※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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102話 英雄と道化①

 

ーーー征服歴1500年12月 王都カルネアス バスカード闘技場ーーー

 

 闘技場に、国王の登場を告げる荘厳な演奏が響き渡る。

 狂奔していた観衆達も、そして耳障りな声で喚いていたカイトとアイネも、投石に対処するために剣を振るっていたアレクとバーナードも、全員が口を噤み、武器を下ろして跪く。

 

 距離をとり跪くカイトとアレクの前に、第一王子アリウスと七大貴族の当主達を引き連れた国王ロジアスが降り立つ。

 

「カイト・ジャッカード、そしてアレクサンダー・ウォーカーよ、見事な決闘であった」

「へ、陛下!? この者は!!」

「控えろカイト!! 陛下の御前だぞ!!!」

 

 カイトの父親である現ジャッカード公爵ガスタルが、普段の温厚な顔をかなぐり捨てて怒鳴りつける。

 

「お父様、わたくしは…っ」

「アイネ、悪いけど今は父上の話を聞きなさい」

「アリウス兄様…」

 

 同じくロジアスに言い募ろうとするアイネを、アリウスがやんわりと制する。その目に冷たい光が宿っている事に、アイネは気付けなかったが。

 

「アレクサンダー・ウォーカーよ、“黒キ剣”を両断した一撃は正に神域の一太刀であった」

「有り難きお言葉です、陛下」

 

 アレクの剣技を絶賛するロジアスに、カイトとアイネは目を見開く。ロジアスの言葉は、アレクが不正など行わず勝利した事を肯定するものだったからだ。

 

「陛下!!」

「お父様!!?」

 

 カイトとアイネがロジアスに取り縋ろうと迫るが、それを防ぐようにヴォルスとトーラス、そしてミランダが間に入る。

 

「くっ…どけトーラス、お前もコイツらとグルなのか!!?」

「退きなさい、不敬ですわよ!!」

 

 3人は無言で、喚き散らすカイトとアイネを押し留める。

 カイトの父親であるガスタルは頭を抱え、宰相コウヤ・ラーズは眼鏡の弦を押し上げ溜息をつく。因みに、ケルビム公爵とリガール辺境伯代理のレオポルドは感情を読ませない無表情でロジアスの後ろに控える。

 

 目をかけていた若き英雄と、溺愛していた末娘の醜態を、ロジアスは冷めた目で見下ろす。

 

「カイト、そしてアイネよ」

「「っ!?」」

 

 静かな、だが重厚な声音で名を呼ばれた二人は慌てて跪く。

 

「余はこの決闘を主催する者として、お前達に問わねばならぬことがある」

 

 心労でやつれた、それでも連合王国という大国を背負う王の威圧に、カイトとアイネは口を開くこともできず俯く。

 

「カイトよ、そなたはアレクサンダー・ウォーカーの使用しているカタナに何か細工があり、それが原因で“黒キ剣”が斬られたと、そう主張するのだな?」

「………それは━━」

「そしてアイネよ、そなたは何者かが“黒キ剣”に細工をし、それにより刀身が斬り飛ばされたように見えた、そう言いたいのだな?」

「………はい」

 

 もしや自分達の主張が受け入れられるのではないか、僅かに期待して二人は顔を上げる。そして漸く、ロジアスが冷たい目で自分達を見下ろしている事に気がつき、再び俯く。

 

「今ここで余が、そして武具を用意したマーグレム侯爵やミスト侯爵が幾千万の言葉を尽くし不正など無いと訴えても、そなた達も観衆達も納得はするまい」

 

 失望するように溜息をついたロジアスは、冷徹な為政者の顔で、静まる観客席を、そこに集う臣民達を睥睨する。

 

「故にカイトよ、()()()()

「ハッ…え?」

「そなたの()()は実力によるものではなく、()()()()であると、余に、そしてこの闘技場に集った全ての者に証明してみせよ」

 

 ロジアスの意を受けたトーラスが、刀身を半ばで斬り飛ばされ、そしてカイトに打ち捨てられた”黒キ剣“を拾い上げる。

 そしてミランダが、カタナを鞘に納め跪くアレクの前に立つ。

 

「ごめんなさい、ウォーカー大尉。一度”サミダレ“を回収するわ」

「承知しました、ミランダ様」

「…見事な一太刀だったわ。だから()も、私に遠慮せず戦いなさい」

「…はい」

 

 アレクが”サミダレ“をミランダへ差し出す。

 

「カイトよ、真にそなたの言の如く、そのカタナに”黒キ剣“を切り裂く秘密があるというのなら、そのカタナを用いて勝利するのだ、”黒キ剣“へ」

「は、はい!! 陛下のご配慮、感謝の極みにございます!!」

 

 カイトはミランダから引ったくるように”サミダレ“を奪い取る。

 ミランダはそんなカイトへ嫌悪感を抱くが、感情を笑顔で覆い隠しロジアスの後ろへと下がる。

 

 そしてアレクの前に、刀身が半分になった”黒キ剣“を携えたマーグレム侯爵トーラスが立つ。

 

「本当に綺麗に斬れてやがる…なあウォーカー大尉、お前が良ければ教えてくれ。これ、どうやって斬った?」

「どうも何も、脆くなった部分を全力で斬っただけですが?」

「…整備は完璧だったはずなんだか?」

「はい、ですので()()()()に何度も斬撃と刺突を加えました」

「冗談…じゃなさそうだな」

 

 斬られた部分以外に瑕の無い”黒キ剣“に、トーラスはアレクの言葉が虚言では無いことを悟る。

 

「そらよ、陛下の命だ。()()してみせろ、この最強の剣をぶった斬ったお前の技量が本物なのかを」

「……承知しました」

 

 アレクは無表情に、恭しくトーラスから”黒キ剣“を受け取る。

 

 そして、国王ロジアスと彼に従う七大貴族の当主達、そして第1王子アリウスに引き摺られるようにして第3王女アイネが観客席へと戻る。

 

 闘技場の中心にはアレクとカイト、そして審判役のバーナードのみ。

 

「ハッ、アハハハハハハハ!!」

 

 カイトが”サミダレ“を抜き放ち、漆塗りの鞘を捨てる。

 

「ザマァ見ろ!! ほら、お前の切り札は今僕が持ってる!! お前にはその役立たずの”黒キ剣“(ゴミ)がお似合いなんだよぉ!!」

 

 貴賓席に戻ったトーラスがカイトの言葉に舌打ちする。

 対してアレクは、何も言わず刀身が半分になった”黒キ剣“を軽く振り、その感触を確かめる。

 

「半分に斬っても重いな…よくこれを振り回せたものだ」

 

 溜息をついたアレクは中指と人差し指を立てた左手を前に突き出し、右手の剣を地面と平行に、そして弓を引き絞るように顔の横へと構える。

 それは先の戦闘と同じ守りに特化したカルネアス流剣術第三の(フォーム)ディズヴィオの構え。

 

「馬鹿の一つ覚えが!!」

 

 カイトは脱力したように両腕を垂らし、呼吸を整えると、両腕を軽く広げた隙だらけの構えを取る。

 カイトは迷うことなく、アレクを殺すためにカルネアス流剣術第七の型(フエルテ)の使用を選択する。

 

 両者が構えたのを確認したバーナードが、右手を振り上げる。

 

「それではこれより、決闘を再開する……良いな?」

 

 アレクとカイトは互いから目を逸らさないまま、審判役の声に頷く。

 

 

「死合、始め!!」

 

 

 アレク(英雄)カイト(道化)の、”カナンの騎士“襲名を賭けた最後の闘いの開始が、今ここに宣言された。

 

 

 




因みに、”黒キ剣“と”サミダレ“の剣としての格の差はブラックナイトスコート カルラ(ガンダムSEED FREEDOM)とフリーダム(ガンダムSEED)くらいと設定してます
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