ーーー征服歴1500年11月 王都カルネアス ミスト侯爵家別邸ーーー
決闘の後、疲れ切って立てなくなったエリカを抱きかかえたアレクは、ミスト侯爵の用意した馬車で彼女が王都に所有している別邸へと運ばれた。
これはパーティーが行われているバランタイン家や、手の者が帝国の密偵に殺され厳戒態勢に入ったリガール家の屋敷よりも、監視の目が緩いと言う判断と、単純にミランダ・ミスト侯爵が可愛がっているエリカの見初めた男をひと目見てみたいという我儘が複合した結果だった。
「ふぅん、思った以上に精悍ないい男ねぇ」
「ミ、ミランダおば様!?」
「あらあらぁ泥だらけよエリカ? お姫様抱っこされるのはいいけど、ずっとそんな格好じゃだめよぉ?」
「あ、あうあぅあ」
エリカはアレクにお姫様抱っこされたまま馬車から降りたところを補足され、赤面してまともな言葉も発せないままメイド達に浴室へと連行された。
「貴方もボロボロねぇ。今医者は貴方の
「ご配慮痛み入ります、ミスト侯爵閣下」
「気にしなくていいわよぉ、原因はカレウスなんだものぉ」
鋭い視線に、同じく馬車から降りたカレウスが震え上がる。
「部屋を用意してあるから、傷を診てもらったら今日は泊まっていきなさぁい」
「承知しました」
「堅苦しいわねぇ、まあいいわぁ。あとカレウス、貴方もよぉ?」
「俺はこの件の事後処理が…」
「それもそうねぇ…朝食までには帰ってらっしゃい?」
「…了解しました、ミスト侯」
かくして、額の傷を診察して貰い、未だ眠っているレナの容態を確かめた後、浴室で体を清めたアレクは客室のソファで寛いでいた。
「流石は”海“のミスト家だな。まさか生きている間にアルビオン王国の
「………」
「このツマミは燻製サーモンか。内陸でこの品質だと庶民どころか並の金持ちでも伝が無いと食えないな」
「………」
「……で、いつまでそこにいるつもりだ?」
「ううううるさいわね! わ私の勝手でしょ!?」
部屋に設えられた天蓋付きのベッドの上で、エリカはシーツを頭から被り蓑虫のような姿で、呆れた顔のアレクを威嚇する。
「恥ずかしがるなら部屋に入ってくるなよ…」
「ミランダおば様とリーズに放り込まれたのよ!」
━━以下、入浴後ミスト母子に拉致されたエリカの会話━━
「凄いわねエリカ! 決闘しながら告白なんてまるで物語みたいよ!」
「でもその後はいただけないわねぇ。あっちに告白返されてキスと主導権まで取られるなんてぇ」
「し、仕方ないでしょ!? ほ、ほとんど初めてだったのよ!?」
「しかもその後はお姫様抱っこされて満足してるもの」
「甘え上手なのはいいけど、恥ずかしがって何もできなかったら意味ないわよぉ?」
「あぁあぅ…だ、だって疲れて力はいらなかったし、安心して力抜けちゃったし…」
「だからってお風呂に入ったらすぐに寝ようとするなんて落第点よ?」
「情けないわねぇ…ミリア(エリカの実母 リガール辺境伯の第一夫人)とレーネ(ユリアとダニエルの母 リガール辺境伯の第二夫人)の教育はどうなってるのかしらぁ…ここは自分から部屋に押しかけて抱いてもらうところよぉ?」
「なっななっミランダおば様!!?」
「そうよエリカ。貴方の良い人、多分しっかり繋ぎ止めておかないとどこか行っちゃうわよ?」
「そうねぇ、あの子も貴方に惚れてるみたいだけどぉ…きっとあの子、よっぽど強い繋がりがない限り貴方を捨てるわよ?」
「っ!?」
「あの子はきっと貴方を護るために、貴方の前から消えるわぁ…だって彼は、ずっと
「でも…アレクは」
「今は大丈夫でも、何もしなければまたそうなるわぁ。だって彼は独りだから…たった独りで戦い続けて来たから」
「あいつには私がっ」
「だからこそ…もしも彼の心が折れそうになった時、ちゃんと貴方が彼の心の中にいないといけないのよぉ?」
「だからね、エリカ?」
「あっ、ちょ…リーズ?」
「さあエリカ、そんな色気の無い寝巻きは脱いで…」
「まっままま待っ」
「ふふふ、折角の初夜なんだからぁ…ちゃーんと貴女の体に溺れさせてあげないとねぇ?」
「ミランダおば様!!?」
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エリカはこの部屋に強制的に放り込まれるまでの会話を思い出し、再び赤面する。
そんなエリカに、アレクはなんとなく事情を察しながらも呆れ顔で問う。
「シーツを被ったままで放り込まれて、そのままベットの上で転がって…何がしたいんだ?」
「うぅぅ…」
包帯を外し、傷だらけの素顔を晒すアレクを見て完全にキャパシティオーバーしたエリカは、真っ赤な顔でうめき声を上げる。
アレクはため息をついてテーブルに置かれたクッキーを齧る。
そんな彼の耳に、”くぅ〜“という可愛らしい音が届く。
「……」
「…あぅ」
「………食うか?」
「………………………うん」
エリカはシーツを体に巻き付けたまま、恥ずかしそうにアレクの隣に座る。
「…それじゃ食えないだろ?」
「食べさせてよ…アレク」
肌を隠すためにシーツを抑えているため手の使えないエリカは、可憐な唇を開いて、甘えるように、愛しい男の名前を呼ぶ。
肌は恥ずかしがって見せないのに、何故か体は擦り寄せてくるエリカに少しだけ困惑しながら、アレクはその開いたままの口にクッキーを入れる。
モグモグと、小動物のようにクッキーを咀嚼したエリカは、美味しそうにクッキーを飲み込むのと再び口を開く。
アレクは何も言わず、再びクッキーをエリカの口に入れてやる。
何度か同じ作業を繰り返すと、エリカは口を閉じてクッキーを拒否する。
「喉が乾いたわ」
「はいはい…お姫様」
アレクはチェイサー用の水をグラスに注ぎ、エリカの口へ近づける。
「ん〜!」
「お前な…」
「飲みにくいからいや…貴方の口で、飲ませて?」
上目遣いで恥ずかしそうに、宝石のような金色の瞳を潤ませておねだりするエリカの姿に、アレクは生唾を飲み込み平静を保つ。
そしてグラスの水を口に含むと、エリカに口づけしてその口に水と己の唾液を流し込む━━
「んくっ…っ! ぅう!?」
だけでは終わらず、舌をエリカの口腔内へねじ込み、目を見開いて逃げようとする腰に手を回して抑え込み、そのままエリカの舌を舐る。
「ちゅぷ…はぅ…ぅん」
最初は驚き、逃げようとしていたエリカは、次第に瞳を蕩けさせ、恐る恐る自分から舌を差し出す。
丁寧に唾液を舐め取り、ようやく唇を離したアレクへ、エリカは頬を膨らませて抗議する。
「ちょっと、いきなり舌入れないでよ!」
「お前が誘ったんだろうが」
「うぅ…そうだけどいきなりあんな激しく…」
赤面し俯きながら、それでもエリカはシーツに包まれた体をアレクへ密着させたまま、コテンと頭をアレクの肩へ乗せる。
「ねぇアレク?」
「…なんだ?」
「私…私は貴方と一緒にいたい」
「…ああ」
「ずーっと、おばあちゃんになるまで、貴方の隣にいたい」
「……ああ」
アレクは、エリカの銀色の髪を優しく撫でる。
エリカは心地よさそうに目を細め、アレクへ体重を預ける。
「エリカ…俺は…」
「うん」
「俺も、お前と一緒にいたい。お前に隣にいて欲しい」
「うん」
「エリカ…お前の全てが欲しい」
「いいわよ…私の身も心も、ぜんぶ貴方にあげる…だから、もうどこにもいかないで、アレク」
「ああ、約束する。もう一度、今度こそ」
アレクがもう一度、エリカの唇を奪う。舌は入れない、触れ合うだけの、優しく口づけを。
唇を離したアレクは、シーツに包まれたエリカを抱き上げると、壊れ物を扱うように優しく、ベッドへと横たえる。
「もう、いいよな?」
「うん…ぜんぶ、見て?」
エリカは自ら、自身の体を隠していたシーツを広げる。
「綺麗だ…」
「エヘヘ…」
エリカのくすみのない白い肌を隠すのは薄手のネグリジェと、その下に透けて見える、清楚な印象の白い下着のみ。
「来て…私の愛しい旦那様?」
エリカの魅力的すぎる肢体に、服を脱ぎ捨てたアレクが覆いかぶさった。
本番シーンは次回(予定)