ーーー征服歴1500年12月 王都カルネアス バスカード闘技場ーーー
闘技場の特別席、決闘を見届ける国王のみが座ることを許される玉座にて、連合王国第12代国王ロジアス・ヴィーテが、この闘技場へ集う民衆達へ、”カナンの騎士“襲名を賭けた決闘の開始を告げる。
「見届けよ、我が臣民達よ。そして語り継ぐのだ、新たなる竜の騎士たる者の勇姿を!」
国王の宣言に、民衆は歓喜の声で応える。
『国王陛下万歳!』
『連合王国万歳!!』
『新たなる”カナンの騎士“に、歴代の騎士達の加護があらんことを!!』
闘技場が揺らぐ程の歓声のなか、遂に南側のゲートが開く。
『『『オオオオオオォォォォ!!!!』』』
南側の観客席を中心に、国王の宣言に応えたとき以上の大歓声が挙がる。
真新しい、紺色の軍服と眩く輝く白金の鎧、そしてその腰には金の装飾の施された鞘に納められた大剣”黒キ剣“。
鍛えられた長身に、最高の装備を纏い、金髪碧眼の美顔に老若男女をときめかせる笑顔を浮かべたカイト・ジャッカードがゲートから闘技場の中心へと歩を進める。
「カイトー、頑張ってくださいましー!」
「カイト様ー!!」
「我らが英雄にさらなる栄光を!!」
カイトの背中を推す声援が、闘技場を埋め尽くす。
彼らはこの四年間、新聞などの様々な媒体でカイトの英雄的な活躍を知っている。新兵器を生み出し、王都を脅やかす侵略者と裏切り者を粉砕し、美しい姫君を敵の魔の手から救い出した、その華々しい英雄譚は、カイトと同じ時代に生きる自分達まで、その英雄譚の一端を担うかのような一体感と高揚を生み出した。
カイトの背を押すのはその熱狂、カイトに英雄であってほしい、より活躍し自分たちに
カイトはその熱狂的な歓声に、笑顔で手を振りながら応える。
彼にとってこの応援は当然の、そしてこれからも自分を背を押してくれる当たり前のものであるが故に。
カイトにとっては、今この熱狂ですら自分がこれから積み上げる栄光を飾る、小さな一枚でしかないのだから。
闘技場どころか、王都中に響き渡る歓声は、カイトが闘技場の中心へと進み出るまで続き、そして急速に萎んでいった。
歓声が止まった原因は、カイトではなく、彼とは逆方向のゲートが開き、彼の対戦相手が現れたからであった。
カイトと同じく、陸軍の紺色の軍服を纏い、艶消しされた騎兵用の胸甲と、手足を守る手甲と脚甲を装備した、だがカイトと比較するとみすぼらしい装備の男がゲートより現れる。
身長は高く、鍛えられた肉体は軍服の上からでもその巌の如き存在感を放っている。
何よりも、顔を隠す包帯が、その男が何者かを端的に表している。
カイトの対抗馬として擁立された、スペイサイド州の英雄”
観衆の大多数にとって、アレクはカイトの、つまりは彼らにとっての
彼らはアレクに罵倒すら送らない。たださっさとカイトに負けて、早くカイトの
沈黙の中を、アレクは平然と進んでゆく。
誰も彼の歩んだ難関辛苦を知ることも、興味を抱くこともなく、ただカイトの栄光を邪魔する障害物として、さっさと退場する端役として無関心な視線のみを向けている。
そんな、罵倒の嵐よりもなお辛い沈黙の檻を、銀鈴の美声が斬り裂く。
「アレクーー!!!」
アレクが背後を振り向く。
輝く太陽を背に、氷の女神の如き美貌の
「勝ちなさい!!!」
シンプルな、そして女王の如き威厳に満ちたその声援に応えるように、アレクは包帯の下で微笑み、彼の
遠く離れた、だが心で繋がった二人は黒と金の瞳を交叉させ、そしてアレクは前へと向き直り、闘技場の中心へと進む。
エリカの声援からざわつき始めた闘技場の喧騒も、己を嫉妬に塗れた目で睨む
平然とした顔で、アレクは己の対戦相手と、同じく闘技場の中心で待つ
「失礼、少し待たせたな」
「…貴様っ」
「カイト・ジャッカード、ここは言葉を戦わせる場ではない。相手へぶつけるのは、その剣技のみ。余計な文句は全て舌ではなく剣に乗せろ」
アレクとエリカの絆を疑い、問い詰めようとするカイトをバーナードが掣肘する。
流石にカイトも、公衆の面前で無様を晒すわけにはいかないと自覚し口を噤む。
「よろしい。改めて、この決闘の審判役を務めるバーナード・ジルベルトだ」
既に勝手知ったる二人には無用な自己紹介ではあるが、これが規則である。
「では決闘の前に確認する。各々、決闘の条件は理解しているな?」
カイトとアレク、二人の英雄が頷き、腰に佩いた自身の得物を撫でる。
本来、連合王国の決闘は
だが、そんな連合王国の決闘で唯一、無制限に真剣の使用が許可されるのが、この“カナンの騎士”襲名を賭けた決闘である。
流石に長柄の武器の使用は許可されないが、大剣等のリーチの長い剣は勿論、
そして何より、この決闘では勝敗に
敗北とは戦闘不能または降伏を意味し、相手を殺してしまえば戦闘不能なので勝利できる。
「この決闘においてのみ、決闘法第三条は適用されない。故に、たとえ相手を殺したとしても罪には問われない」
「「はい」」
二人の英雄が迷わず頷く。
「では両者、剣を抜け」
そして遂に、二人の英雄が携える武器が、衆目へと開陳された。
アレクの新武器お披露目と開戦は次回!