好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか? 作:なおちー
「あははっ。そうそう。車から降りた時にプロデューサーさんが
周りをキョロキョロして『佐久間さっ……まゆさんがいないんですっ」って
泣きそうな顔して困ってたんだよね!! あの困ったぁ…って感じの顔といったら
普段の仏頂面とのギャップがすごすぎて笑っちゃうよね~!!」
夕美は夜に長電話をするようになった。
相手は新田美波だ。夕美は武内Pのシンデレラプロジェクトで芸能活動を
しているわけだが、美波とは大学生や清楚系など共通点があるため特に気が合った。
今ではお互い暇な時間のある時にこうして電話をするようになった。
夕美は来週大学に提出するレポートがなかなか進まない。
必修授業の教授から出された課題なので絶対に終わらせないといけないのだが、
夕美は少しで友達と話すことでストレスを発散しておかないと
とても文章など書く気にならなかった。
時刻は夜の8時過ぎ。
「え? 今度オフの日に私の家で遊びたい?
でも私の家って神奈川だからここからじゃ少し遠くない?
それより美波ちゃんの女子寮に行きたいと前から思ってたんだよね。
お休みの日に蘭子ちゃんや小梅ちゃん達とも会ってみたいのもあるし」
確認したわけではないが、今頃プロデューサーは仕事部屋で缶詰になっているはずだ。
「えっ、美波ちゃん。その話、誰から聞いたの?
あ、アーニャちゃんだったの……。うん、うん。残念ながら嘘じゃない……かな。
あまり他の人には話さないでね!! えーっ嘘っ、他の人はみんな知ってる……?」
心優しいはずの清楚系アイドルで知られる夕美さんは、
口の軽すぎるロシア系少女アーニャちゃんの首を絞め殺してやりたくなった。
今シンデレラプロジェクトで働いているアイドル達はすでに
夕美の現在の生活状況を把握してるとのこと。
なぜ美波達が当たり前のように夕美の絶対の秘密を知っているのか。
それはもちろんアーニャがばらしたからだろうが、この秘密がすでに
周知の事実だったのに夕美はそうとも何も知らずに清楚ぶっていたことを恥じる。
美波から聞いた話によると、驚くべきことに同僚の皆は夕美の同棲の件を変な風に
思ってないらしく、もうすでにプロデューサーと結婚する流れだということで
納得してるらしい。夕美のプロデューサーはもう退職しているので
(ちひろが手続した)結婚しても問題ない。というか事実婚はしてる。
現在それは部署内の共有情報であり外部には漏らしてないそうだが。
(これ私もう首になるんじゃないのかな!?)
マスコミや芸能関係者に知られるのは時間の問題だろう。
アイドルとは今さら説明するまでもないが、いってしまえばファンの共有物である。
それゆえの偶像(聖域)である。その偶像が、ファンに笑顔で手を振ってる陰で
実はファンとは全然関係ない男の婚約者がいて、しかもそいつと同棲してたとなると
ファンは激怒するだろうし、最悪殺人事件に発展する可能性もある。
日本国とは平成から続いた30余年の実質賃金の低下が続いたために
人々の心は荒み、令和においては人にして人の心を持たぬ強盗まがいの
若者が当たり前のように街を歩く。
我が国の貧しさは、まず第一に国の財政赤字にあり、
その債務負担はGDP対比で2倍以上であり、その総額は1,300兆円を超える。
日本の国家歳入と負債とのバランスを考えるなら、
18世紀末の革命が起きる前のフランス王国と同等であり、
現在の人口減少の加速度を考えればすでに将来の
社会保障制度の崩壊は約束されたに等しい状況だ。
仮にこれが欧州の国なら直ちに暴動が起きること必至である。
日本国の実質賃金の水準は、2022年のIMF(国際通貨基金)の統計によると
世界で20位以下に転落し、欧州の貧困国スロバキアと同等とされた。
働いても働いても物価高と税支出によって若者の貯蓄を許さないのが日本だ。
例えばプロデューサーはかつて高給取りだったから大金を貯めこんだのと
思われるかもしれないが、彼は最盛期の年収が1,000万を超えていたので
所得税の最高税率が適用された(累進課税制度)
実際は収入のだいたい半分は税金で持っていかれており、
彼はこれはまずいと思って25歳の時から資産の運用を続けていたのだ。
※的確に運用すれば10年で資産額を5割~8割程度増やすことは可能である。
何も知らない素人は逆に運用すればするほどお金を失う仕組みになっている
※さらに余談だが、社会保険料は課税所得に関らず課税率は一定であるため
(逆累進性と非難される)所得の低い人ほど不利になる税制度である。
しかも低所得者は将来貰える年金も少ないので地獄である。
よって金のない若者が狂暴化し、凶悪な事件(ルフィーなど)
を引き起こすのは何も珍しいことではなく、
まずは社会と政治の責任を第一に考える必要がある。
『夕美ちゃーん。おーい夕美ちゃん。どうしたの~~?
さっきから急に静かになっちゃったけどもう寝ちゃった?』
「あ……ごめーん、美波ちゃん。疲れてたのかボーっとしちゃったよ。
ちょっとこれから大学の課題を終わらせないといけないからまた今度お話しない?」
『うん分かったよ。今日も私が話したいことばかりベラベラ話しちゃってごめんね。
色々話せてすごく楽しかったよ』
「ぜんぜんそんなことないよ~~。私も美波ちゃんとお話するのすっごく
楽しくて時間が過ぎるの早すぎるくらいだよ」
『夕美ちゃんの課題の邪魔にならないようにもう切るからね。課題、頑張ってね』
「こっちこそありがと~。また連絡するよ。おやすみ」
『うん。おやすみなさい』
夕美は、肩を怒らせながらプロデューサーの仕事部屋の扉を開ける。
いたいた。件のアナスタシア。今日も印刷した決算書類を読みまくってる
彼に飽きもせずに寄り添っている。
『充電のため』その大義名分があるから彼にぴったりと身体を寄せ合えるのだが、
この共同生活を始めてからまもなく一か月経過する段階になり、
いよいよ夕美のストレスが爆発しそうになっていた。
「ちょっとアナスタシア!!」
「な、なんですか? 夕美、顔怖いですよ……」
「美波ちゃんから全部聞いたよ!!
あんた、美波ちゃんに私達の秘密を全部話したんでしょ!!
……言っておくけど、とぼけないでね。さっき本人から直接聞いたんだから」
「シト? 美波から、きんきょうほうこく?のお電話をもらいましたが」
「いつ電話がきたの」
「私がアイドルを辞めてすぐですから、1月の半ばくらいです」
「はぁ~~? なんですって。そんなに前からここの生活のことを知らせちゃったの?!
この馬鹿ロシア娘!! 少しは空気を読んだらどうなの!!」
「……それってまずいこと、ですか?」
「……私はとぼけないでって最初に言ったよね?」
「私には夕美が何に怒ってるのか分からないです」
夕美は衝動的に壁を殴ろうとしたが、
プロデューサー(旦那)の目があるので堪えた。大きく深呼吸する。
「はぁ~。マジで心からムカつくけど私の方がお姉さんだからいちから説明してあげる。
私のここでの生活が記者とかに知られたら私が会社を首になるかもしれないのね。
私はアナスタシアと違ってまだアイドルを続けている。分かるよね?」
「……はい」
「本当に分かってる?」
「分かります」
「だったらなんで美波ちゃんに聞かれたことを素直にぺらぺら
バカみたいに話しちゃってるのかな……? 信じられない。
あなた、まさか本物のバカなの? それとも芸能界の常識が分かってないの?」
「……」
「なんで目をそらすの。私の目を見なさいよ」
「夕美の顔、見たくないです。夕美の顔すごく怖いです」
「こいつ……!!」
プロデューサーが「やめろ夕美!!」と腹から怒鳴る。
彼が止めてくれなかったら本当にアナスタシアを殴ってしまうところだった。
「まて夕美。このまま話し合っても喧嘩になるだけで要領を得ないぞ。
俺がこれからアナスタシアに詳しい事情を聞くから少し引いてくれないか」
「……」
「夕美。アナスタシアにどんな意図があったのかまだわからないんだ。
それに美波との会話の内容も気になる。君が怒ってるのは当然だ。
俺はこれでも元P、アイドルの心のケアも仕事の一部だったんだぞ。
ここは俺に任せてくれよ」
「じゃあお言葉に甘えてお願いするね。その代わりあとで必ず報告聞かせてよ」
「約束する」
夕美はドアが壊れるくらいの力で閉じた後にお風呂に入った。
プロデューサーはまるで人形のように無機質な顔をしてるアナスタシアに
できるだけ優しい口調で事情を聞いていく。夕美の前ではとぼけたふりを
していたアナスタシアだが、愛する彼の前では驚くほどに素直な娘に変わる。