「まっ 待て!行くな!!今日産まれ…ムグッ!」
「先生 そう言っていつも産まないじゃん。」
「んむっ!」
「帰らなきゃいけないし明日は産んでね。」
「また明日ね、慧音先生。」
「ん゛ーッ! ん゛んーーッ!!」
慧音は一人、監禁小屋に取り残された。彼女の心中に次第に怒りが湧いた。
(……何が帰らなきゃいけないだッ……私の子が、産まれるかもしれないのにッ!!……それを、あいつらはッ!!!)
もはや、彼女の心身は限界に達していた。臨月の身重と長きに渡る凌辱の数々によって……。
(もし、出産日が今日だとしたらッ……私にはどうすることもできないッ……。)
慧音は、我が子が孕む自分のお腹を涙ながらに見下ろす。
(せめて……明日に……明日に産まれてちょうだい……今日だけは……。)
そう願い続けた。だが……。
少年達が去り……時が過ぎ……そして、真夜中に。
慧音は、なぜか寝付けなかった、身体が妙に熱かった。
(おかしいッ……身体の調子が変だ。)
ズキッッ!!
(ッッ!?)
突然、お腹に鋭い痛みが走る。陣痛が始まった。
(い…痛いッ!?これって…まさか!?)
陣痛が治まるどころか次第に激しさを増していく。お腹の子も動きが活発になっていく。
(い…いやッ!!…こんな日にッ……よりにもよって!!)
いくら慧音がいくら願っても陣痛は止まらない。時間がたつにつれ、お腹の子も暴れ始める……。
(だ…だめッ!!……この日だけはッ…この日はッ!!)
ビシャッ!! ビチュチュッ!!
(ッッ!!?)
慧音の股間から羊水が溢れ出す、破水だった。
(これは…破水ッ?……嘘だろッ…そんなの!!?)
今日が出産日だった、そしてすでに出産間近だった。嘘だと思いたかった、夢であって欲しかった。
だがこの破水が現実だということを物語っていた、慧音は焦燥と絶望に襲われていた。
!!!ッ !!ッッ~~ッ!!ッッッ~~!!
ビクッ! ビクッ!!
慧音は悶えていた、あまりにもの苦痛に、あまりにもの生き地獄にッ。
陣痛は極限にまで達し、腹が裂けるといわんばかりの激痛に変貌していた。胎児が暴れる度、さらに響く。
だがこの原因は、慧音の体質だけではなかった。今、監禁されている小屋にもあった。
この古小屋は、隙間風が多く真冬になると室内が低温と化すのだった。分娩するには劣悪な環境だった。
身体が低温に晒され、分娩する穴が閉まる。母子ともに危険な状況に陥っていた。
ッッッ!!!!! !!!ッッ ッッッッ!!!!!!
慧音は、号泣し、悶絶し、暴れ狂い、失神しかけていた。文字通りの命懸けだった。
それでも必死に産もうとした。望まれない子でも、それでも自分にとっては愛する子だった…。
そして……。
オギャアッ!! オギャアッ!! オギャアッ!! オギャアッ!!
赤ん坊が産まれた。慧音と少年たちの初めての子が……。
(産まれたッ……私の赤ちゃんッ……やったッ。)
慧音は喜びと感動で震えていた、自分の子が誕生したことに……。
慧音は、産まれた子を抱きかかえようとする。しかしッ……。
(あ…あれ、私の手が……足が……。)
分娩の激痛で頭から吹っ飛んでいた、だが思い出した。今まで自分が手足を拘束され身動きできないことに…。
(う…動けないッ!?……私の赤ちゃんが!ッ……抱きたいのにッ!!)
いくらジタバタ抵抗しても拘束は解けない、それどころか縄で縛られた両膝が激しく痛んだ。
産み落とされ地面に転がり、へその緒で繋がれた赤ん坊も最初のうちは元気に泣いていた。しかし、ろくに母親に抱かれず授乳もされない状況が続き、次第に衰弱し始めていた。
(私の子がッ……このままじゃ……死ぬ?……そ…そんなのいやッッ!! 私が…助けなきゃ!!!)
乾燥し、肌寒い低温の環境が赤ん坊を蝕み衰弱を加速させていく。
オ…オギャァ……オギャ……オ…ギャ……。
(死んじゃうッ!!このままじゃッ!!!…誰かッ!!
誰か助けに来てぇッッ!!!)
赤ん坊の動きが弱く、鈍くなっていく。低体温症に陥っていた。もはや一刻の猶予も許されない。
ガタッ!! ガタッ!!
ギシッッ!!ギシギシッ!!ギッ!ギッ!
…ミシミシッッ!!
慧音は、出産直後の母親とは信じられないほどに、目を血走らせ暴れ狂った。
我が子を助けたい一心だった。
だが必死の抵抗も虚しく緊縛は解けなかった、両膝が縄と激しく擦れて皮膚が裂け血が流れる。
オ…オ………おッおぎゃ……。
お……ぉ……ッ……。
ぉ………っ……。
…。
赤ちゃんが泣き止んだ、僅かに動きもしなくなった、まるで石像のように固まっていた。
静寂だけが流れた。
(泣いてもいいのよ…もう一度……母さんにッ………元気な姿を見せて……。)
(お願いだからッッ!!!)
慧音の赤ん坊は、死んだ。死因は低体温症だった。
あまりにも、短すぎる命だった。
この夜、一人の女の慟哭が古小屋を震わせた、それを知るものは誰一人いない。