息子が人里の暮らしを始めて数年後
息子はもう、少年から一人の青年へと成長していた。立派な里人だった。
一人の女性との付き合いを始め、結婚が決まった。翁も兄貴分も喜んでくれた。
そして今、青年は森の中を歩いていた。あの場所に向かうために……。
「着いた、この場所に。」
青年は、古小屋の前に立っていた。全ての始まりであるこの場所と決別するために、新しい道を歩み呪縛を破るために。
(この小屋はもう朽ち果てるのを待つだけだろう、それでも向き合い続ける。ここが自分の原点なのだから。)
「どうしたの、あなた?」
不意に彼女の声が聞こえた、後ろを振り向くと彼女が立っていた。
「どうしてここにッ?」
「ダーリンが森の中に入っていくから尾行してみたの、この小屋になにがあったの?」
「……強いて言うなら、ちょっとした悲劇があったかな。忘れられないことが。」
「それって……この小屋で神隠しがあったとか?」
「……。」
彼女は感性が鋭かった、生まれ付き洞察力が高く周囲を驚かせていた。
人里を震わせた神隠しの正体がこの小屋だった。
「それとは別件かな、ただ決別したいんだ。自分の忌々しい過去に。」
「色々あったのね……。」
「うん……。」
深入りさせてはいけない、自身も彼女も後戻りできなくなってしまう。
「気が済んだら帰って来てよ、結婚式も待ってるわけだし。神隠しなんて許さないからね…ダーリン。」
「もちろんさ、必ず帰るよッハニー。」
彼女と添い遂げる、それが今大切なこと。彼女は先に帰っていく。
しばらくして青年も小屋から去った。
青年と彼女の結婚式の前日
兄貴分は自宅の空き部屋を整理していた、これから始まる夫婦の生活のために。
青年よりも少し先に結婚していた。
「あいつもついに結婚かあ、感慨深いというか。まあ盛大に祝ってやるぜ。」
蕎麦屋で語っていた女性と愛し合えるかどうか、弟分が期待に応えてくれて内心嬉しかった。
「この空き部屋は、消えた兄が使ってたんだよな。今となっては物置部屋だが。」
「んッ……?」
兄貴分は、隠し戸を見つけた。そして開けてみた。
中には一本の古本が入っていた、
誰にも読まれず放置され一部が虫食いにやられていた。
「何だこの本?いなくなった兄貴の私物か?」
古本を手に取ると表紙が目に入った、薄く掠れた題名が見えた。その名は……。
「「「 慧音先生飼育日誌 」」」
「なんだッ……この本は一体ッ?」
兄貴分は訳が分からなかった、慧音は昔神隠しにあったとされる女教師。その人を飼育する記録が綴られた日誌ということになる。
「こんな本、図書室じゃ見たこと無かった。俺の兄貴が作ったのか?だが行方不明になった先生を飼育するって……
作り話だとしても悪趣味にも程があるだろッ……。」
信じられない内容だった、こんな本を広めたら里中で袋叩きになるのがオチだった。
「まあ、読んでみるか……。気は進まないが…。」
兄貴分はページを捲る。
「親がやっているのを見て赤ちゃんの作り方を知った僕たちは」
「自分たちでも作ってみたくなった」
「そこで僕たちは慧音先生に」
「僕らの子供をうんでもらおうとした」
「慧音先生との子作り1日目」
「僕たちは何度も先生に種付けした」
「それから毎日、慧音先生を犯し続けた。」
「先生のお尻の穴も犯した」
「そしてッ……。」
「おっぱい出たッ!妊娠したんだ!!」
「自分が妊娠したと知った慧音先生の顔は青ざめていた。」
「泣き出した慧音先生を横目に、僕たちはおっぱいを吸い続けた。」
「先生のおっぱいは、甘いメスの味がした。」
「子作り開始、約四か月」
「おなかが大きくなってきた。」
「僕たちは、妊娠後も先生を犯し続けた。」
「もう赤ちゃんなんてどうでもよかった。」
「ただ先生を思い切り犯したかった。」
「慧音先生の子作りを始めて約十か月」
「そろそろ産まれそうだけど…。」
「早く産まれてほしいんだけど。」
「結局 この日も産まれなかった。」
「朝来たら赤ちゃんが産まれていたけど死んでいた
先生は身動きがとれず、何も出来なかったんだろう。」
「産まれるところ見たかったぁ、次はちゃんと看ていよう。」
「先生との子作り十一か月」
「先生との子作りが続いていた、また産んで欲しいから。一時はどうなるかと
思っていたけど、無事に済んでよかった。また、先生には妊娠してもらわなきゃ。」
「先生との子作り十二か月、もう一年」
「慧音先生を監禁したあの日から、一年間の月日が流れた。まさか、ここまで長続きするするとは思わなかった。けれど、僕たちにとって最高の一年だった。」
「先生をこれからも犯していこう、先生が死ぬまでずっと。先生が死んだら次の女性を探そう僕らにふさわしい監禁して犯せる女性を。」
ここから日誌は白紙だった、以上が日誌の内容だった。
「………………………。」
あまりの衝撃に声が出なかった、日誌の下劣と愚劣極まる醜悪な内容に……。
だがそれ以上に……。
「この日誌を書いたのは、俺の兄貴なのか?信じられねえよッッ!!?こんなのッ!!?」
ページの最後に一枚の写真が挟まれていた、それを手に取った。
「これはッ……。」
写真には教室で慧音先生と二人の生徒である少年が談笑する光景が写っていた、この少年達には見覚えがあった。
「残されたアルバムで見たことがある、この二人は俺の兄貴とその友人だ。間違いない…。」
そして慧音先生は、初めて見た。その姿に心当たりがあった。
「これが慧音先生……似ている、あいつに、俺の弟分である○○にッ!!」
青がかかった白髪に白い肌、澄んだ青い瞳、顔だちも似ていた、
半妖が持つ独特な雰囲気も、血縁があるとしか思えなかった。
弟分もどこか現実離れした美貌だった、それと非常に似通っていた。
「もしかして……慧音先生はあいつの母親ッ……いやまさか、そんなはずは…納得できる訳がッ!!?」
まだ不明な部分が多すぎた、結論を出すには早すぎた。
「他に手掛かりはッ…これはッ!!?」
日誌の裏面には、あの小屋の場所へ向かう地図が記されていた。
「この地図さえあればッ!ここに向かえば何かが分かるぜッ!!」
日誌を隠し持ち、部屋を後にした。
兄貴分は地図の通りに進んでいった、里から外れ森の中へと入っていく。
「こんな森の中に小屋があるのか?誰も住まない場所に……ん?……あれはッ!!?」
地図が記す通り、森の中に小屋があった。兄貴分は急いで向かった。
「これが、例の小屋……。」
小屋はすでに壊れかけていた、屋根は崩れて無くなり壁も亀裂と穴だらけだった。もう廃墟でしかなかった。
腐食してボロボロだった扉を取り外し、小屋の中へと入る。
「……これは、まさかッ!!?」
小屋の中には、二つの白骨死体だった。風化が進み朽ち果て、土に帰ろうとしていた。だが顔面が砕かれていたのと亡くなった時期が児童の年頃だというのが分かる。他殺だということも。
「この死体はまさか……俺の兄貴とその友人なのか?この二人を殺したのは……」
二人を殺した人物、それは誰か?
「まさか…慧音先生ッ!!?」
あまりにも出来過ぎていた、だがそうとしか思えなかった。
「二人は一年間、慧音先生を騙してここに監禁して凌辱し続けた。だが、結局慧音先生に復讐されて殺された……。
その後先生は妊娠していた二人目の子を産んだ、それが俺の弟分である○○……てことなのかッ?」
確たる証拠は無かった…だがそうとしか思えなかった、慧音と○○はあまりにも似過ぎていた、○○の年齢からして産まれた時期が符合する。
他に結論がでなかった。
「だがそうだとすると、俺の兄貴は先生に殺されたってことに…。そして○○は、先生と肉体関係を結んだ兄貴の間に産まれた息子だってことにッ!!」
「その後、あいつは翁の計らいで里人になったのか?捨て子という話は表向きな訳かッ?」
「俺があいつと出会って義兄弟になったのも……出来過ぎた偶然なのかッ…?」
これが本当だとすれば、運命の悪戯としかいえなかった。
「神隠しなんてものは無かった。実態はこの小屋を舞台にした、色欲と裏切りと復讐で彩られた悲劇だったんだ。
そして○○はその悲劇の申し子って訳か……?」
「だがどうするッ?この本は最後に遺された証拠だ。俺の両親はこれで真実を知ることができる…。だが慧音の子が許せないだろう。
復讐に憑りつかれるかもしれない、○○もこの本を知れば深く傷付いてしまう……。
さらにこれが里中に広まれば大騒動は待ったなしだ、そうなれば……。」
弟分の結婚式は前日だった。
「あいつの結婚式はぶち壊しだ、彼女との仲は破局するのは確実だ。いやそれだけでは済まない、慧音の子だと判明すれば最悪抹殺される可能性だってある…慧音先生の末路を考えれば猶更だ。………どうする………どうすればッッ!?。」
だが……
「………そうだ、何言ってんだ俺は……やるべきことは決まってる。」
「この本は焼き捨てる、歴史の闇に葬る。それがあいつの幸せになるなら喜んでするぜッ」
「例え許されない罪だとしても……最後まで貫いてやるッッ!!!」
ありがとう、あの子の幸せを願ってくれて
これで私も、安心してあの世に逝けるわ
「…………ッ?」
女性の声が聞こえた、そんな気がした…。
兄貴分の手のより日誌は焼き捨てられた、
古本だった物が灰となり風の吹かれて消滅した。
永遠に葬られたのだった。
これで悲劇は本当に、終わりを告げた。
後日、青年の結婚式は開かれた。大勢に祝福された、その中に翁と兄貴分がいた。
新しい人生が始まるのだった、青年と愛しい女性にとって………。
完