※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

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(´-ω-`)

また金融の話が含まれます。

苦手な人はこの話は飛ばしてください。

他の話では恋愛、三角関係の修羅場、エロなどあります。


プロデューサーが朝3時に起きた (金融2)

prrrrrrr

 

「ちっ……ねむい」

 

プロデューサーは枕元にある携帯の目覚ましアプリをオフにする。

朝というより深夜だ。まだ日も登ってないので寒い。

 

極東ロシア(サハリン)に比べたらうっとおしい積雪や

地獄の吹雪がないから東京の冬など天国に違いないのだが、

今のプロデューサーは病気のせいで体温が常に低く寒さが辛い。

 

今だってアナスタシアと最後に触れ合ったのが昨夜の

22時だったのでもう完全に電池切れだ。

スマホで別室にいるアーニャへ電話する。

 

中々出ない。誰だってこの時間は眠いのは分かるが、

今日は大切なお仕事があるので起きてくれないと困る。

 

プロデューサーは諦めずに3分間コールし続ける。

 

アーニャは「вставай сейчас……」と

呂律の回らないロシア語で今すぐプロデューサーの部屋に

行く旨を伝えてくれた。アーニャが夫婦の寝室の扉を開ける。

 

「プロデューサー、早くこちらへ」

 

「今行くよ」

 

プロデューサーが布団からもそもそと出ようとするが、

夕美がしがみついて離れてくれない。夕美は実は目が覚めていたが、

アーニャに愛する旦那を渡したくないので抵抗していたのだ。

 

「悪いけど行かせてくれ。朝までには終わるから」

 

「どうしてですか。そんなに家賃補助が欲しいんですか」

 

「生きていくのにお金は必要だよ。俺はこの身体だから

 これからの君との生活のために1円でも多くお金が欲しいんだ」

 

「そんなこと言って。相変わらず口が美味いんだから」

 

夕美は諦めてくれたが、最後にプロデューサーと軽くキスをした。

 

 

プロデューサーの仕事部屋でアーニャがエアコンの暖房をつけてくれた。

デスク近くには足元用の小さな電気ストーブもつけている。

ノートパソコンの電源を入れてからプロデューサーはヘッドホンを用意した。

 

ソニー製のモニターヘッドホンであり、

アーニャ達アイドルはスタジオで使い慣れた製品だ。

プロデューサーはこのヘッドホンでこれから英語の放送を聞くのだ。

 

「今の時間は……」

 

2023年2月2日。朝の3時17分。

 

米国東部時間(冬時間)では1日の午後だ。

日本時間で2日の朝の4時に米国の政策金利が発表される。

 

ユーチューブではFOMCのライブ映像が見れる。

まずFRB(中央銀行に当たる組織)のパウエル議長による

現在までの金融環境に関する説明から始まり、それから各記者からの質疑となる。

 

記者の所属はワシントンポスト、ウォールストリートジャーナル、

ニューヨークタイムズ、ロイター、ブルームバーグTVなど。

 

プロデューサーは為替と各国の国債利回りをチェックする。

まだ政策金利の発表前なのにパルエル議長のハト派発言を見込んで

利回りが低下を進めている。独仏英など欧州の国債利回りだけでなく

豪州やNZなどオセアニア市場の国債も同じ動きを見せている。

 

利回りの変動がないのは低金利政策が続く日本国債と、

長いロックダウンの影響で未だに金融緩和政策を続ける中国の国債だ。

 

FOMC(米公開市場委員会)は政策金利を決定するために

年に8回開催される、世界が注目する大イベントだ。

この日ほど相場が大きく変動する日もない。

FOMCに反応するのは主に為替と債券だが、株も連動して急激に変動する。

 

素人もプロも関係なく金融資産の運用をする人には

避けては通れないイベントだ。

 

資産運用規模の多いプロはこの会合の前に

ポジション(資産の保有比率)を減らしておくのが一般だが、

プロデューサーは偶然にも現金を1,000万以上も残していた。

 

個人投資家としての彼は本来なら常にリスク資産を全額保持してるのだが。

なぜならよく調べた優良銘柄が短期的に暴落したとしても

放置しておけばすぐに回復するからだ。

 

 

↓興味のある人へ。2月に実施されたFOMC

https://www.youtube.com/watch?v=3Iv4aCN0OOo&t=1s

 

↓FOMCでの会話全文をPDFで確認できる。

https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20230201.pdf

 

 

まだ委員会の開催時間まで余裕があるのでプロデューサーは

アーニャといつものように手をつないだ。

同居していてもこんなに手をつなぐカップルも珍しいだろう。

お互いの手のひらのシワがなくなってしまいそうだ。

 

 

「キスしましょう」

 

「え? この時間にか?」

 

「ダメですか?」

 

「……夕美にばれたらうるさいぞ」

 

「夕美、まだ寝てますよ」

 

「そうだといいんだが……」

 

 

アーニャは彼の返事を聞かずに唇を優しく押し付けてきた。

朝起きたばかりなのにプロデューサーに急激に力が注がれていく。

 

この感覚はずっと寝たきりだった人物が夏の太陽の光を浴びたのに近い。

一瞬で血行が改善され、嫌な気分が吹き飛び、軽く汗をかくほどだ。

気分がハイになり、いっそ外を1キロくらい走りたくなる。外はかなり寒いが。

 

「プロデューサーが揉んでくれるから私の胸が少し大きくなりました」

 

「アーニャ、あとで抱いてあげるから今はやめようよ」

 

「どうしてもイヤ、なんですか?」

 

「TPOだよTPO。前にも教えたろ。

 日本では空気の読めないことをする人は嫌われるんだぞ」

 

「嫌われるの、いやです」

 

「だろ? だったら今日のところは我慢してくれ。

 またあとで好きなだけ抱いて……」

 

そこで扉が力強く開けられて夕美が入って来た。

薄手のパジャマ姿なので色っぽいのだが、夫と抱き合うアーニャを見て

ほっぺたをぷくーっと膨らませている。

可愛らしいしぐさに見えるが本気で怒ってるのだ。

 

「お仕事だって聞いたけど楽しそうだね、ふたりとも?」

 

「はい。そうです。楽しかったです」

 

「……」

 

「……」

 

「アーニャちゃん。充電はもう終わったのかな?

 もし終わったのなら夫を一人にしてあげて。あなたは自室に戻って寝てなさい」

 

「充電は終わってませんよ。充電を始めてからまだ30分も経ってません」

 

「……」

 

「……」

 

「前から言おうと思ってたんだけど、アーニャちゃんが

 私の見てないところで彼を誘惑してるの知ってるからね」

 

「ゆうわく? 

 私はプロデューサーの妻ではなくても恋人です。

 恋人ならキスはします。普通のことです」

 

「キス以上のことまでしてるのを知ってるんだけど?」

 

「私は彼の事、好きですから」

 

「それ答えになってないから。日本語ちゃんと喋ってよ」

 

「しゃべってますよ」

 

「結局さ、アーニャちゃんって何がしたいの。

 私から彼を奪うのが目的なの?」

 

「夕美は気づきましたか? 先週から同じことを何度も繰り返してますよ。

 私達は、ちひろからお願いされて一緒の生活をしていますから、

 決められたルールを守りながら仲良く暮らさないといけません」

 

「へ~~~。そのルールを破ってる本人が言うんだぁ?」

 

「やぶってないです。ルール」

 

「破ってるじゃん!!」

 

「やぶってないです」

 

「だから、破ってるって私は言ってるの!!」

 

「夕美、さっきから怒鳴ってうるさいです。

 プロデューサーのお仕事の邪魔になりますよ」

 

 

プロデューサーは気にしないふりをしてモニターを見ていた。

不可解な値動きだ。今回の米当局の利上げは大方の予想通り

0.25%で確実だろうが、債券利回りの低下の速度が速すぎる。

 

FOMCが開始。パウエル議長の会見が始まった。

 

「うげぇ」

 

プロデューサーは目が回りそうになった。今時の相場では

プロがAIを駆使した高速取引をするので米ドルの為替相場の乱高下

が目にも止まらなぬ勢いだ。いったんドルが買われたかと思えば、

FOMCが進むたびにどんどん売られていく。

 

一時期上昇した恐怖指数VIXは急落していき、米株ではナスダック指数が

急激に買われていく。また米国2年、5年、10年、20年国債の利回りが

急激に低下するのと同時に欧州や豪州の利回りも急激に低下していく。

 

これは、端的には1年先にはインフレが鈍化してFRBが利上げを停止するか

利下げに転じる可能性を市場が織り込んだ動きだった。

 

 

「でもこれ、おかしくねえか?」

 

昨年の11月から債券市場の値動きはパウエル議長や連銀総裁の金融政策の方針と

全く逆方向に動いている。まるで金融当局が嘘をついていると言わんばかりに。

 

この部屋ではまだアーニャと夕美が言い争いを続けてるが、無視して

ヘッドホンを装着してプロデューサーがパウエルの会見内容を確認する。

高度な専門用語が多いのですべてが聞き取れるわけではなく、

手元に置いた金融英単語帳(自作)をチラ見しながらリスニングする。

 

パウエル議長の発言をまとめると

 

・直近3か月のインフレ鈍化傾向の指標だけではインフレ鈍化の証明にならない。

・雇用指標が強い。米国経済は底堅い。住宅市場と労働賃金にも目を向けるべきだ。

・見るべき指標は産業ごとにも細目が異なり、判断するのは至難である。

 

・12月の会合でも言ったように、我々(FED)の見通しは毎回の会合ごとに変わる。

・今回は0.25%の利上げに決定。次回以降の利上げ停止の予定を

 我々は考えてないが、かなり先の話になるだろう。その時の状況次第ではあり得る。

 

・昨年の利上げ強硬による経済への悪条件は理解。

 インフレ退治のため必要な措置だと認識してる。

 

・それを恐れて利上げを弱めるならインフレが再発する恐れが

 あるので当局はその判断はしない。

 

 

「おかしいな……」

 

プロデューサーは今回ばかりは市場の動きが理解できなかった。

パウエル対債券市場。たまたま現金を余らせてしまっている彼は、

今この瞬間にNY市場(ニューヨーク・ストック・マーケット)の口座で

米国10国債や社債のETFの買い付けをしたかったが、その判断ができない。

 

債券市場が正しい(FRBが利下げ方向へ傾く)なら債券が買いだ。

しかしパウエルの発言通りならばむしろ低迷するであろう株式を買いたい。

 

仮に明日の東証で日本株が大暴落をするのなら(22年の4月以降は

パウエルの発言のたびに暴落を続けていた)そこでプロデューサーは

ためらいなく銀行、商社、鉄鋼、海運などの優良株を買い集める。

 

 

プロデューサーが別の携帯を取り出してロンドンにいる友人の番号

(スコットランド人で三井物産の社員)に連絡しようかと思ったがやめた。

彼が今も務めてるのかは知らないが、昔の人間と比べると

今の自分の状況がものすごく情けなくなるからだ。

プロデューサーは根が小心者なのでエリート達の前では無駄に見栄にこだわるのだ。

 

少し汗ばんだのでヘッドホンをむしり取ると、夕美はいなくなっていた。

喧嘩は終わったのか、アーニャが壁の一点を見つめながら床に座っている。

プロデューサーはアーニャに優しい言葉でもかけてあげようと思ったが、

その前に電話が鳴る。まさか、と思うとちひろだった。

 

「おはよーございまーす」

 

「おはようございます。ちひろは起きてたのか」

 

日本時間の朝の5時11分だ。NY市場は6時まで開いている。

 

「今起きてスマホで相場を確認してるとこです。すごい値動きですね~。

 これはつまりパウエルさんの発言はハト派だったってことですか?」

 

「実際はその真逆だよ。むしろタカ派に近いトーンだったんだが、

 市場が当局の発言を完全に無視して1年先の利下げを信じているようだ」

 

「そうなんですか~~。不思議ですね。よく分かりませんね」

 

「ああ。俺も困ってる」

 

「私が聞きたかったのはプロデューサーさんの意見なんですよ」

 

「俺の意見なんて聞いてどうなるんだ。

 朝9時までにブルームバーグの記事で何人かの専門家の意見が

 出るだろうからそれを見て判断すればいいじゃないか」

 

「だから、プロデューサーさんの意見が聞きたいんですよ。

 約束を忘れましたかあ?」

 

今回の会合をプロデューサーがリアルタイムで確認してくれたら

ちひろが彼のマンションの家賃補助のお金を

出してくれるという謎の条件のことだ。

 

「パウエルを支持する。インフレ鈍化と断ずるには確かに証拠が足りない。

 中国経済はこれから再開して資源需要はまだまだ高まる。

 1月末に決算発表した商船三井の電話会議の資料を読んだが、

 OMEの海上運賃の急落は第3四半期が底だとの指摘が役員からされていた。

 海上運賃はコロナによるインフレの先行指標だ。やはりインフレは終わらない」

 

「つまりFRBがそう簡単には利下げに転じないと?」

 

「そう思う」

 

「うふふっ。ありがとうございまーす。プロデューサーさんのおかげで

 すごく勉強になりましたよ~~。やっぱりプロデューサーさんはすごいです」

 

「ところで君のポートフォリオのポジションはどうなってるんだ?

 今回の会合の結果に対するヘッジはしてるのか?」

 

「ポジション? 私は株を何も持ってませんよ」

 

「マジか?」

 

「嘘でーす。詳細はまた後でお話しますよ。

 それじゃ、これから朝の支度があるのでまた」

 

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