※この作品はR-18です。

慧音の日誌   作:guriguru

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15、衰弱

慧音の子が産まれて五年が経った。

 

子供はすくすくと育ち、朗らかで活発な少年になっていた。母である慧音と翁に愛され、真っ当に成長していった。

 

慧音は息子の成長を心の底から喜んだ、今までの苦難が報われたと思えた。ただ……。

 

 

 

(あの子には父親がいない、もうこの世にはいない。その父親を私は…。)

 

 

 

慧音と息子は、草原で遊んでいた。かつて寺子屋でやっていた、ボール遊びだった。

 

 

 

 

 

「ほーら○○!ママにボールを投げて!」

 

「いくよ!ママ!」

 

 

 

親子の楽しい時間が流れていた、そんな時間がずっと続いて欲しいと慧音は思えた。

 

 

 

 

「ねえ、ママ」

 

「どうしたの?○○?」

 

「僕のパパはどうしちゃったの?なんでパパはいないの?ママとお爺ちゃんはいるのに?」

 

「……それはね。」

 

 

 

言えなかった、母親が父親を殺害したことを。

 

それも、私怨を晴らす復讐のために。

 

この子の母が、殺人鬼だということも。

 

 

 

 

「パパはね、もうこの世にいないの。」

 

「……僕のパパ、死んじゃったの?」

 

「うん、だけどね……パパは最期まで家族の幸せを願っていたの。」

 

「それって、僕やママやお爺ちゃんのこと。」

 

「そう、だからママは、○○にパパがいなくても幸せになって欲しいの。それが願いよ。」

 

「……そうなんだ、だけど僕はママやお爺ちゃんも幸せになって欲しいな。

 僕だけ幸せなんてやだ。」

 

「○○……ありがとう、ママは幸せよ。今でも、これからも。」

 

 

 

 

 

我が子の優しさが愛おしく堪らなかった。

 

慧音にとって父親がどうとか…流れる血がどうとか馬鹿馬鹿しくなった。

 

 

 

 

 

夜、息子は寝静まっていた。近くで慧音と翁は囲炉裏を囲んでいた。

 

囲炉裏は、穏やかに薪を燃やしていた。部屋を優しく照らし、バチバチと燃える音が心地良かった。

 

 

 

 

「翁さん、一つ聞きたいことがあります。」

 

「なんでしょう?慧音さん。」

 

「私はかれこれ六年ほど、人里から離れています。もちろん人里に戻ろうとは思いません。ですが、寺子屋の子たちやこの子の父親の遺族は何を思うのか、それが知りたいのです。」

 

 

 

慧音が人里から離れて六年、里の現状は一切不明だった。

 

 

 

 

「人里のその後ですか……寺子屋の子は、心底残念がっておりました。慧音先生が結局戻ってこなかったことを、卒業式は先生と一緒が良かったと。」

 

「あの子たちは、そう思ってくれてたのですね。」

 

 

 

里人のほとんどが掌を返した、だが寺子屋の子たちは違った。最後まで自分を好きでいてくれた、それだけでも心が救われる。

 

 

 

「それと父親二人のことですが、あくまで表向きは行方不明とされています。そのため遺族は、いつか帰ってくるとずっと待っていたそうです。

 まあ、それも最近諦めたようですが。」

 

「遺族にはなんの罪もありません、私が遺族に苦しみを背負わせてしまったのでしょうか……。復讐なんかをしてしまったばかりに。」

 

「息子二人が道を踏み外したことに最後まで気付けなかったのです、苦しみはそれに対する罰でありましょう。

 あなたの復讐を責める資格のある者など、誰一人としておりませぬ。」

 

「…翁さん。」

 

 

 

 

慧音には引っ掛かるものがあった、だがそうでも思わなければ前には進めない。翁は、そう信じるしかなかった。

 

母親が罪を償うため裁かれるか、息子のために生き残るか、後者を選んで欲しかったのだ。

 

 

 

「それよりも儂にとって今憂鬱なことは、慧音殿の御身体のことです。」

 

「私の身体のことですか?」

 

「左様、二度目の出産以降少しずつ生命力が衰えております。衰弱が始まっているのです。」

 

「……そうですか、まあ無理もありません。今までの無茶のツケが廻ってきた、それでガタが来たのでしょう。」

 

「冷静で御座いますなッ…、死を恐れないのですか?死に神の迎えが近付いているのですぞ?」

 

「今まで生きていたのが不思議なぐらいです。それに半妖になったあの時から、碌な未来が待っていないことは覚悟していました。

 半妖に堕ちて、迫害され裏切られたあの時から……。」

 

 

 

 

 

何故白澤に選ばれたのか、それは今でも分からない。ただ、決して選ばれることを望んではいなかった。

 

白澤を偉大な神獣だとも思えない、呪いたくなる始末だった。

 

 

 

 

 

 

「それでも儂は、あなたにそんな人生を強いられるのは間違いだと思っとります。」

 

「そう思ってくださる仙人様に出会えただけでも……幸せですわ。翁さんには、一つ託したいことがあるのです。聞いて頂けますか?」

 

「何で御座いましょう?」

 

「私が亡くなった後、我が子を導いて欲しいのです。せめて、私のような辛い人生を歩まないように。」

 

「……約束しましょう。」

 

 

 

 

 

 

慧音はどこか、安心と寂しさが入り混じる表情をしていた。

 

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