※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

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アナスタシアには策があった。

アーニャはあれから女子寮で寝泊まりしていた。

 

すでにアイドルを卒業してしまった彼女の居場所では

ないはずのそこに戻ったのは、新しい協力者を求めてのこと。

 

協力者とは誰のことを指すのか。

 

「なるほど。話は分かりました」

 

床の上に正座した文香が深くうなずく。

 

そこは美波の契約した部屋だったが今はお金だけ払ってる状態で

不在になってるのでアーニャが勝手に使わせてもらった。

管理人には適当な事情を話して強引に押し通した。

 

「つまりプロデューサーさんをあの牢獄から救い出すために

 私に協力をしろとおっしゃるのですね?」

 

「ダー」

 

「アナスタシアさん。初めに言っておきますが、

 私はあなたが彼の充電係というのがすでに気に入りません。

 彼を救い出すことに成功したとしてもあなたが私を裏切って

 逃げてしまう可能性もあります」

 

「今はそんなこと気にしてる場合ではありませんっ。

 このままではプロデューサーが、死んでしまいます。

 心が死んでしまったら人として終わりになります」

 

「何を腑抜けたことを言っているのですか。

 プロデューサーは私が殺させません」

 

「文香も……彼のこと好きですか?」

 

「それは愚問です」

 

「すみません」

 

「いえ。私も言い方がきつくなってしまいました」

 

文香は律儀なことに頭まで下げた。

アナスタシアは少しだけホッとして頬が赤くなる。

 

「ヤーは、文香が思ってるみたいに悪いことは考えてません。

 ただ苦しんでる彼を救ってあげたいでーす」

 

(今は本気でそう思ってるかもしれませんが、どうせ最後には)

 

文香は微笑を浮かべるが、その目は全く笑ってない。

文香もまた19歳で美波と同い年の女子大生だ。

この文学少女は美波とは別の意味で頭の回転が速く洞察が深い。

 

(問題は彼が罹患した脊髄炎の詳細が不明なことです。

 国に承認されてない薬を投与したという点からして怪しい。

 ちひろさんが余裕の態度を示してることから、おそらく

 夕美さんも美波さんの手のひらで踊らされてる可能性があります)

 

(やっぱり文香も夕美とは別の意味で怖いです……。

 みんな好きな男が絡むと人が変わってしまいまーす。

 相談する相手を間違えたかもしれません)

 

 

文香は話が長くなってしまったのでお茶を淹れると言い、

立ち上がる。アーニャが今までの経緯を説明するのに実に

3時間もかかってしまったのだ。アーニャの日本語は

多少不自由さがあるのでところどころ文香が質問して情報を補った。

 

(なにかしら)

 

部屋の玄関の前に人の気配を感じた文香。

 

(内緒話を聞かれたかしら)

 

玄関に忍び寄り、扉を一気に開く。

 

「ぐえっ」

 

扉で鼻を軽く打ったのは蘭子だった。

 

「ずっとそこで聞く耳を立てていたのですか」

 

「わ、我はそのような下賤な真似はしておらぬ……」

 

「言い訳は無用。こちらは時間に余裕がないので

 正直に答えてください。さもないと……」

 

「ひぃっ!! すみません。盗み聞きしてました!!」

 

蘭子はお願いですからぶたないで、とでも言いたそうに顔をガードする。

文香はそんな蘭子の子供らしい反応にくすくす笑う。

 

「あなたもプロデューサーさんのことが気になるのですか?」

 

蘭子は首を縦に振る。

 

「あの人ったら、担当アイドルじゃない蘭子さんに

 いつの間にフラグを立てたのかしら」

 

「フラグ? 私は恋愛について学びたいので

 彼が今後どうなるかを知りたいのです」

 

「恋愛について学びたいとは?」

 

「お、大人の人の恋を知りたい……年頃なのです」

 

蘭子は顔を真っ赤にしてそう話した。

普段の中二病発言をしないと別人のようにも感じる。

 

(どうやら嘘ではなさそうですね。

 この際協力者は一人でも多い方がいいでしょう。

 愛梨ちゃんは例の大喧嘩の後に

 怒って地元の秋田に帰ってしまったようですからね)

 

 

こうして大学生の文香をリーダーに

「プロデューサーの奪還方法を考える会」が発足。

 

蘭子語を使われると話し合いが滞るので文香に

しばらく中二病発言は控えるように言われてしまい蘭子はへこんだ。

 

さて。こうして女子寮にて絶対絶命状態の

プロデューサーを救うための力強い同盟が結成されてることなど

知らないプロデューサーは、今日も自宅のマンションで生活をしていた。

 

否。これが生活と呼べるのか。

 

 

プロデューサーは、寝たきりになっていた。

アーニャとの充電を絶たれてから実に5日。

本来なら6時間おきに充電しないと体のエネルギーが

空っぽになってしまうのだ。

 

「プロデューサーさ~~ん。お昼ご飯の時間ですよ。

 今日のメニューはなんと、おかゆです!!」

 

美波が夫婦の寝室に持ってきたのは中華風のたまご雑煮だった。

材料はネギと卵のみと離乳食のような食べやすさだ。

 

「熱いですから私が冷ましてあげますね~~。

 ふ~~ふ~~。ふ~~ふ~~。そろそろ冷めたかな?

 はい。アーんしてくださいね★」

 

「うぐっ」

 

プロデューサー、思わずうねる。

アーニャを失ったショックからまだ立ち直れない彼は

食べ物の咀嚼すら拒否するようになったので美波が無理やり

彼の口の中にレンゲを突っ込むのだ。

 

噛んでる途中で吐き出されないように

暖かいお茶を飲ませて流し込む。

 

(味は文句なしでうまい……この人は料理も美味いから

 本当だったらおかわりしたいくらいなんだ。

 だが俺はもう生きてても仕方ない人間なんだ。

 アーニャ……俺は君がいないと歩くことさえできない

 弱い人間になっちまったんだ)

 

ベッドシーツを涙が濡らす。

彼はきつくまぶたを閉じて震えていた。

 

「あっはっはっは!! 涙が出るほど美味しかったんですか~~?」

 

(もっとアーニャと会話しておけばよかった。

 最後にあの子と何の話をしてたんだっけ。

 それすら覚えてねえや。はは……俺は馬鹿だな)

 

「おかゆはまだまだたっぷりありますからね~~。

 残さず食べてください。本当はもっと栄養のあるものを

 食べさせてあげたいんですけど、今のプロデューサーさんは

 内臓が弱くなってますから油っぽいものは作れないんですよ~~」

 

プロデューサーの口の中にまたレンゲが押し込まれる。

食べないと怒られるので口を大きく開ける。つい目を開けてしまう。

 

「あっ、今日初めて目が合いましたね」

 

そこにいたのは新田美波であって新田美波ではない人だった。

いつもの笑顔、三日月目の裏側には黒い感情が浮かんでいるのが

分かってしまう。すなわち彼を束縛することに対する優越。

 

本当なら一生縁のない女性のはずだったのだが、

どうしてこんなことに……と思わない日はない。

 

「すっかり弱ってしまって血の気のない顔の

 プロデューサーさんもこれはこれで美男子だと思いますよ。

 病弱系男子にイメチェンしたんですよね」

 

(俺はもうオジサンだよ。男子なんて年じゃねえ)

 

「あ~~ん。プロデューサーさんったら。

 また目を閉じちゃうんですか。

 そんなに私と会話するのは嫌ですか?」

 

「……」

 

「無視するなんてひどいです」

 

「……」

 

「ねえねえ。ねえってば。私とちゃんと会話してよ」

 

「……」

 

「ヨーグルト、食べますか?」

 

「うん」

 

「やっとしゃべってくれましたね♪

 でもその発言が今日一日で最初の会話ってどうなんですかね」

 

美波はブツブツ言いながらもスプーンでヨーグルトをすくう。

プロデューサー意地でも会話をしないつもりだったが断念する。

美波に恨みを持たれることは避けたいからだ。

 

「君は大学に行かなくていいのか」

 

「大学? 今日は休みですよ」

 

「昨日も休みだったよね?」

 

「はい」

 

「夕美も最近家にいることが多くなった」

 

「夕美ちゃんもプロデューサーさんを監視するために授業に出る時間を

 調整してるんですよ。そんな当たり前の事を聞きたかったんですか?」

 

「俺の世話なんかするより勉強をしなさい」

 

「勉強ならちゃんとしてますってば。私はこれでも成績優秀なんですよ。 

 前期で落とした単位は一つもありませんよ。

 気になるのでしたら成績表を見せてあげましょうか?」

 

「別にいいよ。俺は君の成績を疑ってるわけじゃない。頭が良いのは知ってる。

 俺と関わることで時間の無駄遣いをするのをやめなさいと言ってるんだ」

 

「またお説教ですか。年上の殿方の言うことなのでありがたく聞きますけど、

 私はそんなつまらない話をしたいわけじゃないんです」

 

「あいにく俺は寝たきりの老人で外からの情報が何も入ってこない。

 君が望むような楽しい話題は一つもないよ」

 

「昔の話をしてくださいよ」

 

「俺の昔の仕事の?」

 

「はい」

 

「……美波さん。男にはあまり思い出したくないこともあるんだよ。

 俺が物産を辞めたのはね、27の時からとあるプロジェクトに関わって

 ついにその責任者になったけど結局その重責に耐えきれずに辞めたんだ。

 俺が本当に優秀だったらまだ仕事を続けていたと思う。俺は逃げたんだよ」

 

「逃げですか。男の人って人生が嫌になると逃げる癖がありますよね。

 うちの父親も私が小学生の時に突然仕事を辞めて家にいたことがありました」

 

「君のお父さんは今どんな仕事をされてるんだ?」

 

「研究職です」

 

「研究? どの分野だ」

 

「製薬系の」

 

プロデューサーは、また嫌な予感がした。

 

「プロデューサーさんは知ってましたか?

 実はあなたの病気って、ちひろさんの言っていた

 脊髄炎とは全然違う病気なんですよ」

 

「なんだって? じゃあどんな病気なんだ」

 

「ずばりウイルスによる感染症です」

 

「あの女が謎のウイルスに感染してるとは言っていたような気がするが」

 

「そのウイルスの症状って髄膜炎に近いらいしいんですけど、

 プロデューサーさんの体内でウイルスの性質が少しずつ変化していくんですね。

 ちひろさんにお注射を打たれた時にプロデューサーさんは

 たまたま近くにいてしかも思い人だったアーニャちゃんを性的に

 求めていたからアーニャちゃんが病気の進行を抑える薬になりました」

 

――でも今はもう違うはずですよ。

 

美波は妖艶に笑う。

三日月の形をした大きな目がプロデューサーを見下ろす。

 

「先に謝らせてください。ごめんなさい。今まで私がお料理当番だった時に

 プロデューサーさんのお食事に微量のお薬を混ぜておきました。

 その薬の効果が早ければ2月中に現れるはずです。

 今日は2月22日ですから、そろそろかなって思うんです」

 

「なんだこの手は?」

 

「握手ですよ。握手しましょうか」

 

プロデューサーの脳内をフラッシュバックするのは、

送別会の日にアーニャとこうして握手した光景だ。

 

「あっ……急に体が楽になったぞ」

 

「やっぱり実験は大成功でしたね♪」

 

 

美波は腕まくりをして小さくガッツポーズをする。

ラクロスの試合に勝ったかのような仕草だ。

 

「プロデューサーさんは聡明な方ですから

 今がどういう状況なのか分かってますよね?(*^-^*)」

 

「そうだなっ。美波ッ!!」

 

「きゃっ、いきなり抱き着いてくるなんてガッつきすぎですよ。

 そんなにうれしかったんですか?」

 

「とにかく美波さんと触れ合えば体が良くなるんだから

 早く回復させてくれ!!」

 

「はいはい。焦らずにゆっくりと充電しましょうか♪」

 

 

元々美波に対して性的な魅力を感じてはいたのだ。

抱き合うだけでは済まず、キスをしたり胸を触ったりした。

皮肉なことにアーニャの時より充電効率が良い。

 

悪い言い方をすれば「歩くセックス」は国内最高級の完成度の高さだ。

身内びいきをしたとしても美波より性的魅力のある人が日本に何人いるだろうか。

 

「ありがとう美波さん。君のおかげですっかり元気になれたよ」

 

「うふふっどういたしまして★ 

 私も嬉しいです。ところで治療費をさっそく

 請求させていただきたいんですけど」

 

「分かってるよ。

 今すぐサインしてあげるから早く婚姻届けを貸してくれ」

 

「……ずいぶんと聞き分けが良いんですね~~。

 もしかしてぇ、何か企んでたりしません?」

 

「何言ってるんだい? 俺は美波さんがいないと生きていけないことは

 もう証明されてる。だったらもう結婚するしかないだろ」

 

「今用意しますから」

 

「美波、愛してるよ」

 

「あんっ。後ろから抱き着くのはまだ待ってください。

 今引き出しの中を見てます」

 

その時、プロデューサーは確かに見た。

引き出しの奥に手錠が隠されていたのを。

 

プロデューサーは横から手を伸ばして手錠を奪い取り、

びっくりしてる美波を両手で突き飛ばした。

美波が混乱してる間に彼女の左の手に手錠をする。

 

「な、なにしてるんですか!!」

 

プロデューサーは最後の力を振り絞るつもりで美波の手を

ベッドの足へ誘導する。美波は必至で抵抗するが男女の力の差がある。

フル充電のプロデューサーなら以前の怪力が出せた。

 

美波の左手は、ベッドの足の部分と固定された。

 

「は、はは……。これはなんのつもりなんですか。

 今ならまだ許してあげますからこれ早く外してくださいね」

 

プロデューサーは答えずに美波の寝室に駆け込んだ。

あった。チェストの一番上の引き出しの中に自分の携帯が。

美波のエロい下着もたくさん入っていたがそれはいい。

 

「くそっ。電池切れかよ!!」

 

元々彼から没収した物なので充電してるわけもなかった。

そこでプロデューサーは勉強用の机の上にある美波の携帯を見た。

こちらは電池残量が7割もある。十分だ。

 

最初に警察に電話しようかと思ったが、

相手は昔勤めていた事務所のアイドルなので大事にはしたくない。

そこで鷺沢文香の番号にかける。

 

(頼む。文香。出てくれ)

 

 

 

 

 

 

 

 

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