※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

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シュラバヤ沖海戦の続き(Pの決意)

「まあまあ夕美。とりあえずその辺にしておこうぜ。

 それよりお腹すいたんだが、お昼を一緒に作らないか」

 

「プロデューサーはどっちの味方をするの?」

 

「な、なにが?」

 

「私とそこのロシア人、どっちの味方をするのかって聞いてるんだけど」

 

「……」

 

「……」

 

「夕美、今日の一限の授業は遅刻せずに行け。。。」

 

「今大学の話はしてないよね!!」

 

「すまん。ちょっと夕美があまりにも怒ってるもんだからな」

 

「そうだね。私は最近怒ってばかりで嫌な女だよね。自分でもそう思うよ。

 だったらこんな口うるさい女が出て行けばあなたはハッピーになる?」

 

「今から長い説明をするが、最後まで聞いてくれ。

 仮にアーニャが君の望む通り出て行った場合の話だが、

 俺の病気は悪化し続け、最後は歩行不能になり失明する。

 そうなった場合、俺の命を救えるのはアーニャだけだ。

 最後はアーニャに泣きながら助けを乞う形になると思う」

 

「……」

 

「今は人生で重大な選択肢をしてる場面だぞ。

 長い人生を生きていれば絶対に間違えちゃいけないタイミングがある。

 今がそれだ。たぶん夕美のお父さんとお母さんもこんな感じのシャレにならない

 喧嘩を何度もしてきたと思う。でも大人ってのはそういうのを

 乗り越えて今があるんだよ。一時の感情に支配されるな。先を見なさい」

 

「……」

 

「かと言って俺に何か策が思い付くわけじゃない。

 俺はかつての自分の妻との関係もちゃんと続けられなかった臆病者だ。

 だって嫌になって逃げたんだからな。でも今回は逃げたくない。

 良い考えが浮かばない? 解決策がない? 結構じゃないか。

 だったら互いの決められた立場を演じればいいんだよ」

 

「立場?」

 

「ちひろの奴が決めた台本だよ。

 俺達があの送別会の日になんて言われたか覚えているか?

 俺の妻は夕美。恋人がアナスタシア。これはこの世界の公式だ。

 曲げてはいけない。誰か一人でもここから欠けたら世界は崩壊する」

 

「私も最初はそれが一番正しいと思ってた。

 でもそれって詭弁だよね。机上の空論。私の気持ちを全然考えてない」

 

「我慢しなさい」

 

「我慢か。もうけっこう我慢してるんですけど。

 我慢し続けて、いつか私がアナスタシアを殺しちゃってもいいの?

 もしかしたら私が後ろから刺されるかもしれないよ」

 

「それは……」

 

「殺人事件になるくらいだったら離れ離れで暮らした方が得じゃない」

 

「そんなことには俺がさせない。俺が身体を張って止める。

 それにな夕美。君はここでは少数派だよ。俺とアナスタシアは

 三人で暮らしたいと思ってるが君だけが反対してる」

 

「だったら少数派の意見は通らないってことね」

 

「ここは会議の席じゃないからそういうわけじゃないが、

 配慮はしてほしい。なあだったらこう考えないか。

 夕美があと1週間くらい考えてまだアナスタシアのことが

 許せないんだったらまた話し合おう。今の夕美は冷静じゃない。

 もう少しだけ時間を置いて考えてみてくれないか」

 

「……」

 

「夕美。お願いだよ」

 

 

無言。夕美の包丁を握りしめる手が小刻みに震えており

極めて緊張を要する事態だったが、夕美は大学生なので

子供のアイドルよりは分別がついている。

 

納得したのか、包丁を本来の持ち場に戻す。

そして大きめのバッグに着替えなどを入れてから出て行ってしまう。

 

信じられないことに夕美の方が家を出て行ってしまったのだ。

もちろん近所のコンビニに買い物に行ったわけではない。

 

その日から3日間、夕美は音信不通になる。

プロデューサーのメールに返信してくれたのは4日目だ。

 

『美波ちゃんの寮にお世話になってる』とのことで、

だいたいプロデューサーの予想通りの展開で安心した。

アイドルの仕事もさぼらず続けているらしい。

 

プロデューサーは愛するアーニャとふたりきりで

マンションで暮らしていたので何も起きなかった。

変わったことと言えば夜に激しくアーニャが求めてくるだけだ。

 

それから約束通り夕美は1週間してからマンションに戻って来た。

その隣にはなぜか広島県出身のアイドル新田美波がいる。

 

 

「あはは。なんか来ちゃいました。お久しぶりですね」

 

「こちらこそご無沙汰しております。新田さん」

 

プロデューサーと美波は深いお辞儀をする。

長身で色白の美波を見てプロデューサーは心を奪われそうになる。

 

(成り行きとはいえ、新田さんをこんなに近くで見れるなんて

 これはこれでラッキーだな。妻の前では死んでも言えないが)

 

(さっすが元エリートの男性。うちのPとは目つきの鋭さが

 全然違うし体中からすごい人のオーラが出てる)

 

美波の方もプロデューサーのことを悪く思ってなかった。

かつては同じ会社の人間。所属が違う者でも廊下ですれ違う際

に挨拶はするので顔見知りだ。あくまで社交辞令にすぎないが。

 

「今日美波ちゃんを招待したのはね」

 

夕美が腕組しながら言う。

 

「今回の件について第三者の客観的な意見を聞こうと思ったからなの」

 

「なるほど。誰かに相談するのは大切なことだな」

 

夕美から感じる怒りのオーラは、あの日の非ではない。

やっぱり1週間しても全然納得してないのだ。

だから仲裁役の美波を連れてきたのか。

プロデューサーは再びこの美女に向き直る。

 

「あの、新田さんは俺達のことを全部知ってるんですよね?」

 

「はい……。夕美ちゃんが話してくれたので」

 

「そうですよね……。新田さんも学業やお仕事で多忙でしょうに、

 今日はお時間を頂いてありがとうございます」

 

「いえいえ。頭を下げないでください!!

 今日のことは私の方から夕美ちゃんに頼んだんですよ!!

 夕美ちゃん最近ずっと家のことで悩んでたみたいで

 私の周りの人たちも心配してたんです」

 

「そ、そうですか。ありがとうございます。

 それではここで立ち話もなんですからこちらへどうぞ」

 

リビングには美波のかつての仲間、アナスタシアが待っていた。

 

「アーニャちゃん久しぶり!!」

「みーなみ。ひっさしぶりでーす」

 

ふたりは元シンデレラプロジェクトで

同じユニット(ラブライカ)を組んでいた。

 

アナスタシアはその才能を三城常務に認められ

甘ったれの武内P(三城常務の評価)の元から引き抜かれ

この作品のプロデューサーの担当アイドルとなった。

 

旧ラブライカは抱き合って再会を喜んでいた。

 

「アーニャちゃんが全然変わってなくて安心したよ」

「美波も変わってません。お仕事の方も順調ですか?」

「うん。おかげさまでね。今はソロで歌を頑張ってるよ」

 

プロデューサーは紅茶の準備をしていた。

フォートナム&メイソン

ロイヤルブレンド(英国王室御用達)のハーブティだ。

 

夕美が戻ってくる前にプロデューサーが

通販で買っておいたものでそれなりの値段がした。

 

夕美のお気に入りのティーポッドで人数分の茶を淹れる。

プロデューサーはポットやカップを事前にお湯で蒸らしておくなど

英国流の作法は心得ている。

 

ちょうど14時過ぎ。外はごうごうと寒風が吹き荒れるが、

この家の中でも嵐にならなければいいとプロデューサーは願う。

 

テーブルに座る美波の前に特に気を使ってバタークッキーを置いた。

クッキーは安物だが、できるだけ高価に見えるようにお皿には気を使った。

 

「美波と一緒にお茶飲むの、寮で暮らしてた時以来でーす」

 

「そうだね。あの頃は楽しかったよね。あっそうだ。

 寮で思い出したんだけど、つい最近リビングのテレビで

 小梅ちゃんと周子ちゃんがホラー映画の鑑賞会をしてる時にね……」

 

美波は美味しい紅茶を飲みながらよく笑った。

アーニャも普段のギスギスした生活から解放されたからか

よく笑い、よくしゃべる。心から楽しそうにガールズトークをしていた。

 

と言ってもアーニャの方には楽しい話題がないので

美波が一方的に話しているだけだが。美波はそれほど

口数が多い人ではなかったが、芸能活動を続けるうちに多弁になった。

夕美との電話でも15分も美波が一人で話し続けてることもめずらしくない。

 

美波は底抜けに明るく、

年上のプロデューサーに対しても臆することなく話題を振る。

 

「実は事務員のちひろさんから聞いたんですけど、

 プロデューサーさんって昔は大手総合商社に勤めてたんですよね?」

 

(もう事務所を辞めてる俺のことをプロデューサー呼ばわりか……)

 

「はい。といっても俺は末端の社員だったので大した仕事はしてませんが」

 

「えーそんなことないでしょ。確かあれですよね。

 原油とか液化天然ガスを日本に供給するために

 海外の偉い人たちと交渉をするお仕事をされてたんじゃないんですか?」

 

「交渉は……そういえば何度か先輩のお供に着いてったことが

 あるかもしれません。でも昔の事なのでよく覚えてないですね」

 

「またまた~。本当にすごいお仕事をされてる人ほど謙虚しますよね。

 逆に中途半端に偉い人ほど威張ったり人を見下したりするんですよね。

 私のパパがプロデューサーさんに少しだけ似てますよ。

 夕美ちゃんの旦那様はエリートでうらやましいなぁ。

 私も今度株の運用の仕方とか教わろうかな? なんてね~~(笑)」

 

「はは。新田さんはすごく話しやすくて親しみやすい人なんですね」

 

「いえいえ。私なんて何も考えないで話してるだけですよ~~」

 

美波と親しそうにするものだからプロデューサーは机の下で

夕美に足を蹴られる。しかしこの楽しげな雰囲気で自分らの

相談などできる状況にないのは確かだ。

 

「この紅茶、すっごく美味しいよっ。何度お代わりしても

 飽きることがないの。これって夕美ちゃんが選んだの?」

 

「う、うん。まあね」

 

「今度私と一緒に紅茶選びに行こうよ。お勧めは何?」

 

「うーんと……私が好きな銘柄は」

 

美波は彼女がここに来た目的を忘れてるのではないかと思われた。

なんともお気楽だ。完全に遊び気分だ。

 

プロデューサーは現役時代に新田美波は生真面目でリーダー気質の

人間との評価を受けており、その美貌だけでなく人望も含めて

社内で定評のある人物だったが、今日はずいぶんと前評判と異なる。

おそらくオフの日に友達の家に来たからだろうとPは思った。

 

「実はプロデューサーさんの在宅でのお仕事が気になってたんです。

 一体どんなことをされてるんですか?

 今はフリーランスで世界中の人から依頼を受けてるんですか?」

 

「まさか。俺は病気なので完全に無職です。

 それにもう昔の知り合いとは連絡取ってないですよ。

 俺と年の近い先輩や後輩はもう何人も辞めてるみたいですし。

 優秀な人間は他社からのヘッドハンティングされることがあります。

 まとまった金が貯まったら独立する連中も一定数いますよ」

 

「すごーい。やっぱり住んでる世界が違います。

 頭の良い人っていいなぁ。私すっごく憧れます」

 

「俺より頭の良い人なんて腐るほどいますよ(俺の昔の妻とかな)」

 

「またまた~」

 

「逆に新田さんは今されてるアイドル以外で興味のある

 お仕事などはありますか?」

 

「私は大学で経済学を学んでいるので金融資産の運用に興味ありますね。

 アイドルを辞めたら次の就職先は銀行や証券会社になりますかね」

 

プロデューサーは思わずティーカップを落としそうになる。

妻と恋人がいる身でこれは思ってはいけない事なのだが、

なんとなく思ってしまったのだ。この娘とは気が合いそうだと。

 

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