好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか? 作:なおちー
2月17日。金曜日。
ちひろは夕美からの連絡を受けてこちらに向かってるとのことだが、
あと3日ほどかかるらしい。ちひろは仕事の関係で兵庫県にいるので
急遽仕事を切り上げて新幹線で関東へ戻るそうだ。
夕美はあれから少し冷静になってプロデューサーのそばを離れないようにした。
アナスタシアに充電禁止令を出したので電池切れのプロデューサーは
ベッドから動けなくなっていた。夕美は念のため彼の両手を手錠で封じ、
絶対に逃げられないようにしてから彼にしがみついている。
しばらく妻の間を離れるなと言うことなので彼は素直に従った。
喧嘩したばかりのアーニャと美波は、
夕美を刺激することがないよう細心の注意を払って生活を続けていた。
こんな関係でも家の中ですれ違う時に夕美は笑顔で挨拶をしてくれるのだが。
アーニャに対しても挨拶をするようになったので逆にアーニャが恐縮してしまう。
夕美が急に優しくなったことが、かえって乙女二人の恐怖を煽る結果となった。
夕美はベッドの上で大往生してる彼の胸に頭を乗せながら甘い声でこう言った。
「あなたはちひろさんの裏の仕事のことを知ってる?」
「そういう夕美は知ってるのかい?」
「取り立て屋さん」
「取り立て?」
「ちひろさんは借金の取り立てをする会社の役員なんだって」
「まじか……」
確かにちひろならイメージにぴったりだが、
表向き芸能事務所の社員なのに
闇金業者で働いてるのはさすがに無理があるような気がする。
「ちひろさんは三城の正式な社員じゃないよ。あれは派遣だから」
「派遣だったのかよ。うちの事務員って非正規だったのか」
「本当の仕事は近畿地方に本社がある有名なクレジットカード会社なの」
「クレカ会社の定番はリボ払いとかだな」
「リボ払いよりもっとひどいみたいだよ。
表向きは金融庁に許可をもらって営業してる消費者金融を装ってるけど、
実際は裏でたくさん汚いことをやってるみたいなの」
「それより気になるのが、あの女があの年で役員な事なんだが」
「役員ってそんなに偉いの?」
「分かりやすい例を挙げると三城常務だな。明らかに偉いだろ?
株式会社ってのは取締役員と監査役から成り立ってるんだ。
まあ役員といっても代表取締役や専務など複数あるんだが、
奴はどの地位なんだ?」
「CFO(財務最高責任者)って言ってたような気がする」
「そんなに上の地位なのかよ……。25の女がその地位に?
ってかCFOの地位があるなんて中小企業のレベルじゃなさそうだな」
ピピピ……ピピピ……。夕美のスマホのタイマーが鳴る。
正午を知らせる音を発したのだ。
プロデューサーから時間の感覚を奪うためにこの寝室から時計が外された。
また万が一の脱走を防ぐため彼の携帯も没収済みだ。
トントン ←美波が扉をノックする音。
「失礼します」
「ご飯できたの?」
「うん。できてるよ」
「じゃあお盆ごと部屋に持って来て」
「はい」
美波はまるで使用人のような洗練された仕草で
お盆に乗せたパスタを運んできた。
なんてことないレトルトのソースをかけたカルボナーラなのだが、
美波が作ったというだけですごくおいしそうに感じる。
別の皿に盛られたキャベツとミニトマトのサラダとコーンスープも一緒だ。
デザートにプリン(大きなプッチンプリン)もつけてくれた。
「どうぞ。ゆっくり食べてね。あとでお盆を回収しに来るから」
「うん。ありがとう美波ちゃん」
夕美は目を細め『にこーっ』と笑うが、その顔がテレビの前でファンの前に
見せるのと全く同じであり、親友に向ける笑顔ではないことは明白。
美波はまた何かあったら包丁で刺されると思い、血の気が引いた。
逃げるように部屋を去る。
プロデューサーは美波のエプロン姿があまりにもセクシーに感じられたので
何時までも彼女の背中を見続けていた。夕美が不快そうに鼻を鳴らす。
「ちょっと~。さっきから誰のことを見てるの?」
あと少しで右目が失明するところだった。
夕美の握りしめたフォークが彼の目のすぐ手前で止まっているのだ。
「ごめんね」
夕美が笑顔のまま続ける。
「今のはついカッとなってあなたの目をつぶしてあげようかと思ったの。
だってあの女を見る目がなくなればもう浮気することもなくなるでしょ?」
夕美はあの女とはっきり言った。やはり美波のことを恨んでいるのだ。
「ごめんってば。そんなに怯えた顔しないで。ほらさっきから手が震えてるよ?
大丈夫。私があなたを直接傷つけることはたぶんないと思うから。
でも他の女たちはちょっとわからないけどね」
「いや悪いのは俺だよ。いつもいつもごめんな夕美」
「私ってさ本当に嫌な女だよね。嫉妬してばっかりで。
本当は美波ちゃんに勝てないってことも分かっているんだけどね」
「何言ってるんだ。悪いのは俺だよ!!」
「……やっぱり私が出て行った方が良いのかな」
「な!?」
「もうアイドルも完全に辞めて、普通の女子大生に戻るの。
神奈川の実家に帰るのもなんだか久しぶりだな。
今までの事ママになんて言い訳しようかな」
「そんなこと言わないで家族みんなで暮らそうよ夕美」
「私はね!!」
「な、なんだ?」
「本当はプロデューサーさんにひどいことしたくないの。
ねえあなたは何も言わないけど今だってもう二日も充電してないから
息ができないほど苦しいんでしょ?」
「呼吸は別に。ただ手足がジンジンしびれるのは辛いけど
俺にとっては当然の罰だと思ってるよ」
「……」
「俺は大好きな夕美をこんなにも悲しませてしまった。
俺は今でも夕美のことが大好きなんだよ。信じてくれ」
「なによそれ。私のこと本当に好きなの?」
「ああ。愛してるよ」
夕美は息を大きく吸う。
「だったらどうして美波にデレデレしてるのよ!!」
「それは、俺も男だからついな。どうか怒らないで聞いてくれ。
ぶっちゃけ美波さんみたいな美人がすぐ近くにいて惹かれない男は
いないと思う。だけど俺が夕美を嫌いになったわけじゃないんだよ」
「あなたが美波に夢中でデレデレしてるのを見るとね、
私は胸の中をぎゅって掴まれたみたいに苦しくなるの!!」
「ごめんよ夕美。俺は夕美の気持ちを全然考えてなかったな」
「先に私に愛の告白をしてきたのはそっちじゃない……。
グスッ……うぐっ……うっ……だったらちゃんと……責任取ってよね……」
プロデューサーは最後の力を振り絞って夕美の体を抱きしめた。
身体が鉛のように重く、少し腕を動かすだけでも汗が噴き出るほどだが
この状態の夕美を抱きしめないわけにはいかない。
思えば今まで口のうまさで数多くの女の子を口説いてきた彼だ。
口説いたつもりがない新田美波まで魅了してしまったのは誤算だったが、
ここは何とか妻の機嫌を損ねないようにしながらちの到着を待つしかない。
それから三日が経過した。
「ちひろさんはまだ来れないのか?」
「なんか仕事が立て込んでるらしくて本当は今日の新幹線に乗るはず
だったらしいけど、社長の指示で本社の方に戻されたらしいよ」
「なんなんだよあの女。多忙だな。つーかあっちの方で十分な収入があるなら
三城で働く意味ないんじゃないのか」
「三城プロでは芸能関係の人とコネを持つためにやってるそうだけど。
芸能と暴力団は関係が深いから本業と関係ないわけじゃなさそうだよね」
「闇金からの出張か、あるいは出向みたいなもんか?
よく分からないし分かりたくもなくなってきたがな」
「ねえ。そろそろ辛いだろうから充電する?」
「いいのか?」
「プロデューサーの目の充血、ひどいよ。鏡で見てみなよ」
「そんなにひどいのかよ。網膜からくる脊髄炎ってのは本当だったんだな。
じゃあさっそくだがアーニャを呼んでくれないか」
「うん」
アーニャは昼下がりにミルクティー(タイのチャトラムー)を飲んでいた。
美波と談笑しながら。夕美が突然リビングへやって来ると、二人はひっくり
返りそうになるほど驚く。アーニャは夕美の指示通りに彼の充電を行った。
「アーニャ、ありがとうな。もう大丈夫だ」
「まだ15分しか充電してません」
「さっきからトイレに行きたいと思ってたんだ。戻るからここで待っててくれ」
「分かりました」
プロデューサーは用を足し、また寝室に戻ろうとしたが……。
「なっ!?」
「あはは……こんにちわ」
見てはいけない者を見てしまった。
美波がダイニングテーブルでミルクティーを飲んでいるのはいいのだが、
なぜか水着姿だった。プロデューサー好みのスクール水着である。
大きな胸元にある名前の欄に「新田」と書かれている。
プロデューサーは鼻血が出そうになった。下半身はフルボッキである。
仮に今が電池切れの状態だったらボッキしなかったかもしれないが、
今は多少とはいえ体の自由が利く状態だ。
「美波さん……まったくあなたって人は何を考えてるんですか」
「プロデューサーさんの引き出しの中に、私がプールのイベントで着た時の
水着の写真が大事そうにしまってあるのを覚えてたのでそれでどうかなって」
「冗談はやめてください。夕美に見つかったらどうなると思ってるんですか」
「夕美ちゃんならさっきドラッグストアに買い物に行きましたよ。
充電中はやることないから久しぶりに買い物したかったみたいです。
夕美ちゃんの買い物は長いんですよね~」
「だからってこんなっ!!」
「プロデューサーさん、あの、さっきからズボンが」
「はっ?」
ぱんぱんに膨らんでいた。それはすなわち、美波の体に反応して
しまってるというわけで。赤面する彼と反対に美波はくすくすと笑った。
「さっきから視線を感じるんですけど、そんなに私の胸に興味があるんですか?」
「や、やめるんだ。こっちに近寄るんじゃない」
「でも逃げないのはどうして…ですか?」
「美波……君は」
美波のすらっとした四肢がまぶしい。付け根から伸びる足が長すぎる。
完全にモデル体型だ。十時愛梨や文香とはスタイルが全然違う。
もちろん夕美とも違う。本当に肌が白くて美しい。まさに人魚のようだ。
プロデューサーは我慢できずに彼女とキスをしてしまい、
美波の無防備なお尻をたっぷり触ってしまう。大きなお尻は張りが良い。
太ももは夕美と違って筋肉質で堅かった。
「ぷはっ」
美波が息継ぎをした後、また胸を押し付けながらキスをしてくる。
プロデューサーが彼女の秘所を水着越しにまさぐると濡れてる感じがした。
ふたりはそれから5分もの間キスを続けた。美波は彼の唾液を
愛おしそうに舐めとり、目元が三日月形に『にっこり』と笑い、彼を挑発する。
プロデューサーはもう我慢の限界なのでズボンを脱ぎ始めてしまう。
「あの。美波ぃ……」
アーニャの声だ。美波は邪魔しないでと視線だけで訴えるが、
困ったことにもう一人この様子を見守っている人がいた。彼の妻の相葉夕美だ。
「ただいま。なんか嫌な予感がしたから買い物を早めに済ませてから戻ってきたよ」
夕美は、パンパンに膨れたエコバッグを美波の顔に投げつけた。