※この作品はR-18です。

好きでもないアイドルに告白をしたらどうなるのか?   作:なおちー

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アーニャとの脱走計画。その破綻。

翌朝、プロデューサーは朝6時前に起きてから自宅の仕事用の

デスクでパソコンにかじりついていた。

 

(昨日は夕美には悪いことをしたなぁ)

 

プロデューサーは頭を掻きながら思った。

 

もうやりたくもない仕事だが、

夕美が休んだ分のスケジュール調整をしなければならない。

 

実は有能だったプロデューサーは、芸能関係の仕事は事務所で手早く

終わらせて帰宅していたから、自宅にまで仕事を持ち込むことはまれだ。

昨日たまたま持ち帰っていたスケジュール表のデータが

入ったUSBがあったので助かった。

 

やるべきことはたくさんある。

 

当面の逃亡資金を確保するために今運用してる

豪ドルやNZドルの一部を円に戻さないといけない。

7時過ぎにはオセアニア外国為替市場が開くので

初動を見てからすぐにでも注文を出そうと思っていた。

 

彼には現金らしい現金はなく、前職の経歴を生かして

金融市場で株式、為替、債券、商品先物に分けて運用していた。

そのために急な出費がある時はいずれかの資産を売って現金を確保する必要がある。

 

 

「あの、プロデューサー、おはようございます」

 

 

堅苦しい声の夕美が後ろから挨拶をしてきた。

いつこの部屋に入ったのか。

プロデューサーは驚愕して声も出ない。

 

「朝早く目が覚めちゃったので、朝ご飯を作っておきました」

 

「おはよう……。ご飯作ってくれたのか。すまないね」

 

「いいえ。このくらいは当然です。

 今までプロデューサーには色々とお世話になりましたから」

 

「……」

 

「……」

 

会話が続かない。初対面の時に戻ったかのような気まずさだ。

 

「よしっ。一緒にご飯を食べようか。俺もそっちに行くよ」

 

「はい」

 

夕美はまだこのマンションで暮らすのに慣れてないはずなのに、

男性用の大きめのエプロンを着ながら料理を作ってくれた。

 

冷蔵庫にあった食材を使ったので変わったメニューはない。

大根のお味噌汁に卵焼きにウインナー、豆腐に納豆。

ご飯は昨日の夜にプロデューサーが炊いたものだ。

 

プロデューサーは食費に無駄なお金をかけたくないので

健康面には気を使いつつ、常に激安のスーパーで購入している。

 

「うん。美味しいよ。夕美は料理が上手なんだね」

 

「どうも」

 

「夕美は昨日のこと、まだ怒ってるよな」

 

「なんのことですか? 私はもう忘れましたけど」

 

「そうやって敬語を使ってるのが怒ってる証拠だ。

 はぁ……。気まずい会話をすると余計に疲れるな。

 まあ俺のせいなんだけどな」

 

「私が悪いんでしょ?」

 

「夕美……」

 

また無言になる。

 

プロデューサーはいっそテレビでもつけようかと思ったが

余計にむなしくなりそうなのでやめた。

 

「私は食べ終わりましたからお片付けしますね」

 

「もう食べたのかよ。早いな」

 

「プロデューサーさんも食べ終わったら食器を洗い場に

 置いておいてください。あとで私が洗い物をします」

 

(相葉夕美……)

 

プロデューサーだって、痛む心がないわけじゃない。

今の夕美に言っても信じてもらえないだろうが、

初めて芸能事務所に入った時はアイドルと心からの信頼関係を

築けるのだと子供のように信じていた。

 

だがどんな綺麗事を言っても商売は商売。お金を稼いだ組織の勝ちだ。

まして芸能界など水物商売でその商品価値に継続性などあるわけもなく、

電通が作り出す3年ごとの(仕組まれた)流行に大衆がおぼれるだけ。

 

そんな世界をいつしかプロデューサーは「くだらねえな」と思うようになった。

彼が心から愛しているのはアナスタシアだった。そして心から

アイドルとして実力があると思ったのもアナスタシアだけだった。

 

彼が現役商社マン時代にロシア極東のサハリン事業部で

働いていたからロシア系の少女に想いを寄せるのもあるが。

 

アナスタシアを除けば他は有象無象。いずれ大衆に忘れ去られる。

 

だがミステリアスな歌姫、高垣楓やカリスマギャルの城ケ崎美香の

となれば話が違う。彼女らは数多くの有名企業とCM契約を交わし

億単位の収入を得るトップアイドルだが、あれほど才能のある逸材は

プロデューサーの手元には存在しない。あるわけがない。

 

 

その日、プロデューサーは家にいた。今日は仕事を休むことにしたのだ。

夕美が逃亡しないように見張る意味もあるが、会社に行きたい気分

じゃなかったので仮病を使うことにした。休んでも大丈夫なように

変更したスケジュール表をちひろにメールで送っておいた。

 

 

(どうせ辞めるんだから細かいことはもう関係ねえよな。

 失業保険の申請はする暇がないので捨てちまうか。

 少しもったいない気もするが)

 

 

彼は午前中の東証の取引時間中に現金およそ1,600万円分を確保した。

これでも全資産の半分以下だが、とりあえずは十分なお金だ。

主要な通貨を3種類を円に、株式にして5銘柄を売却した。

シンガポールの不動産投資信託も全部売却。

どうしても取っておきたい他の資産はそのままにした。

 

11時半になって東証証券取引所がお昼休みになる。

その日の日経は小幅な値動きだったので売買しやすかった。

 

その時間に合わせて彼もキッチンへと行く。

 

きっと夕美がお昼の支度でもしてるのかと思ったら、姿が見えない。

まさか逃げたのかと思うが玄関には靴がある。

 

夕美の寝室へ足を運ぶと中からすすり泣く声が聞こえるではないか。

朝ご飯を食べてからずっと泣いていたのだろうか。

 

どこから取り出したのか、洗濯済みのプロデューサーの

Yシャツを抱きながら嗚咽を続けている。

 

「夕美っ!!」

 

「プロデューサーさん……私やっぱり……だめなんです。

 あなたに捨てられるのが、嫌なんです」

 

そのうるんだ瞳は、冷徹人間のプロデューサーでさえ

ドキドキさせるほどの破壊力があった。

 

「ほんとうは……プロデューサーのこと、

 後ろから包丁で刺してやろうと何度も思ったよ……でもだめ。

 嘘でも好きだって言ってもらえたことがうれしかったから、

 私はどうしてもあなたを憎めないの……バカだよね……」

 

プロデューサーはティンと来た。

 

(そ、そうだ。同僚の武内って野郎が言ってたな。女の子の笑顔の力には

 無限の可能性があると。奴はあの無能な島村卯月でさえ解雇しなかったほどの

 鈍感野郎だったが、無能ではなかった。この感じか。この胸が熱くなるような

 感じがアイドルの力か。俺はアイドルをあなどっていたのかもしれねえ)

 

 

「夕美。さみしい思いをさせてごめんね?」

 

「うぅ……」

 

 

そのまま抱いた。プロデューサーは島村で買った寝間着姿なので

雰囲気がぶち壊しだが、そんなことを気にする余裕は夕美にはない。

 

 

「俺は君のような可愛い女の子をここまで傷つけちまったんだな。

 すまないと思ってる。だからこそ夕美には俺の秘密を教えてあげようと思う。

 ずばり夕美が知りたいのは、今日俺がアナスタシアと話す内容だよな?」

 

「うん」

 

「夕美にはショックな内容だと思うけど聞いてくれ。

 俺はアナスタシアが結婚できる年齢になったら

 国内で結婚式を挙げた後にしばらく海外で過ごそうと思っていたんだ」

 

「え……なにそれ。結婚って……結婚!?」

 

「辞める予定日は9月のアナスタシアの誕生日記念ライブ。

 ついでに俺とアナスタシアは仕事を同時に辞めて世間から雲隠れ。

 逃げる先は極東ロシアのサハリンだよ。あそこには俺の昔の知り合いも

 いるし、そのコネで特別なルートで入国できる」

 

「……私達を裏切って逃げるつもりだったんですね」

 

「ああ、ひどい話だろ?

 アナスタシアがどうしても人気アイドルとして成長するまでは

 アイドルを続けさせてあげたいのと、

 彼女が法的に結婚できる年齢まで待ってから逃げるんだ」

 

※婚姻に関する年齢を定めた民法731条が改正されたことにより、

 2022年4月1日から、女性の婚姻可能年齢は18歳からとなりました。

 当該作品は2023年が舞台です。

 したがってプロデューサーの発言は民法に違反していますが、

 物語の構成上は無視せざるを得ません。

 

「今日アナスタシアを家に呼び出すのは、今後のことを

 話し合うため、っていうか、予定を少し早めてアイドルを辞めて

 逃げてしまおうぜってことなんだが」

 

「そんな話、聞きたくなかったです!!

 やっぱり私を捨てて逃げちゃうんじゃないですか!!」

 

「まあ結果的にはそうなるな……。

 俺はアナスタシアと本気で結婚したいと思ってる。

 人気な芸能人と結婚するとファンからのやっかみも激しいからな。

 いっそ外国で静かに暮らしてほとぼりが冷めるのを待ちたいのもある」

 

「い、いやぁ……そんなのいやぁ……」

 

「夕美……」

 

彼女をまた抱きしめる。夕美はまるで小さな子供のように

プロデューサーの腕の中で震えていた。嗚咽はまだ止まらない。

 

「俺だって好きで君と離れるわけじゃないんだ。

 今回は俺の担当する4人のアイドルの中からアナスタシアを選んだ。

 残酷なことを言うけど俺だって誰か一人を選ばなければいけない立場なわけだ。

 でもな。夕美だってまだ10代の女の子だからまだまだこれからの人生で

 運命の人との出会いがあるかもしれないだろ」

 

「そんなこと、分からないじゃないですか……。

 それにプロデューサーさんって元エリートだったわけですから

 お金たくさん持ってるんじゃないですか。

 こんなすごい人と結婚できるなんて

 アナスタシアちゃんがうらやましいです」

 

「俺はお金は全然持ってないんだ。若い時にほとんど使っちまったよ。

 このマンションのローンだけでも結構なお金が飛んじまったし、

 俺の今の月収なんて24万くらいだぞ。

 あの時に比べたら涙が出るくらいの薄給だよ」

 

「別にお金がなくてもいい。私はどうしてもプロデューサーさんと

 一緒に居たいんです。私じゃダメですか?

 私が日本人だから駄目なんですか? 

 髪の毛の色が銀色じゃないから駄目なんですか?」

 

「夕美は、素敵な女の子だ。いやむしろ素敵な女性だ」

 

「だったら!!」

 

「ごめん。俺は君とは付き合えないんだ」

 

「うっ……ぐすっ……うわあああああああん!!」

 

別れ話をしてるのに抱き合ってるのもおかしな話だが、

プロデューサーは常に欲求不満の性欲モンスターなので

こんな時なのにまた夕美の体が欲しくなってしまう。

 

(だが今日はそんなことしてる場合じゃねえ)

 

時計を見る。12時半。とりあえず食事だ。

プロデューサーは日清のラーメン(みそ味)でも作ろうかと思い

立ち上がろうとするが、夕美がしがみついて離れない。

 

彼女の頭を優しく撫でて説得するが、それでも聞いてくれない。

 

(まいったな……)

 

夕美のヤンデレっぷりもすでに末期症状と化していた。

このまま夕美を放置し続けたら自傷行為にまで発展しかねない。

 

(俺の見てないところで死なれても困るしな)

 

「夕美。こっちを向きなさい」

 

「ん……あっ、くるしっ……」

 

キスをしてあげた。プロデューサーは夕美の可愛い泣き顔を

見ながらフルボッキしてしまうが、それ以上はダメだと自制心を働かせる。

彼の数少ない理性を動員してるのだ。

実は我慢するのは、結果的にストレスが溜まる。

人間の三大欲求は我慢するべきではなく

出来るだけ早めに解消した方がいいとプロデューサーは思っていた。

 

「私の胸、触ってください」

 

「お、おい」

 

「胸、好きですよね?」

 

「夕美。もうだめだよ……」

 

夕美が自らのパンツを脱ぎ始めたところで

またプロデューサーの理性が飛んでしまう。

 

それからのことはよく覚えてない。

気が付いたら二人はベッドの上で寝ていた。

 

最初に目覚めたのはプロデューサーだ。

時刻は17時半。アナスタシアとの約束の時間を1時間も過ぎてる。

 

(やべえっ!!)

 

サハリンの絶対零度の大草原で寝てしまうくらいの危機的状況だった。

 

「おい夕美っ、何時まで寝て…」

 

プロデューサーはそれ以上言葉が続けられなかった。

 

 

「こんにちわ。プロデューサーさん。ようやく目が覚めましたか」

 

「プロデューサー……これはどーゆーことですか」

 

 

なんていうか、ここに居てはいけない人までいた。

アナスタシアはまだいい。そもそもどうやって中に入って来たのかは知らない。

なぜ事務員がいる? 25歳の千川ちひろ。呼んですらいない人まで

なぜこのマンションの一室に侵入しているのか。

 

 

「プロデューサーさん。ちょっとこれから色々と質問を

 させていただきますから、逃げないで聞いてくださいね?」

 

 

プロデューサーは思った。プーチン大統領に不手際を追及される

ロシアの大臣たちの気持ちは、たぶんこんなもんなんだろうと。

 

千川ちひろは、Pと夕美が裸で寝ていたところはとっくに

スマホに撮影済みで事務所のPCに転送済みだと言った。

これは本当にプロデューサーが逃げられないことを意味していた。

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