※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

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不幸の手紙が届いた

夕美の左腕とプロデューサーの右腕をひとつの手錠でつながれる。

 

「……これで旦那さまがまた、その、

 変なことを思いついたとしても何もできませんよね」

 

「……」

 

「もちろん私だって悪い子なんだなって思ってますよね。

 でもこれは旦那さまの大切な命がかかってることなので

 納得してくれますよね?」

 

「……」

 

「ねえ、そうですよね?」

 

夕美の悲しげな微笑みを、彼が直視することはできなかった。

 

「……納得してくださるんですよね?」

 

 

 

わかっていたことだが、彼は何も答えてくれなかった。

そこにいたのはかつての「旦那様」ではなく、27歳で

頭をショットガンで撃ちぬいて死んだ「ニルヴァーナ」のカート・コバーンだった。

 

 

自殺未遂をしてからのプロデューサー・コバーンは口数が減り、

食欲もなくなってきた。以前に監禁した時にもこういうことはあったが、

あの時は妻二人の束縛が強すぎたのが原因。

 

今回は違う。

彼自身が生きる希望を失ってしまっているのだ。

 

 

せっかく彼と正式に結ばれたはずなのに、妻たちにとっては不愉快な話だ。

 

 

「はぁはぁ……私、こういうのになんだか興奮しちゃうんです」

 

美波が差し出したスプーンをじっと見つめるプロデューサー。

 

少し口を開けばカレーが食べられるのに、口を開こうとしない。

その視線は折れ曲がっていて、いよいよ反抗期を迎えた中学生のような顔つきだ。

 

「朝から何も食べてないんですから、お腹すきましたよね~~?

 もう15時過ぎで本当ならお菓子の時間のはずなんですけど、

 旦那さまったら急に少食になっちゃって。ダイエットもたまには

 いいと思いますけど、やりすぎると体に悪いですよ~~?」

 

プロデューサーは美波に膝枕されていた。

今は手錠を外してある。妻二人で夜遅くまで話し合った結果、

手錠をして彼を精神的に追い詰めるよりは、

充電切りの寸前まで追い込んで自由を封じた方がいい。

 

つまり前と同じ状態に戻ってしまったのだ。

これではまた彼に嫌われてしまうことは頭でわかってはいる。

しかし彼に自由を与えた結果、再び自殺されるかもしれない恐怖と

天秤にかけてこうなった。

 

 

「旦那さま。すこしだけくすぐりますね。ごめんなさい」

 

夕美が彼のわきの下をくすぐると、さすがに耐え切れずに口を開いてしまう。

 

「さあどうぞ召し上がれ!!」

 

「うぐ……うん。もぐもぐ」

 

「やっと食べてくれましたね。お味はいかがですか?」

 

「美波の料理はすごくおいし……って、なんだこれ。辛い!!

 めちゃくちゃ辛いぞ!! 早く……早く水をくれ!!」

 

 

夕美が近くにあったマッチ(大塚食品)のボトルをプロデューサーの口に突っ込んだ。

 

 

「ぷはぁっ!! ったく、死ぬかと思ったぞ」

 

「ごめんなさい。旦那さまが私の相手をしてくださらないものですから、

 少しだけいじわるしちゃったんです」

 

「いやむしろ礼を言っておくよ。あまりにも辛いカレーを食べさせられたので

 嫌な気分が一瞬で吹き飛んだ気がする。ありがとな。美波」

 

「えへっ。それほどでも~~」

 

「喜んでる場合じゃないでしょ美波ちゃん・・・・・・」

 

とあきれ顔の夕美が、

 

「ところで旦那さま。

 あの事件からもう一週間は経ちますから少しは心が落ち着きましたか?」

 

「まあそれなりにはな。夕美は今でも俺が自殺すると思っているのか?」

 

「それは・・・・・・」

 

「どうなんだ。はっきり言ってくれよ」

 

「すごく、警戒してます」

 

「だろうな。聞くまでもない。警戒されて当然だと思う」

 

美波が「あーんしてください」と言ってスプーンを差し出す。

プロデューサーは慣れたものでどんどんカレーを食べていく。

 

赤ん坊のような食事が終わる。

美波が食べ終わったお皿を洗いに行く。

するとプロデューサーが歩き出そうとしたので夕美が止める。

 

「充電して一時的に元気になったからって勝手に動き回らないでください」

 

「だったら俺に手錠するか?」

 

「……いいえ。私がそばにいればいいだけのことですから」

 

夕美が手錠をすれば本気で彼に拒絶されるのが分かっているから怖いのだ。

 

 

「ごめんな夕美」

 

「何がですか?」

 

「最近は夜の方もさっぱりだったよな。こっちおいで。

 食べた後で歯も磨いてないですまないが、キスしよう」

 

「はい……」

 

夕美は背伸びして彼の唇に夢中になって吸い付いた。

大きな胸をたっぷりと押し付けながら。

 

 

今夜は激しい夜になると夕美は期待した。

わずかに充電が済んだ彼の体がこうしてしっかりと自分を抱きしめてくれる。

嘘じゃなくて本当に自分を愛してくれてるのだと夕美は信じられる。

だからこそ、彼の自殺未遂を防ぐために多少彼の自由を奪うことは正当化されるはず。

 

 

そう信じた。

 

 

「アーニャ……」

 

 

最初は聞き間違えかと思った。

でも彼は確かにアナスタシアの名前を口にした。

 

なぜ今? なぜ今更? 無神経が過ぎる。

 

こうして抱き合っている時に他の女の名前を口にするだけで

夕美の心はぐちゃぐちゃにかき乱されてしまうと知っていながら。

 

 

「あの、もしかして旦那さまは……」

 

「美波?」

 

 

怖い顔をした美波が、いつの間にか彼の背後に立っていた。

ふとプロデューサーが振り返ると、美波が彼の右腕を抱いた。

まるでもう自分のそばから離さないといわんばかりの強さだ。

 

 

「今でも……アーニャちゃんに未練があるんですか?」

 

「そんなわけないだろ。充電するのにしても美波と夕美がいれば

 それで間に合ってるんだ。正直に言うとな、

 俺はお金のことだけはまだ諦めきれてな……」

 

「うそです」

 

竜宮レナがブチぎれる3秒前くらい前のトーンで美波が言った。

 

「お金のことは未練がある。それは本当のことだと思います。

 でも夕美ちゃんの大人のキスをしてる時に限って

 アーニャちゃんのことをわざわざ口にするんですか?

 もしかして、旦那さまは夕美ちゃんじゃなくて

 アーニャちゃんとキスがしたかったのかなって思われちゃいますよ」

 

プロデューサーは背中に突き刺さる視線を感じた。彼の背後にいるのは

もう一人の妻の相葉夕美だ。今さながら名字が違う人間が妻であることに

違和感を感じる(夫婦別姓?)今作は小説ではなく作文なので仕方ないが。

 

 

「ひどいです。そんなのって、あんまりじゃないですか」

 

「ゆ、夕美……」

 

 

夕美は怒るよりも悲しんでいた。

口元を手で押さえながら頬を涙が伝う。

 

「夕美。俺の話を最後まで話を聞いてくれ。あいつの名前を口にしたのは

 たぶん病気の副作用のせいであって俺は別に……」

 

「旦那さま!! お話を割ってしまってすみません!!」

 

「びっくりした。急に叫んでどうしたんだ、美波」

 

「実は私も証券口座を開設したんです。

 SBIで。私はあまりお金を持ってませんけど、

 とりあえず少額で300万円くらいから始めてみようかと思って

 証券口座への入金が昨日までに終わったんです」

 

「そうか。それは……。おめでとう」

 

※民法改正により成人年齢が18歳以下に引き下げられた。

よって美波の口座は成人口座になるのか? 詳しくは知らないので適当に書こう。

 

「美波もついに投資家デビューだな」

 

「投資家と言ってもただの素人ですよ。

 世の中のことも芸能界くらいしか知りません。

 それに投資って19歳の小娘にできるほど簡単じゃないことくらい、

 私にだってわかりますよ」

 

「……」

 

「ですからここは専門家のあなたにお任せしようかと思いまして」

 

「だったらSP500のインデックスでも買っておけばいいんじゃないか?」

 

 

※スタンダード プアーズ ファイブ ハンドレット インデックス

 米国主要500社をSP社が選定して構成する。長期の資産運用の王道。

 

 

「あいにくですが、旦那さまは私専門のアクティブファンドを運用してください。

 家族間の信託なので手数料は無料でいいですよね?」

 

「悪いが俺には無理だと思う。アクティブファンドの運営はパッシブ型に

 比べて難易度が高いぞ。それに複数銘柄に分散してリスク低減を図ることから

 運用担当がプロの場合は最低で億単位の資産が必要になる」

 

「でもお金を持っていた頃のプロデューサーさんの株は含み益がたくさんあって、

 総合商社や海運企業の株価は買値から4倍とか普通にありましたよね。

 プロデューサーさんなら資金量が少なくても上手に運用できるんじゃないですか」

 

「まあそれは……年によってはベンチマーク以上の運用成績を出せる時もあったんだが、

 あの時は心身共に健康だったからな。今の俺は君たちに健康を管理してもらってる

 身だし、それに夕美や美波をささいなことで傷つけちまうような、最低な男だよ」

 

プロデューサーは、話の外に置かれてますます寂しそうな顔をしている

夕美を抱き寄せて頭を撫でてあげた。夕美はしくしく泣きながらも

子猫のようにおとなしくなっている。

 

 

「さあ投資の話はこれで終わりだ」

 

 

その日の夜は久しぶりに三人で熱い夜を過ごしたものだが、

美波は投資の件についてもアーニャに対する未練のことも納得していない。

夕美も協力して彼の未練である資産を取り戻す方法について考えたが、

まさか警察沙汰にするわけにもいかないし、相変わらず証券会社への

問い合わせも意味がない。

 

千川ちひろにダメもとで電話をかけてみたがつながらないし、

メールを送っても既読スルーされる。あれだけのことがあったのだから

恨まれるのも当然だが、そもそも仕掛けてきたのはあちらなのだ。

 

こうなったら彼には本当に3,000万を諦めてもらうしかないかと

妻たちが思い始めた時、彼らの住むマンションに一通の封筒が届いた。

 

 

「失礼します。あなた、お楽しみのところ邪魔しちゃってすみません」

 

「……」

 

「あなたっ!!」

 

「ん? なんだ美波か」

 

 

プロデューサーはヘッドホンで音楽を聴いていたので美波が

仕事部屋に入ってきたことに気づかなかったのだ。

 

彼はユーチューブで「10代の香り~スメルス・ライクティン・スプリト~」を

聴いていたというのに、彼の顔はなぜかブライアン・ジョーンズにそっくりだった。

爆音で聴いていたので開放型のヘッドホンから音がダダ漏れだった。

 

 

「またその曲を聴かれてたんですか・・・・・・。

 本当にお好きなんですね。毎日聴いてると少しは飽きませんか?」

 

「そんなことはないよ。聴くたびに新しい発見があるから飽きることがない。

 むしろこれを聴かないと今の俺は自分を制御できなくなったんだ」

 

「音楽を聴かれて気分転換されるのは構いませんよ。でもこれは何ですか!!」

 

美波はリストカットをしてる彼からナイフを取り上げた。

日頃の食事で使うナイフだが切れ味は悪くない。

 

「傷口を見せてください!!」

 

「血は出てないよ。遊びのつもりで手首に当て・・・」

 

「いいから、見せてください!!」

 

「いてっ、そんなに強く引っ張るな」

 

 

彼の左の手首にはかすり傷があるだけで血は出てない。

彼が遊びのつもりで「リスカごっこ」をしているのは本当だった。

 

 

しかし、これで済まされる問題ではない。

美波はその日、大学から帰ってくる友美を待ってから

プロデューサーを説教することにした。

 

 

彼の暴挙を知り、夕美の怒りが燃えさかる。

 

 

「ニルヴァーナの曲を聞きすぎると頭がおかしくなりますよって言ってるのが 

 あなたには伝わりませんか!! あなたが自殺の練習をするようになったのは

 ニルヴァーナの曲を毎日聞くようになってからですよね!?」

 

「俺はレッド・ツェッペリンやザ・フーも聴いているぜ。

 それなのにニルヴァーナと俺の自殺に関連性を見いだせるのか?」

 

「いちいちうるさいなぁ……そんな屁理屈はいいんですよ!!」

 

そう怒鳴る夕美の顔は、賭ケグルイに登場する皇伊月に似ていた。

 

「はっきり言ってください。あなたが生きる希望を失ってしまったのは

 大切に持っていた株式を失ってしまったからですよね?」

 

「……」

 

「ねえ。どうなんですか?」

 

「……」

 

「だんまりはもう結構です!! ちゃんとしゃべってくださいよ!!」

 

「3,000万円を失ってしまった俺の怒りと悲しみが夕美にはわかるのか?」

 

「……取り返しましょうか」

 

「あん?」

 

「資産を取り返してあげましょうかと言ってるんです。

 これは最後の手段として取っておいたものなんだけど、

 この手紙を見てください」

 

「これは、ちひろから送られてきた手紙か」

 

「はい」

 

「一通だけじゃない……。こっちのは、先週送られてきたものか?

 ご丁寧に日付まで書かれてるじゃねえか」

 

「実は毎日スマホにメールも送られてきてるんですけど無視してるんです」

 

「なんて内容だ……ひどすぎると思わないか?」

 

「ですから私と美波ちゃんはあなたには知らせてなかったんです。

 見たらショックを受けるかと思いまして」

 

 

 

その手紙には、アナスタシアが妊娠したことが書かれていた。

 

~~アーニャの妊娠に関する一切を否定した場合、

直ちにプロデューサーを民事裁判で訴えて金銭的な奴隷にする~~

 

もしこれが事実だとしたら、彼らの「夫婦ごっこ」は完全に破綻することになる。

 

未成年のアーニャをもてあそんで妊娠させた件による

損害賠償請求額は、一時金だけで5,000万となる予定と書かれていた。

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