※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

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文香の嫉妬。夕美の嫉妬

11月が過ぎたあたりからアーニャが積極的になった。

 

皆が見てる前で堂々とプロデューサーにお弁当(和風)を渡す。

レッスンや仕事を終える度にプロデューサーに頭をなでてもらう。

その程度は日常茶飯事。

 

酷い時ではパソコンで事務仕事をしてるプロデューサーの隣に

使われてない別の椅子を持ってきて、彼の隣にぴったりとくっつく。

 

特に何がするわけでもないのだが、たまにコーヒーのお代わりを

運んだり、メールの処理を続けるプロデューサーにそっと体重を

預けながらニコニコと彼の仕事ぶりを眺めている。

 

そんな子猫のように愛らしいアナスタシアを見て、

プロデューサーは静かにボッキしていた。

メールで打つ文字を何度も間違える。

 

彼がアーニャに興奮してるのはいつものことだが、

日本の法律では未成年者に手を出したら犯罪になる。

残った理性を総動員して彼女をホテルに連れ込むのを我慢していた。

 

 

(プロデューサーさんは、私達が同じことをすると嫌がるのに、

 アナスタシアさんだけは特別なんですね)

 

文香は爪を噛む。恨めしそうな顔はとてもアイドルのものではない。

文香はどこか古風な女性の気質があり、不満と思うことがあっても

中々本人に対して言い出すことができないのだった。

 

そのためストレスをため込んでしまうが、プロデューサーはそんな彼女に気を使って

休日にデートの約束を取り付けてくれる。だからその時だけは

プロデューサーを独占出来る。一時的に愛される。だが職場に来るたびに

あの外人女とのイチャイチャを見せつけられたら気が狂いそうになる。

 

 

(あれってもしかして私達に見せつけてるのかな)

 

こちらの凶悪さは文香の非ではない。

お花が好きなアイドルにしてファンから天使との呼び声もある相葉夕美である。

 

夕美も恋愛に関しては奥手なのでアナスタシアの態度を

堂々と注意することはなかったが、その分不満をため込んだので

プロデューサーのみてないところで「いやがらせ」をするようになってしまう。

 

 

夕美の態度が変わったのは、11月になってからだ。

 

 

「アナスタシアちゃん。見て見て。事務所にある花瓶のお花を新しくしたの」

 

「わあ。すっごく、綺麗でーす」

 

「黄色のマリーゴールドだよ」

 

「このお花、ロシアにもあります」

 

「うふ。そうなんだ。よく絵画の題材にもなるよね。静物画の。

 マリーゴールドの花言葉、気になるでしょ」

 

「はい」

 

「私のスマホで読ませてあげるよ。はい」

 

 

 「嫉妬」「絶望」

  

   黄色のマリーゴールドの花言葉が不吉な言葉になったのは、

    キリストを裏切ったユダの着衣が黄色だったからという説が有力。

     また、太陽神の神話に由来という説も。

 

 

「……漢字が多くて、読めません。なんて書いてあリますか?」

 

「自分で考えれば」

 

「え?」

 

「アナスタシアちゃんさ、もう日本に来て1年以上経つよね。

 人に聞いてばかりじゃなくて自分からもっと勉強しないとダメだよ」

 

「そ、そうですね。夕美の言う通りです。もっと勉強します」

 

アーニャには理由が分からないが、夕美がすごく不機嫌なことは分かった。

今まで頼りになる優しいお姉さんだったはずの夕美がまさかこんな態度を取るとは。

 

「それとさぁ。前から思ってたんだけどね」

 

話はまだ続くようだ。

 

「アナスタシアちゃんってまだ日本の文化について勉強してる最中だよね。

 だってまだ漢字だってちゃんと読めないレベルなわけだし。

 それなのに知ったかぶりで和風なお弁当を作って

 プロデューサーさんに渡しちゃうのはどうかな~」

 

まさかお弁当の件を指摘されるとは。

さすがにアナスタシアも機嫌が悪くなる。

 

「私がお弁当作るの、いけませんか」

 

「ううん、違うの。そもそもアナスタシアちゃんに

 日本の文化の何が分かるのかな。アナスタシアちゃんの

 お弁当のおかずってほとんどが冷食だよね?」

 

「全部じゃないでーす。ウインナーとか卵焼きは自分で作ってます。

 手間のかかる唐揚げとかはチルドですけど」

 

「全部手作りじゃないって時点で終わってるかな。

 そういうのね、はっきり言ってプロデューサーさんは

 迷惑してると思う」

 

「でも彼は!! 残さず食べてくれます!!」

 

「うん。それがお仕事だからね」

 

「……」

 

「あっ、もちろんボルシチを作ってくるのもやめてあげてね。

 彼は日本人なんだからロシア料理なんて好んで食べるわけないじゃない」

 

「……夕美は、私に嫉妬してるんですね」

 

「はぁ?」

 

「ずっと前に美波に借りた少女漫画に、夕美にそっくりな人が

 出てました。悪役で、主人公の恋を横から邪魔をする、嫌な女。

 今の夕美にそっくりです」

 

「……」

 

「夕美もプロデューサーのことが好きなんですね?

 私、夕美が彼を見る時だけいつもと違う感じだから

 なんとなく気づいてはいました。だったら、彼に好きだって

 素直に思いを伝えればいいんです。私みたいに」

 

「……」

 

「私は勇気を出して気持ちを伝えました。だからプロデューサーは

 私と仲良くしてくれます。同じこと、夕美にできますか?」

 

「……」

 

「夕美?」

 

「それができたら……苦労しないんだよ」

 

「うっ!?」

 

アーニャは、右足の上のおもりが落ちてきたのかと思った。

夕美がアーニャの足を踏みつけているのだ。すごい力加減だ。

アイドルが相手なので傷が残らないように下限はしながらも、

相手の最大の苦痛を与えるようにしている。

 

「だ、誰かたす……むぐっ」

「はいはい。騒いだりしないでね」

 

アーニャの口の中にハンカチが押し込まれた。

夕美らしいグリーンの花柄の可愛いデザインだ。

 

「あとから入って来た人間のくせに、調子に乗らないでくれる」

 

夕美はアーニャの肩を突き飛ばす。アーニャは転びはしなかったが

壁に背中をぶつけた。突然の暴行。しかも相手は3歳も年上。

 

今事務所には二人以外に人影がない。

いつもいるはずの事務員のちひろは備品の買い出しに行ってるのだ。

 

夕焼けがカーテン越しに室内を照らす。

幼いアーニャは、本当に自分がここで殺されてしまうのではないかと

脅え、漏らしそうになってしまう。

 

夕美はアーニャの髪の毛をつかんで引っ張り始めた。

 

「痛いです……」

 

「ふーん? 痛いんだぁ? 痛いよね?

 だったらさっき言ったこと、謝ってよ」

 

「謝る? 謝ることなんて、ありません」

 

「このっ、また生意気なことを!!」

 

夕美がビンタしようと手を振りかぶるが、

そこで扉が開く。アーニャは助かったと思った。

やってきたのは文香だ。

 

文香は、明らかに夕美に暴行されてるアーニャを見ても

感心を示さない。まるで当然のことのように見捨てて給湯室へ行く。

いつものように紅茶のティーパックでカップにお茶を入れる

 

 

「文香っ、パジャールスタ・ムネェ。助けてクダさい」

 

「……」

 

文香は、読みかけのハードカバーを膝に置いている。視線の先は本にある。

それは無言で「死ね」とアナスタシアに語り掛けてるようだった。

 

 

派手な音を立てて扉が開かれる。

 

「みんな、お疲れ様でーす。今日はバラエティの収録が

 長くなっちゃってこんな時間になっちゃいました」

 

愛梨だった。十時さんは、鬼の形相の夕美と、泣いているアーニャを見て

驚きはしたが、それも一瞬のこと。事務所内での暴行事件は

いずれプロデューサーの知ることになるのが必至なので遠回しに止める。

 

「夕美ちゃーん。実は昨日焼いてきたチョコチップクッキーが

 まだ余ってるの。良かったらこれからお茶しながら食べない?」

 

「いいね。ちょうどイライラしてて甘いもの食べたいと思ってたところなの」

 

「私も食べたいです」

 

と文香も自己主張。三人の女子大生がソファを囲んでお茶の時間を始める。

 

しかし一人忘れてるようで……。

 

「あ、あの、私の分は?」

 

「ないよ?」

 

愛梨が真顔で答える。

 

「あるわけないじゃん。アナスタシアちゃんの分なんて」

 

「ど、どうしてですか。それって仲間外れです。私のこと、嫌いなんですか」

 

「はい。ポケットティッシュ。あげるから全部使っていいよ」

 

「どうしてティッシュを……?」

 

「トイレの鏡で自分の顔見て来たら? ひどい顔してるよ」

 

「……っ!!」

 

耐えきれなくなったアナスタシアは廊下へ駆け出した。

すると営業から戻って来たプロデューサーとばったり会ってしまう。

 

事務所の休憩スペースにいる大学生の乙女たちは、彼らのやり取りを一字一句

漏らさないように聞き耳を立てる。アナスタシアは子供のように

わんわん泣くだけで要領を得ない。プロデューサーは困り果てていた。

 

事務所からは見えるわけではないが、また二人が抱擁し合ってるのが目に浮かぶ。

 

「ちっ」

 

夕美が魔女の顔で舌打ちしながらクッキーを頬張る。

 

「ふん」

 

文香が鼻を鳴らし、猫柄のティーカップを乱暴に置く。

 

「死ねばいいのに」

 

愛梨が扉の先を恨めしそうに見ながら漏らした。

それは三人の総意でもあった。

 

 

それから7分ほどして、泣きじゃくるアナスタシアを連れて

プロデューサーが事務所に入って来た。プロデューサーはYシャツ姿だ。

自分の上着をなぜかアナスタシアに着せている。

 

「みんな。一体何があったのか教えてくれ」

 

それに対し、女子大生たちは沈黙。

 

プロデューサー、この空気の悪さに全てを察する。

 

いわゆる「いじめ」だ。

 

テレビアニメやゲームの世界では存在しないことになっているが、

現実の芸能プロダクションでは女のいじめや複雑な上下関係が

ない組織など、たとえ地球全土を探しても存在しない。

 

「おい愛梨。お前は何か知ってるのか?」

 

「……」

 

「夕美。お茶を飲むのをやめてくれ。説明を」

 

「……」

 

「文香。まさかお前もなのか?」

 

「……」

 

この間、一度も彼女達と視線が合わなかった。

こんなことはこのメンバーを結成してから初めてのことだった。

 

 

(ぐっ……)

 

胃が痛む。何を言えばいいのか。言えることが何かあるのか。

彼女らの怒りの原因となっているアナスタシアは今も

プロデューサーの腕にしがみついてメソメソしてる。

 

いつもの彼ならフルボッキするのだが、今はそれどころではない。

 

 

「プロデューサーさんは」

 

夕美が口を開いた。実に8分もの沈黙の時間は長かった。

 

「ロリコンだもんね」

 

「……なにをいっ」

 

「ロリコンだからアナスタシアちゃんをそばに置いておきたいんでしょ。

 でもそういうのってさ、世間体も悪いし辞めた方がいいと思う。

 甘やかしてばかりいるのもアナスタシアちゃんのためにならないよ」

 

「俺がロリコンかどうかはともかく、俺が聞きたいのはそうい…」

 

「目障りなの」

 

「え?」

 

「目障りなの!! そうやってプロデューサーが

 アナスタシアちゃんばっかり特別扱いするのが!!」

 

夕美の怒りのオーラによってプロデューサーは壁際まで叩きつけられた。

夕美はただ怒鳴っただけなのだが、その怒声には今までため込んだ恨みが

こもっていたのでそれが質量に変化したのだ。

 

「プロデューサーっ!!」

 

アナスタシアが彼を心配して近寄ろとするが、文香がそっと立ちふさがる。

 

「彼に近寄らないでくれますか?」

 

文香の冷たい視線を感じた瞬間、アナスタシアは

冬のサハリン沿岸部でLNG関連施設で働く作業員の気持ちを味わった。

 

 

「い、いってぇ。背骨が折れるかと思ったぞ」

 

プロデューサーは頑丈だった。

今の一撃は普通の男性だったら全治3か月だったのだが。

 

「俺が知らない間に人間関係が最悪になってることは分かった。

 だがお前達、同僚をいじめるってのは解雇事由にまでなるんだぞ。

 自分で自分の首を絞める。それが分かっててやってるんだろうな?」

 

3人は何も答えない。

 

「とにかく、今日はもう解散しろ。アナスタシアは俺が寮まで送る。

 予定の入ってる人は明日も予定通りに仕事をしてくれ。

 今日の件はあとでちひろさんや部長と話し合って処理を勧める」

 

プロデューサーはこの時点でこの3人を解雇する方向で話が進むのかと思っていた。

しかし上司たちに報告した結果、なんとアナスタシアを特別扱い

するプロデューサーが悪いと言うことで話が進んでしまう。

 

アナスタシアは実力ではこの事務所のトップであり解雇はないとして

かといってプロデューサーがいないと女子大生組のやる気が出ないことも問題だ。

そのため、アナスタシアとプロデューサーを切り離すことで調整が進められた。

 

 

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