※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

38 / 65
誰にだってあるよね。忘れられない思い出。


プロデューサーはアーニャのことが忘れられない。

(アーニャとやりてえ……)

 

プロデューサーはそう思った。

 

今は新幹線の座席に文香と並んで座っている。

JR北陸新幹線、かがやき501号の車内は静かなものだ。

東京駅を出たのが早朝6時過ぎの便なのでスーツを着たビジネスマンが目立つ。

 

プロデューサーはスーツ姿(文香に買ってもらった)

文香は厚手のハイネックセーターにストールを巻いている。

ロングスカートの中にしっかりとタイツを履いている。

今日は厚底のブーツだ。

 

文香らしい清楚な服装。

その見慣れた彼女の恰好にプロデューサーの興味は薄い。

 

(アーニャに会えないのが苦しい。生きてて苦しい)

 

とだけ思っていた。それも文香に悟られぬよう窓の外を何気なく眺めながら。

文香は5時前の早起きが答えたのか、ホットコーヒーを軽く飲んでから

寝息を立てている。プロデューサーの肩にちょこんと頭を傾ける姿はなんとも

品が良くて可愛らしいが、

 

(アーニャの裸が見たい。アーニャを抱きたい。ああ……もう頭がおかしくなりそうだ)

 

この男の頭にあるのはアーニャのことだけだった。

彼は今日になるまでここまで自分がアーニャに夢中になってることに

気づかなかった。ちひろの投与した薬の副作用なことは彼自身も

自覚はしているが、実は彼がアーニャを性的に愛していたことが一番の理由だった。

 

性的に愛する。

これは男が女を好きになる最初の理由としては古今東西変わらぬものだ。

彼が最も愛情を注ぐ対象として選んだのはアーニャだったのだろう。

 

 

「むぅ~~。まだ夢心地ですぅ。まだ~~物語は終わってませんので……」

 

文香の寝言だ。プロデューサーと夢の世界で会話でもしてるのだろうか。

 

「私の物語は……終焉を迎えることは決しないのです。

 プロデューサーさんと正式に結ばれるまでは……」

 

プロデューサーが表情が曇る。

 

 

あれから文香はPの昔の妻の夕美や愛人の美波からの復讐を恐れ、

まずはプロデューサーと正式な婚姻関係を結ぶために実家に帰ることにした。

文香は有名人なので都内のどこに潜伏しても目立つため、

まず県外へ逃走を図ることが最善だと考えたのは正しい判断だ。

 

誤算だったのはプロデューサーが文香のことを愛してないことだ。

 

プロデューサーは腕時計(ダニエル・ウェリントン)を見る。

6時20分を過ぎている。あと1時間もすれば長野駅についてしまう。

これから文香の親と会って挨拶をするなんて冗談ではなかった。

 

もしそんなことになれば、文香と本当に結婚する段階にまで発展してしまう。

そもそも原因不明の奇病にかかり要介護状態の男と結婚するメリットがあるのか。

仮にプロデューサーの財産が目的なら話は分かるが。

 

プロデューサーは何気なしにつぶやいた。

 

「アーニャとやりてえ」

 

「そう……ですか。

 あなたはアナスタシアさんのことがそんなにも好きなのですか」

 

「文香?!」

 

「ふふふ……ずっと起きてましたよ。いわゆる狸寝入りです。

 私が寝たふりをすれば、あなたが本音をぽろっと漏らしてしまうかもしれないと

 思いましたので……。思惑通り、ようやく本音を語ってくれましたね。」

 

「……」

 

「あなたは私と結婚をするや…」

 

「待て」

 

プロデューサーが手を叩いた。

 

「その前に俺から質問させてくれないか。いいよな?」

 

「……ええ。どうぞ」

 

「文香のこれからの長い人生に要介護の男は本当に必要なのか?」

 

「質問の意味が分かりませんが」

 

「だから、俺のことだよ。俺みたいな身体障碍者と結婚して

 君にメリットがあるのかよ。文香は美人だしアイドルなんだし

 別に俺みたいな男じゃなくても他の良い男と結ばれる

 脚本があってもいいんじゃないのか」

 

「……? ちょっと理解に苦しむ言い方ですね。

 私はただあなたのことを、その……あ、愛してるから結婚したいと

 思ってるわけですから、あなたの障害の有無は関係ないのではないでしょうか」

 

「俺を世話すると君の今後の人生が台無しにならないか?」

 

「お世話ですか。むしろその方が私にとっては好都合かもしれません。

 プロデューサーさんが別の女狐に奪われそうになっても

 充電切れに追い込めばいいわけですよね。新田美波さんがやったように」

 

(なんで新田さんがやった監禁事件のことを知ってるんだ……?)

 

「いやー、でも文香の両親も最初は反対するんじゃないのかな!!

 こんな年の離れた男を連れてこられても迷惑だろ!!」

 

「年齢は別に。うちの両親も10歳年が離れてますよ(嘘ですが)」

 

「そうなのか?」

 

「はい」

 

「ふーん。知らなかったよ。

 最近は日本でも年の差結婚が流行ってるのかな」

 

「はい。外国などでは15歳くらいの年の差はないものと考えるのが

 普通のようです。特にオランダなどは」

 

「そんなもんかね」

 

「ところでプロデューサーさんがそのようなお話をされるということは、

 もしや私との結婚に何か不満でもあるのでしょうか?」

 

「いやそれは……」

 

「長々と無益な問答を続けるよりも、

 はっきりおっしゃっていただいた方が私は助かります。

 プロデューサーさんの本音では……私ではなく

 アナスタシアさんと結ばれたいと思っているのですよね?」

 

「……」

 

「プロデューサーさんはホテルで何度も誓ってくれたはずです。

 文香の事だけを愛すると。私はあの言葉を聞いた時胸を打たれました。

 今度こそ、この人を信じても良いのだと」

 

「……」

 

「でも今のあなたはもう別の女性を見ている。

 愛の言葉をささやいてから三日と経たぬうちに。

 ですが、それでも私はあなたのことを信じ…」

 

「すまん。文香。やっぱり俺とは別れてくれ」

 

 

長い沈黙が訪れた。揺れもなく音もなく走り続ける新幹線。

朝日を浴びるカーテンの隙間から景色が移り変わる。

 

山々に囲まれた田園風景が広がるが、ガラス越しに映る文香の表情は

すでに泣きそうになっていた。まるでおもちゃを親に

取り上げられた子供のように下唇を噛んでいる。

 

 

「私を裏切るのは、これで二度目になりますね」

 

プロデューサーは答えない。

 

「私なんかじゃ、アナスタシアさんの代替品にもなれませんか」

 

今度は文香から殺意を感じる。

これはまずい状態だ。文香はすでにプロデューサーを監禁するための

最も効率的な方法を知ってしまっている。

 

自分を病的に愛してくる女性に面と向かって別れ話をするのは

相手を逆上させるため逆効果になることが多い。

プロデューサーはそうと知っていながら文香を振ってしまった。

 

「俺にはどうしてもアナスタシアが必要なんだ」

 

「……」

 

「バカみたいな理由でお前を振ってしまうことになるが、

 俺はアナスタシアの体に触れないと心がだめになってしまうんだ。

 これはもう動物の本能みたいなもんで自分ではどうしようもないんだ」

 

文香は荒い息を吐きながら思考を巡らせる。

念のため逃げられぬよう彼の腕を強く握りながら。

 

「それなら妥協案があります。アナスタシアさんも一緒に

 長野の実家でしばらく暮らしましょう。これでどうですか?」

 

「それは……夕美や美波と同居していた頃と似たような修羅場になると思うよ」

 

「そうでしょうか。私はあの人たちよりも考え方が大人だと思うので

 割とうまくいきそうな気がしますけど」

 

「君は……事務所時代にアーニャをいじめていたじゃないか」

 

「確かに。そんなこともあったかもしれません。

 ですが過去のことはもう忘れてしまいました」

 

「逆にアーニャの方が、君と一緒に暮らすのを嫌がってしまうんじゃないのか。

 そしたら意味ないじゃないか」

 

「……では何か良い案はないのですか?」

 

文香の殺気がいっそう強くなる。

文香の話は、プロデューサーが別の女に夢中であっても

あくまで文香も一緒に暮らすことを大前提としている。

 

プロデューサーとしては文香が諦めてくれたら助かるのだが

そうはいかない。彼が次の返答を間違えれば激高した文香に

何をされてもおかしくはない。

 

「まずは東京に帰ろう」

 

「わざわざ死地の東京へ……。

 アナスタシアさんに会うためですか?」

 

「ああ。今すぐにでもアーニャの体に触れないとな、もう色々と限界なんだ。

 ちょっと俺のズボンを見てくれないか?」

 

「さきほどから元気になっているのは知ってますが。

 男の人って朝からそういう感情を抱くものなんですね」

 

「男なんてみんなこうだよ。俺の場合はアーニャ限定で

 こうなっちまうんだけどなw」

 

「アーニャ、アーニャって……いい加減、不愉快なんですよ。

 あなたがアナスタシアさんの名前を口にする時、

 顔がにやけているのに気づいてましたか」

 

「好きなんだからしょうがないだろ。見逃してくれよ」

 

「行き先に変更はありません。長野駅で降りますよ」

 

「……」

 

「これ、見えますか? バッグの中に隠しておいた手錠とスタンガンです。

 私に最後の手段を使わせないでください。私がその気になれば30秒で

 あなたの自由を完全に奪うことができることを忘れないでくださいね。

 最低でも私の実家には顔を出していただかな…」

 

「文香!! 大変だ!! 窓の外を見ろ!!」

 

「っ……なんですか?」

 

プロデューサーはそのすきにスタンガンを奪い取り、文香の首筋に押し当てた。

 

「きゃっ!!」

 

と言ったきり文香は動かなくなった。

最大出力でスタンガンを使うと最悪死に至る可能性もあるために

プロデューサーは冷や汗をかいたが、文香はすっかり気絶してしまい、

寝息を立てている。髪の毛が少し焦げ臭い気もするが気にしない。

 

 

(俺の目的はアーニャとやることだけ。こうなったらもう……)

 

プロデューサーは自宅に帰ることにした。

 

 

彼がマンションのエントランスに足を踏み入れたのはその日の夕方である。

 

今さら説明するまでもないが、彼の行為は無謀を通り越して暴挙である。

夕美と美波による監禁生活を恐れて自分から脱走しておきながら

自分からそこへ戻るとは。常人の発想ではまず考えられない事態だ。

 

彼は主に美波に怒られるのが怖くて最後まで躊躇い、戻るのが夕方になってしまった。

気絶した文香が起きた時に暴れないように手錠をし、

さらに彼女を1人にするのは可愛そうなので文香もこのマンションに

連れてきてしまう。無謀の極みである。狂人と言い換えてもいい。

 

 

「あらあなた。戻って来たのね」

 

真っ赤なフラワープリントのエプロン姿の夕美は、夕食の支度をしていた。

脱走中の夫が戻って来たことに驚いた様子もなく、

 

「今夜はカレーだよ。もうすぐできるからそこで座って待っててね」

 

夕美はキッチン前のソファ(ダイニング)を指す。

暗にそこから動くなと言ってるようにも聞こえる。

 

「カレーか。楽しみだな」

 

「インド風のバターチキンカレーだよ。

 美波ちゃんに作り方を教えてもらったの」

 

「へえ。それはすごいね。さすが美波さんだ」

 

「美波ちゃんはアーニャちゃんを連れてくるために

 今は女子寮に行ってるけど、もうすぐ戻ってくると思う」

 

「アーニャをここに連れてくるだって?

 まるで君達は俺が今日この家に戻ることが事前に分かっていた

 みたいな話し方じゃないか」

 

「うん。だってそろそろだと思ったから」

 

「どういう意味だい?」

 

「あなたの病気……アーニャちゃんを求めてしまう本能に

 いずれ抗えなくなるって、ちひろさんから教えてもらったんだ。

 最初からそこにいる人との逃避行なんて失敗するのは確実だった」

 

そこにいる人とは、ソファで子猫のようにおとなしくしてる文香嬢だった。

彼女はすっかり目を覚ましているが、手錠をされているため

脱走することは不可能だ。プロデューサーもまた充電が切れかけているので

もうソファから起き上がることさえできないでいた。

 

おかしかったのは、彼がアーニャのことを思うたびに

文香に触れても充電が効かなくなることだ。

おそらく美波に触れても同じことだろう。ならばもう

アーニャに触れることでしか彼を救う方法はない。

 

「たっだいま~~~!! あっ。私達の旦那様の靴がある!!

 本当に帰って来たのね。不愉快な泥棒猫さんらしき

 靴もあるのがちょ~~っとムカつくけどね」

 

新田美波だ。プロデューサーが最も恐れるアイドルの一人である。

彼女ほど類まれなる美貌に恵まれたアイドルはいない。

また彼女ほど内に秘めた狂気が恐ろしいアイドルもいない。

 

「プロデューサーさ~~んっ!! ずっとずっと会いたかったですぅ!!」

 

すでに唇まで恐怖で乾ききっているプロデューサーに抱き着く美波。

まだ3月の上旬だが、季節を間違てるのか薄手のTシャツに短パン姿だ。

プロデューサーの足の上に遠慮なく座り、キスを始めた。

 

「んーっ……ちゅっ……あんッ……ほらちゃんと目を閉じないと」

 

「息ができな……ちょ……待ってくれ……まだ夕食前じゃないか……」

 

「私はもう我慢できません。これは今まで会えなかった分の埋め合わせですよ」

 

プロデューサーは口の中をたっぷりと美波に犯された。

彼女の唾液の味を知らないわけではないが、帰って早々、

拷問されるのではなく熱烈なラブシーンが展開されたことに

むしろ恐怖を感じていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。