※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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97話 英雄激突⑦

 

ーーー征服歴1500年12月 王都カルネアス バスカード闘技場ーーー

 

「両者、構えろ!」

 

 審判役のバーナードが鋭い声でカイトとアレクはそれぞれの得物を構える。

 

 カイトは、両手に持った“黒キ剣”を垂直に立て、頭の右側に寄せて左足を前に出す。それはカルネアス流剣術において、剣速と機動力に特化する第四の(フォーム)ゴルベアにおいて用いられる八相の構え。

 あらゆる場面に対応可能なため実戦でも決闘でも使用する人口が多く、カイトも好んで使用する型である。

 

 それに対して、アレクは中指と人差し指を立てた左手を前に突き出し、右手の剣を地面と平行に、そして弓を引き絞るように顔の横へと構える。

 それは防御とカウンターに特化したカルネアス流剣術第三の(フォーム)ディズヴィオの構え。達人であれば至近距離から放たれる弩弓すら斬り払うその型は、万全のアレクが用いれば100を優に越える矢の弾幕を無疵で切り抜ける事すら可能である。

 

 だが、アレクの構えを見たカイトも、そして観衆の大半も、アレクがその型を使用する事を悪手ととらえた。

 

「…剣の腕は本物だと思っていたけど、僕の勘違いだったのかな? それともまさか“黒キ剣”について何も教えてもらっていないのかな?」

「……」

 

 カイトが挑発するように問いかけるが、アレクは無言のまま構え続ける。

 

「いいのかい? 多分だけどそのカタナも借り物だよね? 第三の型(ディズヴィオ)で僕の剣を受け止めたら、貴重なカタナが壊れてしまうよ?」

「………」

 

 アレクが何も言い返さない事を弱気と捉えたのか、カイトが饒舌に、自分の優位とアレクと不利を解説する。

 

「確かに、守り主体の第三の型(ディズヴィオ)()()()()()()()()()だけど、武器が折られたら意味が無いよ?」

「…………フッ」

「っ!?」

 

 気持ち良く解説していたカイトの様子を、無表情に眺めていたアレクは、ついに我慢できず吹き出す。そしてその小馬鹿にした様子に、カイトは眉を顰める。

 

「流石、よく回る舌だ」

「何…っ!?」

「さっきそこのバーナード(石頭)が言っていたはずだ。ここは言葉を戦わせる場所じゃない。それとも、自信がないのか?」

「……良いだろう。余計な怪我をさせずに降参させてあげようと思っていたけど、やめだ。死んでも恨むなよ!?」

「できるものならやってみろ」

 

 カイトとアレク、共に達人を越えた領域に足を踏み入れた剣士達が、その戦意を最高潮まで高める。

 

 ついにバーナードが、決闘の開始を告げる。

 

「仕合、始め!」

 

 バーナードの宣言の直後、カイトの姿がアレクの視界から消える━━━否、機動特化の型ゴルベアのお手本のような旋回機動でアレクの死角へ回り込み、必殺の一撃を叩き込む。

 

()った…っ!?」

 

 だが、アレクを斜めに両断するはずの一撃は、カイトの動きを読んでいたアレクが迎撃に振るった斬撃に弾かれる。

 “ギイィン”という、金属と金属のぶつかる澄んだ音と、衝撃と比較して少ない火花(エネルギーロス)が、アレクの実力を視覚的にも証明する。

 

 アレクは“黒キ剣”の一撃を弾いても折れず曲がらない己の持つカタナの性能に、改めて満足気に唇を歪める。

 

「ミランダ様に感謝しないとな。やはりいいカタナだ」

「一度凌いだ程度で調子に乗るな!!」

 

 だが、当然ながらカイトの攻撃は一度では終わらない。

 軽やかな、本来“黒キ剣”のような重量のある剣では実現困難な機動でアレクを翻弄し、嵐のような連撃を放つ。

 

 遠目から見れば、カイトが複数に分裂して見えるほど疾く複雑な機動は、生半可な使い手ならば何をされたか理解する前に切り刻まれる死の竜巻である。

 

 だが、アレクサンダー・ウォーカー(無貌鬼)に疾さは意味を為さない。

 

 アレクは四方八方から襲い来る漆黒の斬撃を、その精妙な剣捌きで尽く迎撃する。

 決して疾く無いアレクの斬撃は、的確にカイトの斬撃の軌道を変え、カイトの放つ必殺の一撃はただの一度もアレクを捉えることなく空を切る。

 

 都合17度、“黒キ剣”は“サミダレ”にその斬撃を阻まれる。

 アレクとカイトの間には、二振りの名剣が交錯して生み出される火花が花火のごとく散り、だがその派手さと反比例して戦いは長引く。

 

「くっ…こんのぉ!!」

 

 決闘が自分の思惑通りに進まず、ほんの刹那、常人であれば隙とは言えない極小の間隙でカイトは体勢を崩す。本人ですら意識しない、即座に立て直す事の可能なその隙を、だがアレクは見逃さない。

 

「ぐっ…!!?」

 

 防戦に徹していたアレクの放つ、第三の型(ディズヴィオ)の手本ともいえる最速の突き(カウンター)が、カイトへと放たれる。

 

 凡庸な剣士であれば、何もできず喉を貫かれ絶命するその神速の突きを、たがカイト・ジャッカード(西の英雄)を倒すには至らない。

 

「うおぉぉぉ!!?」

 

 常人を遥かに越える膂力が、限界を越えた速度で“黒キ剣”を引き戻し、盾として自身の急所を守る。

 

 “ゴォォォン”という、涅槃教の神殿において時刻を告げ煩惱を晴らす鐘の音のごとき轟音が闘技場に響く。

 

「っ〜〜っう、強い…!」

「今のを防ぐのか…」

 

 鋼鉄の盾であろうと紙のように貫くアレクの一撃を、“黒キ剣”の剣腹で受け止め、全力で後へ飛び退る事で衝撃を殺し防ぎ切ったカイトは、決闘開始前の慢心を捨ててアレクを睨み、アレクもまた、これまで対峙した中で最強の敵手へ油断なき鋭い視線を向ける。

 

 

「正直侮っていたよ…ここからは本気でいく」

「…来い」

 

 アレクが再び第三の型(ディズヴィオ)の構えをとるのに対して、カイトは己の構えを、そして使用する(フォーム)を変更する。

 

 両手に持った剣を大上段に構えたカイトは、その整った顔立ちを激烈な戦意で歪めアレクを睨む。

 

「第5の(フォーム)ソポールか」

「言っておくが、殺してしまっても文句は言うなよ?」 

 

 攻撃特化の(フォーム)であるソポールによって、アレクの防御を叩き潰す事を企図したカイトに対し、アレクは構えを変えることなく不敵に笑う。

 

「ガァァァァ!!」

 

 先刻と異なり、アレクに向かって一直線にカイトが突撃する。

 最短最速で振り下ろされる斬撃は、かつての“黒キ剣”の主の逸話の如く、巨岩を両断し重厚な鎧すら切り裂く必殺の一撃となりアレクを襲う。

 

「くっ…!」

「無駄だぁ!!」

 

 アレクは先刻と同じように、カイトの斬撃に横から己の斬撃を合わせ、刃の方向を逸らそうとするが、カイトの膂力がずらされた軌道を無理矢理矯正せんとする。

 力比べに敗北したカタナが大きく弾かれ、アレクはうめき声を上げながら体を反らし、辛うじてカイトの刃から逃れるが、この決闘で初めて大きく体勢を崩す。

 

「そこだぁー!!」

 

 その隙をカイトは見逃さない。

 カイトは更に一歩、固められた闘技場の地面にヒビが入るほど踏みしめ、先程の意趣返しのごとき神速の突きがアレクを襲う。

 アレクにその一撃を防ぐ手立ては無い。崩れた体勢ではカタナを振るおうとカイトの“黒キ剣”の軌道は逸らせない。後ろに逃げようとカイトの方が疾い。左右に逃れれば更に体勢が崩れ、追撃を防げず詰む。

 

 己の剣がアレクの心臓を貫く未来を幻視したカイトは、その整った顔立ちに会心の笑みを浮かべる。

 だが、1秒にも満たない先のその未来は訪れることは無かったら。

 

「な…っにいぃ!!?」

 

 カイトの必殺の突きから逃れる為に倒れ込むように身体を仰け反らせたアレクは、その勢いのまま右足を蹴り上げる。

 カイトの膂力と“黒キ剣”の重量が加わる刺突は、しかし下方向からの蹴りによりその軌道を上方向へと強制的に変更させられ、アレクを貫くはずだった必殺の一撃は虚しく空を裂く。

 

 代償に、アレクは完全にバランスを崩し地面へと倒れ込む━━事はなく、“黒キ剣”を蹴り上げた勢いを利用して後方へ宙返りし、ネコ科の肉食獣のように軽やかに着地する。

 

「猿め!」

「虎とか豹と言ってほしいんだがな!」

 

 追撃で放たれた斬撃をスルリと避け、距離をとったアレクは不快気に顔を顰める。

 

「巫山戯るなあぁぁ!!」

 

 そんなアレクの様子を挑発と受け取ったカイトが激昂し、再び大上段の斬撃を放つが、その結果は先刻の焼き直しとはならない。

 巨岩を両断する一撃を逸らす為に振るわれるアレクの斬撃を、カイトは同じように弾こうと力を込めるが、それを読んだアレクはその力に逆らわないように刃を滑らせ、完璧に受け流す。

 斬撃を受け流されたカイトは、横薙ぎに剣を振るうが、アレクは体を軽く反らして躱す。

 

「こんのぉ!!」

 

 常人であれば剣の重さに振り回され崩れる体勢をその類稀な才覚と鍛え上げられた筋力で制御し、アレクに連撃を浴びせるカイトだが、初撃ほど重さの無い斬撃は弾かれ、弾かれないよう無理矢理に力を込めた一撃は受け流される。

 

「クソっ…クソがぁ!!」

 

 一撃、ほんの一撃でもアレクが防御に失敗すればカタナを折られアレクは敗北する。だが、その一撃が遠い。

 鉄壁という表現すら生温いアレクの防御の前に、カイトの烈火の如き攻勢は阻まれただの一度も届かない。

 

 そして疲労により、再びカイトの体勢が僅かに乱れる。

 

「つっ…っ!?」

 

 咄嗟に剣を引き戻し、急所(喉元)を守ったカイトに、再びアレクの神速の刺突が叩き込まれる。

 

「っ、硬いな」

「くうぅっ!!?」

 

 剣腹で刺突を受け止め、咄嗟に後ろに飛び退き衝撃を殺したカイトは、決闘開始と同じように第三の型(ディズヴィオ)の構えをとるアレクに、僅かに怯えの混ざった視線を向ける。

 

「なんだ…何なんだ、貴様はぁ!!」

 

 己の心に浮かぶ恐怖を振り払うように叫ぶカイトの疑念は、極一部を除くこの闘技場に集う者達全ての心を代弁していた。

 

 




この決闘の参考にしたのはスター・ウォーズEpisodeⅢ『シスの復讐』におけるオビ=ワン・ケノービとアナキン・スカイウォーカーのムスタファーでの対決です。

改めて観返したらオビワンが記憶以上に防戦一方で変な笑いが出ました…
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