※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

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彼がアーニャと再会したらどうなるのか?

美波とその旦那が重苦しい顔で沈黙する中、夕美は静かに怒っていた。

 

「ふたりとも、ちょっと待ってよ。さっきから勝手に話を進めているけどさ。

 私は全然納得してないからね。あいつらと顔を合わせて何を

 話すというの。話をしたら絶対に向こうのペースに乗せられて、

 最後はお金の件で脅されて、旦那さまは私と美波ちゃんを……」

 

「夕美、落ち着け」

 

「私は会う必要ないって言ってんの!!

 私たちはこのマンションで平和に暮らしてるんだから、

 外野に何を言われようと無視してここで暮らせばいいだけじゃない!!」

 

「そんなわけにはいかないんだよ。アナスタシアが

 妊娠してるから知らないふりを続けたところで無駄だ。

 黙っていてもいずれ周囲に気づかれて終わる」

 

「そんなの関係ないよ!!」

 

「夕美……」

 

「私は美波ちゃんとお金も持ってないし裁判の知識とかもない。

 私にとって大切なのはね、あなたなんだよ。

 旦那さまともう二度と会えなくなってしまうかもしれないのに

 止めないわけないじゃない」

 

「夕美は本当に俺のことを愛してくれてるんだな。ありがとう」

 

「そういうあなたは、どうなの?」

 

「もちろん愛しているよ」

 

その言葉を聞いて夕美が安心できるわけもないが、

彼の真剣な瞳を見ていると不思議と心が安らいでいることに気づく。

いつもなら今は全然そんな気分になれないのに。

 

夕美が黙り込んだので互いに無言になってしまう。

深夜のマンションの一室であまりにも無意味な時が流れていた。

 

プロデューサーは今にも夕美が暴れ出すんじゃないかとヒヤヒヤしたが、

 

「ふたりとも、もう12時過ぎてるわよ」

 

美波が時計を刺した。

 

「いつまでも話し合ってたらキリがないしお肌にも悪いわ。

 さあ今日はこれまでにしましょうか。

 続きはまた明日話し合うってことでいいわね?」

 

「わかったよ。俺も今日はすげえ疲れた。今日は三人で一緒に寝よう」

 

「うん。私も……もう寝る」

 

 

いつもなら妻たちが日替わりで相手をするのだが、

今日はシングルサイズのベッドに三人もいるので手狭だ。

互いの肌のぬくもりを感じながらも、誰一人簡単に寝付けない

長い夜となってしまった。

 

最初に寝息を立てたのは夕美だった。

仕事にプライベートにと相当に疲れているのか

一度眠りについたら起きる様子がない。

時計の針は2時を過ぎていた。

 

 

「あなたはまだ起きてますよね?」

 

美波が、蚊の鳴くような声で言った。

 

「トイレに行きたいので一緒に来てください」

 

「……ああ。今行く」

 

美波はトイレではなく、玄関の方へ向かった。

玄関前の廊下で立ち止まり、急に振り返って旦那にキスをした。

 

「み、美波。急にどうした?」

 

「夕美ちゃんが納得してくれなさそうなのでここで内緒話を

 しようかと思いまして。やっぱりちひろと直接会って

 話し合いをした方がいいと思うです」

 

「それは俺も賛成だ。しかし夕美の意見を否定するわけにはいかないだろう」

 

「夕美ちゃんはまだ子供なんですよ。今は大きなお金がかかってる

 大変な時期。子供の意見なんて聞いてたら人生台無しになりますよ」

 

「すでになってるような気がしないでもないが……」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。ああ……美波。改めて思うんだが、

 君はこんな俺のことでも好きでいてくれてるんだからうれしいよ」

 

今度は彼の方から美波を優しく抱きしめた。

美波はもう彼に抱かれるなど慣れているはずなのに、

夕美に内緒で密会しているからか胸がドキドキしてしまう。

 

(旦那様、かっこいい……)

 

「欲を言えば私のことだけ愛してくだされば、どんなに幸せだったことか」

 

「……ごめんな。美波」

 

「いえ。最近はそれでも悪くないかなって思っちゃうんです。

 周りの女たちがいちいち寄ってきてしまうのも、

 旦那さまがそれだけ魅力的な人だってことの証明になりますから」

 

「ありがとう。キス、するか?」

 

「はい」

 

ふたりは2匹のオットセイのように唇を突きあっていた。

何も知らない人がその光景を見たら、ハリウッド映画の

ラブシーンのように見えることだろう。

 

美波は薄手のパジャマ越しに大きなお尻を触られた。

プロデューサーは興奮し、美波を狭い廊下の壁際に追い詰めて

また唇を奪った。今度は強引なので美波がつま先立ちになって足元が震えてる。

 

「美波。信じてくれ。俺はお前を捨てたりなんてしないよ」

 

「ふふ……そうですよね」

 

「なぜ俺の顔を見てくれないんだ」

 

「どうして、でしょうね……」

 

プロデューサーは美波のパンツの中に手を入れて愛撫をしていたが、

今夜は彼女が全然濡れてくれない。こんなことは初めてだった。

 

「美波が不安に思ってることを正直に教えてほしい」

 

「……」

 

「今は二人だけだからさ。ダメか?」

 

「この幸せな時間が、いつか終わっちゃうのかなって思うと悲しくて。

 ただ、それだけですよ」

 

「美波……」

 

「プロデューサーさん。私も夕美ちゃんも気持ちは同じなんです。

 あなたのことが大好きなのでこれからも幸せな生活を送りたいだけなんです。

 それ以上のことは何も望みません。けれど私たちの中を無理やり引き裂かれる

 何かがあったとしても……、たとえあなたに捨てられたとしても、

 捨てられるまではあなたのこと、好きでい続けますからね」

 

美波は涙を流すわけでもなく、沈んだ声でそう言った。

視線は折れ曲がっていて床を見つめている。

 

「俺は美波のこと、好きだ」

 

「私もですよ。あ・な・た」

 

再び彼に強く抱かれても、美波の顔に笑顔が戻ることはなかった。

もうここでの生活を続けるのが無理なのだと、賢い美波は完全に

悟ってしまっている。これなら、無知で世間を知らない夕美の方が

100倍も楽だったかもしれない。

 

「ちょっとふたりとも~~。

 こんな時間に私に隠れて愛し合ってるなんて何考えてるの」

 

プロデューサーと美波は思わず互いに距離をとってしまう。

いつから起きていたのか、もう一人の妻の夕美が腕組してそこにいた。

 

「ごめんね。実は寝たふりしてて二人がベッドから

 出ていくところから全部見てたの」

 

「夕美。ごめんな」

 

「いいえ。私の方こそごめんね。隠れて会話を聴いたりしちゃって。

 美波ちゃんの顔、鏡で見てみなよ。今にも自殺しそうな顔してる」

 

「……」

 

美波は、夕美と視線を合わせず無言でうつむいている。

 

「私は美波ちゃんみたいに頭は良くないからこれからのことは

 わからないけど、よーく考えたら解決方法がないわけでもないよ」

 

「夕美は何か思いついたのか?」

 

「死んじゃいなよ」

 

「なんだと?」

 

「だからさ、死んじゃいなよ。人生ゲームオーバー。

 これ以上何をどう考えても最悪な結末しかないんだったら、

 この世界から逃げちゃえばいいってこと。

 借金取りのヤクザや裁判官だって天国までは追ってくれないでしょ」

 

プロデューサーは夕美が包丁でも持ち出して暴れだすのでは

ないかと心配したが、夕美は冷静だった。

ただし、彼女の瞳は濁り切っていて、見たこともないほど心の闇を

抱えているがわかる。彼女が冷静なことが彼を逆に恐怖させた。

 

「人生から逃げるのは、ダメ。

 それは人として一番やっちゃいけないことなのよ。夕美ちゃん」

 

「美波ちゃんは私の考えを分かってくれないんだね」

 

「まだすべてが終わると決まったわけじゃないわ。

 アーニャちゃんと話し合えば、まだ希望はある」

 

「ないよ」

 

「あるわ。頭から可能性をゼロだと否定するのはどうかと思う」

 

「でも美波ちゃんだって口ではそう言ってるけど、

 この後の展開がどうなるかもう悟ってるんでしょ?」

 

「……」

 

「私たちは最後まで彼の恋人どまりってこと。

 結婚するのはアナスタシアになるんだろうね。

 だってこの人が結婚の条件を飲んで子供を育ててあげれば、

 賠償の件はチャラになっちゃうんだもんね?」

 

「夕美ちゃんは、旦那さまのことを信じてないのね」

 

「ぜんぜん。それは美波ちゃんも同じだと思ったけど」

 

「……」

 

「どうなの美波ちゃん。本音は隠さないで早めに打ち明けた方が

 楽になれると思うんだけど。っていうか。さっき彼の前で

 はっきりと捨てられるって言ってなかった?」

 

「私の考えは、夕美ちゃんとは違う。彼に捨てられるのが、

 もうどうしようもないことなら、もう本当に諦める。

 私はアイドルも大学も辞めて地元の広島に帰るわ」

 

「本当に諦められるの? 地元に帰った後も、私たちの元旦那さまが、

 アナスタシアの子供を連れて都内の公園を歩いてる姿を

 想像しても平気なわけ? 美波ちゃんの彼に対する想いは、

 そんなに軽いものだったんだ」

 

「私だって好きで捨てられるわけじゃないわよ・・・・・・」

 

「おおっ。こわっ。そんな目で私を見ないでよ」

 

「いつもと立場が逆になってるわね。私が夕美ちゃんに

 口で言い負かされてるみたいで面白くない」

 

「私だって美波ちゃんと言い争うつもりはないし、

 私たちはどんな時でも彼と一緒の時を過ごすと決めた同志でしょ?

 だったらさ、私たちがとるべき行動はひとつだけだと思うんだけど」

 

夕美に続いて、美波まで闇の色に染まった瞳で旦那をにらみつけた。

 

 

(うっ……)

 

プロデューサーは恐ろしさのあまり

その場に立っているのがやっとの状態になった。

 

まず言い訳がしたかった。

妻たちの間では離婚、すなわち自分が彼女らを捨てて

アナスタシアと結ばれることが既定路線となっているようだが、

まだ何も話は決まってない。空想に過ぎない。

ちひろとの電話での話し合いも途中で終わってしまった。

 

なのに、

 

この二人の女子大生は、すでに最悪の結論を出してしまっている。

 

女性は一般的に思い込みが激しく、特に日本人の場合は自身の

魅力に自信がないので好きな異性を縛り付ける傾向にある。

よくいえば一途。プロデューサーにとっては最悪の状況だ。

 

 

ここまで疑われてしまった以上、二人を捨てるつもりが

ないことを打ち明けたところで火に油だろう。

 

 

「旦那さま。すみませんけど死んでくれますか」

 

 

夕美がそう言って旦那の腕を強くつかんだ。

美波がその横に立ち、彼を逃がさんとばかりににらみつける。

 

明確なる殺意。

 

「漫画やアニメみたいなセリフになっちゃいますけど、

 あなたが死んだのを確認したら、そのあとを私と美波ちゃんも後を追う。

 これで納得してらえませんか。いえ、あなたの意思なんて

 聞く必要ありません。これはもう決まったことなんですから」

 

「うぐっ!!」

 

「あ、今逃げようとしましたね。無駄ですよ」

 

夕美ではなく美波が、彼の自由だった左腕を抑えつけ背中に回す。

これは警察が容疑者逮捕に使う動作だ。

 

「いてて……。まじ痛てえ!! 腕が折れちまう!!」

 

「旦那様。痛いですか? 荒っぽいことをしちゃってごめんなさい」

 

「み、美波・・・・・・まさかお前……本気なのか?」

 

「運命を受け入れてください。心配しなくても大丈夫です。

 最初は喉のあたりが焼けるような痛みを感じるかもしれませんが、

 体感では3分くらいで死ねるらしいですよ」

 

「なんだそりゃ。まさか青酸カリでも俺に飲ませようとしてるのか?」

 

美波は、なおも暴れようとするプロデューサーを巧みに抑えつける。

夕美がリビングから手錠を持ってきて、彼を後ろ手に拘束してしまう。

彼は椅子に座らされ、美波によって顎を持ち上げられた。

 

「あの。○○さん。本名で呼ぶのはこれが初めてですね。

 最初にお礼を、そのあとに別れの言葉を言わせてください

 今日まで私と一緒に生活してくれてありがとうございました。

 思ってたよりずっと短い新婚生活でしたけど、私は本当に幸せでした」

 

「ま、待て。俺はこれから何をされるんだ……?

 せめて話し合いをしてから」

 

「この世界で私たちは残念ながら縁がなかったのでこれで終わりですが、

 もし別の世界があるんでしたら、そっちで再開できるといいですね。

 ふふっ。今日が人生最後の日だって分かってるのに、なぜだか涙が出ないんです」

 

プロデューサーは叫ぼうと思った。

あの叫び声ならこの二人をビビらせ時間を稼ぐことができる。

さっそく息を大きく吸うが、

 

「させないよ」

 

夕美にビンタされた。

強烈な一撃だったのでプロデューサーはイスごと床に転がった。

 

「まったくもう。往生際が悪い男は嫌われますよ」

 

と美波が笑う。だが瞳は濁ったままだ。

 

「う、うあぁ。いやだぁ。死にたくない。俺はまだ死にたくないんだぁ」

 

「その格好で芋虫みたい逃げようとして。そんなの見苦しいだけだよ」

 

夕美がしゃがんで彼の首根っこを抑えつけた。

 

(だ、ダメだ。俺の人生はここまでなのか?

 俺はアイドルによって本当に殺されちまうのか)

 

「旦那様、泣いてるの? 私、お父さん以外で男の人が

 泣いてる姿を見るの初めてかも」

 

「私は弟がいるからそうでもないわよ。夕美ちゃん」

 

(弟……?)

 

プロデューサーが閃いた。

 

「美波がもしここで自殺したら!! 

 お姉ちゃんのこと大好きな弟君はさぞ悲しむだろうな!! 

 お前のためにあれだけのお小遣いをあげたお父様もそうだろうよ!! 

 広島にいるお母さんだって、

 なんのためにお前を今日まで育てたんだろうな」

 

「それは私の家庭の事情です。

 そんなことまで旦那さまが気にすることないでしょう?」

 

「うっ……。ゆ、夕美はどうなんだ!! お前の神奈川にいる親は!!

 お前が変死体で発見されたのをニュースで聞いて悲しむぞ!!」

 

「私も別に何とも思わないよ。だって私、そもそも親と仲良くないから」

 

「キ、キリスト教では寿命を迎える前に自殺した奴は、

 天国には行けないとされている!! お前たち、

 地獄がどんなに恐ろしい場所か想像してみなさい!!」

 

「地獄だってさ。美波ちゃん。そんなのあるの?」

 

「さあ知らないわ。私も宗教には関心がないし」

 

「だよね★」

 

「わかった!! あと1日だけ時間をくれないか!! あと1日でいい!!

 もし俺が明日までに君たちが満足する結論を出せなかったら

 殺してくれて構わないから。なあ、頼むよおおおおお!!」

 

「だーめ★」

 

夕美が、スタンガンを持ってきた。

毒薬を口から流し込まれるのを恐れて暴れる彼を弱らせるために使うのだ。

 

「ちょっと目の前がバチバチして意識を失うかもしれないけど 

 我慢してね。次に目を冷ました時はもう別の世界にいると思うから」

 

美波が、いつもの三日月目で語りかける。

手には謎の薬品が入った紙コップを持っている。

 

「無駄に抵抗して痛い思いをしたくないと思うのでしたら、

 お口をあーんしてくださいますか?

 この毒薬、すごいんですよ。即効性なのですぐに死ねます。

 それともスタンガンの電圧を最大にして、

 電流で体中の神経を焼かれて苦痛の中で死にますか?」

 

「アナスタシア~~~~!! 助けてくれ~~!!

 アナスタシア~~!! いないのか!! 助けてくれ!!」

 

「へ~~~~。やっぱり最後はアーニャちゃんの名前を呼んじゃうんですね。

 そうですか・・・・・・。分かってはいましたけど、ショックですよ。

 あなたを殺すのにもうためらいはありません」

 

美波は鬼の形相になり低い声で

 

「死ね」

 

と言った。

 

最後の瞬間、プロデューサーの脳裏に浮かんだのはロシア系の少女ではなく、

若い頃の母親の顔だった。北海道の漁村で生まれ育った、幼い頃の

自分を抱いてくれた母の優しい顔を・・・・・・。

 

 

(母さん。ごめん。親より先に子が逝くことになるとはな)

 

 

その次の瞬間、美波の頭が何者かによってバッドで殴られた。

 

160センチを超える美波の体が音を立て床に転がる。

 

 

「・・・・・・え?」

 

仰向けに寝かされているプロデューサーは、自分のすぐ横にある

美波の顔を見て呆然とした。美波は後頭部から血を流しうつ伏せに倒れている。

 

「美波ちゃん。ごめんね」

 

夕美はそう言いながらも笑っていた。

 

 

 

 

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