今夜も彼氏を鳴かせたい!~そして俺は彼女に抱かれる~ 作:桃ノ木ネネコ
しばらくして、無事に研修を終えたすみれは、本格的に働きだしていた。
「はい、オムライス2つ上がりました!
こちらがケチャップになりますので、ご自由にどうぞ」
すみれはテキパキと注文をこなしていく。
「は~い。オーダー入りま~す。
ミックスサンド3、ナポリタン1、コーヒー4、
それとケーキセットでチーズスフレ1お願いします」
「わかりました!」
「はい、チキンソテー1あがりです」
「は~い。じゃ、私が持っていきますね」
「あ、じゃあ、僕が持って行くよ」
「いいの?じゃ、よろしくね。圭太君」
圭太は料理を運びに行く。
オープンしたばかりの店は、かなりの賑わいを見せていた。
「それにしても圭太君、このバイト叔父さんたちよく許してくれたね。」
「・・・親たちは僕が皿洗いや清掃してると思ってるよ」
まさか自分の息子が女装して働いてるとは思っていないようだ。
「すみれ姉さんの方は?」
「私はちゃんと言ったよ。短期だしそこまで言われなかったよ」
「ああ、そういうことか」
「うん。でも、圭太君の方は大丈夫だった?
さすがに学校には許可貰ってるんだよね」
「まぁね、うちの学校はそんなにバイト関連に厳しくないし。」
二人は休憩中にそんな雑談をする。
店は19世紀をモチーフにしているというだけあって、
メイド喫茶にしてはなかなか渋い雰囲気となっている。
飾ってあるものも、年代を感じさせるものばかりだ。
ただ店の数か所にメイド服を着たドールが飾ってあるのがそれっぽいが。
「・・・店のメイド服をデザインした人の趣味なんだって」
「そうなの?可愛いね」
「・・・ドルフィーってやつらしいよ」
顔立ちなどが本格的なビスクドールと比べると
やや日本人好みになっている。
「圭太君詳しいわね」
「・・・これ僕の先輩がデザインしたやつだからね」
「え?そうなの?・・・そっか。
圭太君の先輩はなんかすごい人が多いね。」
「うん、まぁね」
ちょっと圭太は照れ臭そうにした。
***
そんなこんなで忙しい日々が続く中、
すみれたちもようやく仕事に慣れてきた。
(短期だからあと2週間で終わっちゃうのが
ちょっともったいないかな・・・)
「あ、あの・・・」「はい、なんでしょうかお客様」
「えっと、その、あ、握手してください!」
「はい、かしこまりました」
すみれは微笑んで応じる。
「ありがとうございます!!」
客は大喜びで帰っていった。
すみれと圭太は「双子のようにそっくりなメイド」として、
店ではちょっとした人気を得ていた。
「すみれちゃん、今日も可愛いね。お持ち帰りしたいよ」
「ふふ、うちはそういうのやってませんから~」
変なお客をあしらうのもすっかり上手くなっていた。
「き・・・君が圭太君・・・男の子って・・・本当」「え・・・僕はその」
ある休日、いつものように接客する圭太の手を握る人間がいた。
しかも圭太を男子だと知っているようだ。
ちなみに店側では圭太の性別は明かしていない。
困っている圭太の様子を見て、すみれが席に近づく。
「お客様、当店ではそういったサービスは・・・って君は!?」
その人物は根岸樹だった・・・「ネギちゃん、何してるの?」
声を掛けられて、根岸は圭太から手を放す。「ご、ごめんなさい、つい」
根岸は真っ赤になって謝る。「大丈夫ですよ、気にしないでください」
圭太は笑顔を返す。
「お、男の子が女装して働いてるメイド喫茶があるって聞いて・・・
ボク、居ても立ってもいられなくなって・・・」
「え?そんなこと誰に聞いて・・・」とすみれが聞き返すと、
同じテーブルについている人物が声をかけた。
「よう、ちゃんと働いてるか?」
ユキヤだった。
「な・・・なんであんたここに来てるのよ!」
「客に対して随分な言い回しだなおい」ユキヤが少々呆れ気味に返す。
「す、すいません・・・ボクがどうしても来たいって言ったんです!
それで・・・つ、連れてきてもらったんです」
根岸がすみれたちに平謝りする。
「・・・そういうわけだ。あと、飲食店勤務の先輩として、
お前らの働きぶりを見に来たってのもあるけど。」
ユキヤはニヤニヤとした顔で答える。
「そっかー、ネギちゃんはあたしたちに会いに来てくれたんだね。
なんか嬉しいかも♪」
すみれが根岸に話しかけると、「は、はい!」
と根岸は顔を赤くしながら返事をする。
「・・・で、あんたはネギちゃんをダシについてきたってことね?
圭太君の事をネギちゃんに話したのもあんたでしょ?」
「さあ、どうだったかな~」ユキヤはうそぶく。
「まあいいわ。ところで、注文は何にするの? メニュー表はそこにあるわ」
すみれが指差すとユキヤがメニューをパラパラとめくった後、
「じゃ、俺はコーヒーフロートで」と言った。
「・・・あ、あとこのオムライスに何か描いてくれるってものやってよ」
「かしこまりました。ご主人様☆」
すみれが笑顔で言うと、ユキヤは「おう」と言って少し照れたように返した。
「・・・あんた今結構恥ずかしかったでしょ」
「んなことねえし。別にメイド喫茶なんて珍しくもないし」
「・・・いいの姉さん?あれ姉さんが一番苦手な奴じゃん・・・」
注文を受けた後、圭太が声をかける。圭太はすみれの絵心のなさを知っていた。
なのでもっぱら圭太が入れ替わってやっている作業だった。
「大丈夫!私だって進歩してるのよ。最近はちょっと上手になったのよ」
(と言うか絶対分かってて頼んでるクチよ・・・)
しばらくしてすみれはテーブルにオムライスを運ぶと、
不慣れな手つきでケチャップを手に取り
「・・・何を描きましょうか?」ちょっと緊張気味に声をかける
「んーじゃ、何か動物でも。」ユキヤがそっけなく注文する。
「なんでも・・・いいんですね?」すみれが念を押す。「ああ」
「じゃあ・・・」すみれはオムライスに文字を書いていった。
『鵺』
「・・・いかがでしょうか?」「・・・・・」絶句してるユキヤに対し、
「すごい!『鵺』って文字がちゃんとつぶれずに読めますよ!」と
根岸が横で謎の感動をしていた。
「いやそういう問題じゃないだろ!?」
「えっと、ダメですか・・・?」
「動物・・・というか妖怪だけど、まあいいんじゃないのかな。うん」
「ありがとうございます」
「お前さぁ・・・」
「では失礼しますね」そう言ってすみれは下がって行った。
それを見送るとユキヤはスプーンでオムライスを救い口へ運ぶ。
「・・・不味くはないけど、さぁ」
***
それからしばらくして、梅千代店長がユキヤに声をかける。
「あなたが白石さんの彼氏さん?」
この場に不似合いな和服美人の登場にユキヤはちょっと戸惑った。
「はい。茶木です」
「私はメイド喫茶のオーナーをしております。梅千代と申します」
「オーナー自らご挨拶とは恐縮ですね」
「いえいえ。白石さんの彼氏さんなら、
ぜひ参加してほしいイベントがありましてね。」
「イベント?なんでしょうか」
「お店の女の子たちとゲームをしてもらいたいんです。
勝ったら好きなメニューが無料になりますわよ。」
「なるほど。それで俺は何をすればよろしいので?」
「簡単なことですよ。今からここに来る子たちの名前を当ててください」
梅千代は笑顔を絶やさずに言う。
「名前を当てる?それだけですか?そんなの簡単じゃありませんか」
「ふふっ。どうでしょうね。それとも自信がないのかしら」
「ふん。余裕でしょこんなの」ユキヤは鼻を鳴らして答えた。
「あら、それは頼もしいわねぇ。じゃあいらっしゃい二人とも」
そこにやってきたのは、すみれと圭太だった。
ただ、二人ともメイクも髪型もお互いにがっちり寄せて、
見分けがつかない状態だった。
「これは・・・尊くて死ねる奴・・・」
横の根岸が相変わらず謎の感動をしていた。
「当店の名物イベント、『どっちがどっち』ですわ。」
「えっと・・本当にどっちがどっちかわからないんだけど」
「だからゲームなんですよ」梅千代は笑って言う。
「うーん。これは難しいかも。というより無理だろこれ」
ユキヤは笑いながら言った。
(まずいな・・・これ当てても外しても、
あとでなんか言われるパターンのやつだぞ・・・)
「ちなみに話しかけるのも、体などに触るのも反則としますからね。」
「・・・・・」ユキヤはしばし考える。
そして口を開いた「独り言を言っていいですか?」
「え?ええ、もちろん」
許可を得たユキヤは一人で淡々と話しだす。
「あれは・・・ある暑い日の夜でした・・・
その時俺、彼女と二人で歩いてたんです。
そしたら彼女が立ち寄りたい場所があるって言うんです。
どこかと聞いて俺は驚きました。なぜならそこは・・・」
ここまでユキヤが言いかけたところで、
彼に向かってすさまじい蹴りが飛んできた。
「おわっ!!」ユキヤはすんでのところで身を交わす。
「あんた!何話そうとしてるのよ!」
蹴りの主はすみれであった・・・
「す、すいません・・・今、どっちがどっちだか言っていいですか?」
ちょっとのけぞった姿勢でユキヤは梅千代に話しかける。
「あ・・・・!」
ユキヤの言葉を聞いた瞬間すみれは凍りついた。
「あぁ~そういう事だったのねぇ」
梅千代はため息をつく。
こうしてユキヤは無料券をゲットした。
「反則ギリギリだけど、仕方ないわねぇ」
「ありがとうございます」
「普段バカのくせにこんな時だけ変に頭回るんだから・・・」
すみれは悔しそうにしている。
「・・・大学の共有フォルダに間違えたふりして
あいつの恥ずかしい画像でも流出してやろうかしら」
「姉さん・・・それはあまりに可哀想だからやめてさしあげて。
・・・てかそれやったらユキヤさん確実に死ぬから」
流石に圭太が止めに入った。
***
「浅葱さんはこう言う店来ないのかな?」
「あの女はドデカメニューがないと気が済まないですから、
こう言ったかわいらしいお店には用がないはずです。」
ユキヤたちが、そんな雑談をしてると、圭太が紅茶を持ってきた。
「お茶のおかわりお持ちしました」
「お、サンキュ。しかしホントにお前はすみれに似てるな・・・」
「・・・やっぱり見ただけで分かるんじゃないですか・・・」
圭太が半ばあきれ顔で言った。
「当たり前だろ。どんだけあいつと付き合ってると思ってるんだ」
「ならさっきも普通に答えればよかったのに・・・」
「あれは普通に答えてたらどっちにしろあとから何か言われてたよ。」
「まぁ確かにそうかもしれませんが・・・」
「そういやさっきからすみれの姿が見えないけどどうした?」
聞かれた圭太はちょっと真面目な表情になる。
「店長から説教喰らってますよ・・・
いくら相手の発言に問題あったとはいえ、
客に蹴りをくらわせようとしたわけですから。」
「・・・俺だってあそこで本気の蹴りが来るとは思ってなかったわ。」
ユキヤとしてはせいぜいポカポカ殴られるぐらいのものを想定していた。
「・・・ユキヤさんがあんな発言しなければ、
姉さんは説教されずに済んだんです!」
「そうですね、ボクとしてもあれはいい趣味ではないと思いました。」
根岸まで圭太に同調してしまう。「あ、ずるいぞお前!」
と思わず言ってしまうユキヤだった。
(つーか俺が蹴られる必要は全く無かったと思うんだけど!)
そんな事を思うユキヤだったが、
それを口にするとまた圭太達に怒られそうなので黙っていた。
「せっかく旅行の費用を稼ごうって頑張ってたのに・・・」
「うぐ・・・」
圭太に言われて良心が少し痛む。
「確かに白石さん、茶木さんのためなら
一生懸命になるところありますしね。」
「ぐっ!」
根岸まで追い打ちをかけてくる。
「しかも今回の旅行、言い出しっぺはユキヤさんなのに・・・」
圭太はジト目でユキヤを見つめる。
「お前ら・・・本当に今日が初対面なんだよね?」
そう聞きたくなるほど妙に連捷が取れてる二人。
「まぁでも実際、今回はユキヤさんが余計なことを言ったせいですからね?」
「そうですよ、さすがに今回は茶木さんの方が悪いと思います。」
二人に責められてユキヤは言葉を失う。
「・・・・」
「僕が言うのもなんですけど、あとで謝った方がいいですよ」
「・・・ですね。」
ユキヤが珍しく反省した様子だったので、
二人はそれ以上ユキヤを追及しなかった。
「・・・おぅ」
ユキヤは二人に返事をした。
「じゃあ、そろそろ帰りますかね。圭太さん、色々楽しかったです。」
「はい、僕も楽しかったです。」いつの間にか二人は仲良くなっていた。
「はい。では失礼します。」
根岸はぺこりと頭を下げてから去って行った。
「じゃあ、俺も帰るかな。」
ユキヤも立ち上がり伸びをする。
「姉さんには会っていかないの?」
「うーん。今はちょっとやめておくわ。まぁ謝りはするけど」
「そうですか。まだ2週間ほど僕たち居ますから
その間また来てくださいね。」
「おう!今度はもう少し大人しくしておくぜ。」
ユキヤは少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。
「えぇお願いしますよ。」
圭太は苦笑いしながら答えた。
その日、すみれが家に帰ると夕飯の用意と
お詫びの手紙が置かれていたという。