好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか? 作:なおちー
今回の話から新キャラが登場することになる。
今作の主人公であるプロデューサーと今までに関わったことない偶像(アイドル)
佐久間まゆである。
なぜ今更、ヤンデレキャラのテンプレとも呼べる佐久間嬢が登場するのか?
それについては後で説明するとして、まずはプロデューサーの住んでいる
マンションで発生した異変から話を進めたいと思う。
(私の彼がいなくなった・・・・・・)
血走った瞳の美波が爪を噛む。
目の下のクマがすごいのは、昨夜の行為が遅くまで続いたからだ。
朝の8時過ぎ。普段は5時半には起きてることが多いので完全な寝坊だ。
妻であり仲間であるはずの夕美は、大きな口を開けて寝ている。
小学生を思わせる童顔でよだれを垂らしてるので思わずキスをしたくなるが、
今は同性愛をしてる場合じゃない。
「夕美ちゃん。起きて。起きてよ夕美ちゃん。大変なことがあったの」
「ん~~。まだ寝てたい。今日はオフの日だからぁ・・・・・」
「それが寝てる場合じゃないのよ。私たちの旦那さまがね・・・・・・」
「え? なに!? 旦那さまがどうかしたの!?」
美波の深刻そうな顔を見て飛び起きた夕美。
美波が、短気な夕美を怒らせないようにできるだけ冷静に語りかけたのだが、
それでも夕美が取り乱さないわけがなく、
夕美は競走馬のように3LDK内のマンション内を駆け回る。
たまに壁に頭をぶつけ、お掃除中のルンバに足を取られながらも、
クローゼット、机の下、トイレ、彼が隠れてそうな場所を探し続けた。
「無駄よ」
美波が悲しげに瞳を伏せている。
「私も1時間以上かけて探したけど見つからなかった。
彼の・・・・・・靴がないのよ。なのに彼の身分証とか貴重品だけは
ここに置いてある。マンション内は荒らされた様子がないから、つまりね。
彼は無理矢理拉致されたんじゃなくて、自分の意思でここから・・・・・・」
「出て行ったって言いたいの!?」
歯を食いしばる夕美。美人なので怒ってる顔すら絵になる。
「私だって・・・・・・彼が自分から出て行ったなんて思いたくない。
でもこの状況を否定することはできないわ。事実として分かるのは
彼がここにいないってこと。それが彼の意思だったか、誰かにさらわれたのか
は今は分からないけど、そのどちらかだとしても・・・・・・、
でもやっぱり、私たちが捨てられたってことになるのかな」
「美波ちゃん!! なにそんな達観したみたいな言い方してんの!!
彼は私たちに約束してくれたはずだよ。死ぬ時は一緒に死のうって!!」
「私だって・・・・・・怒鳴れるなら怒鳴りたいわよ。でも
夕美ちゃんだけじゃなくて私までパニックになったらどうなるの?
そうしたら解決するものも解決しなくなっちゃうでしょうが・・・・・・!!」
ぱしーん
夕美ちゃんは派手にビンタされて床を転がった。
弟をしつけてる時みたいね・・・・・・美波はそう漏らした。
夕美はショックのあまり目の前が真っ暗になり、やっとの思いで
キッチンから包丁を持ってきた。そしてそれをすぐに自分の胸元に
刺そうと思ったが、腕が途中で震えてしまう。
「なにしてるのよっ」
美波に背後から首根っこをつかまれ、そのまま後ろ方向に引っ張られ転倒する。
「だ、だって・・・・・・彼に捨てられたなら。もう私に生きてる価値なんて・・・・・・ない」
「うふふ。大丈夫よ。夕美ちゃんはひとりじゃないわ。私もいるでしょう?」
「な、何よその目は・・・・・・」
「うふふふふ」
「こ、来ないでぇ。あんた時と場所を選びなさいよ。
こんな時までレズプレイなんてどうかしてる!!」
しかし、こんな時なのに美波にキスを迫られて不思議と嫌な気がしなかった。
夕美は自然と美波と手をつないでしまっている。
二人の若くて美しい女子大生が朝から唇を重ね合う姿は、なんともなまめかしい。
もしここに例の彼がいたら、間違いなくフル勃起していたことだろう。
「はぁはぁ。夕美ちゃん。かわいいわ。夕美ちゃんの服脱がしてもいいかしら?
それとも夕美ちゃんは女同士は嫌だったかしら?」
「今はもう嫌じゃないけど、それはまた夜にしようよ。
今は旦那さまのことが先でしょ?」
「うふ。そうね!!」
それから二人は真剣に彼の行方を調べることにした。
その行方はすぐに判明した。
美波が何気なく自分の下着入れ(チェストの一番上)を調べたところ、
彼のスマホが見つかった。スマホがここにある。しかも数か月前から充電切れだ。
普通、スマホは貴重品の最たるもので現代では財布や身分証明書よりも
貴重な場合もある。計画的に逃走したとしたら、これを置いていくことは考えにくい。
早速充電して履歴を調べても通話もメールもした様子はなく、
これによって彼が計画的に脱走した可能性はかなり低くなった。
「美波ちゃん、下着入れの奥に変な手紙が入ってるよ!!」
「ほんとね。なにかしら、これ……」
手紙の内容
【元プロデューサーさんのご自宅で家族ごっこをされているおふたりに
少しだけ相談があります。突然のことで申し訳ありませんが、夕美さんと
美波さんにとってご自分の命より大事な彼を、少しの間お借りしたいのです。
うふ。実はもうお借りしてしまったので相談になってませんよね。
とにかくそういうわけですから、彼が戻ってくるまでの間、おとなしく
していてくださいねぇ。もし彼を無事に返してほしかったら、ですけど】
手紙の主が、佐久間まゆとなっていた。
美波はまゆの名前を騙る千川の犯行を疑ったが、
同僚の夕美がみたところ佐久間まゆ本人の筆跡ではないかと判断した。
「・・・・・まゆちゃんが彼を誘拐した理由は何かしら」
美波がまた爪を噛む。そう。問題はそこだ。
旦那さまは、どんな女の子でも虜にしてしまうくらいに魅力のある男性なことに
変わりは無いが、竹内Pの管理下のアイドルで、しかも竹内Pにぞっこんのはずの
まゆが、(アニメとは異なる設定だが)なぜ旦那さまに手を出したのか。
夕美は顎に手を当て、ぶつぶつと何かを言い続けている。
どうせ千川ちひろが絡んでいるのは疑いようがなく、今回の犯行に
まゆを参加させたのだろうと思った。そして夕美のそのカンはズバリ当たっていた。
「あ、あのぉ」
美波と夕美は、心臓が止まるかと思った。
「さっきから声をかけてたんですけど、ふたりとも全然気づいてなかったので」
そこにはいたのは、ゴスロリ衣装に身を包んだ神崎蘭子14歳だった。
夕美はハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「蘭子ちゃん!? いつからそこにいたのよ!! てゆーか
どうやってこの部屋に入ったの!! 厳重なセキュリティがあるはずなのに!!」
「くくくっ、確かにこの住居には他社の侵入を拒む闇の力があることは知っている。
しかしながら我が前世の聖なる輝きによってその闇を取り除くこと容易なり」
蘭子がそれ以上の中二病を発動する前に、美波にお尻を叩かれてしまう。
「急にごめんね。でも私たちね、今余裕ないのよ」
美波がシリアスな時の葛城ミサトの声色でそう言ったものだから、
蘭子は血の気が引くほどの恐怖を感じてしまうのだった。
「意味わかんない言葉遣いじゃなくて普通の日本語を話してね?」
「分かりました。実はプロデューサーしゃんが
拉致されたことば二人に知らせぎゃ来たとです」
「なんじゃって!? やっぱり彼は拉致されたのね」
「そうばい。ちなみに犯人は千川しゃん。実行犯は佐久間しゃんなんや」
「なるほど。想像通りね。やっぱり黒幕はちひろか……。
で、彼は今どこに?」
「マンションばい」
「どこのマンション?」
「そら今はまだ言えまっせんね」
「……? どこのマンションなのか教えてくれるかな」
「やけん、まだ言えんとばい」
「今うちらに余裕がないといったのが聞こえんかったかな?」
「彼ん居場所ば教ゆるとには条件があるったい!!」
「一応聞くけど、どんな条件?」
「ふ、ふたりがやなあ。前からあん人ん奥しゃんば名乗っとらしたばってん、
あれ、実はうち的にそれなりに不愉快やったりするったい」
蘭子はよせばいいのに、美波や夕美に対して恨み言を言い続けた。
蘭子は根が内気なうえに、まだ子供なので自分の意志や考えを
正確に伝えるのに苦労していたが、要約するとこうだ。
プロデューサーが拉致されたのは良い機会だと思って
いっそ美波と夕美が妻を名乗ることをやめてしまえばいい。
アナスタシアが妊娠しなことを事実として認めて彼を諦めてしまえばどうか。
「ふーん。言いたいことはそれだけ?」
と美波は満面の笑みで言うが、目だけは笑っていない。
「このくそ忙しい時に、これだけはお子様は困るよ」
夕美は鬼そのものの顔をしていた。蘭子の腕をつかむ。
「蘭子ちゃん。今日ここでひどいこと
されたくなかったら彼の居場所を教えなさい」
「うちゃ言おごたることは伝えたんでもう帰ろうかと」
「何言ってるの? このまま帰すわけないでしょ。
あんた、さっき私たちになんて言ったか忘れたの?」
夕美は、蘭子を壁際に追い込んで壁ドンした。
「そ、そういう態度ですよ」
「何?」
「そぎゃんして強引に彼にも迫ったんやろ?
あまりにもしつこか女性は嫌わるるばい。
夕美しゃんたちは、いつもそぎゃんやけん、
彼に愛想つかされて脱走されたりするばい!!」
その次の瞬間、蘭子の顔の横に何かが刺さる。
裁縫針。美波が投げたものだ。
「蘭子ちゃんの言い方、すっごい不愉快」
「いたっ。髪を引っ張らないで」
「ねえうちの言いよることが理解できんかったのかしら?
なして理解してくれんの? うちゃね、彼のいるマンションを
教えて頂戴ってお願いしとるのよ。あんたの尊敬する美波さんの
言うことが聞けんのかしら。じゃったらお姉さん怒ってしまうわよ」
「……」
「ねえったら。ねえ? ねえっ!!
黙っとらんで何とか言いんさいよ、ほら!!」
蘭子は、猛獣のいる檻に閉じ込められたらこんな気分になるんだろうな
と思った。目の前にいる美波には恫喝され、隣にいる夕美には白い腕に
あざができるほど強くつかまれており、このままでは骨がおられるかもしれない。
「夕美ちゃん。この子ったら、さっきからうつむいてばかりで
何も話そうとしないわ。時間がないし、しょうがないわね。
例のフライパンを用意してちょうだい」
「うん。わかったよ美波ちゃん。良く熱したフライパンを
この子の肩や腕に押し当てればいいんだよね?」
「そうよ。蘭子ちゃんが逃げないように私が捕まえておくから、
その間にお願いね♪」
夕美が鼻歌を歌いながらキッチンへ歩く。
蘭子は、自分がまさに命の危機に瀕してることを知り冷や汗をかく。
彼の居場所を教えてあげればこの拷問はきっと止まる。
しかし、どうしても居場所を教えることができない事情があった。
「持ってきたよ~~♪」
夕美が持つのは、熱しすぎたせいで真っ赤に染まっているフライパン。
その表面がわずかに肌に触れただけで蘭子の肌に深刻な
ダメージが与えられるだろう。
美波が拷問の内容を説明する。
「フライパンを素肌に押し当てるなぁ序の口よ。
その次は、電気ポットね。蘭子ちゃん、今日はよかったら
電気ポットのお湯を頭からかぶってみる? もちろんお湯の温度は
100℃じゃけぇ、蘭子ちゃんのお肌や髪の毛が大変なことになって
二度とテレビに出れのうなってしまうかもしれんわね」
「・・・・・・」
「その前に最後のお願いがあるんよ。
ねえ蘭子ちゃん。彼がどこにおるのか教えてくれんかしら」
「アナスタシアの……マンションに」
「それって本当? 信じていいのね?」
「はい」
「アーニャちゃんのマンションって、北千住駅前にあるあのマンションよね?」
「ちょっと待ってください。今私のスマホで地図を出しますので」
「素直になってくれてうれしいわ。夕美ちゃん、今すぐ出かける準備をしましょうか」
夕美は「りょーかい」と元気に返事し、フライパンを戻しにキッチンに行く。
美波も朝から疲れたのかあくびをする。そこに油断が生まれる。
「きゃっ」
美波は、蘭子に突き飛ばされて尻もちをついた。
その次の瞬間、蘭子は玄関へ向かって駆けだしていた。