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「うーん…悪い剣じゃないけど、僕が使うには軽いし脆いし切れ味も悪いかな」
「そ、そんな…わ、儂の最高傑作が…」
よく手入れされた庭園の一角で、
その評価を聞いた長剣の制作者、マーグレム侯爵お抱えの鍛冶工房の親方である精悍な顔の老人は膝をつき、絶望した顔で俯く。
その様子に仮面の男は流石に申し訳なく思ったのか、なんとか彼を元気づけようとワタワタするが、平民出身で未だに妻から教養が足りないと扱かれている彼では的確な慰めの言葉など出てはこない。
「え、えーっと…そうだそうだ、確かに僕には何の価値もないけどこの柄の装飾とか人気が出そうだよ!」
「…それは儂ではなく細工師のしごとですじゃ」
地面にめり込みそうなほど落ち込む老人にほとほと困り果てた仮面の男、
友人であり、仕事の
「グラ公、お前はもう少しでいいから人の気持を慮れ。あの爺さんは
「いやでも正直な感想って言われたしさあ…」
「ちょっとぐらい世辞を言ってやれよ! なんでいきなり全否定から入ってんだ!!」
「仕方ないだろ!? だってあんな自信満々に持ってきたのに僕の要望が一切反映されてないんだよ!!?」
互いにそろそろ三十路が見えてきた歳とは思えない、子供じみた態度で怒鳴り合う
家臣たちは呆れながら、庭をテキパキと片付けてゆく。
庭には、全身鎧や鋼鉄の盾、そして人の身の丈を越える岩などが全て、
「ほら見てよカシウス、
「どこがちょっとだこの剣バカ野郎!!」
「だってこれ全部
「……そう言えばそうだったな」
余人が聞けば正気を疑う発言だが、カシウスも彼の家臣達も、その場にいる人間は誰もグラッパの言葉を疑わない。
連合王国最強の騎士として、雲霞のごとく地を埋め尽くし侵攻する新興宗教エボバム教の聖戦軍団を殲滅し、聖地回復をお題目にエウロペ大陸より海を超えて侵略した十字教の聖騎士達を撫で斬りにした剣の怪物。
対
若くして大陸最強と謳われる英雄となったグラッパの英雄譚は後の時代には荒唐無稽と評されたが、同時代の人間達の多くは直接、伝説の一端を目の当たりにしている。
“神の加護”を受けたと自称する狂信者達相手に一歩も引かず、それどころか鼻歌交じりに殲滅するグラッパの姿は、敵には恐怖を、味方には勇気と喚起を与えた。あまりにも勝てないせいで連合王国にもそれなりに浸透していたエボバム教徒や十字教教徒の大半が棄教し、王家が信仰する太陽神や天空神、東方から渡って来た涅槃教の勢力が増えた程だ。戦場において兵士に信仰されていた戦神はいつの間にか“カナンの騎士”に取って代わられ、連合王国において宗教勢力そのものの権威が壊滅してしまったと後世には伝わっている。
そんなグラッパの唯一の弱みは、戦闘が激しすぎるせいで戦う度に武器を破損してしまい、時には戦闘中に敵から武器を奪いながら戦わなければならない事だった。
およそ一年前に勃発した十字教の第二次聖伐軍との戦争では、リガール家出身である妻のツテと今までの功績から初代“カナンの騎士”ロイ・リガールの用いた宝剣の使用を許可されたのだが、戦争中盤で自身に向けて発射された巨岩を十字に斬り裂いたせいで二度と使用できないほど破損してしまった。
カシウスが慌てて、代用品として総鋼造りの巨大金棒を自分の領地から取り寄せグラッパに与え、むしろ全身鎧を着込んだ聖伐軍の聖騎士達にはそちらの方が有効だったのだが、グラッパ本人の不満が蓄積したのと、敵だけでなく味方の士気も下がってしまった。
いかに精強な連合王国の兵士たちでも、目の前で鎧を着込んだ騎士たちの頭や上半身が血煙になるのを見続けるのは酷だったのである。
盛大な凱旋式の後、国王から褒美として何が欲しいかを問われたグラッパが、自身の蛮用に耐えうる剣を求めたのは、ある意味当然の事だった。
「なあ頼むよカシウス〜、また剣を壊したらリリーの一週間耐久お説教コースなんだよぉ!!」
「相変わらず嫁の尻に敷かれてるなお前…そうは言うがその剣より上の剣なんざもう伝説の武器くらいだと思うぞ?」
「
「分かってるよ! リガールの兄貴がこの世の終わりみたいな顔してたからちゃんと謝っとけよ!?」
因みに国王とバランタイン公爵は、綺麗に四分割された巨岩を見て大爆笑したらしい。
それはともかく、不毛な議論に嫌気のさしたカシウスがグラッパに、彼の要望がどれほど無理筋か改めて説明する。
「はぁ…いいかグラ公、お前が今持ってる剣は今この鍛冶の街ノートルスで加工できる最高硬度の鋼を最高の鍛冶師が鍛造した物だ。まず、それ以上の硬さとなると冶金技術そのものが発展するか、それこそお伽噺に出てくる金属でも持ってこなきゃならん」
「えぇ〜。あ、でもほら前に貰った金棒はかなり頑丈だったよ?」
「ぶん回した挙げ句へし折った奴がほざくな。金棒なら剣に加工しなくていいから硬度が保ったんだよ」
「そっかぁ…」
「それに、よしんばお前が求める頑丈な金属が見つかっても、それを剣として鍛造して、まともなバランスになる保証が無い」
「…?」
「簡単にいうと、重心やらなんやらが普通の剣の別物になってまともに扱えなくなるってことだ」
基本的に考える事が苦手なグラッパだが、事が剣にまつわることなので普段よりは聞き分けよくカシウスの話に頷く。だが、最後の言葉にだけは首を傾げた。
「そこは別に
「なに?」
「どんなにバランスが悪くても
「理屈はそうだが…」
「よし、だったら問題は素材だけだね!」
「いや、まあ…そうだな?」
俄然張り切りだした
「そうと決まれば、
「は、お前行くってどこへ?」
「そりゃあ勿論、素材がありそうなところだよ」
「え…はい?」
「じゃあカシウス、ちょっと気になるところ探してくるから、準備はお願いね! リリーによろしく!」
「待ておい! どさくさに紛れて嫁の説教から逃げる気だなお前!」
言うが早いか、颯爽とマーグレム家の屋敷から立ち去った(ついでに良さそうな剣をかっぱらって)、グラッパは己の使う剣の素材を求めて旅立った。
半年後、何故か船に乗ってミスト侯爵家の領都エルデシアに現れたグラッパは、乗っていた船(海賊船)に満載した財宝と、南の島で手に入れた天空より墜ちた星(隕石)を王家に献上し、それを用いて自分の使用する剣の製作を改めて依頼することとなる。
そして半年の間に大陸どころか海を越えた先まで職人と技術をかき集めたカシウスと、彼の影響下にある職人達の総力を以て、その隕石に含まれた特別な鉄を用いて黒い刀身の剣を生み出すことになる。
その剣の銘は『メテオール』、流星を意味する古語である。だが、この剣を愛用したグラッパは単に『
ちなみに、勝手に旅に出たグラッパは、妻に厳重な説教を食らい、しばらく王都の屋敷に入れてもらえなかったとも伝わっている。