ーーー征服歴1484年 某月某日ーーー
やあみんなこんにちは、カイト君10歳だよ!
色々忙しくてなかなか日記が書けなかったんだけど、大イベントがいくつかあったから久々に書くことにしたよ。この感動はみんなと共有しないとね。
さて、今回僕がこの世界に転生してから3年で最大のイベントといえばやっぱり婚約者が出来た事だね。婚約者だよ婚約者!
前世だと結婚せずにそれなりの企業でダラダラ働いてた僕に、まだ10歳にもならないのに婚約者ができたんだよ!
おっとちょっと興奮し過ぎたね。
え、貴族だから婚約者は生まれたときにはいるものでは?
まあ、嫡男とかだとそういう事もある(僕の兄さんは既に同じ七大貴族ケルビム家のご令嬢と婚約している)んだけど、僕次男だし、4歳年上の兄上は健康そのものだから、本当なら婚約者ができるにしてももっと後のはずだったんだよ。
これに関しては僕のやらかしというか、転生を自覚してちょっと舞い上がってたのが原因かな。
僕は転生してからこの世界について知るために、僕の住んでいるジャッカード家のお屋敷にある本という本を読み漁ったんだ。そして考えても見てほしい、5歳児がそんな事をしてたら大人は不審に思う訳だ。それに気づかず、むしろより詳しく知識を得るためにお父様やお祖父様、それに教育係のじいやに色々質問までしちゃったのが致命傷でね…、あれよあれよと神童扱いさ。僕は目立たずひっそり生きたかったのにね。
お祖父様も両親も、ついでに兄様もそれについては喜んでくれたんだけど、家臣たちがね…ほら、異世界だろうとどこだろうとお家騒動の種は尽きまじと言うわけさ。
そういう訳で、僕には5歳にして婚約者が出来たと言うわけさ。婿養子として、女しかいなくて跡継ぎに困っていた親戚の子爵家が是非にと頼んできたのをお祖父様がこれ幸いと決めてくれたんだ。
いやあ顔合わせの時は緊張したよ。何せ大貴族の御曹司とはいえ中身は庶民だからね、ボロが出ないか心臓が破裂しそうなくらいバクバクしたよ。ちなみに、顔朝わせであったお相手、テルネシア子爵家の令嬢ルリシアは、将来美人になるのが確実なものすごく可愛い女の子だった。まあすごく気が強くて『私の旦那様になるなら“カナンの騎士”に選ばれるくらい立派になりなさい』と言ってくるくらいでお祖父様が大笑いしてたけどね。
ちなみにこの“カナンの騎士”なんだけど、僕の生まれたこの連合王国における最強の騎士の称号でね、歴代で6人存在する彼らは転生者の僕から見てもチートと言っても過言じゃないくらいとてつもない英雄なんだ。具体的に言うと僕が生前お給料を注ぎ込んでいた過去の英雄を召喚して世界を救うソシャゲで登場出来る位に。
まあ子供の冗談ではあったけど、将来の伴侶の頼みだったし、この国の男の子(と一部の気の強い女の子)は将来“カナンの騎士”に任命される事を夢見て武芸に励むのが一般的とされてる訳だから、転生者の僕としては将来の目標にするのもいいなと思った訳だ。
ルリシアと出会ったその日から、
転生した僕の肉体、このカイト・ジャッカードは天才だった。転生前の僕は、まあ人並程度で平凡な人間だったと思う。でもこのとても高性能な肉体は、そんな転生前の僕の記憶を余す所なく汲み取る事が出来た。生前の僕が朧気にしか覚えていなかった学生時代の記憶、特に数学や物理学、そして化学の知識に加えて大学時代に学んだ統計学や経済学、そして会社員として身につけた交渉術まで幅広く、生前よりも鮮明に思い出すことが出来た。
そして転生前の知識だけでなく、今のこの世界で新たに学んだ事もまた、乾いたスポンジのように吸収した。
礼儀作法と交渉術に剣術、馬術や弓術、領地経営に関する数多の知識まで、貴族子弟として求められる全ての知識を、僕は僅か数年で完璧に習得した。
それだけじゃない。僕は転生前の知識もまた、僕の目的を達成するために使用した。
英雄になるためには強いだけじゃだめなのはこの世界も、僕の前世も同じだ。自分が強いのは当然、その上で強い味方が、軍隊がいる。
この国は経済だけじゃなく、軍隊もかなり先進的で戸籍とそれに基づく徴兵制まで敷かれている。だけど僕達貴族は特権として、従軍する際に己の自費で直属の部隊を用意することが出来る。
それこそ歴代のカナンの騎士は自分の手足となる強力な部下達を操り、戦場で歴史に刻まれる活躍をしていた。
だから僕も、そんな軍隊を、出来れば実家のものとは別に用意しないといけない。親の脛齧りと言われたくはないしね?
自分を鍛え上げるのと共に、僕は転生の知識を使って資金と、そして
例えば前世で便利だった様々な製品の再現、これは最初は自分のお小遣いで細々と、そして成功したらお祖父様と縁が深かったレンベルク商会に販売して貰ってその儲けの一部を特許料として受け取った。更にその資金を運用してどんどん増やしていった。これでも元は商社マンだからね、投資と資産運用はお手の物なんだ。
実力はこれからもっとつく、資金も手に入った。だから最も大事な事も始めることにした。
僕が着手したのは、火薬の量産。そしてその火薬を用いた新兵器の開発だ。
既に黒色火薬自体は東方の超大国青麟帝国で既に発明されている。というよりもその前の王朝の時代には開発されていたのを、青麟帝国が実戦で使用したらしい。だけどその製法も材料も秘中の秘。
でも、僕は違う。前世の知識で少なくとも材料は知っている。
必要なのは硝石、硫黄、そして木炭。この中で硫黄と木炭は簡単に手に入った。だけど硝石については難航した。
ジャッカード家はユーシア大陸最大の塩水湖ビスカ海の沿岸を領地として、他国との交易で財を築いた家だ。その伝を使って探したけど、硝石は見つからなかった。僕も火薬の材料としてはともかく、硝石が他の用途で同利用されていたかは分からなかったんだ。たから、知っていそうな人に素直に聞くことにした。
前にも書いたけど、連合王国は教育にすごく力を入れている。
それは初等教育だけじゃなく、当然ながら高等教育にも及んでいる。
例えば僕の家と同じ七大貴族、ラーズ侯爵家の領都ニギタスに存在するソーヤ記念大学(初代ラーズ侯爵ソーヤが世界中からかき集めた文物を収めた大陸最大の大学)や王都のカルネアス中央大学、そしてジャッカード家の領都に設立されたイジム記念大学は、連合王国の三大大学として国内だけでなく国外からも多数の学生が訪れている。
流石に王国南東部にあるラーズ家の領都は遠いし、カルネアス中央大学は官僚の育成機関としての意味合いが強いから、地元の、しかも実学だけじゃなく美術関係の研究が盛んに行われているイジム記念大学を頼ることにした。
僕の実家ジャッカード家は“美”の二つ名を冠するだけあって代々芸術家を支援してきた。その一環で、彼らが使用する様々な素材の生産・研究する職人たちもまた集まり、彼らの保護・育成目的に作られたのがイジム記念大学の原型だった。だからお祖父様に頼んで、鉱物の研究を専門にしている
冶金と薬学を合わせて新しい素材を生み出す研究の中で、他に分類出来ない物を雑に放り込んだのが、この大学の錬金術科で、範囲が広すぎてあまり人気が無かったりする。
まあ教授が教育よりも研究が大好き過ぎて、実績はあるけど人付き合いが無い変人だっていうのもかなり関係があるかもしれないけどね…。むしろそんな変人の数少ない友人でスポンサーな僕のお祖父様が凄いのかもしれない。
ともあれ、僕が紹介状を持って会いに行った錬金術科教授フィンドル・ミルノー元子爵は前評判通りの変人だった。研究の為に国内各地を巡り、徹夜で研究室に籠もるのは当たり前。研究室は半ば彼の私室同然で端から見るとゴミ屋敷というある意味研究者としてはステレオタイプな爺さんだった。
教室の運営は助教達に任せて、孫娘一人を助手に研究を行っていた彼は、僕の頼みを快く認めてくれた。どうやら僕が色々なアイデア(転生知識)を実用化している事もお祖父様が話していたみたいで、孫娘のイシェラと一緒に僕の知識を根掘り葉掘り聞き出そうとするのには辟易したけどね…。
ミルノー教授の助手であり孫娘のイシェラは、僕よりも一つ歳下だけど、頭脳に関しては中身は元々平凡だった僕よりも遥かに上の本物の天才だった。教授と一緒に僅かな期間で硝石を発見しただけじゃなく、僕のアイデアを聞いただけで簡単にそれを実現してくれた。教授に会いに行って一年もしたら僕にとって無くてはならない協力者になっていたんだ。
そして硝石の発見と量産の目処が立ったころ、彼女の祖父であるミルノー教授と、僕のアイデアの販売を担ってくれているレンベルク商会の会頭ブラントン男爵から提案があった。
イシェラと、そしてブラントン男爵の長女ミリエラを僕の婚約者にしないか、と。
僕の婚約者にはもうルリシアがいたけど、連合王国は一夫多妻制が認められていたし、二人は僕の研究と事業を子供ながら手伝ってくれていたから、お祖父様もお父様も賛成してくれた。
かくして僕、カイト・ジャッカードには10歳にして三人の婚約者ができました!
転生して5年、僕は目標に向かって順調に進んでいる。
カナンの騎士に俺はなる!!
当初のプロットだと彼が主人公のハーレム物を書きたかったので、タグにもその名残が残ってます