ネージュの口から信じられない言葉が飛び出した事であなたは混乱の極致に陥っていた。いつだ? 一体いつから彼女は気づいていたんだ?
「どうして……という顔をしていますわね。いいわ、説明してあげます」
ゆっくりとあなたから離れたネージュは、一拍置いて静かに語り始めた。
「最初に違和感を感じたのは、覇龍の塔を出る直前の事でした。あの時、シンディ様の元に参じた私を見たあなたはまるで初対面の人物を見る様な目をしていましたもの。今までなら無遠慮に眺めてた私の胸やお尻もチラチラと見るだけに抑えていましたし」
「表情も険の取れたもので、いつも不機嫌な表情しか見せていなかった人とは別人の様でしたわ」
なんと、怪しまれていたのは最初からだったようだ。そしてしっかりチラ見していたことがバレていた。
「次に、マーカス号内部での事ですわ。あの時、あなたは私を守るために力を解放したとおっしゃいましたが、
「その後のキュオンさんへの対応もそう。あなたは事情を聞こうと彼女を起こしましたが、あの人ならば気絶した彼女を犯した後、催眠で情報をしゃべらせるくらいいくらでもやりますもの」
「けれど、あなたはそうしなかった。それどころか、あのヘイムレンとかいう男の術で動けなくなった私と彼女を守ってくれた。あの時、キュオンさんは驚いていましたが、誰よりも衝撃を受けていたのは私だったのよ」
あなたはゲーム開始時からのロッド・ロールしか知らない。加えてあまりにも下衆すぎる彼の記憶を共有したくないのでチートを使って封印したので、開始前の彼がどのような事をしてきたのかもわからない。
戦いは他人任せとだけは知っていたが、まさか戦っただけでそこまで驚かれていたとは思ってもいなかった。
「それからマーカス・タウンね。覚えているかしら? キュオンさんと一緒にスイーツのお店に行こうとする私を笑顔で送り出してくれましたわね。しかも、スイーツ代まで出してくれて」
それはよく覚えている。なんかやけにカッツェに気に入られたのも覚えている。
「……あの人は、自分の許可が無い限り、奴隷である私が傍を離れる事を絶対に許さなかったわ。それも、覇龍の塔の周辺を探索させたり、自分の面倒な事を私にやらせたりする時だけ。断じて私の自由行動を許すような人ではありませんでした」
「そしてあの日の夜、奴隷ではなくお嫁さんが欲しい。私をお嫁さんにしたいとおっしゃったあなたに、数えきれないほどの愛の言葉を捧げてくださったあなたに……私は確信しました。ああ、この人は私の知るロッド・ロールではないと」
「隠していた力を披露すると同時に本当の自分も見せるようになったのでは? ひょっとしてこちらが素のあの人なのでは? とも一瞬思いましたが……最早別人レベルでしたもの」
「でも、キュオンさんを初め、それから出会う人達にもあなたはロッド・ロールと名乗り続けた。だから、理由はわからないけれど、あの人を演じているのだとわかったの。……最も、女好きなのはあの人と同じみたいですけど」
神夜と乙音の事を言っているのだろう。彼女にそんなつもりはないだろうが、何故か責められている様な気分になったあなたは冷汗をかいた。
「だから、私はあなたという人の事を知りたくなった。今日のデートはその絶好の機会だと思いましたわ。そしてわかったのは……あなたが私の事を本当に大切に思ってくれていて、私が精一杯楽しめるよう心を砕いてくださっていた事ですわ」
無言のあなたに、ネージュは最後に一つ教えておくことがあると言う。
「気づいていたかしら? 今日一日、私はずっと「ロッド」ではなく「あなた」と呼び続けていました。……あの人はね、人前では必ず私に名前で呼ばせていましたのよ。用心深いあの人は、万が一にでも他人に私達の関係が知られるのを恐れていた。もし、あなたがあの人だったなら、最初にあなた呼びした時点で激怒していたでしょう」
確かに言われてみればそうだった。けれどあなたは、デートなのでテンションがあがっててっきり妻から夫への呼び方としての「あなた」だと勝手に思い込んでいた。それが実際は、自分とロッドの違いを明らかにするためのものだったとは……。
最早言い逃れは出来ない。ここに来て正体バレしてきたという事は内心かなり怒っているのだろう。当然である。彼女からすれば、改心したと思っていた人間が得体の知れない存在になっていたのだから。
あなたはネージュの視線を真正面から受け止める。その瞳には怒りや恐れといった負の感情は感じ取れなかったが、それは自分の希望的観測がそう見せているだけなのだろうとあなたは自嘲した。
「え……!?」
深々と頭を下げるあなたにネージュはひどく驚いた様子の声をあげた。けれど、それを無視するようにあなたは口を開く。
―――今まで騙していて本当に申し訳ない。もしネージュが望むなら自分は消えて本物のロッド・ロールを呼び戻す事も出来る。
これは嘘ではない。チート能力を使えば不可能ではないのだ。けれど同時に、それはあなたという存在を消す事にもなる。それでも、あなたはそれを口にした。それが誠意だと思ったからだ。
「……一つ聞かせてちょうだい。あの夜、私の事を愛しているおっしゃったあなたの気持ち……あれも嘘だったのかしら?」
それだけは絶対に違うとあなたは声を張り上げた。自分はネージュ・ハウゼンが大好きだと。キミがお嫁さんになると言ってくれた事が本当に嬉しかったんだと。
そのまま、しばらく互いに無言の時間が続いた。
「……顔を上げてくださいな」
覚悟を決め、あなたは頭を上げた。彼女が何を望もうと、それを叶えて見せると決意をしながら。
けれど、そんなあなたを待ち受けていたのは、罵倒の言葉でも、フェイス・レイヤーの一撃でもなく……ネージュからの口づけだった。
「……これが私の答えですわ」
茫然とするあなたにネージュは柔らかな笑みと共にそう告げた。しかし、予想外のキスに未だ復帰出来ていないあなたは固まったままだ。
「も、もう。せっかく勇気を出して私も気持ちを伝えたのにどうして固まったままですの!」
……はっ! っとあなたは正気に戻った。え、今のキスが気持ちってどういう事?
「……あなた、ド鈍ちんさんですのね。私はあなたをお慕いしていると申しておりますの。ロッドでも他の誰でもない、「あなた」をです」
あなたは信じられなかった。許してくれるのか。ネージュを騙していた自分を。キミからロッドを奪った自分を。
「許すも何も。私はあなたを怒っても恨んでもいませんわ。……あの人の事もそうです。私は、あの人の奴隷である事に幸せを感じていた。あの人の為なら何でもしてあげたいって思っていました。……だけど、あなたに優しくしてもらって、愛してもらってわかったの。私は幸せだと自分に思い込ませていたのだと。そうしないと……きっと心が壊れていたはずだから」
ここに来てあなたはネージュの本心を知った。ゲーム内の彼女はロッドの奴隷として嬉々として従っていた。それは時に犯罪行為にすら手を染めさせていた。
けれど、それはロッドに滅茶苦茶にされてしまった自分の心を守るための選択だったのだ。抵抗するのではなく、投げ出す事で心の崩壊を防ぐために。
ゲームでは決して知りえない。こうして本当に触れ合う事で初めて語られた彼女の思いだった。
「私に優しくしてくださったのも、守ると言ってくださったのもあなた。そして今日デートしたのも、素敵な髪飾りをプレゼントしてくださったのもあなた。今も何発もうちあがっている美しい花々を見せてくださったのもあなた。何より……私を愛していると言ってくださったのはあなた。……ねえ、ここまでされて、好きにならない理由なんてあるわけないでしょう?」
胸の前で両手を組み、潤んだ瞳であなたを見上げるネージュ。その美しい輝きはあなたの目を惹きつけて離さなかった。
「むしろ、私の方こそあなたに相応しいのかしら……。あの人に散々弄ばれて汚れた私な……んっ!」
それ以上は言わせてなるものかと、あなたは先ほどのお返しとばかりにネージュの唇を奪った。SEXの時に交わす時のような激しいものではなく、ただ相手への愛を伝えるための甘く優しいキスを。
「……ふふ、ちょっと強引な所もありますわよねあなた。でも、そんな所も素敵ですわよ」
はにかみながらネージュは再びあなたの胸の中に飛び込んだ。
「ねえ、あなたはこれからもロッドとして生きるおつもりなの?」
そのつもりだと答えるあなたにネージュは一つお願いを聞いて欲しいと言う。
「わかりました。なら、私はこれからもあなたをロッドと呼びます。……だけど、もしあなたが教えてもいいと思ってくださるのなら……私に、あなたの本当のお名前を教えて欲しいのですわ。ロッドの中に、確かに「あなた」が存在している証明として」
あなたからすれば別に本名を名乗らない事に特に理由も何もないので、それくらいならお安い御用だとネージュの耳元に口を近づける。
―――その瞬間、ひときわ大きな花火が夜空に輝いた。周囲の音をかき消してしまう程の轟音と共に眩い光があなた達を照らす。
それでも、ネージュは確かにあなたの本当の名前を聞きとげた。そして、心の中に確かに刻み込んだ。
これがギャルゲーや感動系のエロゲーなら一枚絵が入りそうな場面だが、それを指摘するのは野暮だろう。
花火は今のが最後だったようだ。あなた達の周囲を再び夜闇が覆う。それでも、あなたとネージュは抱き合ったままその場を動こうとしなかった。
そんな二人を、今度は月の明かりが優しく照らし続けるのだった。
さて、これで第一章とでもいうべき部分が終了しました。これまで読んでくださった皆様、まことにありがとうございました。
せっかくなので、ここで裏話を語らせてください。そもそも、この小説を始めたのは、たまたま立ち寄った中古ゲームショップでムゲフロを見かけたからです。私は当時の発売日に購入しましたから実に一三年ぶりの再会でした(なお、年数を数えた結果時の流れに無事絶望)。
そして、何故か異常にネージュのキャラデザに興奮してしまいました。当時ですらここまで夢中になってはいなかった気がします。こうして小説を書かせてしまう程ですから本当に自分でも驚いています。
さらに、ネージュとイチャコラする作品が無かったので、自分で書こうと決めたのですが、今までのものとは違う感じで書いてみようと思い、その結果R-18作品になりました。
けど、私の悪い癖というか、ストーリーは適当(なんならスキップする)にして女性キャラとエロい事するだけの小説にしようと思っていたのに、こういう時だけ何故か設定やらなんやらがどんどん降りて来て結局こんな感じになってしまいました。
こんな作品ですが、これからものんびり続けていきますので、たまには思い出して読み返したりして頂けると、嬉しかったりします。感想なんかも送っていただいたら飛び上がりますし、高評価なんていただけたら絶頂します。
リクエストというか、こんなシチュとかどう? なんてのがありましたら活動報告へお願いいたします。参考にさせていただきます。
では、改めてありがとうございました。