好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか? 作:なおちー
(千川ちひろと関わったところでメリットがなにもないよ)
夕美はそう言いたかったが、復讐の鬼と化してしまった旦那に
それを伝えたところで無意味なことを悟ってしまう。
今までの物語の流れで相葉夕美は子供っぽいところを
みんなの前でさらし続けていたが、
この奇妙な共同生活を続けるうちに彼女なりに成長していた。
テレビアニメ進撃の巨人の第一シーズンでで使用されていた
表現と多少かぶるが、相葉夕美には今自分が何をするべきなのかを、
劇中のジャン・キルシュタインのように理解していた。
「そんなことより大切なのは、私たちが生き残ることでしょう!!」
夕美が突然吠えたのだ。
旦那ともう一人の妻は、ハトが豆鉄砲を食らった顔をしている。
「ねえあなた、私の聞き間違えじゃなければ、ちひろさんに復讐するって
言ってたよね? 復讐してどうなるの? 仮にちひろさんを殺したとして、
その先に何があるの? あなたは確かに多額の資産を
失ったかもしれない。でも、命まで奪われたわけじゃないよね」
「ちょ……夕美ちゃん。いきなり何を言ってるの」
「大切なのは、私たちの命でしょ!! 命より大切なものなんてないよ!!
お金はもちろん大切だけどね!! 私や美波ちゃんだってアイドルやってるんだから
それなりに収入はあるし、大学を出た後は芸能界以外の就職先だって見つけられる!!
旦那さまが3,000万を失ったのは確かに痛かったけど、もう過去のことだと思って
忘れちゃいましょうよ!! ちひろに今更何を言ったって取引の材料にされるだけだし、
あいつに関われば関わるほど私たちは多くの者を失うだけ!! そうでしょ!?」
この時、美波の脳裏に浮かんだのは、昨今の小中学校で見られる「来賓の挨拶」だ。
例えば運動会が9月に行われたとする。
9月とは、現在日本の定義では真夏である。酷暑である。
その中で偉そうな顔をしたおじさんやおばさんが壇上に上がり、
いらぬ話を生徒諸君らに話して聞かせる。
当然。誰も聞いてない。
話がつまらない以上に、暑さでそれどころではない。
来賓の挨拶とは、まず運動会の前に行われる。
来賓がつまらぬ話を得意げにしていると、ばたん、ばたんと次々に生徒が
熱中症で倒れる。直立不動の状態で直射日光を浴びてるのだから当然だ。
すると面白いことに、今度は壇上の前に控えていた来賓の者や教頭先生などが
倒れ始める。夏の暑さの過酷さに生徒か教員かは関係がない。
この滑稽な行事に対し、ある人はこう称した。
「生徒と教員の、どちらが先に熱中症で倒れるかのデスマッチ」
日本の教育機関の愚かさ、硬直性、保守的思考とは、日本国の衰退そのものの象徴である。
ただいま説明したのは自治体が運営する全国の公立の小中学校の例だが、
昭和以前から続いた慣習だからだと、それを令和の気候変動が激しい今の時代においても
継続しようとする愚かさ。筆舌に尽くしがたい。なお日本国政府の愚かさもこれに比例する。
これを株式投資を例にして考えると、最も投資してはいけない投資先が判明する。
マザーズ市場だ。現在ではグロース市場と名を変えたようだが、日本国の金融市場において
最も不利で将来性が見込めないのが新興企業が多く占める旧マザーズの銘柄だ。
国の財政赤字の拡大から大学レベルでの助成金の乏しさ、若者の海外流出の激しさ、
何よりも少子高齢化による貧困家庭の増大、実質賃金の継続的な上昇により、
衰退の一途をたどる我が国において、新興市場の株式を買うなど愚の骨頂である。
投資でお金を失う者は例外なく新興株に手を出している。
新興株と言えば、もっぱら筆者が思いつくのはインド、インドネシア、タイである。
今でも人口が増え続けてしかも若者人口の比率が高い国にこそイノベーションは生まれる。
日本は良くいえば資本主義として成熟し老成した国だ。
日本企業には製品シェアで世界を支配する製造業がたくさんある。
具体例を挙げれば、東京エレクトロン、キーエンス、ダイキン、任天堂、村田製作所、
ブリジストン、二デック、トヨタ、ホンダなどがそれに該当する。
ほかにも無数に有力な株があるが、ここは株について語る作文でないので自重する。
これはドイツやイタリア、フランスにもいえることだが、成熟した資本主義の国では
成熟しきった企業の株を買うのが正しい選択だ。成熟した外需系の企業ならば、
すでに製品が全世界に行き渡っており、先進国を制覇した後は発展途上国へ
販路を拡大し、仮にそれが成功するならば利益は半永久的に右肩上がりになる。
仮にこれを読んだ読者諸君らが初めてそれらの株を買うなら、最低でも5年は保持して
世界の金融経済財政のあらゆる変動を乗り切って、その後の企業の価値を算定してほしい。
筆者の定義では5年未満の保有で「投資をした」と定義しない。
例えば、トヨタ、ソニー、KDDI(第二電電)などに匹敵する企業を、
これから大学を卒業するであろう若者らが日本で作り出すのはまず不可能だ。
もちろん若者ならば製造ではなくパソコンやスマホを使用したITに興味を示すだろうが、
メタ創業者のザッカーバーグ君や故ジョブスに匹敵する天才なが日本にはまずいない。
それよりトヨタをいずれ負かすほどの新興自動車メーカーが
タイで生まれる可能性の方が1000倍高いと断言できる。
「夕美。おまえの言うことはもっともだと思う」
「そうでしょ?」
いきなり話が本編に戻った。
確かに脈略がないが、当作品は小説ではなく作文なので仕方ない。
「だがな、俺は時価3,700万もの金を失っちまったんだぞ?
重要なのは資産額だけじゃねえ。税引後で100万はくだらない配当金を
企業は俺たち株主に払ってくれる。病気の俺を救ってくれるはずの
配当権利さえ失っちまったんだ。この事実を簡単に受け入れられると思うのか?」
「そ、それは・・・・・・」
「夕美だって俺の立場に立ってみればわかることだろうよ。
おまえはまだいいよ。若いからな。俺はもう35でしかも病人だぞ。
あれだけの金を失っちまった以上、俺に価値なんてものはもうない。
俺は本当にただの無職じじいになっちまったんだ」
「・・・・・・」
「ふっ、笑えるぜ。千川のやつ、俺をこんな悪どい方法で陥れるとはな。
こんな男に何の価値がある? 今だから言うけどな、俺は自分の年齢のことが
ずっとコンプレックスだったんだ。夕美も美波も現役アイドルで女子大生。若くてきれいだ。
お前たちなら、その気になれば、いつでも他の男に乗り換えられるだろうが」
「私は旦那さまのことを心から愛してます!!
他の男性に乗り換えるなんて、そんなこと思ったことは一度もありません!!」
「そうか。そうならうれしいんだがな」
「どうしてそんな悲しいことを言うの・・・・・?
たとえ大金がなかったとしても私があなたのことを嫌うわけないじゃない。
こんなにもあなたのことを愛してるのに、どうして私の気持ちが通じないの?」
涙をぽろぽろと流す妻の姿はそれはもう愛らしかった。
今すぐその唇を奪ってしまいたくなるほどに。
「今はそうかもしれないな。今はな」
「ちゃんと私の目を見て!! 私が嘘を言ってると思ってるの?」
「・・・・・・」
「どうして信じてくれないのぉ!!
嘘じゃなくて本当にあなたのこと愛してるんです!!」
怒ったり泣いたりと、夕美の心は不安定だ。
そんな姿が妙に子供っぽく感じられたので
プロデューサーとしてもこれ以上この子を悲しませたくないと思ってしまう。
「わかったよ。疑ったりしてごめんな?」
「あっ」
手を伸ばし、頭をなでてあげた。夕美はまた子猫のようにおとなしくなる。
彼は視線を真上に向け、膝枕をしてくれている美波の顔を見た。
なぜか美波は口角を上げてニヤついている。
「美波?」
「あっ。すみません。こりゃあじゃのぉ。その・・・・・・実は少しだけうれしかったんじゃ。
さっきの夕美ちゃんとの会話でプロデューサーさんがうちらに捨てられるのを
いびせがっとるのを知ってしもうたけぇ、それが少しおかしゅうなってしもうて」
(美波、広島弁になってるぞ・・・・・・(^^;))
「そう言うってことは、美波も俺を捨てるつもりはないってことかな?」
「そんなこと、あるわけないじゃないですか。私は今までずっとあなたに
愛想を尽かされて捨てられるのにおびえていたんですから。
それに私、普通の女子大生よりは少しだけ多くお金を持ってるじゃないですか」
少しじゃないでしょ。と夕美ちゃんから小声で突っ込みが入る。
「もし、旦那さまが私のお小遣いに依存してくれたらうれしいなって。
だって現状はそうですよね? 私のお金がないとマンションに引っ越すための
初期費用だって払えない状態なんですから」
(美波にとって1,200万円がお小遣いなのか・・・・・(^^;))
「すまんな。美波。男なのに年下の女の子にお金の面でお世話になるなんて
自分でも最低だと思ってるけど、お金のことは本当に助かるよ」
「そんなっ、謝らないでください!! 私は全然気にしてませんから!!
むしろうれしいんですってば。もう全部本音で話しちゃいますね。
旦那さまがお金持ちでいらっしゃると、いつでも私たちを捨てて
逃亡できちゃうじゃないですか。旦那さまが常にお金に困っていて、
そのたびに私を頼ってくださる方が私にとってはうれしいんです。
嘘じゃなくて、本当ですよ?」
「ああ、確かに嘘をついてる顔じゃないな。信じるよ。
しかし最近の若い女の子はそんなにまでして男に尽くしたいものなんかね」
「もちろん誰にでもいいわけじゃないですよ!!
愛している男性にだからこそ、頼っていただけるのがうれしいんです」
「ありがとう。美波」
彼はむくっと起き上がり、美波を抱きしめる。
(あわわわっ。また彼の方から抱きしめてくれた。しあわせ~♡)
彼女の方からも抱きしめ返し、彼の後ろ髪をなでる。
見ないふりをしても、どうしても彼の白髪が気になってしまう。
今回は総白髪になってしまったが、これは一時的なショックによるものだ。
あとでまた黒く染め直せばいい。いっそイメチェンで茶髪にしてもいいかもしれない。
「あなた。好きです」
夕美は彼の背中にしがみついた。コアラの赤ちゃんのような仕草がなんとも愛らしい。
背中越しに妻のぬくもりを感じた時、彼は確かに妻からの深い愛を感じるのだった。
うれしさのあまり涙さえ流してしまう。改めて自分は血の通った人間なのだと思う。
一夜にして3,700万円ほどの資産を失ってしまったプロデューサー。
それでも優しくて美しい妻たちからの深い愛情は変わらず、
これからも仲睦まじい三人は協力して令和の大不況を乗り越え、
幸せな夫婦生活を続けるのだった。
「好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?」
~~~~~完~~~~~~~~~~~~~
もちろん冗談である。
こんな打ち切りに近い終わり方をしては芸がなさ過ぎるし、
俺はまだこの作文を続けたいと思っている。
「あ、電話だ」
実に空気を読まなかったのは、夕美のスマホの着信だった。
件の「千川ちひろ」と名前が表示されている。
この名前を見るだけで夕美は鳥肌が立ってしまうのだ。
「出なくてていいわよ。夕美ちゃん」と美波。
「うん。わかってるよ。もう電源切っちゃうね」
電話が鳴り止む。
次は美波か、旦那さまの携帯にかかってくるものだと身構えるが、何もない。
「あの女、いったい何を考えてるのかしら」
美波が親指の爪を噛む。