※この作品はR-18です。

世苦亡の宿シリーズ   作:バルバルさん

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それは、初めは神社に住み着いた白蛇だった。
だが、その神社の前で繰り広げられる、様々な男女間の出来事をを見て、その蛇は思った。人間とは何かと。
それが始まり。
宿に捕らえられ、「宿の従業員の妖」としての役割を刷り込まれても。その本質までは変わらない。
そう、その白蛇は、女になりたかった……


月下の白蛇

 現在、季節は夏も終わりへと向かっている頃。むしむしと暑い都会の喧騒もこの世界には関係がない。特に、宿にある神社は静かだ。

 宿で始まった夏のお祭り。それから離れた夜の境内で一人、少しばかり清酒を嗜みながら熱い息を吐いている、白蛇が女人の姿をまとった存在が一匹。

 熱い息、といっても、彼女は発情しているわけではなく、ただ単にお酒を嗜んでいるからという意味合いが強い。

 

「月見酒、か」

 

 少し涼しくなってきたが故に、外に出て一人で月を肴に一杯やるのは嫌いではない。

 むしろこういう時間こそ自分が一番好きな時間である。お猪口に注いだ透明な液体に口をつけ、顎を持ち上げ流し込む。そのたびに熱い息を吐き出しながら、ふうっと少し、月に向かって微笑んだ

 

◆

 そのスーツ姿の男は、かつん、かつんと固い靴音を響かせながら、祭りで賑わう宿を離れ神社への道を歩く。

 祭りは嫌いではない。むしろ好きな方だ。そして、祭りの醍醐味といえば食べ歩き飲み歩き。

 だが、世苦亡の宿の祭という事で、いたる所で甘ったるい女の匂い、声などがして、少々疲れた。

 また、今日は月が綺麗なので、一人で祭りの食べ物を肴に、月を見上げながら神社でビールなど良いのではないかなと思い、適当に肴になりそうな物とよく冷えた缶ビールを買い、宿を抜けたのだ。

 天には満月があり、道を照らしてくれていて迷うことはなかった。

 少し鼻歌なんて歌いながら、宿の神社にある境内の、座れる場所がないか探す。すると、そこには先客の女性がいたようだ。

 その女性は胸元が大きく開いた浴衣を着ていて、月明かりに照らされ、その酒を飲む姿はなんとも艶めかしく、絵になっている。

 一瞬見惚れてしまうが、ハッと意識を戻して、その女性の隣、少し離れた場所に。

 

「すいません。一人酒のところお邪魔しますが、隣、よろしいでしょうか?」

 

 

◆

 今宵は満月。これ以上の酒の肴はそうそうないな。

 そんな思案をしながらもう一口。既に隣の徳利の中身は半分ほど無くなっている。

 ほんのりと朱色に染まり、酒気で熱を持ち始め始めている肌。その汗を拭うように額へと手を持っていく。

 すると、誰かがこっちへと向かってくるのに気が付く。それにつられて視線をそちらをやると、缶ビール片手に、祭りの会場で買ったと思われるつまみをもう片手に持つ、少し神経質そうな男性。

 まだ少し離れているが、隣に座ってもいいかという問いには。

 

「ああ、構わないよ。こんなにも良い月夜なんだ。静かな夜に月見酒を愉しむことに邪魔も何もないさ」

 

 隣はいくらでも開いているし、喧騒ははるかに遠い。

 自分だけ月を独り占めして愉しむのはあまりにも贅沢というものだろう。

 隣においていた徳利を逆の方向に置きなおして、相手の座るスペースを作ってやる。

 脚を組む彼女の姿は、少し妖艶な姿に見えるかもしれないが、その表情はあくまで柔らかで。

 

◆

「ああ、ありがとうございます。では遠慮なく」

 

 男は、相手の柔らかい笑みに、こちらも営業でつちかった笑みで答えつつ、了承の言葉に礼を言って。

 女性が徳利を移動させれば、その隣に座らない理由はもう無い。女性の隣にとすりと座る。

 そして天を見上げれば大きな美しい満月。隣を見れば妖艶な雰囲気と、どこか人間離れをした雰囲気を併せ持つ女性。これ以上、何を望めるだろうか。

 

「月が綺麗ですねぇ」

 

 そう呟きつつ、カシュリと缶ビールを開け、ぐいと飲む。そのひんやりとした冷たさが、夏終わりの暑さを洗ってくれるのがわかる。

 そして肴を詰めたパックを開けば、それを口に運びつつ、ビールを再び飲む。

 だが、この肴を選んだのは失敗だったかもしれない。静かなこの空間に、この肴の匂いは強すぎるかもしれない。

 

「すいません、匂い、強いですかね?」

 

 最近は匂いにまでハラスメントがあるという。一応確認しておこうと、声をかける。

 

「俺は善真っていいます。貴女は?」

 

 そのついで、名前も聞いておこうと。

 この宿で、女性の名を知るのは一つのアドバンテージだ。とはいえ、今は無粋な考えかもしれないが。

 女性の名を知りたい。というのは男性の一種の欲求で。

 

◆

 確かに少々匂いの強い肴のようだけれど、酒のお供に何かしら食べることを拒む理由もないと、そのまま何も気にしたような素振りは見せていない。

 ただ、満月を見上げながら、お猪口の中に入った清酒を舐めるように飲む。

 月が綺麗と言う、その呟きに答えるのは、逆になんだか無粋のようにも思えた。

 なので、聞こえはしたものの何も言わないことにした。

 とはいえ、匂いが強いかと問われれば。

 

「気にしなくてもいいよ、小腹が空いているなら遠慮なく食べてくれ。月じゃあ腹は膨れないしな……なんて」

 

 などと冗談めかした言葉を交しながらくいっと、その清酒を飲み干し、熱い息を吐き出す。

 そして残っている徳利の中身を、もう一度お猪口に継ぎ足した。

 名乗られれば、答えないわけにもいかないだろう。

 

「私かい? そうだな、名前を言われると名乗らないわけにはいかない。私は辰巳(たつみ)という」

 

 よろしくという意味を込め、て、猪口を軽く掲げよう。

 

◆

「辰巳さんですか。よろしくお願いいたしますね」

 

 そう女性の名前を脳にインプットする。人の名前を必死で覚えようとするのは職業病かもしれない。

 お猪口が軽く掲げられれば、それに返事をするように缶ビールの缶の端をそれにコツりと当てて。

 肴の匂いを気にしないと言ってもらったとはいえ、やはりこの場の空気を壊すと思い、それは素早く胃に収めることにした。

 そして、ビール缶を傾ける。

 本来、ビールはちみちみ飲むよりも、ぐいっと一気に飲む派なのだが、何だか、この時間を長く楽しみたいと思ったので、ややゆっくりめにビールを飲む。

 しばらく、酒を飲む静かな音だけの時間が過ぎる。

 ビールも三分の二飲んでしまったころに、ふと思った疑問を彼女にぶつけてみる。

 

「ところで、辰巳さんは、その……人間、ですか?」

 

 何とも変な質問だが。彼女から感じるのは、どこか人間とは違う妖気をまとった雰囲気。

 なんだか、宿で会う人外の存在に似た感覚を感じ、そう聞いてしまう。

 まあ、彼女が人外かどうかなど関係は無い。今は酒を同じ空間で味わうだけの関係なのだが。

 

◆

 長く愉しみたい時間だけれども、彼が少しビールを飲むペースを遅くすると、自分の飲み方を変えなくてもいいのに。と、軽く肩をすくめる。

 しかし、このような静かな夜を長く愉しみたいのはきっと自分だけではないのだろう。だから、それを言葉にすることは無い。

 自分はただ、静かに徳利を傾けるだけである。熱い息を吐き、身体にまとわりつく夏の熱気、酒気の熱を、襟元を仰いで逃がしていく。

 それはもしかしたら、辰巳にとってのささやかな、彼へのサービスなのかもしれない。

 さてもう一杯……というところで相手から飛んでくるのは、ずいぶんとストレートな質問。

 ぴたりと手が止まったが、それは一瞬だけのこと。すぐに徳利を傾け、残っている清酒を猪口へと移した。

 

「ふふ、ずいぶんとストレートな質問だな? ……君には、どっちに見える?」

 

 その縦割れの瞳は紅い光を放ち、少しだけ上目遣いに相手を見ながらあいまいな答えを返しておこう。

 

◆

 善真は、彼女の吐く息の熱や、襟元から熱気を払う仕草に、何とも言えぬ色気を感じてしまい、つい、ごくり、と酒を飲む音ではない音を喉を鳴らしてしまう。

 そんな、まるで童貞のような反応をする自分自身に内心苦笑しつていると、問われ返される質問。

 それにはふぅむと、少し考えてから赤い目を見つめ返す。

 

「そうですね……なんだか艶めかしさというか、色気が人間とはまた別の感じ……なんか、妖気をまとうような。そんな感覚がするんですよね」

 

 そう言いながら、グイッと缶の中身、三分の一残っていたビールを飲み干す。

 ことん、と缶を置けば、自分の脳に浮かんだのは。

 

「一番近いのは、蛇、かなぁ?」

 

 そして、じっと彼女の赤い瞳、どこか縦に割れているそこを見つめて。

 

「昔から、蛇って妙な色気があるなぁって思ってたんですけど、辰巳さんからは、それに似た色気を感じるきがします……なんて」

 

 何か恰好をつけているかな。なんて笑いながら。

 

「まぁ、辰巳さんが人間でも、妖怪でも重要じゃないです。月に映える辰巳さんと、酒をご一緒出来た。その幸運に比べれば」

 

 ついつい、よく回る口。普段は絶対言わないようなことまで行ってしまう。

 何か、酔ってしまったのだろうか。そう内心思いつつ。

 

◆

 寡黙そうな見た目に反してよく喋る人だ。そう思うものの、その語る内容はとても鋭い。

 見つめられる目を、瞳を閉じて、少し俯き加減になる。

 だが、口元には笑みを浮かべたまま、その言葉を聴いていた。一通りその言葉を聴けば、くすり、と笑みを浮かべた。

 やれやれ、ここまで言われてしまっては、一応だが隠していた意味もまったく無い。

 それに、色気だとかその辺を、まるで褒められているように言われてしまえば、やっぱりメスとしては悪い気分はしない。

 

「やれやれ、そこまで気づかれてしまうとはね。やっぱり私の隠し方もまだ甘いのかな。察しの通りだよ。私は蛇だ。ちょっと長い間生きて、このような姿になれるようになってしまった、ただの蛇さ」

 

 もう隠すつもりは無いし、意味も無い。ここまで気づかれてしまうと、むしろ隠していたことすら馬鹿馬鹿しくなってしまう。

 まだ少し残っている清酒をまた舐めながら月を見上げた。

 

「だが宿では秘密にしておいてくれるかな? 一応、この宿では人間の従業員として過ごしているからね。だけど、もう少し寡黙な人かと思ったらずいぶんと口が回るんだな?」

 

 少し意外だよと、口元に手を当てて笑みを浮かべる。

 

「でも、嫌いじゃないな、きみみたいな人間は」

 

◆

 寡黙な人だと思った、そう言われれば苦笑してしまう。よく、職場などでも言われる。

 この和風の宿、そこでの祭りの最中でも固いスーツ姿という趣味からして、よく寡黙な人間と思われるが、実際のところはそこまで寡黙では無い。まあ、ここまで口が回るほどにお喋り、というわけでもないのだが。

 

「あはは……今はちょっとしゃべりすぎましたね。酔ってしまってるのかなぁ」

 

 そう呟けば、天高く上る満月を見上げる。実際、ここまで自分がお喋りになるとは自分自身も思っていなかったのだ。

 

「まあ、自重した方がいいなら自重しますよ……って、え?」

 

 嫌いではない。そう言われれば、目を瞑る。つい、口端が嬉しさから、少し上がる。

 

「そう言われると、やはり嬉しいですね。もちろん、宿の人間にはいいませんよ」

 

 そんな、彼女の正体をばらすなんて、メリットの欠片もないことはしない。

 そして善真は、視線を月から隣の蛇の妖に移す。

 酔いで男の理性も緩んでいるのか、つい、彼女と「そういう事」をしたい。そう思ってしまう。

 自分もこの世苦亡の宿の利用者だ。そういう欲求は人一倍ある。

 獣の眼に一瞬なるも、すぐに目を閉じ、ふうと落ち着くよう息を吐く。

 

「辰巳さんは……いえ、何でもありません」

 

 そう言って月を再び見上げる。続けそうになった言葉は、今はとても吐けそうにない。

 ただ、彼女と共に過ごしたい。そう思ってしまい。

 

◆

 口の多さを自重したほうがいいかという言葉には。

 

「別に構わないさ。お酒も入っているし、口が滑らかになってしまうのは仕方がないことだよ」

 

 酔っているかどうかはあまり気にしない。何かしら月の魔力もあるのだろうし、自分も酒が入って少しだけ、いつもよりも口が滑らかなのは自覚している。

 脚を組みなおし、猪口に入っている最後の酒は一気にあおった。

 軽くお猪口の水気を払った後、コトンと猪口を徳利の上に載せると、陶器が軽く打ち合う音が静かな夜に響いた。

 そして、月から自分に目線を移した彼の目が、一瞬、どこか獲物を狙っているような目に見えた。

 だからこそ、彼が濁した言葉の先がどことなくわかってしまい。

 だけど、彼は何も言わなかった。彼のその先をいわなかった。その気持ちを汲んでのことなのか。

 

「ここには、私以外に誰も居ない」

 

 そんな前置きを一つして。

 

「だから、今から言うのは……独り言だけど。気持ちよくしてくれるなら、私は男に抱かれることには抵抗はない。でも、道具のように使われるのは嫌いだけど、な」

 

◆

 善真は、自分の内心を見透かしたかのような彼女の独り言に、先ほどなんとか自重した欲望が膨れ上がるのを感じた。

 あぁ、この蛇は何て良いメスなのだろうか。そう、獣のような男の本質が煽られる。

 だが、それに完全に振り回されるほど、善真は獣ではなく、あくまで今は、彼女と共に月を楽しむ、ただの人間。

 そして善真は月に目を再び移し、その満月に照らされながら、手を彼女の肩に回す。

 少し、そのままの時間ができる。

 

「すいません」

 

 その謝罪は何に対してか。

 善真の手はあくまで優しく、彼女が嫌がればすぐに開放するつもりだった。

 だが、つい力の入れ方が間違ってしまい、彼女を自分のほうに、強く抱きよせる形になる。

 彼女の体躯から感じるのは、夜の熱気、酒を帯びた女の熱。それが心地良い。

 

「……俺も独り言を言いますが、もし、この月夜に映える女性がいたら。」

 

 そこでいったん言葉を切り、そっと、その目を見つめて。

 

「その女性が苦痛に歪む姿より、心地よいと思ってくれている姿を思い出に残したい。そんな、気分です」

 

 そう言いながら、彼女の頭をなでようか。

◆

 あくまで誘ったのは自分。だから謝られる理由はどこにもない。

 だからこそ、その肩に回される腕を何の抵抗もなく受け入れ、引き寄せられればその肩に頭を置こうと。

 うっすらと微笑みを浮かべたその表情の奥で、彼の胸の高鳴りが聞こえてくるようだけど、その暑苦しい鼓動が、なぜかとても心地良いと感じてしまう。

 

「ふふっ、そうだな。私は苦痛や陵辱なんていうものよりも、心地よく抱いてほしいな?」

 

 この宿では、どんなに言いつくろってもメスは所詮、男の所有物。

 だけど、こういう静かな場所でくらい。そういう出会いを求めてしまうくらいには、見た目だけでなく、心も人間らしくいたい。

 自分はそれが気に入っているから。

 

「いいよ」

 

 だから、自分は月明かりに胸元を晒しながら、誰かをここで待っていたのかもしれない。

 

◆

「辰巳さん」

 

 そう、自分の「独り言」に答えた女性の名前を呟く。

 女性に、いいよと言わせておいて、その言葉の確認だとか、このままさよならなどできるはずもなく。

 

「辰巳さん。俺の方、向いてください」

 

 そう善真は彼女に言って、向いてくれたら、その赤い瞳を覗きこみつつ、そっと、顔を近づけて。

 チュク。そう湿った音がして、男と妖の唇が合わさる。

 最初の合わさりは触れ合うだけ。だが、その唇の蠱惑な感覚はそれだけでも善真に伝わった。

 そして再び重なる唇と唇。今度は、男の持つ蛇のような器官の舌が彼女の唇を割って入っていく。

 抵抗らしい抵抗もなく、そのまま口内に侵入した舌は、その口内を味わうように動く。

 そして、舌と舌が、蛇の交わりのように絡み合っていく。

 自分の息が限界になるまでその交わりは続き、一旦、呼吸のために離れた後は、その唇を食むようにキスしつつ。

 その手は、大きくあいた胸元に侵入していって、そっと、その浴衣の前をはだけさせていこう。

 

◆

「………ん」

 

 この男に抱かれることに、本当に抵抗などなかった。こういう優しい交わりは、本当に心地よくて、ゆったりと上り詰めていけそうな気がする。

 そっと触れられる唇は、本物の蛇の物とは違い、とても瑞々しく感じてくれたらうれしくて。

 

「ふふ、ちょっとだけ爬虫類臭いかも知れないけど……んぅ」

 

 そんな、自分の冗談めかした台詞は再び重なる唇で最後まで紡がれる事は無かった。

 抵抗らしい抵抗も見せず、彼の舌は自分の舌へと絡みついて、蛇と蛇が口の中で交じり合うかのよう。

 そっと自分も彼の背中に腕を回し、息が持つ限り、その交わりを目を細めて堪能する。

その心地よさに、思わずうっとりと目が蕩けるようだ。

 久しぶりにこんな優しくて心地いいキスをしてもらえた。それだけで、浴衣にかかるその手を拒む気が失せる。

 肌蹴られたその肌は、酒のせいかほんのりと朱色に染まり、月明かりもあってその妖艶さは普段以上であった。

 

◆

 彼女の、ほんのりと朱色を帯びた肌が月明かりに照らされて、一層妖艶に見える。

 

「辰巳さんの肌は、月明かりに映えますね」

 

 そう言いながら、その胸の丘をそっと揉むように触る。

 手先に感じるのは、女性の胸らしく自分の手指を受け入れるような、それでいて反発してくる心地よい肌触りで。

 善真は、自分の手指の動きで形が変わる、その胸を愛おしそうに眺め、キスしていた口を離し、そっと身をかがめると、その胸の頂を口の中に誘う。

 女性の胸を吸いたい。そう思うのは雄として生まれた男の本能だろうか。

 だが、痕を付けるような野暮ったいことはせずに、あくまで優しく、舌先を使ってそっと乳首を突いたり、舐めたりして、自身の男の欲求を満足させていく。

 そしてすでに、男のスーツのズボンの中では、自身の欲求の塊が痛いほどに勃起しているのがわかる。

 チャックを開ければ、ぼろん、と、その肉の杭が出てきて。

 

「辰巳さん、寝転がれますか?」

 

 彼女の体が汚れぬよう、自分のスーツを敷布団代わりにして敷いて、その上に彼女を寝かせてやって。

 

◆

「まあ、元々は白蛇だからな。肌の白さは……少し、自身があるかな?」

 

 眺められる視線すらもくすぐったい。その瞳の奥に、人間のオスとしての本能の炎の揺らめきが見える。

 きっと並の女ならば恐怖するのだろうけれども、自分が感じるのはどこか愛おしいというような感情。

 彼とは、こういう優しい交わりならば、きっと心も身体も満たされる。

 そんな予言めいた予感がしていた。揉まれるその胸は男の手によって歪むものの、その掌の暖かい感触が心地良い。

 だんだん酒を呑んでいたときと同じ、熱い息が漏れ出していく。

 そこに落とされるキス。少し肌寒くなってきた外の空気に晒される素肌に、そのキスはあまりにも優しく。それが、どこか嬉しかった。

 

「優しいんだな。だけど……いや、なんでもない」

 

 野暮すぎる、なんて笑って。

 すると、彼が下ろしたチャックの先。その男根が大きくそそり立っている。

 その物に手を這わせる。裏筋を指の先でなぞり上げながら。だが、まだ足を閉じたまま、彼のスーツの上に横たわった。

 

「……これでいいのかな?」

 

◆

 善真は、自分のスーツの上に寝転んだ彼女の足をそっと持つ。

 

「さ、足を開いて……俺に、貴女をもっとよく見せて?」

 

 その閉じた足を優しく広げる。その行為に力など必要なく。

 

「ここが、貴女の一番大切な場所……」

 

 そう言いながら、すでに蕩けているであろうその秘所を眺める。

 そして、ツーっとその割れ目を指でなでて、濡れ具合を確かめる。

 だが、ただ指先で触れるだけでは我慢がならない。

 その細い足と足の付け根にある大切な場所に、善真の顔が迫る。

 そして、男の舌という名の蛇が伸びて、そこを舐める。ちゅぷ、ジュウと善真は舌をくねらせ、陰核を探り当てるように舌先で突っついたりして。

 その膣口を見付ければ、その内部に舌を侵入させ、疑似ペニスのように抜き差しするかのように動かす。

 そして、十分にそこも濡れ、男の欲求も少し満足したところで。

 

「辰巳さん……これ、舐められますか?」

 

◆

 寝転びながらも、まるで、恥らうかのように胸元を隠しているのは誘っているのか、それとも彼をさらに燃え上がらせようとしているためなのか。

 広げられていく足には何の抵抗の力も無く、たやすく開いていくだろう。

 M字に開脚されたその足の中心に陰毛は少なく、使われた形跡はあるものの、艶やかな色合いに閉じた入り口。

 触れられたその場所は汁気を孕み、入り口をなぞられるだけで指を受け入れようと吸い付いた。

 

「ああ、大事な場所だから丁寧に扱って…んっ、んぅっ……。くっ、あっ……」

 

 彼も、やはり宿の利用客。慣れていると感じるその舌業に思わず喘ぎ声が溢れてしまう。

 淫核を舌先で突かれれば勝手に腰が跳ねてしまい、舌先が中へと侵入すれば、それを締め付けてしまってまたピクリと腰が跳ねる。

 だんだんと、息が荒くなり口元を手で押さえて耐えるものの、だんだんとその声は切なく、艶やかさを孕んでいく。

 その肩を上下させながら、潤んだ瞳の先に突きつけられるのは、彼のオスの象徴。

 うっとりと、蕩けてしまったその表情で眺めながらまずは舌先で、擽るように亀頭をなぞる事で、返答とした。

 舌を回し、亀頭に唾液を塗しながら首を持ち上げ、まずはその部分まで口の中へと咥え、舌を絡めながら前後に扱きあげる。

 

◆

「……ん、くぅ……っ」

 

 善真は、肉槍の先に感じる、彼女の蛇のような……いや、実際に彼女は蛇なのだから、蛇そのものの舌使と言った方がいいか。それに、思わず唸ってしまう。

 

「辰巳さん……気持ち良いですよ」

 

 そう笑みを浮かべ、ソレを咥える彼女の頭を撫でてやり、しばらくその舌使いを楽しんでいれば。射精欲はすぐに昂っていって。

 

「……ん、っく!」

 

 そして、彼女の口内で男の欲望が爆ぜて。

 善真は少し息を乱しつつ、口内からペニスを引き抜く。だが、口内射精だけでは、自分のオスとしての欲求は収まらない。

 いや、むしろ。彼女の仕草や、先ほどの射精でより一層昂り、その肉の槍はさらに硬くなる。

そして立つ位置を変えて、彼女の膣口に、自身のペニスをあてがう。

 

「さあ、行きますよ?」

 

 そう耳元で囁き、自身の肉槍が、彼女の膣壁に包まれていくのを感じる。

 そして月下で始まる、人と蛇の交わり。

 善真はできるだけ理性を持って、優しく腰を動かす。まるで、軟い物を扱うかのように。

 

「……ん……っふ……っ。辰巳さん…すいません」

 

 だが、善真の中にも、理性で抑えられないほどの強い欲求はある。

 だんだんと、挿入の力と、響く水音は大きくなっていく。

 

「っく、っは……っ! 膣内で、子宮で俺の精を、受け取れ……っ!」

 

そ して、男の欲望は彼女の最奥で果てて、大量の白濁が、膣内と子宮に送られていくであろう。

 

◆

 彼の気持ちいいというその台詞には、その潤んだ瞳を上目に向けて、細める事で答える。

 まるでそれは、嬉しい。とでも言っているかのような素振りで。

 その細い舌がペニスに巻きつき、だんだんと雁首をくわえ込み、裏筋まで飲み込むとしっかりと根元まで口内へと納める。舌を絡め、少しだけ吸い上げながら顔を前後に動かし、相手の射精を促していく。ぎゅっと強く吸い上げて、舌先を亀口に押し当てた瞬間。

 

「っ!」

 

 口の中で、熱い物が一気に爆ぜた。

 喉奥までくわえ込んでいたそれから吐き出される白濁を、こくん、こくんと喉を鳴らしながら飲み込んでいく。

 その尿道に残っていたその残りすらもしっかりと、口の中へと吸って。

 

「んっ……ふふっ。こんなに出したのに、ずいぶんと元気が有り余っているんだな?……ああ、いいとも。私を……満足させてくれ……んぅぅっ……くあっ……!」

 

 ただ挿入されただけだというのに、この心地よさはなんなのだろうか。

 そっと、彼の背中に腕を回しその身体を受け止めると、軟い物を扱うような優しさの動きに、ゆっくりと高ぶられていく。

 一突きされるたびに喘ぎ声が漏れ、とろとろと連結部分から愛液があふれ出ていく。

 

「……えっ……うぅっ……! あっ、うあっ、あん、ひあっ!」

 

 だが、段々と力強くなっていくその突きに、喘ぎ声もまた比例して大きくなっていく。子宮にまで届きそうなほどに、深くを抉られると、自分は大きく喘ぐしかできなくてなって。

 

「ま、待って……! は、はげしっ……! おく、おくまで、届いて……ひあああっ!?」

 

 その果ての絶頂は、中で爆ぜる熱に浮かされるようなものだった。

 どこか、心地よさすらも感じてしまうその絶頂は、いつもよりも堪能できて。

 その交わりが、どれだけいいものだったかを物語っているかのように、四肢を力なく横たえさせる。

 

◆

 どこか青白さを持った輝く月下、遠くでは、宿で祭りの終りに行われる花火やその見物客の声がする。

 だが、男にとって今の時間最も大事なのは、この目の前の妖。  

 

「辰巳さん、大丈夫ですか?」

 

 彼女の頭をなでつつ、肉槍を膣から引き抜く。膣内から、精液と愛液のカクテルがトロリと流れる。

 

「辰巳さんの中、とってもよかったですよ……あ、そうだ」

 

 そして善真は思い出したかのように、スーツのポケットから錠剤を取り出す。

 

「蛇と人間、しかも妖だから妊娠はしないだろうけど……念のために、ね」

 

 そして月を見上げ、はふぅ、と息を吐き。

 

「……あぁ、月が綺麗だなぁ。だけど、それに照らされる巳澤さんも、とっても綺麗ですよ」

 

 そう言って、男は巳澤の隣に座り続ける。この後、行為を再開したか、それともこのまま月が沈むまで二人で月の輝きを見上げていたかは……彼らを見おろす、月明かりだけが知っているはず。

 

◆

「はぁ……はぁ……」

 

 久しぶりだ、こんなに心地のいい交わりは。どこまでも優しかったくせに、最後のスパートだけはまるで獣のようだった。

 だけど、最初の優しさがあったからこそなのだろうか。そこまでの恐怖も感じなくて、むしろ心地よさだけが残る、そんな交尾であったのは間違いないだろう。

 

「……ふふ、大丈夫だ。だけど…本当に、心も満たされてしまったよ。きみは、お上手なんだな」

 

 差し出される避妊薬は、首を振って拒んだ。そんなことをしなくても妊娠するような身体ではないし、何より……いや、語るのも野暮か。

 

「ふふ、孕ませたくないなら、最初にそれを含ませておくべきじゃなかったかな?」

 

 などと、少し意地悪っぽい笑みを浮かべる。

 満月の夜に、まだその裸体を晒しながら。衣服を戻さず……その先は月夜しか知らぬこと。

 だけど、この一回だけでも自分はとても。

 

「……ああ、満たされた……」

 

 

 

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