濡れ場は書いててしっくり来なかったので後回しに…
お知らせ:前話と前前話をの順番を入れ替えました
ーーー征服歴1500年11月 王都カルネアス ミスト侯爵家別邸ーーー
戦場暮らしの長いアレクは基本的に食事の
ベルと名乗り一兵卒として戦っていた頃は補給線が寸断され、まともな食事が支給されない中、食べられそうな雑草と泥水で命を繋いだ。
少尉に任官し、
だからこそ、アレクは基本的に食事は栄養補給としか認識していない。ついでに言うと曲がりなりにも貴族の次男坊なので料理など生まれてから作ったことは無く、一兵卒の頃に炊事担当になった際に
故に、当時を知るバグラム軍曹は決してアレクを食材に近づけない。それどころかコーヒー豆や茶葉ですら、従卒を脅しつけてアレクから隠す念の入れようだった。
流石にこの措置にはアレクも苦言を呈した(そもそも部隊にコーヒー豆や茶葉、酒や煙草等の嗜好品が支給されるようになったのはアレクがイリーガルな手段を駆使したお陰)が、バグラムは真剣な顔で言い切った。
「隊長殿、俺ぁ軍曹として兵士を統率するのが仕事でさぁ。なのに戦闘でも訓練でも無いのに
信頼しているバグラムの忠言が流石に効いたのか、これ以降アレクは自分でコーヒや茶を淹れることは無かった。代わりに、何処からともなく
そんなアレクだが、ミスト家のメイドの給仕したコーヒーを一口飲むと目を剥き、感嘆の溜息をつく。
「美味い…」
感動するアレクに気を良くした家主とその娘、ついでにその親友が目を輝かせて語る。
「その豆はセリアム諸島にある
「贈答用で一般には出回らない豆だから、
「ええ、だから感謝して飲みなさい」
「成る程」
やいのやいの、女三人集まれば姦しいという言葉通り、3人の美女は自慢気に語る(一番自慢気なのがエリカな事を3人は疑問にすら思っていない)。
アレクは言葉少なく相槌をうち、有難そうに最高級品のコーヒーを啜る。
「愚息がミスト家に婿入りして一番良かったのは、親戚としてこのコーヒーがお裾分けしてもらえるようになった事だな」
「おい親父、それでいいのか…?」
「…おーい」
アレクと同じく美味そうにコーヒーを飲むヘリオス・アーフェンと、己の雑すぎる扱いに苦言を呈するフリッツ。
「儂は歳じゃからブラックはちときついんじゃよな…」
「情ねぇなぁご隠居」
「お主もあと10年もすればこうなるぞ?」
「おーーい…」
コーヒーにミルクと白砂糖(ミスト家領セリアム諸島産)を入れて味わうレオポルドとそれをからかうヴォルス。
「白パンを食べるのなんて何年ぶりだ…?」
「遠慮なく食べなさぁい。貴方の頑張りに報いるには欠片も足りないかもしれないけど、少なくともこの家にいる間は最高級の物を食べても罰はあたらないわよぉ?」
「そうよアレク、ミスト家の料理は美味しいからたくさん食べなさい」
「なんでお前が一番偉そうなんだ…?」
「うおーい!」
焼き立ての柔らかいパンを最後にいつ食べたか思い出せないアレクに、ミランダは慈母のような優しい笑顔でお代わりを勧め、何故かエリカが誇らしげに豊かな胸を張る。
「のぅ、もしかして遠回しに儂が責められとる?」
「一番悪いのはカレウス兄さんですけど、この点に関しては我々も同罪かと…」
「………おーい」
傷だらけで分かりにくいが、顔を綻ばせ給仕された朝食に舌鼓をうつアレクの様子に、レオポルドは地味に罪悪感を刺激され
「ゴラァァァァ!!!!!」
「「「「「「「うぇ」」」」」」」」
誰も呼びかけに応えてくれず、空気よりもなお軽い扱いをされていたカレウス(正座継続中)が、ついに耐えきれず怒声を上げるが、他の面々は鬱陶しそうに顔を顰める。
「おいミスト侯、流石にこの仕打ちはあんまりだろ!? こっちは徹夜で事態を収拾してきたんだぞ!!?」
「それに関しては労ってあげたいくらいだけどぉ…ほぼ自業自得よねぇ?」
「それはそうだが、他の連中は許されてるだろうが!」
「まあそうだけどぉ、一応言っておくと貴方を正座させてるのは貴方のためよぉ?」
「はぁ? ……!?」
激昂するカレウスを面倒臭そうに宥めるミランダが、意味深に視線をそらす。視線を追った先を見たカレウスは冷や汗を流して口を噤む。
「いいナイフだな」
「気に入っても持って帰らないでね? パーティーの度に銀製の食器が盗まれたから、こういう場でしか出せなくなったのよ?」
「え、そうだったのリーズ!?」
「昔、一斉にパーティーの銀食器が無くなった理由はそれだったのか」
リーズの語る豆知識に感心しながら、アレクは目線だけはナイフから切らずそれを弄ぶ。まるで、その刃で
状況を理解した様子のカレウスが無言になったタイミングで、ミランダがアレクに注意する。
「一応言っておくけどぉ、この部屋で人の首を斬り飛ばしちゃ駄目よぉ?」
「分かりました、このナイフを使えなくするのも問題ですしね」
「そこは嘘でも
残念そうにナイフを置くアレクの言動をエリカがツッコむ。
アレクが
「な、なあおいもういいだろミスト侯、流石に足の感覚がないし腹が減ったんだが…?」
「うーん…どうしようかしらウォーカー大尉?」
「…………まあ、良いのでは?」
やや不本意そうに、ミランダに問われたアレクが頷く。
ようやく立つことを許されたカレウスは、痺れる足を引きずりながらテーブルを目指す。
席につくまで、誰も助けてはくれなかった。