※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

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事務所で千川ちひろと再会した

レッスンルームでは、カンカンに怒ってるベテトレが腕組みして待っていた。

 

「新田ぁ。貴様、寝坊して遅刻したとはいい度胸だな。

 今何時だか言ってみろ」

 

「すみません。すみませんっ」

 

 

美波は平謝りした。一度はシンデレラプロジェクトでリーダーまで任された身。

それなのに一般人の男の家に遊びこんでふしだらな生活を送ってることが、

なぜかこの事務所の関係者の間では周知の事実となっていた。

 

この状態で新田美波の雇用が維持されてることがまず異常だ。

普通に考えたら首どころか、TV局やマスコミを始めとした関係各社から

損害賠償を請求されてもおかしくない大事件なのだが、そういうことを

いちいち考えていたら作文が書けなくなるので気にしないことにする。

 

なお、今後もこの作文には過去に書いた内容や設定との矛盾、

常識的に考えておかしい設定が明らかになるかもしれないが、

細かいことを考えるのが面倒なため、それも気にしないことにする。

 

 

「ふんっ。時間がもったいないのでお説教はこれくらいにしてやる。

 他の皆はもう終わってるので今日はお前だけに特別レッスンだ」

 

「よろしくお願いますっ!! 私、遅刻した分も頑張りますから」

 

「相変わらず威勢だけは良いな。

 ったく、一体どんな男と一緒に暮らしてるんだか」

 

秋に披露する予定のダンス曲が流れる。

美波の次のシングルに掲載される曲だ。

 

美波はまず足のステップから覚えていく。美波は新しいことを

覚えるのが得意なので途中で転んだりすることもなく、

順調にレッスンをこなしていく。

 

15分ほど全力で踊ったので汗だくになった。

夏場はエアコンをガンガン利かせても体力の消耗が激しい。

ベテラントレーナーが、いったんアンプの音量を下げる。

 

「私はまだ大丈夫です!!」

 

「そうは言うが、顔色が悪いぞ?

 目の下にクマができているが、昨日はちゃんと寝たのか?」

 

「実はあまり寝てないんです……えへへ」

 

「はぁー。すっかりプロとしての自覚が失われてしまったな。

 それに新田、お前はさっきからどこを見ているんだ」

 

「え? どこも見てませんよ!!」

 

「嘘つくな。ダンスの最中に扉の方をチラチラ見ていただろうが。

 武内Pでもいたのか? 武内Pはこの時間は外回りをしてるはずだが」

 

ベテトレがガラス越しになってる扉を開くと、

そこにいたのは美波と同棲してる「旦那さま」だった。

 

スーツ姿の彼は、営業スマイル全会でにっこりと笑い、

 

「ご無沙汰しております。新田がいつもお世話になっております。

 ご迷惑かとは思いましたが、今日は新田が是非にと言うので

 職場を見学させていただきたいと思いまして、こちらに参りました」

 

「あ……あ……あなたは……」

 

ベテトレが口をパクパクさせる。そう。彼女も以前は職場の知り合いだったのだ。

そして彼女が密かに思いを寄せる営業マンが彼だった。

事務所内で話をしたことはほとんどないが、遠くから見つめるだけの憧れの彼。

いい年をしてまだ独身のトレーナーは、気が付いたら自然と彼を意識していた。

 

「すみません。ご迷惑でしたよね?

 僕がここに居ても目障りでしょうから、控室の方で待つことに」

 

「いえっ!! そんな、全然迷惑じゃありません!!」

 

「そうでしょうか」

 

「はい。好きなだけ見学されていってください」

 

「え、ええ。分かりました」

 

ベテトレがしおらしい態度を取って来たので

プロデューサーには不気味ですらあった。

 

「おほん。さーて、新田。続きをしようか!!」

 

「はい。よろしくお願いします!!」

 

45分後に美波は解放された。文字通りかなりしごかれたわけだが、

美波はスポーツで汗を流すことは好きなので爽快ですらあった。

厳しさに定評のあるはずのベテトレは、チラチラと元営業マンの方を

見ては顔を赤らめていた。

 

 

「美波。よく頑張ってたな。偉いぞ」

 

「えへへ。はい。プロデューサーさんがずっと見てくれたので

 いつもよりやる気が出ちゃいました」

 

廊下でいちゃつく事実上の夫婦。よく考えなくても

女子大生で現役アイドルの美波に夫がいることがおかしい。

いくら思い付きで書いてる作文とはいえ、設定に無理があり過ぎる。

 

 

「あ、いたいた」「美波しゃ~ん」

 

そこへ、夕美と蘭子がやってくる。美波は貴重な彼との時間を

邪魔されたので3秒ほど鬼の顔をしたが、すぐに元に戻る。

プロデューサーは近くでその妖怪変化を見ていたので背中が冷たくなった。

 

夕美が上目遣いで彼に話す。

 

「あのね、さっきちひろさんがあなたのことを呼んでたの」

 

「ちひろが? 何の用だ」

 

「さあ。大切な話があるそうだけど、どうする?

 もし嫌ならこのまま帰っちゃってもいいと思うけど」

 

「……帰ったところでまた連絡してきそうだしな。

 うーん、どうすっかな。めんどくさいけど、せっかく事務所まで

 来ちまったわけだし、会いに行くべきか」

 

そんな話をしていると、廊下の曲がり角を曲がって、こちらに歩いてくる女がいた。

 

「プロデューサーさ~~ん♪ お久しぶりですね」

 

その女こそ、千川ちひろだった。

 

「待ちきれなくてこちらから会いに来ちゃいましたよ★」

 

「そ、そうか。本当に久しぶりだな」

 

「はい♪」

 

「……」

 

「難しい顔されてますけど、お腹でも痛いんですか?」

 

「その理由をあえて口にしなくても君なら分かるだろ」

 

「ふふ。そうですよね。可愛い女子大生や天使のような中学生アイドルに比べたら

 私なんて25過ぎのおばさんですものね。こんな女と話なんて

 したくないと、プロデューサーさんはそう思ってるんですよね?」

 

「25でおばさんってのはないんじゃないか?

 それに君だって十分に美人だと思うぞ。俺以外の

 男を探せば、きっと良い相手が見つかるんじゃないのかな」

 

「そんなぁ~。美人だなんてほめてくださるなんて嬉しいです!!

 それより今の言い回しなんですけど、もしかして私振られちゃったんですか?」

 

「逆に聞きたいんだが、ちひろはなぜ俺が欲しいんだ?」

 

「理由を聞かれても困りますね。人を好きになるのに理由なんて必要ですか?

 それに私の場合は気が付いたらあなたのことを好きになっていました」

 

「それはどうも。ところで俺は美波と夕美と結婚してるんだ」

 

「へえ」

 

「へえって、他に何か言うことないのか」

 

「ここでよくそんなこと言えるなぁって感心したんですよ。

 ご自分で大問題な発言をされてるご自覚はないんですか?」

 

「もちろんある。君は俺の妻達にアイドルを辞めろって言いたいんだろ?」

 

「いえいえ、別に辞めなくてもいいですよ。結婚してることは

 隠しながら芸能活動をすればいいわけですから」

 

「さすがに無理があるだろ」

 

「そうでしょうか?」

 

「……」

 

「……」

 

「おい千川。おまえは」

 

「ちひろ」

 

「あ?」

 

「ちひろ、ですよね? プロデューサーさんが私を

 下の名前で呼んでくださるとうれしいです」

 

ふたりの殺伐とした会話を、蘭子、美波、夕美の三人は固唾を飲んで見守っている。

作文だと千川とPしかいないように感じられるだろうが、他の三人もちゃんといる。

 

「……ちひろ。話は変わるが、俺には病気の件があるから

 美波や夕美と別れることはできないんだよ。すまんな」

 

「私、別れて欲しいだなんて言いましたか?」

 

「言いたそうな顔をしてたから先読みしたんだよ。

 お前、まさか俺と結婚して欲しいだなんて言うんじゃないだろうな?」

 

「びっくりしました。そこまで分かっちゃうんですか?」

 

「……」

 

「……」

 

「冗談じゃないんだな?」

 

「はい」

 

「ちひろ。おまえな、ふざけんじゃねえぞ」

 

プロデューサーが淡々とした声で続ける。

 

「お前の売った謎の注射のせいで俺があれからどんだけ苦しんだと思ってるんだ。

 美波や夕美に監禁されて家畜みたいな生活を送ったり、脱走しようにも

 すぐ掴まって手錠されたり、散々な目にあったんだぞ。

 その俺がお前に対して良い感情を抱くか? 有り得ねえだろうが」

 

美波が「本当にすみませんっ!!」と謝りながらプロデューサーの腕にしがみつく。

夕美も罰の悪そうな顔をしている。蘭子はゴミを見るような目で二人のお姉さんを見ていた。

 

プロデューサーは美波のおでこにキスをしてから夕美の頭をなでる。

めざとい千川ちひろが、目の前で繰り広げられたイチャラブを見逃すわけもなく、

 

「あ~~~、いいですね~~。そういうの。昔は悪いことをしたけど

 プロデューサーさんが全部許してあげちゃうんですね。やさしー。

 それでプロデューサーさんは私の頭は撫でてくれないんですか?」

 

「付き合ってもいない女性の頭を撫でたらセクハラになると思ってな」

 

「じゃあ結婚しましょうか」

 

「なぜそうなる。俺はふざけるなと言ったはずだが」

 

「私、これでも真剣に求婚してるんですよ」

 

「お前に求婚されても何か裏があるようにしか思えないんだよ」

 

「ひどーい。真剣に告白した女性に対してそんなこと言いますか。

 私ってそんなに腹黒い女に見えてたんですね~」

 

「……」

 

「プロデューサーさん。実は今日はあなたの病気に関する大切な

 お話があったのでそのことであなたをお呼びしたんです」

 

「悪いけど病気の件はもういいや。美波たちがそばにいてくれたら 

 日常生活は送れることが分かったからな」

 

「まあまあ。そう言わず。私と話をしてくださいな」

 

「千川ちひろ。すまんが俺はお前のことが嫌いだ」

 

「え……」

 

「もう一度言ってやろうか。俺は、お前のことが嫌いだ」

 

「……」

 

「もうお前の顔なんて見たくもないし、声も聞きたくない。

 今こうして会話してるだけでも俺にとって不快だ。

 もう二度と会いたくない。今日だって本当は事務所に来たくなかったけど、

 美波達がどうしても言って言うからわがままを聞いてあげたんだぞ」

 

美波がいちいち過剰に反応して

 

「プロデューサーさんの気持ちも考えず、わがまま言ってごめんなさい!!」

 

と彼の腕にしがみついて騒ぐ。

プロデューサーはあえてちひろの見てる前で美波とキスをした。

 

「くっ……」とちひろの顔がゆがむ。

 

美波は一生懸命に背伸びして彼にしがみつき、甘えている。

夕美と蘭子はその様子を指をくわえながら眺めていた。

 

「大丈夫だよ美波。俺は君のことを嫌いになったりなんてしないから」

 

「ほんとうですかぁ?」

 

「ああ、本当だ。ほら。もっとこっちに顔を近づけなさい。

 今度は君の方からキスしてみろ」

 

「はぁい。プロデューサーさぁん。だいすきぃ♡」

 

 

さすがにこのやり取りは効果があったようで、ちひろの顔が青白くなり、

指先がプルプルと震えている。別にちひろでなくとも、普通の女性なら

意中の彼が目の前で他の女とキスなんてしていたら殺意しかわかないだろう。

 

美波の噛みを優しく撫でる彼の長い指を見た時、ちひろは心から嫉妬した。

 

(私には触れてもくれない。優しい言葉をかけてくれることもないし、

 ただ職場で事務的な会話をするだけの関係だった。

 いつもプロデューサーさんが可愛がるのは10代の女の子だけだった)

 

ちひろは、彼に一度でいいから触れて欲しかった。

髪の毛でもいい、肩でも腕でもいい。彼がまだ現役のPだった頃、

アーニャや文香に対して挨拶をするたびにわざとらしく彼女達の

肩に触れていたように、ああいうのを自分にもして欲しかった。

 

彼の体を何とかして自分の管理下に置きたい。

そんな目的で作ったものが、例のアナスタシア依存性ウイルスだ。

 

 

(大嫌い……か。分かってはいたことだけど、

 本当に言われるとは思いませんでしたよ)

 

 

大好きな彼にはっきりと拒絶されたことが、

彼女が用意していた最後の手段を使う決心をさせてしまうのだった。

 

 

「もう二度と、私に対して失礼なことを言えなくしてあげますよ」

 

 

ちひろは最後にそう言い捨ててから廊下の先へ消えていった。

 

別れ際に、大好きな彼を涙目で睨みながら。

 

 

(あの目はやばいな……女は男に比べて執念が強い。

 あいつをあそこまで怒らせたからからにはただでは済まないだろうな)

 

プロデューサーはどんな仕返しをしてくるか分からないちひろにただ脅えるが、

ふたりの妻や蘭子ちゃんはそんな彼を励ましながらその日の夕食の席を囲った。

 

プロデューサーに異変が起きたのは、翌朝だった。

 

 

 

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