申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「床に丸まってふざけてんのかい、アンタは」
いや、違うんですおばちゃん。これは土下座と言って、誠意を込めた謝罪を繰り出す時に使われる最終奥義で────
「いいから立ちな」
あがぁぁぁぁぁぁぁぁ!
頭が! 頭が潰れる! ゆで卵のように潰れる! タルタルソースになっちゃうぅ!
まさかの土下座キャンセリング。
おばちゃんのたくましい腕が俺の頭を掴みよっこらせと持ち上げられる。
そうして顔が持ち上げられた先には我らが食堂のおばちゃん。
やあ3日ぶりだねおばちゃん。元気してた?
「あんまりにも元気すぎて、力があり余ってるところだよぉ!」
やめてぇ! 握力の限りを尽くして俺の頭を掴まないでぇ!
ギリギリッていってるから! そのままあの世へ逝っちゃうからぁ!
「ご主人様っ!」
おはようユーリ! ちょうどいいタイミングで目覚めたね!
頼むからこのラスボスおばちゃんを倒して俺を救出してくれない!?
「どうですかっ! やっぱり痛いの気持ちいいですよね!」
脳みそ腐っとんのかオンドレはぁ!
ご主人様が命の危機に晒されてるってのにドM同好会設立の為に部員集めしてる場合じゃないだろうが!
もうやだこの従者、なんの役にも立たない!
番犬だと思って買った犬が愛玩犬だった!
「アンタになら娘を預けてもいいって考えてたのに、とんだクソ野郎じゃないかリュート!
複数の女を抱いて、それでアンズは2番目とはどういう了見だい!?」
違うんです! これはきっと何かしらの陰謀が働いてるんです!
どこかでパンドラの箱が開いたり閉じたりしてるはずなんです!
『聖剣』とかいう奴のせいでどえらい目ならぬドエロイ目にあってるだけで、俺はこんな風にアンズを傷付けるつもりはなかったんです!
というか2番目ってなに!? 俺別に好きな女の子に優劣付けたりしてないんですけど!?
「本当かい!? 本当に優劣つけてないのかい!? 本当にアンズを愛してるんだね!?」
(つけて)ないです。
愛してるだって? もちろん愛してますとも!
こんなバカが服着て歩いてるしょうもない男に優しくしてくれて、道草食って死にかけてたところを救ってくれて、めちゃくちゃ可愛い女の子を好きにならないわけないでしょうが!
なんかゴタゴタして性欲暴走して順番がめちゃくちゃになったけど、面と向かって言えてないけど!
俺はアンズを1人の女性として愛してるんだ!
「なら良し!」
良いの!? 許されたの!?
じゃあ俺の頭を掴んでるこの手を離して! もう限界だから! 大量の輪ゴムを巻かれたスイカみたいに頭が歪んじゃってるからぁ!
「お祝いの赤飯だ。食べな!」
なんでこの母娘は俺に赤飯を食べさせようとしてくるの!?
赤飯に何が入ってるっていうんだ。
「あとこれはデザートのあずきバー」
かった!? 何これ冷たくて硬い! 歯が折れそうなほど硬い! でも美味しい!
熱い赤飯と冷たいあずきバーを同時に喰わされて、もう味覚がおかしくなりそうだよ。
「アンズを泣かせたら容赦しないからね」
ウッス。肝に銘じておきます。
「孫はラグビーができるくらい作るんだよ」
サッカーより多いんですがそれは。さすがに無茶ではなかろうか。
……嫁が3人いるならいける? それでも1人頭10人の計算なんですが。
「顔は毎日見せに来るんだよ」
いや無理だよおばちゃん。
俺、お尋ね者だもんさ。
おばちゃんがいる王都の食堂までは行けないよ。
申し訳ないけど、これが今生の別れってことになっちゃいそうだよ。
「孫ができたら、朝昼晩の3回は会いに来るんだよ」
無理だっつってんだろ。
近所に住んでてもそんなに顔合わせねえよ。どんだけ孫楽しみなんだよ。
30人だぞ? そんなん来られたら迷惑すぎて悲鳴が出るだろ。
「それは、嬉しい悲鳴ってやつだねぇ……」
………………。
おばちゃん。
「……なんだい。黙って赤飯食べてな」
おばちゃん。
「だから、黙って食べろって……」
長生きしてな。
「……アンタよりも長生きしてやるよ」
そりゃすげえや。
「アンズのこと、よろしく頼んだよ」
愛想尽かされないように、頑張ります。
「………………」
………………。
「………………」
………………あ、お花畑とじいちゃんだ。
「……そういえば、頭つかんだままだったねぇ」
---
王国騎士団の紋章が刻まれた馬車が列を作っている。
その中に乗り込んでいくのは、俺を捕らえに来たはずの騎士たち。
「……ジェームズ、なんだそれは」
「ガトーショコラです。食べますか、殿下」
それと王太子殿下・ジェームズ。
身を寄せ合ってチマチマとチョコレート菓子を食べている。
「……美味いな」
「えぇ。アンズ嬢の手作りですから」
アンズとおばちゃんが余ってた材料で作ったらしいチョコレート菓子を、騎士も含めみんな美味しそうに頬張っている。
あとジェームズ、お前が食べてるのはおばちゃんが作った方だぞ。
「こんなに甘いモノを食べているのに、どうしてこんなにしょっぱいんだ……!」
嗚咽を漏らし涙を流しながらガトーショコラを一心不乱に食べるジェームズ。
ちょっとした貞子みたいで怖い。
砂糖の代わりに塩でも入ってたのかな? 不味かったら素直に不味いって言っていいんだぞ。
その後の命の保証はしかねるけどな。
おばちゃんとレオナルド君を含め、騎士団ご一行様は王都へ帰ることになった。
てっきり俺は王国中から指名手配されてると思ってたんだけど、どうやら王太子殿下の独断で騎士団を動かしただけで、まだ俺は犯罪者ではなかったらしい。
とはいえ、これから先どうなるかは分からない。
王太子をボロボロにされた王様がブチ切れて再び追っ手を差し向けるかもしれない。
なので当初の予定通り、俺たちは南方諸国に逃れ身分を捨ててひっそりと暮らすことになった。
再び王国に戻れるかは分からない。
「リュートに見切りを付けたら帰ってきな!」
「大丈夫よ、リュートがおかしくなったら叩いて治すから」
冗談でもやめてくれよ。
アンズにいらんことを吹き込んだおばちゃんが最後に乗り込んで、馬車は王都への道を進み始めた。
「そういえばユーリ、レオに何渡してたの?」
「手作りのチョコレートです。毎年の約束でしたので」
ユーリが名残惜しそうに馬車を見送る。
レイアは励ますようにユーリの手を握っている。
アンズは元気にブンブンと腕を振るおばちゃんに負けじと手を振り返している。
俺が問題を起こしたばっかりに、みんなを家族と離れ離れにしてしまったことに今さらながら、罪悪感が湧いてくる。
これ以上みんなを悲しませないように、俺がちゃんと3人を幸せにしてやらないとな。
そう決意を胸に────
胸、に………………
あれ? よく考えたら俺、何も悪いことしてなくない?
「「「チッ!」」」
嘘じゃん、あんだけ物悲しそうな雰囲気出してたのにめっちゃ舌打ちしてくるじゃん。
というかアレだよね。そもそもアンズが『聖女』の役目を放り出して、レイアが王太子から逃げようとか言ったからこれだけの騒ぎになったんだよね?
そりゃハーレム築けて俺はウハウハだけど、王国からすれば『聖女』が逃げて割と大損害だし、レイアは俺との婚約をもう少し前面に押し出して王太子殿下の求愛を公式にお断りしてれば何とかなったよね?
あれ? じゃあ国外逃亡する羽目になったのって俺のせいじゃなくない?
むしろ俺、巻き込まれた側じゃない?
「ヤバい、リュートが正気に戻った! この勢いで責任取る方向に持っていけると思ったのに!」
「ユーリ、縄を持ってきなさい! 縛って再教育するわよ!」
「はい! 公爵夫人直伝の亀甲縛り、とくとご覧あれ!」
や、ヤメロー!?
やっぱり俺、何も悪くないじゃんか!
爵位も領地もよく分からない商人に取られて、無一文で他国に放り出されるなんてあぁんまりだぁ!?
あと捕縛するだけなら亀甲縛りにする必要ないだろ!
HA☆NA☆SE!
アフンッ♡ ちょっとどこ触ってるのよ///
やめろ、触れるな、どさくさに紛れて揉むな吸うな臭いを嗅ぐな!
もうやだ王太子殿下・ジェームズ戻ってきてー!
お願いだからコイツら引き取って! クーリングオフさせてくれ!
誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!
上司からは先輩のどこそこが悪いと愚痴られ、先輩からは上司のあれこれが嫌いだと愚痴られる。
バイトのじいちゃんたちは仕事が遅い新入りにブチ切れる。
もうホント、勘弁してほしいッス。ッスッス。
濡れ場シーン集を統合しますか?
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しない