※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

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送別会の修羅場が続く

夕美はもう頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱された気がして、

ちひろを亡き者にするために椅子を持ったまま突撃した。

 

「失礼ですが、お嬢さん」

「そこまでにしていただきましょう」

「千川様に無礼を働くのは許しません」

 

しかし夕美の前に立ちふさがったのは身長が2メートル近くある巨漢たち。

本当に人間だろうか。黒服にサングラスなので素顔は分からないが

きっと人造人間なのかもしれない。

それくらい彼らの言葉には人間味が感じられない。

 

「君達。ちょっと待ってくれないか。俺の妻に触れないでくれ」

 

プロデューサーが、射貫くような視線で大男たちを見ながら言う。

さすがの男たちも多少は動揺したようだ。

 

「夕美はこっちに来なさい。俺のそばにいろ」

「はい……」

 

夕美は椅子を遠くへ投げ捨ててからプロデューサーに寄り添う。

 

「まず俺の妻が荒っぽい真似をしたことを詫びる。

 もっとも決して夕美が悪いわけじゃないがな。

 千川ちひろ。俺はもうお前に敬語を使う義理もいないので

 普通に話させてもらうぞ」

 

「それは構いませんよ。今日から名前もちひろって読んでくださいね?」

 

「今からいくつか質問するのでそれに答えて欲しい」

 

「どうぞどうぞ。私の知ってることでよろしければ、

 なんでもお答えしちゃいますよ」

 

「ああ、だがその前に」

 

プロデューサーは、近くにいるアーニャの手を握った。

 

振れて3秒としない内にプロデューサーの体温が上がり、

失われていたはずの握力が戻ってくる。人の手のひらの温かさも感じる。

脊髄炎症のせいで愛しい夕美の体に触れても冷たいコンクリのように感じられたのだが。

 

このことから千川の言ってることが嘘ではないことが分かる。

今はアーニャしか治療の方法がないのか。いや治療にすらなってない。

あくまで対症療法。病気の根本を治療しなければ完治するわけじゃない。

 

 

Pはアーニャに振れていると本来の思考能力まで戻ることに

気づいたので手をつないだままにしておいた。

そして近くにいる夕美にスマホの録音アプリを起動させ、

メモを取るように命じてから質問を開始する。

 

寄り添う3人に対し、ちひろが1人だけ外にいて尋問を受ける形となった。

 

「あの時俺に打った注射器に入っていた薬はどこで手に入れた?」

 

「手に入れたわけじゃなくて自分で作った薬です」

 

「脊髄炎は厚労省が定めた指定難病だ。仮に治す場合の薬を開発するにしても

 個人では絶対に不可能だろう。その薬は医療用医薬品に分類されるので

 普通の流通ルートで手に入れるのも無理だ。

 俺の病気を作るきっかけとなった薬剤をどこの病院から盗んだ?」

 

「私の古い知り合いの男性が、最近新しいラボ(研究所)に移動になったんですね。

 横浜にあるパシフィックR&Dセンターです。

 その施設は21年から工事を開始して昨年にようやく完成しました。

 私はその施設に遊びに行った時に脊髄炎に関するお薬をもらいました」

 

「もらった?」

 

「はい」

 

「どうやってもらった?」

 

「本社にいる取締役員に裏金を払いました」

 

「いくらだ?」

 

「3億円ほどです」

 

会場を沈黙が支配する。

 

ちひろはさらっと3億と言った。3億円である。

確かにこの女は小遣い稼ぎの商売が上手な風ではあったが、まだ25歳である。

仮に大学を出てから3年目だとしてそれほどの大金を持ってるとは考えにくい。

 

しかしこのマンションはこの部屋だけで7千万の価値はあるだろう。

下手したら1億かもしれない。この女が本当に大金持ちならすでに

この部屋を所有してる可能性もある。まさか大企業の社長や政治家の娘か?

 

 

「もらった薬の詳細は?」

 

「口で言っても理解しにくいと思うので説明書きをご覧ください」

 

 

・エンスプリング(一般名:サトラリズマブ)

 

pH依存的結合性ヒト化抗IL-6レセプターモノクローナル抗体®

視神経脊髄炎スペクトラム障害に対する初の在宅皮下治療薬。

 

 

「病気の詳細は、資料の2枚目をご覧ください」

 

視神経脊髄炎スペクトラムは 自己免疫疾患でもあります。

自己免疫疾患は、免疫系が機能不全に陥って体の組織を攻撃することにより

発生します。視神経脊髄炎スペクトルでは、アクアポリン4と呼ばれるタンパク質が

自己免疫反応の標的となりますが、このタンパク質は脳、脊髄、視神経の支持細胞

(星細胞と呼ばれます)の表面に存在します。

 

星細胞の損傷が脱髄につながると考えられています。

視神経脊髄炎スペクトルの一部の患者では、髄鞘の外層にある

ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)と呼ばれる

別のタンパク質が自己免疫反応の標的になることもあります。

 

 

「なんだこれは。専門用語が多くて何のことかさっぱり分からんが、

 俺にこの薬を注射したら病気は治るのか?」

 

「気になるなら試してみますか? 

 大学病院とかで頼めば処方してもられるかと思いますけど」

 

「その言い方をするってことは治らないのか?」

 

「プロデューサーの今の症状は、人為的に発生させられた病気ですから

 既存のお薬で効果があるかどうか分かりません。それにエンスプリングは

 患者の免疫力を高めるためのお薬であって病気の根本までは治りませんよ。

 プロデューサーさんの場合は中枢神経の脊髄が機能不全になったわけですから

 治療は極めて困難だと言わざるを得ません」

 

「……お前はこの薬を自分で作り変えたのか?

 どうやって俺の体を悪くするようにした?

 そんなことが素人に可能なのか? お前は事務員じゃなかったのか?」

 

「質問が多くないですか」

 

「すまん。じゃあ最初の質問に答えろ」

 

「最初ってなんでしたっけ?」

 

「この薬の効果を自分で作り変えたのか?」

 

「そうです」

 

「最初の方の質問と被るが、そんなことが可能なのか?」

 

「実は人に手伝ってもらいましたけど」

 

「誰だそれは。そいつの名前は?」

 

「それは言えません。彼が逮捕されちゃいますから」

 

(彼だと……?)

 

恋人の話をしてる風にも感じられるが、千川がプロデューサーに

興味を持ってるのは確かだ。となると昔の彼氏か、ただの友達か。

 

千川ちひろの補足によると、この世界では人体を知り尽くしている

医薬品の研究者が人体の免疫機能を逆に弱めるための薬を開発するなど容易らしい。

無論重大な違法行為であり事実が公になればタダでは済まない。

 

「問題は、プロデューサーさんの場合は私達も想像してなかったほどの

 めずらしい病気になってしまったことです。病気とは

 見つけてから対処法や治療法を確立するのが大変なんです」

 

「さっきから他人事みたいに言わないでよ!

 あんたが作った薬なら治す方法くらい考えてよ!」

 

「落ち着け夕美。こういう時は怒った方が負けるんだぞ。

 千川。今回の件はお前の責任だぞ。人の体を薬の実験台にするんじゃない。

 それで俺の病気を治すための薬はお前の知り合いが作ってれるのか?」

 

「それなんですけど、薬の開発をするのに……お金が必要でして。

 これが正式な研究でしたら企業や政府から予算が出るんですけど、

 今回は私的な理由での開発になりますから負担費用が大きいですよ」

 

「いくらだ」

 

「具体的には、あと470億円ほど足りません」

 

「……そんなにかかるのか」

 

「あれ? 驚かないんですか?」

 

「製薬業界のことはそれなりに知ってるからな。

 仮に今から新薬の開発となると個人の力では開発は不可能だな」

 

「残念ながらそうなりますね。これは企業レベルの話ですが参考までに。

 新薬の開発プロセスは、まず創薬の研究に数年、研究開発にさらに数年、

 そこから臨床試験をしてから国に承認申請をする。早くても10年かかりますね。

 開発に成功する可能性は通常でも3万分の1とされています。

 今回の症例はこの世界でたった一人なわけですから、

 新薬の投与実験もプロデューサーさんでやるしかありませんね」

 

「それはつまり、事実上一生治らない病気というわけだな?」

 

「はい。でもアーニャちゃんに触れたら体調が良くなるわけですから

 そんなに悪い条件でもないでしょう?」

 

「俺にとって困るのがこの病気の治療のせいで夫婦生活を邪魔されることだ」

 

 

遠回しにアーニャを邪魔者扱いしている。アーニャが泣きそうな顔になる。

 

 

「あっ、いや。別にアーニャが嫌いってわけじゃないぞっ?

 本当だ。ただ、俺は良くても夕美が怒るだろうからって意味で言ったんだよ」

 

「……」

 

夕美が沈黙しているので逆に怖かった。

 

プロデューサーは微妙な立場だ。夕美とは婚約してしまっているし、

かといってアーニャと離れ離れになってしまえば病気が悪化する。

また千川とも病気の件で疎遠になるわけにはいかなくなった。

 

 

「薬の開発は、する必要ないでーす」

 

「アーニャ……」

 

「私がずっとプロデューサーのそばにいれば問題ありません」

 

「なあアーニャ、まさかとは思うけど、おまえの荷物の送付先って」

 

「プロデューサーのマンションです。

 私は今日からプロデューサーの家に住みます」

 

 

 

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