのまま主導権を握らせてなるものか。

 

 「いや、泡を流してから、そうだな……逸物でもしゃぶって貰おうか」

 

 参考の為読んだ小説中の鬼畜のセリフ、テンプレートと共に、ぴんっと勃った逸物を突き出して見せる。

 

 ……畜生、なんて恥辱だ!

 

 本来男同士だから見せ合っても問題ない、などという理屈は当然存在しない。男同士でも恥部を見せ合うのは抵抗感のある行為だ。

 彼はどうかと思いながらも感心する。場数の違いか、向こうはよくも顔色一つ変えない物だ、と。

 しかしいきなりこう言ってしまえば、元は男だ。必ずボロを出す筈。そう思いながら、出来る限り鉄面皮を維持して見せた。

 

 が、対する少女の表情は動かず。ただ涼やかな鈴の音の如き声で「承知しました」と返事して、サッと逸物をシャワーで流すと、床に跪き、その高さで口を開けた。

 

 おい、おい嘘だろうっ……⁉︎

 

 口元がゆっくりと近付いていく。淑やかで、上品に、普通の食事を頬張るが如く。

 幾度と無く問うた疑問の答えが迫る。

 少女はもう、本当に自分の知るレイトでは無いのか。

 仄暗い帷が胸中に降りていく。

 

 いや、これでいいのかもしれない、これで────

 彼が一つ何かを諦めかけた、その寸前。

 

 「……ぅ゛えっ」

 

 少女は、嘔吐した。

 

 「……んなっ⁉︎」

 

 すぐさま取り繕い、「申し訳ありません」と謝って頬張ろうとするが、出来ない。涙目で嘔吐いて止まらない。

 

 「む、無理するな、止めていい……」

 「ぅ゛っ……ぅ゛えっ……」

 

 なんだ、この、何だ……。

 股間は、落ち度は無かった筈だ。此方が傷付く必要は無い。

 それより、無理をさせ過ぎたんだ。コイツの体調の心配をしなければならない、のに。

 

 興奮とショックと心配と、各種入り混じった言い知れぬ精神的ダメージを受け、チハヤは片膝をついてしまった。

 

 一方、吐き気に俯いたまま動けない少女は逡巡する。

 

 

 

 ────ああ。

 

 もう、何も感じたくない。

 切なくて、愛おしくて、憎らしくて。

 少女は堪え兼ね、感情の弁を閉ざしていた。

 

 思えば玄霧の環境は過ぎたる薬であり、毒の様だった。

 ここは何もかもが揃っている。自分も十分に恵まれた立場だと思っていたが、焦がれずにはいられなかった。

 下々の所まで堕ちたからこそ、より理解させられる。

 

 「チハヤ様、ちょっと荒れてたけど元に戻ったね」

 「そう? 私はなんかまだ……」

 「良かったぁ、荒々しい姿も素敵だったけど、やっぱいつものチハヤ様の方が素敵だわ」

 「私今日頑張って窓掃除したら気付いて貰えてさ〜」

 

 使用人を褒める、か。した事も、無かったな……。

 

 「レ〜イちゃん! 君のお陰だよぉ! ありがとねぇ!」

 

 その中の一人が不意に飛び付いてきて、抱かれた身体が「ひやぁっ!」と跳ねた後、床に崩れ落ちる。

 

 「あっ、ごめんなさっ」

 「こらっ、あんたねぇっ!」

 「御免なさいねぇ。この子人懐っこいけどちょっとスキンシップ過剰で────」

 

 あんな仏頂面だが愛し、愛されていた。親も弟妹だけでなく、遣える人間達ですらも。

 暖かさがこれ以上無く痛切で、苦しく感じられた。

 

 ここは場違いだ。自分は居るべきじゃない。

 ここならば、自分も受け入れて貰えるかも。

 拒絶されるべきだ。

 甘えたい。許されたい。

 

 裂けた胸の奥から、黒くて赤い、醜いドロドロしたものが溢れて止まらなかった。

 

 “せめてそこに居させてくれ”

 

 何故口にしたのか。何故実現してしまったのか。

 火に呼び寄せられた虫が焼かれるが如く、苦しみは増した。

 故に必死に、心理的に距離を取った。己が本心を、かの過酷によって副産物的に築き上げられし心理要塞に閉じ込め、使用人として、自分ではないレイとして振る舞う事で、自身を守ろうとした。

 

 されど、より心は歪さを増した。

 訓練中の彼の姿。

 執務中の彼の姿。

 就寝中の彼の姿。

 

 眺めれば眺める程、近くて遠い存在は遠く、大きくなった。

 あの頃の憧憬のまま、より強く、大きくなった。

 

 眠る時、彼の部屋の匂いに包まれ、妙に落ち着くと共に、妙に昂るようになった。

 鼓動が高鳴って堪らなくなった。

 

 だめだっ……これだけは、絶対っ……。

 

 「はぁーー……っ、っーー……」

 

 薬が効いていても常に下腹が熱く、頭は常に彼を追い、ぼーっとする様になった。

 濡れた内腿が、淫熱を孕んだ下腹部が気になって、薬に頼らなければ眠れなくなった。

 すりすり、くちゅり。耐えかねて枕カバーをはんだ。

 

 気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い────

 

 冷徹な嫌悪の膜で包み、ひたすらに潰した。

 潰す度、感情は増した。

 どんどん歪になって、自分が何なのかも分からなくなって。

 

 そんな折、遂に向こうから夜伽に誘われた。

 

 浮ついて足元の感覚が無くなった。首輪の力が無ければ、きっと無様に尻餅をついていただろう。

 もう嫌だ。早く、早く早く。ボクを楽にしてくれ。

 こんな気持ちから解放してくれ。

 

 そんな折、泡を纏い、乱れた身体と急く情緒の眼前に、遂に男根が差し出された。

 解き放たれる、根源的なパトス。

 練習は何度もした。身体だけでなく、首輪にその動作が刻み込まれている。

 導かれるままその通りに動いて、それを口元に運んでいく。

 

 頭はもう、拒んではいなかった。

 身体も、途中までは拒んでいなかった。

 

 ……いやだ。

 

 けれど、本物の肉竿が近付くにつれ段々と狂っていった。

 

 やっぱりいやだ。なんで? でもいやだ、いやだいやだいやだいやだ────

 

 チグハグな心理、肉体は、結局の所限界で。

 胃の中から込み上げてきた物を、堰き止める事が出来なかった。

 

 っ……やっぱり、だめ、か……。

 

 

 

 暫くして。慌ただしくなった双方は落ち着きを取り戻し、絶妙な距離感で並んで湯船に浸かる。

 長らく沈黙が続いたが、チハヤ側から切り出した。

 

 「……いいのか、体調が悪いんだろう?」

 「……お医者様が言っていらしたでしょう? ただの心因性による一過性の物。薬を飲んだのでもう大丈夫です」

 

 「何時でも、合図が有れば応じます」と、そう宣う少女の顔には、先程までの硬さが失われ、気落ちした感が露わになっている。

 一時蒼白になっていた血色は良好で、医者も気遣えば問題無しとは言っていたものの、元気には見えない。

 

 「だからとはいえ」

 「もう遅らせる事は罷り成らない。でしょう?」

 

 遮る様に吐かれた敬語も、何処か観念したニュアンスを含んでいた。

 彼は気持ちを汲んだ上で、少し拗ねた態度を取り戯れる。

 

 「……これ以上心配させるな」

 「……申し訳、ありませんでした」

 

 しかし、少女はそれ以上にいじけていて、再び閉ざした感じの返事が返った。

 この期に及んで向き合い切ろうとしないその姿勢にカチンときてしまい、チハヤは一転、厳しい事も言う。

 

 「っ、あのな、その見た目で目の前で嘔吐されるの、それなりに傷付いたんだぞ。少しは埋め合わせしろよ」

 「ぅ……申し訳ありません」

 「埋め合わせその一として先ずはその妙な敬語をやめろ」

 「……妙? 女衆にも誉められたんですよ? 上手く出来ている筈ですが」

 「元々の立場のせいだろう。敬い方が何処かズレている」

 「…………はぁ、気をつけるよ」

 

 会話が途切れ、再び沈黙。

 トクン、トクン。凪いだ湯の水面が、僅かばかり二人の鼓動で揺れる。

 トクン、トクン、トクン、トクン、トクン────

 

 ────焦ったい。もういい。

 

 その波紋を先に崩したのは、チハヤだった。

 こんな関係、壊してしまえ。壊れた先どうなるかは分からないが、きっと今よりマシだ。

 そう決心し、勢い良く湯船から立ち上がった。

 




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